2019年8月22日木曜日

高瀬川 西沢












高瀬川の左岸沢は高瀬ダムに邪魔されているので登りに行くには一寸した意志が必要だ。そして、西沢は登山大系でどえらい沢のように記載されている。そうはいっても、昭和の話でしょう。突破できないかしらんとフルギアで臨んだ。しかし、ゴルジュ入り口の滝をようやっと登った(右壁を登ったがひどい崩壊壁でめちゃ怖い)後、あれよあれよと追い上げられてしまう。スラブ大滝が続くのを確認すると、降りる事に踏ん切りがつかなくなり左岸を延々とトラバースする破目になった。このトラバース中に4つほどルンゼを跨ぐことになり中々大変である。ゴルジュを抜けても容易に直登させてもらえるような滝は少ないが、東向きの明るい渓相で気分は上々だ。1942mの二俣から先は荒れた渓相となるが谷は開放感があり嫌な気がしない。筆者らは真夏に遡行したためコマクサの群落に癒された。西沢は巻きが中心となるので、クライミング的な鋭さより沢屋的な嗅覚が問われる難渓だと思う。

ところで、高瀬川の流域は岩がヌメるのでラバーソールは適さない。花崗岩の谷といえばどこもラバーソールばち効きという訳ではない点に自然の奥深さを感じる。高瀬ダム建設時には詳細な環境アセスメントがされている。その中で高瀬川流域の付着性藻類に関する報告(高瀬川流域自然総合調査報告1976年)がこのヌメリ問題についての示唆を与えている。調査によると、高瀬川本谷や支流の付着性藻類の絶対数は他河川と比べて種数と量いずれも少なかった。そして上流域での優占種はGenus SP.黄色鞭毛類(Chrysophyta)であったという。このChrysophyta類は冷水を好むそうだ。この事実を沢登りのヌメリ問題に応用すると花崗岩は表面に凹凸が多く付着しやすいため、遊走性を失ったパルメラ状態となりシーズンを通してヌメリを感じるのかもしれない。では、なぜ高瀬川流域にChrysophyta類が多いのか。これはとても興味深い問題である。植生の違いによる菌類・細菌類を含めた土壌成分の違いなのだろうか。各所のサンプリングポイントで水温、pHには他の河川と大きな違いは無いことは示されている。山の謎はゴルジュや岩壁の中だけではない。僕らは足元の岩がなぜ滑るのかについても良く解っていないのだ。高瀬川だって2019年の今、Chrysophyta類が優占種であるかの確証もないし、すべての山域のヌメリが同じ由来ではないだろう。そう、やっぱり山登りはおもしろいのである。

<アプローチ>
高瀬ダムのバックウォーターから湖岸を泳ぎを交えながらへつって沢の入り口まで。水量にもよると思うが1時間くらいで入渓できた。ゴルジュ内に良い泊まり場があるのかは不明。我々はゴルジュを完全には抜けきらない1750mくらいの川から少しだけ離れた藪の中で泊まった。下山は竹村新道を利用するのが楽だが、五郎沢を下降するのも面白いと思う。ただ、竹村新道からは硫黄岳の大迫力が楽しめて嬉しい。

<装備>
岩のギアはカム1個しか使わなかった。懸垂用に50mロープ二本有れば便利。スリングは多目に。足回りはフェルトがいい。

<快適登攀可能季節>
7月~10月上旬 

<博物館など>
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。ボルダリング壁も一回100円で一日利用可。

塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。

大町市立図書館:高瀬ダム建設時に行われた環境アセスメント報告書(高瀬川流域自然総合調査報告書)が非常に興味深い。追加報告書の最終発行日が昭和56年であった。10年おき位で良いので更新して貰えると良いのに。

<温泉>
上原の湯:500円で石鹸&シャンプーが付いている温泉。
薬師の湯:温泉博物館と酒の博物館が近くにある。600円。

2019年8月21日水曜日

高瀬川 東沢ニノ沢









東沢二ノ谷はスラブと大滝が標高差600m続く豪快な谷である。地形図でも明らかにヤバそうな右に流れが変わる地点には立派な約80mの大滝がある。そしてその周りには未踏と思われる高差200m以上の岩壁が展開している。この壁は冬季どうなっているのだろう。中部~上部はスラブと大滝の合間にミニゴルジュを挟み演出に余念が無い。惜しむらくは流芯は節理に乏しいスラブのため、どの滝も手が付けられないことだ。筆者らはこの谷を下降したため登り方について言及できないが、恐らく殆ど高巻かざるを得ないと思われる。これらの遡行内容は川九里沢右俣にそっくりだ。高瀬川上流右岸の豪傑、東沢と川九里沢を遡下降する計画も素敵だね。

<アプローチ>
七倉山荘から歩いて東沢出合へ行き、東沢取水堰堤までは林道を利用する。そこから遡行を開始して直ぐにニノ沢が出合う。幕営適地は無い。泊まるのではあれば無理やりになる。水が涸れるのが早く上部は倒木が多い樹林帯の急登となる。下降は滝ノ沢野口沢を下降すると合理的。

<装備>
登れる滝は少ないと思うけど、カム少々とピトンくらいあれば良いのでは。足回りはフェルトが良い。

<快適登攀可能季節>
7月~10月上旬 

<博物館など>
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。ボルダリング壁も一回100円で一日利用可。

塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。

大町市立図書館:高瀬ダム建設時に行われた環境アセスメント報告書(高瀬川流域自然総合調査報告書)が非常に興味深い。追加報告書の最終発行日が昭和56年であった。10年おき位で良いので更新して貰えると良いのに。

<温泉>
上原の湯:500円で石鹸&シャンプーが付いている温泉。
薬師の湯:温泉博物館と酒の博物館が近くにある。600円。

2019年8月20日火曜日

高瀬川 滝ノ沢ツバメ沢








高瀬川流域の沢は生き物の影が薄い。風化の激しい花崗岩からなるため、沢床は真っ白な砂が堆積していて無機質な感じがする。砂は移動が激しいので生き物の隠れ家を作りにくい。水の中の生き物が少ないとそれを餌とする生き物が少なくなるのは当然で、魚はいない殆どいない。だからといってこの渓谷に魅力がないというのは早計である。

滝ノ沢ツバメ沢は真っ白渓谷に手ごろな滝が続く美渓だ。滝は手が付けられないものが幾つかあるものの、巻き易い渓相なので安心して入渓出来ると思う。この流域にしては快適に登れる滝も多いのでお勧めだ。滝ノ沢本谷は古くは地元猟師の道として利用され、唐沢岳北尾根にそま道が拓かれていたそうだ。餓鬼岳の小屋はもともとカモシカ猟師が避難小屋として建設され、猟が規制されるようになり営業小屋へと変わったとも聞く。この高瀬川流域には比較的多く入っているがカモシカを見たことがない。痕跡も少ないので富山と比べ生息密度が薄いのは間違いない。この地方の猟師の懐事情はいかほどだったのだろう。

<アプローチ>
七倉ダムに駐車し取水堰堤の脇を歩いて入渓する。ツバメ沢は1355mから本流と水量1:1で出会う沢である。安全で快適な幕場は多くない。1860m付近が泊まりやすいはず。登山道を利用すると車の回収が大変になる。唐沢岳方面から野口沢を下降する、西側の東沢を下降するのがよい。東沢ニノ沢を下降する場合は50mロープが二本有ると便利。

<装備>
沢慣れした人ならば特に何も要らない。足回りはフェルトが良い。

<快適登攀可能季節>
7月~10月上旬 

<博物館など>
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。ボルダリング壁も一回100円で一日利用可。

塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。

大町市立図書館:高瀬ダム建設時に行われた環境アセスメント報告書(高瀬川流域自然総合調査報告書)が非常に興味深い。追加報告書の最終発行日が昭和56年であった。10年おき位で良いので更新して貰えると良いのに。

<温泉>
上原の湯:500円で石鹸&シャンプーが付いている温泉。
薬師の湯:温泉博物館と酒の博物館が近くにある。600円。

2019年8月18日日曜日

大所川 弥兵衛川 乗鞍沢







白馬岳から蓮華岳までの後立山東面は一般的な楽しい沢登りは期待できない。それはこの山で激しい噴火があり、その後傾動を伴った急激な造山運動が働いたためなのだろうか。東面のため氷河の発達が顕著だったことも見逃せない。この「沢登り面白くないかも」エリアは長栂山北東稜線で区切られている気がするので、今後調査を続けたいところである。

さて乗鞍沢だが、これも特段盛り上がる場所があるわけではなく淡々とした沢である。中盤の開放感抜群の渓相はなかなか気持ちが良い。上部はわかりにくい地形になるが、一番傾斜の強い沢に入ったら大きな滝があった。これを登るとなると苦労するはず。ひとり沢登りだったので大人しく高巻いた。その後は泥付きと草付きと這い松漕ぎで山上の別天地白馬大池に至る。白馬大池は乗鞍や御嶽であるような溶岩ブロック石がゴロゴロしていて火山活動を物語っている。溶岩の質が似ているとこのようになるのだろうか。

あっという間に終わってしまう沢で、日帰りで遊ぶにしても何だか勿体無い。思い切って白馬岳への登路として捉えてはどうだろうか。或いは天狗原、栂池での自然観察と抱き合わせ計画が面白い。筆者はこの沢を白馬岳への登路として利用し、白馬頂上宿舎のテント場を利用したのだが、そこのテント止め石が余りに比重が大きいのでびっくりした。頂上山荘(山頂に近い方)からテント場までの岩を観察すると蛇紋岩が多い。白馬八方の塩基性温泉は蛇紋岩由来とされているが、こんな所で出会うとは。プレートが押し上げた岩だと感慨に耽れば良い夢が見られる、かもしれない。

<アプローチ>
蓮華温泉登山口へ駐車して橋から入渓。登山道を利用して下山すると楽。

<装備>
特に何もいらない

<快適登攀可能季節>
7月~9月 

<温泉>
蓮華温泉:4つの野天風呂のほか内湯もある。野天風呂はお客さんがいると順番待ちになり入れない

2019年8月6日火曜日

境川 卜谷









境川支流の中でも最も遡行者が少ないと考えられるのが卜谷である。「ナメ床の多いさわやかな谷」卜谷は登山大系でこのように表現されている。しかし、白山でも困難な沢が多いというイメージの強い境川である。その中でこのような癒し系表現をされても、二の足を踏んでしまう気持ちも解る。そして、歯応えのある谷へ行ってしまうとアプローチの遠い脇役的な沢(失礼!)へ行く気力が湧かない気持ちも解る。では、誰が卜谷の自然を理解するのか、誰が卜谷に寄り添ってやるのか。そりゃあ、やっぱ地元民でしょう。登山者が自分の近くの山を語れないのはとても寂しい。国際交流において自国の文化を知り伝えられる事が重要なように、登山も自分の地域をどれだけ語れるかが文化としての豊かさな気がする。そして、悲しいかな登山大系の白山の沢は大阪わらじの会によって紹介されている。時間を懸けてでも地元の山を執拗にしゃぶりつくまで味わいたいものである。

卜谷のさわやかさは中盤から後半部分を示した表現だ。序盤はさわやかの対極、まるで海谷のような礫岩ゴルジュである。これは大畠、ボージョ、開津、赤摩木古どれにも当たらない卜谷の特徴だ。個人的にはこれを観察できただけで嬉しい心持がする。巨岩ゴーロをルートファインディングしながら登っていく。ここで一箇所だけロープを出して登った。ゴルジュを抜けると沢は開けて岩盤が露出し始める。東向きで明るいのもさわやか演出に一役買っている。こうなるとウキウキ、キャピキャピし始めるのだが、時々入る巻きの悪さで現実に引き戻されることになる。100mスラブ滝の開放感は圧巻だ。ロープレスで気分良く登りたい。この谷での核心は下山を含む後半で間違いない。上部のはっきりしない地形を見れば恐ろしさを感じるであろう。筆者らは三俣を右に取りなるべく右俣近くを進んだが、尾根を乗越し沢を下降してびっくり。見覚えのある1450m付近の二俣に戻っていた。そこから改めて尾根をひとつ乗越して無事右俣へと下降できたが、あのスラブ滝を下降する破目になった事を考えると恐ろしい。右俣を下降するにせよ、ボージョ谷を下降するにせよ総合力が必要となる沢なのは間違いない。登攀、巻き、藪漕ぎ、読図どれをとっても凄く難しい訳ではないのだが全て一定以上できないと危険な場所だと思う。逆にそれだけ登山と冒険感を楽しめるとも言える。ダム以降には人工物は一切無いのもいい。地元ならば余裕を持って土日で訪れることも可能だ。遠方から登るのであれば、大畠谷左俣~フカバラ谷下降~卜谷遡行~ボージョ谷下降という継続遡行はどうだろうか。一度に境川上流を味わえるラグジュアリーツアーだ。お隣の加須良川も含めて一秋この地で遊ぶのも楽しいだろう。

<アプローチ>
桂湖の駐車場に駐車し大畠谷出合いから入渓。出合いまでは境川本流を遡るが難しくない。卜谷は本流770m地点で合流する谷であり、左俣と右俣は標高1060m地点で別れる。左俣を遡行後は右俣を下降するのが合理的なのだが、この下降点を当てるのが地形的に難しい。特に稜線付近まで詰め上げてしまうと大変難しいため、下手をするとリングワンデリングしてしまう。周辺の地形に注意を払いながら現在地を把握したい。卜谷中では安全で快適な泊まり場は殆ど無い。強いてあげるのであれば標高1000m付近だろうか。概念を良く把握していれば日帰りも可能だと思う。

<装備>
カム少々又はトライカム少々。基本ラバー靴が有利だと思う。

<快適登攀可能季節>
9月~10月。白山はなんといっても秋がいい。

<温泉>
くろば温泉:国道沿いに有るのでわかり易い。600円也
五箇山荘:高速のインターを少し過ぎたところにある綺麗な温泉。500円也

<博物館>
世界遺産の五箇山集落に古民家があり歴史を学べる。平家の落ち武者によって拓村された。そして、囚人を幽閉する場所でもあった。古い流刑小屋もあるので立ち寄ろう。江戸時代には、加賀藩の火薬庫で塩硝を製造していたそうだ。ブナオ峠から火薬を運搬していたのだろうか。そんな思いを馳せながら山を楽しもう。