とかく浮世は謎が多い。自然、人、物、不思議に満ちていて興味は尽きないものである。その謎を調べていると、書いてあることが本当なのかがいつも気掛かりでならない。史実は文献資料を探す、現場に行って調査する、或いは人から聞く等のプロセスを経て決定されている。いかにも曖昧で真実味に乏しい感じだ。さりとて自然科学の知識も実験によって帰納的に得られたもの。少々乱暴な表現だが「何と無くそれっぽい」の積み重ねといえる。では僕らは何も知りえる事は出来ないのか?真理への欲求なぞ諦めて、森永乳業「pino」を貪り食いながら、違法アップロードされたアニメーションをひねもす鑑賞するほうが幸せなのだろうか。
そのような不可知論に陥った自堕落な態度では、張りと艶に欠けた、反健やか人生になることは必定であり、いただけない。学問を職業としないアマチュアは真理問題をひとまず棚上げして、先人が集積した情報を基に自らの眼で観察し解釈する、或いは想像して楽しむのでOKなんじゃないかと思う。
国道471号と国道360号で囲まれる山域において、楽しい沢登りが出来る場所は少ない。どの谷も土砂が多く崩壊している場所が多い。それはこの一帯が飛騨帯由来の花崗岩類、堆積岩で成る為だと考えられる。しかし宮川水系、久婦川水系、野積川水系では遡行内容は大分違う。また、大高山~万波高原の稜線と、戸田峰から万波高原の稜線は同じような平坦地を有しているので同じ隆起準平原由来のように思える。では白木峰の植生と唐堀山の植生の違いは何なのだ。1206.4m三角点周辺は地形図をみても怪しいことこの上ない。加えてこの山域は鉱山として開発され、古くから飛越国境争いの場であった。こうなってくるともう足を運ばない訳には行かないのである。
黒谷に入渓すると川床は浅く砂地である。イワナの住みにくい谷だ。遡行はこれと言った困難は無いまま上部平坦地へ到着する。ここはブナの美しい森となっているが、巨木は少なく人の手が入っている事が窺える。川の側壁は堆積岩の泥が露出しており、これが川床が砂地の原因であることが推し量られる。そのままぶらぶらと歩いて稜線に出た。何と稜線には道があり、古い小屋掛け跡もあるではないか。この道には古い「境界見出線」の標識が細かく埋めてある。三角点以北も道は続いていた。予定通り小豆沢集落へ下る無名沢を目指す。黒谷上部は割と水量が多いまま、泥濘に消える。この泥濘をそのまま南へ20mほど歩くと、直ぐに水が宮川側へ流れ始める。分水嶺から約15歩で流れる川を分つのである。これほど分水嶺から早く水が現れるのは珍しい。無名沢は酷いがれた沢で危険である。片麻岩、角閃石の合間に脆い部分が有る様でそこから崩壊が進んでいるようだ。危険ではあるが、困難は無い一様な傾斜を瞬く間に下り林道へと出た。
この山域で楽しい沢登りが出来るかは、堆積物の硬さが鍵となっている気がする。これは各流域における断層の存在も大きいだろう。白木峰と今回三角点ピークの植生差は標高差400mに起因しそうだ。また白木峰のほうが北西の季節風に晒されるため森林限界は低くなると考えられる。この稜線が過去に区画境界であったかは不明である。飛越国境争いは鎌倉時代から昭和42年まで続いたそうだ。どちらかの自治体が埋設したものだろうか。それとも久婦須川ダム建設時に調査された道なのだろうか。情報をお持ちの方はご連絡いただけると幸いです。さておき、脳みそをマッサージするように想像力を掻き立てられる素晴らしい山であった。
このように満足した山行後は早めに一っ風呂浴びて森永乳業「pino」を貪食しながらお気に入りのアニメーションであるパンダコパンダ(高畑勲監督,1972年)を鑑賞するのが筆者にとっての最高の幸せである。あ、でも自前のDVDだからね。
<アプローチ>
久婦須川沿いの林道は閉鎖されている。林道を歩く、バイクを利用するなど考えられるが折角なので山越えのアプローチを取ると良い。沢を登るのであれば小豆沢を登り唐堀山から送電線巡視路を利用して久婦須川へ降りるのが自然である。筆者らは加賀沢トンネル付近の沢から登ったがガレガレで面白いものではなかった。勿論、登山道を利用して唐堀山を登ることも可能。1206.4m三角点からは桑谷か小豆沢集落へ降りる無名沢を下降するのが良い。
<装備>
念のためロープとスリング。
<温泉>
楽今日館、奥飛騨まんが王国
<快適登攀可能季節>
6月~7月中旬。 9月~11月。
<温泉>
楽今日館、奥飛騨まんが王国
<博物館など>
まんが王国は公営のまんが喫茶。舐めて掛かるとスケールの大きさにびっくりする。
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