2018年6月26日火曜日

岩籠山 黒河川口無谷









山は低いほうが風情がある。動植物は豊富であり、地域ごとの風土も色濃く反映されるため、豊かさを深く感じ入るのである。筆者が全国各地の愛すべき里山を沢登りで登頂する、この営為をライフワークとすると勃然発起したのは年の頃24、こぬか雨の木曜日であった。ような、なかったような。

岩籠山は敦賀三山の一つで関西圏のハイカーにはとても人気の山だ。花崗岩の山であり、山頂付近には小さな山には珍しくボルダーが点在している。適当に登るボルダリングも気分が良いし、インディアン平原と称される台地からの展望も実に良い感じである。西面を流れる口無谷も多くの人に親しまれているようだ。フィックスロープが垂れていたり、炭焼き跡があったりして人臭いが、これもこの山が愛されている証左なので嬉しい。なんて書くと大目玉を喰らいそうだが、里山は「里」なので人臭いほうが価値があるのではないかと最近マジで考えている。なんか、ね、山は自然はあるがままが最高で有るべきって言うのも狭量な感じがするじゃん。そもそも、人間も自然だし。不法投棄とかはいかがなものかと思うけど、その山を知ろうとする人が多いほうが愛されている感じがあっていいけどね。登山者全員がフランス料理のコースを食べるテーブルマナーを覚えないといけない、ドレスコード有りですって規制するのも堅苦しいし、そんな主張をする人だって家でテレビ見ながらお茶漬けをズルズル食べるのも美味しいって感じるっしょ。まあ、時代と山に即した節度を登山者が意識することが重要てことですな。王道は中庸ってね、言うしね。

さて、口無谷は敦賀の沢の例に漏れず順層のホールド豊富な緩傾斜滝が多くあり楽しい。20m~30mクラスの滝が3つほど有るので、それなりのギアを準備すればクライミングも堪能できる。これらすべて巻く場合も容易だ。この沢は全体を通して不確定要素が少なく、沢慣れしていない人には最適な沢と言える。沢を下降路とする点も初級者にはいい経験となるはずだ。先述の通り眺めは抜群の山頂である。晴れた休日の山頂は大賑わいだ。妙齢の男女6人組が盛大な食事会を開催しており甘辛い鍋の良い匂いがした。その裏には独身のぽっちゃりした女性へ早よ嫁に行けという、おっちゃんとおばちゃんがいた。言われている女性は明るい人で、おっちゃんから魚肉ソーセージを貰って喜んでいた。その横には仲睦ましいカップルがいた。準備したお弁当をすこし遠慮がちに二人で食べていた。離れて写真を撮るお兄さんは、シャッターを押してもう一度景色をゆったりと眺めていた。みんな楽しそうだった。僕も楽しかった。賑わう里山はそれだけで微笑ましく、嬉しいのだ。

<アプローチ>
国道8号で敦賀まで行くのは信号が多くつらいものがある。高速利用ならば敦賀インターまでおよそ3時間、そこから20分程度で黒河川林道へ入る。林道は工事中のところもあり、どこまで入ることができるかは車種による。適当な場所に駐車して入渓。下降は適当な沢を降りる。筆者らは720.2m三角点(夕暮山)から少し西へ歩いて南側の沢へ下降した。特に悪い場所は無く快適におりた。

<装備>
沢慣れしていない人が居る場合は念のためロープ

<快適登攀可能季節>
寒くないとき。雪が降っていないとき。

<博物館など>
若狭三方縄文博物館:建物がモダンな設計である。そのため、全国各地にある縄文系博物館にありがちな寂れた感は全く無いのでそれだけで嬉しい。また、寂れた博物館に有りがちな「はい、並べました」的な展示では無い。美しくて解りやすくて楽しいのである。最近の縄文ブームで訪れる人が増えるかもしれない注目の博物館である。

気比の松原:スケールが有るわけではないが日本三大松原である。芭蕉翁も観た。虚子も観た。これだけで十分見物の理由になる。なお、あと二つは三保の松原と虹の松原となっている。

敦賀市博物館:旧大和田銀行の建物を利用した趣の有る外観と内装。港湾町として発達した敦賀の歴史を学べる。最大の見せ場は4等フレネルレンズの実物品が2点も展示されている所。精緻で奇妙なレンズが遠く海を照らすロマン。

柴田家庭園:有力農家であった柴田邸に造られた庭園。堀があるのだが工事中で水は無く今一つであった。近くで庭園を楽しむならば西福寺の方がよいだろう。

敦賀原子力館:門ヶ崎の直ぐ近くには高速増殖炉もんじゅがある。原発の利用は賛否が有るだろうが、その原理と工学的な機構は興味深い。冷媒にナトリウムやカリウムを使用する合理的で大胆な発想に感心した。漏れちゃったけど。

2018年6月20日水曜日

宮川 塩屋大谷








山登りにおいて、「楽しさ」はどのように齎されるのか。という99%以上の登山者が歯牙にも掛けないことに思索を巡らせるあまり、口に運んだつもりの肉じゃがをミスショットし、ジャガイモと豚肉がTシャツの上に落ちた後床にバウンドしたのを拾い、直ちに口に入れ、汁が染み込んだTシャツをじゅるじゅる舐めて洗浄する。みたいなことがしばしば発生する。筆者の感覚では特徴的な地形や景観によって感動したり、岩場での登りで要求される身体の動き、或いは自然中でタイムを競うスポーツを楽しむ人が88%くらいである。10~11%が野草や岩石それに動物など自然観察派であり、残り0.5~1%が峠めぐり古道薀蓄探訪など歴史ロマン派のように思う。もちろん上記以外、狩猟採集派のようにマイノリティーながらも確固とした地位を築いている方もおられる。山登りのような自然の中で行う遊びには、ルールと明確な目標がほぼ無いので、意識的、無意識的かはさておき登山者は何らかの動機付けをせねばならない。筆者はこれについて、個人で何らかの命題を立てると同義であると考えている。その命題を解き明かすプロセスこそが山登りの醍醐味に違いない。また、オリジナリティーのある命題を発見する悦びはさらに滋味深い。面白い登山者とは数学者ラマヌジャンのような人間かもしれない。

さて、この度は「湿原が上部に存在する流域の出水は早い」「湿原が上部に存在する流域の平坦地形部では魚影が濃い」という筆者の立てた2つの命題について真偽を検証するべく塩屋大谷を訪れた。この塩屋大谷においても宮川水系の特徴であるガレ、倒木は豊富だ。これは宮川水系が飛騨帯の花崗岩っぽい岩で構成されているため、地盤が脆弱なためだろう。それゆえに川床には砂が溜まっており岩魚が住み難い沢である。元々土砂が堆積しているため出水が早いかの判定は出来ないと解った。しかし、時々現われるナメと滝の箇所は硬い岩で構成されていのが興味深い。沢登りとしての難易度は高くないが、それなりには楽しめる遡行内容が続く。上部に行けども相変わらず魚影は薄い。というか全く生息していない。上部はガレと藪が心配されたが、実際には苦しみは無く爽やかに稜線に出る。ここからは150m沢を下降し湿原側へGO。下降し始めていきなりとんでもない泥濘地帯にはまる。湿原系の地盤に入ったようだ。谷の雰囲気も西側とは違う。つまり、洞谷上部のみが湿地地形であり塩屋大谷では「湿原が上部に存在する流域の平坦地形部では魚影が濃い」についての証拠を掴むことは出来なかったのだ。まあ、ウジウジしても仕方ないのでお楽しみの池ヶ原湿原へ気分を切り替える。想像通り、鳥のさえずりと蛙の声だけが響く素敵な場所であった。

検証予定であった2命題についての進展はなかったが、池ヶ原湿原の成因が気がかりだったので地質図を確認したら驚愕した。跡津川断層に挟まれてますやん。そして金剛堂山、白木峰と続く湿原地帯も立地は似ている。ここ一帯の準隆起平原が形成された謎を解き明かす鍵になるのか。思わぬ気づきによって始まった宇宙の振動に呼応してガクブル震えていると、口に運んだつもりのカレーライスをミスショットし、ジャガイモと鶏肉がTシャツの上に落ちた後床にバウンドしたのを拾い、直ちに口に入れ、ルウが染み込んだTシャツをじゅるじゅる舐めて洗浄、さらには台所洗剤でトントン染み抜きする事と相成りました。皆様も池ヶ原湿原を訪れた後の晩飯時には白地のTシャツを着用しないようご注意ください。

<アプローチ>
ナリテ山トンネルを抜けて少し先の盲端になっている林道へ入り、道路端に駐車して入渓。車一台であれば同ルート下降、二台であれば湿原へ車を回しておくとよい。

<装備>
滝を巻くのであればロープの必要はない。懸垂下降も必要ないであろう。

<快適登攀可能季節>
6月~10月。オロロが酷い地域なので真夏は辛い。池ヶ原湿原は5月の水芭蕉シーズンが素晴らしいだろう。

<温泉>
楽今日館、奥飛騨まんが王国

<博物館など>
まんが王国は公営のまんが喫茶。舐めて掛かるとスケールの大きさにびっくりする。

2018年6月17日日曜日

境川 笹小俣谷










富山県には二つの境川が存在する。南砺市を流れる境川は岐阜県との県境だ。大畠谷、ボージョ谷、フカバラ谷などの名渓を携えた有数のキラキラ水系で沢屋の間では名が知れた境川である。一方、本稿で紹介する境川は流程僅か13kmで海までの標高差1500mを一気に流れる新潟県との県境川である。こちらは沢登りという観点では地味な水系と言える。似虎谷などそれなりに沢登りが楽しめるらしいが、全体としてはパッとしない。白鳥山から犬ヶ岳西面の殆どが堆積岩で構成されているため、土砂の流出が激しいためだろう。土砂が詰まりきった鉄骨堰堤からその出水の激しさを推し量ることができる。海産性の堆積物がメインのためか、過去に寺谷からアンモナイトが産出していて、「寺谷の菊石」としてちょっぴり有名だ。

そんな富山・新潟の境川で最もポピュラーなのが笹小俣谷である。黒菱山は太美山層群というSiO2リッチな硬い岩で構成されているため、どの谷も遡行内容は期待できる。笹小俣谷は南東向きの沢で明るく朗らか、かつ楽しい沢。下部は開けた川原を快適に歩きながら、幾つかの小滝で遊ぶ事ができる。山頂へ合理的へ至るのは北支流なのでそちらへ入る。流れが西向きになるまで小さなゴルジュや小滝が続き楽しい登りとなる。慎重に読図をして稜線へ出ると山頂は直ぐ到着するだろう。黒菱山からの眺望は一望千金、気分は最高。筆者らは、登りでロープの必要性は感じなかった。日帰りで手ごろな沢としておすすめである。

<アプローチ>
車は標高100mの橋までしか乗り入れできない。ここから滝淵発電所まで林道を歩く。発電所から少し登った橋から入渓する。なお、450mにある取水堰堤へは道が付いているので下部をカットする事も可能である。沢を下降して車へ戻る場合も重宝するだろう。笹川の黒菱山登山道入り口に車を置けば苦労はない。

<装備>
懸垂下降用にロープ。

<快適登攀可能季節>
6月~11月。標高が低いので楽しめる時期は長い。

<温泉>
境鉱泉:含鉄塩泉の温泉。銭湯価格で温泉が入れるのが嬉しい。石鹸は備え付けてないので持参。

<博物館など>
護国寺:別名石楠花寺。とやま花名所に選ばれるだけある庭園。シャクナゲとツツジの時期が素晴らしい。謎の置物も気になる。

朝日町歴史公園:縄文時代の不動堂遺跡が再現されている他、江戸時代町屋であった旧川上家の家屋が当時の状態を保ったまま移設されている。ここでは朝日町名産のバタバタ茶を自分で点てて試飲できる。12月~3月は閉館するので注意。

朝日町立 ふるさと美術館:昨今の大正アートブームで再注目の竹下夢二の作品を所蔵している。江戸~大正期、朝日町の泊は宿場町で大いに栄えており、その盛り場に夢二が訪れていたようだ。妻たまきとの破局事件の舞台は宮崎海岸だ。この情事の続きは朝日町の図書館で。

百河豚美術館:野々村仁清の作品を数多く展示している。デフォルメされた鶏が描かれコップもあり、仁清のモダンな感性を感じる事ができる。他にも話題の伊藤若冲や、尾形光琳に酒井抱一といった琳派ビックネームの作品も展示。

下山芸術の森発電所美術館:きらりと光る興味深い展示をやっている。こちらも12月~3月の冬季は休館するので注意。

杉沢の沢杉:地口か回文のような名称だが素晴らしい場所。田園と防風林の中にポツリ広がる湿地杉林で、まるでもののけ姫の森のようである。近年、入善乙女キクザクラという桜の新種がここで発見されている。この原木は未だ杉沢の沢杉でしか発見されていない。北陸は菊咲きの桜の品種が多いらしい。

帰りには生地の道の駅で新鮮な魚を買って帰るのもいい。