2021年12月12日日曜日

涸沢岳北西尾根

 














「太陽が照れば塵も輝く」と述べたのはドイツの詩人ゲーテだが、もしゲーテが北陸在住で山登りをやっていたならば「雪が付けば如何なる尾根も輝く」と言っていたことだろう。それくらい雪は全てを覆いつくし、行動に自由を与え、見たことのない景色をもたらしてくれる。

涸沢岳に通じる尾根と言えば一番人気は涸沢岳西尾根。おそらく北西尾根といってもはて?となる方が殆どだろう。では地形図を広げよう(紙地図はもってないか・・)。一本調子の地形ばかりの穂高西面において小ピークが複数ある尾根は多くなく、西穂西尾根、涸沢北西尾根、南岳南西尾根くらいである。北西尾根は3つの小ピークが示されており大変興味を惹くはずだ。しかも涸沢西尾根を下降して周遊すれば山登りとしてなかなか美しい。

登山大系に有る通り、出だしは壁のように急な尾根である。これを我慢すると傾斜は緩み笹薮の尾根となり登りやすい。筆者らはそれほど雪の多くない12月に取り付いたが、不快ではなかった。風が通るためか森林限界は他の西面尾根と比較して低く、2300m付近から樹高は低くなる。この辺りから岩場と藪のミックスした急尾根となる。場合によってはロープの確保を要するところだ。雪がしっかりついた場合には完全な雪壁となると思う。以降も急雪壁と小ギャップが続くが、チビ谷方面の地形が緩いため難しくはない。厳冬期~残雪期は滝谷側に大きな雪庇が発達すると考えらるので視界が悪い時は注意したい。2600m付近からの滝谷と涸沢岳北壁の眺望は素晴らしい。涸沢岳北壁は是非登ってみたいものだ。F沢のコル手前で西尾根と合流する。

難しい箇所は無く、雪が安定して付い時期に早立ちすれば日帰りも十分に可能な尾根である。眺めは素晴らしく周遊の充実感もあるのでそこそこお勧め。

<アプローチ>
滝谷避難小屋の裏手から取り付く。ここから150mくらいがめちゃんこ急で、雪が少ないとアイゼンを履いた方がいい。幕営好適地は2300m以下ならば随所にあるが、それ以上にはない。筆者らは2600mのコルに幕営したが、2人用でぴったりサイズだった。雪が多いともう少し選択肢は広がると思う。下降は涸沢岳西尾根となるが、そこそこ迷いやすい尾根なので慎重に読図しておりたい。

<装備>
スリング数本。慣れたパーティーならば確保の必要性は感じない

<快適登攀可能季節>
12月~5月。北西面で風が吹き抜ける。冬型がばっちり決まると吹き抜け風で着雪しないかも。藪が鬱陶しいので遅い時期の方が快適

2021年10月4日月曜日

岩屋俣谷川 井谷

 


















岩屋俣谷川といえば別山谷が有名で井谷へ入る人は圧倒的に少ない。確かに別山谷は素晴らしい谷なのだが、井谷が劣っているかというと全然そんなことは無い。

井谷に入り少し歩くとローリングストーンズのベロだしロゴみたいな二段滝が現れる。右側からブッシュを繋いで登ると実は奥にもう2段あるのが分かる。以降はゴーロを挟んで小滝という構成が続く。小滝は難しいものは無い。ゴーロ帯は昨今の大水の影響か土砂がやや多いものの渓相は日が差し込み明るく朗らかな気持ちにさせてくれる。1560mの二俣を左に入るとナメは美しく、小滝はさらに面白くなる。たった1mの小滝でもハングとヌメリでボルダー5級くらいのムーブが必要となるアスレチックぶり。ゴルジュも発達してくるので登れないの出てきたら困るが、全部登れるので困らない。門のような地形から始まるゴルジュ連瀑では美しい釜を持った滝に癒されるだろう。最上部は草付きV字ゴルジュだが、ここも美しい小滝をぐいぐい登る。ヌメリが酷いのでフォローは確保したほうが良いかもしれない。三ノ峰の北に飛び出すと別山の雄姿が眩しい。

なかなか面白いのに別山谷の陰になっている不遇の谷である。歩きの区間を冗長に感じる人もいるかもしれないが、気軽に訪れる事のできる美しい谷として訪れてみてほしい。元気な人は御前峰まで足を延ばせばさらに充実すると思う。

<アプローチ>
市ノ瀬駐車場に駐車してチブリ尾根登山道へ通じる林道を歩いて入渓。大きな堰堤を2つ越えると堰堤終了。日帰りでも登れるだろうが、泊りでのんびりした。左俣1760m付近は絶好の幕営箇所だ。下山はチブリ尾根が楽。

<装備>
ピトン少し。猛烈にぬめるのでフェルト推奨。小滝でもヌメリが気になるのでたわしが欲しい

<快適登攀可能季節>
7月~10月

<博物館など>
白山ろく民俗資料館:白峰での出作り(遠方への焼き畑)の暮らしや冠婚葬祭を展示室にて紹介する。このほか保存古民家を6棟公開しており、どの構造も非常に興味深い。特に杉原家の展示は民具も含め素晴らしい。敷地が広いのでじっくり見学すると3時間くらいかかりそう。

石川県立ふれあい昆虫館:標本の数はまずまず。なにより生きた昆虫を間近に観察できる。蝶の放し飼いされた温室は圧巻である。皇太子ご夫妻もこの昆虫館を訪れている。雅子妃が温室に入った際、雅子妃の頭に蝶がとまったシーンは何度もテレビ放送された。

2021年9月26日日曜日

苗場山 釜川ヤド沢

 

















富山周辺の沢に人の痕跡を感じることは少ない。理由として、人口が少なく沢登り愛好家の絶対数が少ないこと、難易度が示され遡行図が示された大系的ルートガイドが無いこと、多くの人がこの辺の沢を魅力的と感じていないことなどが考えられる。

翻って苗場山の釜川なんか誰もが行きたがる沢の筆頭なんじゃないだろうか。まず山が素晴らしい。広大な高層湿原を有する花の山、苗場山である。40万年前、苗場山から噴出した溶岩からなる釜川の廊下は誠に奇怪な景観である。加えて滝も多くあらわれるので登る楽しみも存分に味わえる、素晴らしいとしか言いようのない沢である。

ヤド沢ほど日帰りで沢山の要素を味わえる沢も多くは無い。本流の美しい釜とスラブを愛でたのちは20mクラスの滝が連続する。この区間は滝の間も川原は少なくナメなのが好印象だ。詰めあがった先には小松原湿原である。山頂の湿原には劣るものの荒々しい谷とのコントラストもあって大変印象深く感じる事だろう。下山も林道てくてくで安全だ。人跡が多く巻き道ができているので沢慣れしていない人でも楽しめる良さもある。

次は千倉沢をお泊りで遡行して、山頂湿原も合わせた苗場山満喫ツアーを楽しみたい。もちろん7月中旬のお花満開時期に!

<アプローチ>
大谷内ダムから小松原林道へと通じる林道を車で進み、取水堰堤へと通じる林道マークがあるところの広場に駐車する。取水堰堤へ至る林道は草が生えているが、歩く分には問題ない。下山は小松原林道を利用する。
ところで、近くには布岩という柱状節理クラッククライミングの面白い岩場がある。現在、掃除なしで登れるのは5.9から5.10前半のクラックが8本ほどだけだが、40mのスケールがあるルートもあり一度は訪れる価値がある。1日で登り切れるスケールなので、釜川と抱き合わせで計画するのを激推しする。

<装備>
念のためロープ。20m以上の滝も登ろうと思えば登れると思う。その場合はがっつり登攀具を準備。

<快適登攀可能季節>
7月~10月。

<博物館など>
津南町歴史民俗資料館:津南町で発掘された考古資料と秋山郷で使用されていた生活用具を収蔵する博物館。火焔型土器のデザイン性は本当に素晴らしい。縄文土器にハマりそうになる。生活用具の資料数も圧倒的だし、秋山郷の生活史も興味をそそる。展示室にある年間行事表が子細に示されていて面白い。中でも興味を惹くのは「この日から昼寝をやめる」という記載。秋山郷にはシエスタ文化があったの?しかもこの日からって何?

大嵐谷 小屋場ノ裏谷

 






登山記録(日本の渓谷97)では小屋場ノ谷の一本下流側の谷は小屋場ノ裏谷と仮称されている。この辺りの歴史を丹念に調べれば名称は解るのだろうが、ここでは気にせず小屋場ノ裏谷と呼称する。筆者らはこの谷を下降したので登り方については言及できないが、シャワークライミング(大滝登攀)を楽しめるゲレンデとなる可能性を秘めているので紹介する。

出合は平凡な流れである。小屋場ノ谷はほぼ同じ集水面積にも関わらず、出合いの水量が大きく異なっているのが興味深い。古びた堰堤を幾つか超えると30mはあろう大滝が現れる。記録ではこの滝を正面から登攀しているようだ。水の流れを読んでもホールドはポジティブのようだし、凹角から支点が取れそう。上部の小ハング帯も直登や縫うようにかわすことができよう。この大滝を登るだけでも訪れる価値はありそうだ。10mの登るのが困難な滝を巻くと、累積高距50mはありそうな4段瀑がすぐに出てくる。フェース面はスラブ状で困難が予想されるが、右側の流心はコーナー状になっているので支点を求められる可能性はあるだろう。水量がぐっと少なくなる11月ならば可能性があるかもしれない。谷が右に曲がるとガレの沢となり、沢登りとしての興味は減ずる。適当な地点から東畑谷か小屋場ノ谷へと下降する、或いは同ルートを下降する。

<アプローチ>
深瀬大橋から手取川右岸沿いの林道を車で進み、大嵐谷を渡る橋まで行き駐車する。ダム右岸の林道は草ぼうぼうでダートだが、ちょっと車高の高い車ならば全然問題ない。おそらくダム関係者が利用しているのであろう。大嵐谷左岸の林道も現役で使え少し先に駐車できる広いスペースもあった。小屋場ノ裏谷は大嵐谷の標高620m付近の右岸から合流する谷である。遡行後は北側の東畑谷を下降するか、一本南側の小屋場ノ谷を下降する。小屋場ノ谷は滝が多く下降には相応の時間を見込んだ方がよいだろう。

<装備>
カム0.1~2.0をワンセット、ピトン各種。

<快適登攀可能季節>
7月~10月

<博物館など>
石川県立ふれあい昆虫館:標本の数はまずまず。なにより生きた昆虫を間近に観察できる。蝶の放し飼いされた温室は圧巻である。皇太子ご夫妻もこの昆虫館を訪れている。雅子妃が温室に入った際、雅子妃の頭に蝶がとまったシーンは何度もテレビ放送された。

2021年9月24日金曜日

大嵐谷 小屋場ノ谷











白山山系の沢の中でも手取川右岸の沢の知名度は低い。白山の谷を網羅的に紹介した文献は知る限りない。とはいえ、小さな谷であっても先達によって紹介されてはいるのはさすが。小屋場ノ谷は日本の渓谷97という本に紹介されている。登攀的な沢として興味深く紹介されているので現状を確認することとした。

小屋場ノ谷は大嵐谷本流675m地点右岸から合流する谷だ。出合いからすぐに2段滝が現れるので間違うことは無いだろう。しかし、この二段滝を前にして水量が極端に少ないのに気が付く。沢登りとしては盛り上がりに欠けるが、クライミングは快適である。申し訳程度に流れる滝だが中々面白い。ただ、資料と谷の内容がどうもかみ合わない。全体的に滝が小さいのだ。小滝とちょっと大きめの滝を幾つかこなすと巨大なガレ場に出くわす。もしかしたら、土砂が沢山出て谷を埋めたのかもしれない。上部のゴルジュ状滝も湿ってはいるが水は流れていない。水が流れていないとはいえ、クライミングは緊張する場面も多いので面白い。支点はよく探せばそこそこの質で取れるだろう。驚くべきは1200m付近から水がしっかりと流れ始める事。なんで少し手前のゴルジュ滝で全く流れていないのだろう。傾斜が強いナメ状でありながら伏流するのは珍しい。以降はこれといった滝は現れない渓相となる。

集水面積が少ない谷なので一旦土砂が堆積すると、土砂が押し流されるのは非常に時間がかかるだろう。元々飛騨帯の脆弱な部分を含む地質なようなので、昨今の豪雨傾向ではまた山抜けが起こるかもしれない。谷は日々形を変える。それはいつ登っても新鮮な面白みがあることで嬉しいことだ。また、何かの形でこの谷を訪れるだろう。その時が楽しみだ。

<アプローチ>
深瀬大橋から手取川右岸沿いの林道を車で進み、大嵐谷を渡る橋まで行き駐車する。ダム右岸の林道は草ぼうぼうでダートだが、ちょっと車高の高い車ならば全然問題ない。おそらくダム関係者が利用しているのであろう。大嵐谷左岸の林道も現役で使え少し先に駐車できる広いスペースもあった。小屋場ノ谷遡行後は北側の東畑谷を下降するか、一本北側の小屋場ノ裏谷を下降する。筆者らは小屋場ノ裏谷を下降したが、判断に迷う地形もあるのでそこそこ難しい。

<装備>
カム0.1~1.0をワンセット、ピトン各種。濡れているところのヌメリは凄いのでフェルト推奨。

<快適登攀可能季節>
7月~10月。

<博物館など>
石川県立ふれあい昆虫館:標本の数はまずまず。なにより生きた昆虫を間近に観察できる。蝶の放し飼いされた温室は圧巻である。皇太子ご夫妻もこの昆虫館を訪れている。雅子妃が温室に入った際、雅子妃の頭に蝶がとまったシーンは何度もテレビ放送された。