2026年8月4日火曜日

弥太蔵谷 450m左岸支流
















 弥太蔵谷の地図を見ているといつも不思議な気分になる。流程が長く本流然としている瀬々薙谷の源頭は負釣山で標高は高くない。他方、瀬々薙谷と分かれた後の右俣は直ぐに3つの同水量の支流に分かれて本流という感じはない。次に本流候補であるのは分水嶺となっている境界尾根の最高峰を流れる沢だろう。朝日町、黒部市、白馬村の境界が決定していないので「境界尾根とはどこなのだ」という問題があるが、ここでは弥太蔵谷水系の水源である朝日町と黒部市の県境となる二等三角点朴ノ木~猪頭山~森石山を境界尾根ということにする。この境界尾根の最高峰は無名の1,397m峰である。このピークに突き上げる沢の流程は短く沢の名前もはっきりと解らない。境界が不明だったり、本流がはっきりしなかったりと不思議な地域である。何はともあれ高い所を登るのはいい運動になるのでこの450m左岸支流を登ることにする。

 弥太蔵谷と分かれると谷の水量は明らかにこちらが少なく本流感はない。集水面積が小さいからであろう。訪れた日の前の週に宇奈月では7月観測史上最大の一時間雨量を記録した。この爪痕なのか増水跡と多くの土砂倒木が谷を埋めていた。猪頭山へ向かう支流を分けるまでは2つほど大きな滝が出てきたが上手いこと高巻くことができる。1,397mへ向かう沢に入ると登れる滝が連続するボーナスステージとなる。リズムよく登れる小滝から20mクラスのシャワークライミング滝まで出てきて頗る楽しい。谷が浸食されていて釜も有ったりするのがいい。この区間だけ駐車場から近くにあったら大盛況の沢となっているだろう。岩は概ね硬いので快適に登れるが落ちるとヤバい所もあるので慎重に。最高峰へ向かってもすんなりと帰れないので北側へ向かい尾根を乗越し弥太蔵谷へと戻る。下降した谷は途中大水量の湧水が合流して水温が低い沢であった。下降する上若狭谷へ向かうために弥太蔵谷を登って行く。750m地点では意外なゴルジュ滝が現れて右岸をクライミングした。分水嶺の境界尾根はブナの森で美しい。上若狭谷の上部では懸垂の連続となったが概ね容易な範囲であった。上若狭谷の方が増水の爪痕が大きく被害が大きいようであった。

 450m左岸支流の左俣は楽しく登れる好渓である。ただ瀬々薙谷へと繋げるラインと比較したときにはやはり劣る。弥太蔵谷を深く楽しむ地元民向けの沢であろう。次は猪頭山を目指す支流を登ってみたいものだ。ところで、沢の上部でカワネズミを見かけた。彼はあの大雨をどのようにやり過ごしたのだろう。大雨で川虫やイワナが減って心配ではあるが、まずは無事の確認が取れてよかった。昨年に比べて魚影は随分減った気がするが土砂に埋まった沢に泳ぐイワナもいる。彼らの強かさが気候の変動にも対応してくれるように願ってやまない。

 <アプローチ>
弥太蔵谷出合いから少し進んだ路肩に駐車して入渓。下山路をどこに取るか次第で車を二台で行った方がいい。筆者らは小川温泉へ下降したので一台そちらに回した。筆者らは弥太蔵谷上部の790m付近の左岸台地を造成して幕場とした。多少の雨ならば耐えられるが増水跡の範囲であった。大雨の後で地形が安定しない状態だったので快適な幕場については言及しがたい。下降した上若狭谷は上部は滝が連続して懸垂が多いが地形図で水線が示されている箇所からは容易となる。

<装備>
カム0.3~1.0、ピトン各種。足回りはラバーでもフェルトでもいいかも。泥壁草付きが多いのでハンマーはピックが長いほうが有利。

<快適登攀可能季節>
7月~10月 残雪、寒さ、害虫など各種事情を鑑み判断されたし

<温泉>
とちの湯:宇奈月温泉総湯は駐車場も無いし、露天風呂もない。山屋のみなさまはこちらへどうぞ。

<博物館など>
うなづき友学館:黒部市立図書館の分館と歴史民俗資料館が併設している。何と言っても1/2愛本刎橋が見ものの博物館である。30年おきにかけ替える刎橋だが、当時のオーソドックスな橋脚がある木造橋の架け替え頻度ってどのくらいだったんだろうか。もっと深く橋の構造比較をしてくれればありがたいと思う。このほか、稚児舞や七夕といった地域の祭事展示も興味深い。

シーラカンス毛利武士郎記念館:晩年を富山で過ごした沈黙の彫刻家、毛利武士郎のアトリエを改装して作られたアートギャラリー。代表作である哭Mr.阿の誕生や工作機械を用いて作られた謎の金属造形が常設展示されている。

<グルメ>
よか楼:昨今話題の町中華的定食屋。コスパという卑しい概念を持ち出さなくても味で選べる良店。ジビエ料理も時折そろえる。

2026年7月27日月曜日

尾添川 目附谷





 

















 名山に名渓あり。目附谷は白山という山を深く味わうことのできる名渓である。もし、山が好きな友人に白山でお勧めの沢を教えてと言われたら目附谷から登る白山を挙げたい。それは目附谷が白山山塊を構成するほぼすべての岩体が現れて渓相が変化に富んでいること、白山山頂へ足を延ばすことが容易なこと、下降する加賀禅定道の道の高山植物が素晴らしいこと、これらが理由である。記録的な寡雪のシーズンに高山植物を愛でる旅として出立。

 入渓して驚いたのは覚悟していたオロロが殆どいないことであった。残雪の心配よりもオロロの大群を気にしてたのでこれは僥倖だ。オロロの発生と残雪量はどのような関係があるのだろうか。快適に飛騨帯石灰質片麻岩のゴーロ川原歩きを楽しむ。白山にも飛騨帯は分布しており手取川右岸の各沢や荒谷は興味深い小粒沢である。石灰質片麻岩の量と質では雄谷が最大級の谷でゴルジュは見ごたえがある。片麻岩は英語でgneissナイス)というので見かけたらフリークライミングの掛け声のように「ナイスです!」と声を掛け合おう。
 取水堰堤の少し手前から手取層群の堆積岩に一変する。川原には嘘みたいにポップな模様の礫岩もあり気分が上がる。鳴谷を過ぎると紅滝が堂々とした姿を現す。面白いのは下部は砂岩泥岩の互層で脆そうだが、流水付近は固い砂岩になっている点である。容易に巻いて直ぐに二重滝である。これは一段目は登れても二段目は難しそうであるので軽く巻く。上流のカブト谷出合の泥岩でしばし化石探しに興じる。植物由来らしき化石は多数あったが足跡や貝殻といったキャッチーな品は探せなかった。
 ゴリラ岩を過ぎると白山によく分布している流紋岩質の火山岩となる。白山の火山岩類に関しての調査文献が無いので謎火山岩(濃飛流紋岩とざっくり呼ばれている)と呼んでいるが、ゴリラ岩より少し上の岩は蛇谷上流域の岩と似ている。段々赤茶けてきて大畠谷のような雰囲気になってくるのがとても面白い。そして下部に丸い礫岩を取り込んでいるので、もしかしたら手取層の上に火山活動の溶岩が載っているのかも。源頭になると益々大畠谷の上部スラブに似た岩にってきてヌルヌル苔も発達してくる。確か殆どの滝をロープレスで直登したと思う。最後の標高差50mくらいまで水が途切れないので藪漕ぎは殆どなく七倉山へ登れた。
 期待通りの花盛りでマイ・フェイバリット高山植物であるハクサンコザクラを筆頭にどれもこれも素晴らしい。白山御前峰まで足を延ばしお池巡りを楽しんだ。下山路とした禅定道では四塚山のチングルマ、ハクサンコザクラ、コバイケイソウの花畑を堪能し、天池ではキンコウカとニッコウキスゲが満開で思わず破顔する。口長倉から下部のブナ林は素晴らしく終始上機嫌な下山であった。

 花の時期に目附谷を快適に登ることができるという奇跡に温暖化も悪くないと思ってしまった。沢登りはもちろん化石採集、お花めぐり、ピークハントと完璧な山登りができるのが目附谷である。遡行の難易度は高くないので門戸は広い。この行程を一泊二日で盛り込むこともできるが勿体ないだろう。白山という山を味わうには心に余裕を持った二泊三日で遊びたい。

<アプローチ>
いろいろアプローチは取れるが筆者らは加賀禅定道を下降することにしたので、檜倉手前の林道に駐車し少し登山道を歩いてから深谷の下流沢から下降して取りついた。目附谷内はそこそこ幕営できるところはあるが定番決定的な場所には欠けると思う。ゴリラ岩の少し手前の大体標高1450m付近の川原に泊ったが中々快適であった。

<装備>
沢慣れしていたらロープの出番はないかもしれない。河原歩きは面倒ではあるが上部がヌメルのでフェルトの方がいいかも。

<快適登攀可能季節>
8月~10月。オロロが酷い地域なので注意。

2026年7月21日火曜日

金木戸川 1625m右岸支流

 















 花の時期に黒部五郎へ登りたいと思った。しかし、黒部川上流の五郎沢から登るとなると折立の大混雑や山中の騒がしさが辛くて楽しめないだろう。南側の金木戸川には滝マークがある急峻な谷が山頂まで続いている。これならば静かで面白い登山ができると思ったのである。
 長い林道歩きをこなして古道歩きに興じようとした途端に道が荒廃した。見切りをつけて沢へ降りる。取水されていない金木戸川の流れは重い。本流遡行の醍醐味を味わいながら目標の1625m右岸支流に到達する。
 出合は美しい2段滝になっておりこれは快適に直登できる。スラブ状小滝を幾つか挟んで美しい30m直瀑が現れる。直登は難しいのでロープを出して右岸ルンゼを登る。沢を復帰し暫しゴーロとスラブ小滝を登ると再び40m級の直瀑が登場。この直登も難しいので巻きあがるとスラブを基調とした川原になる。さあ、あとは体力勝負の詰めだな。と思っていたら登って楽しく美しい小滝が連続して全然飽きさせない。地形図で薄っすらゴルジュっぽくなっているので何かあると感じたのが正解であった。側壁のニッコウキスゲが余りに美しくぬらりと悪い巻きにも彩りがある。地質図では花崗閃緑岩などと記載されているが、斑れい岩らしき岩と礫岩も有ったりして良く解らない。しばしば断層みたいな直線的なボロイ層もあったがあれは何だろう。その後も小滝とナメを楽しんで稜線直下へ。期待通り百花繚乱の花盛りで月の裏側を見たような感動に打たれた。短い開花のさなか慌ただしく働くマルハナバチが愛おしい。斜面に目をやるとコバイケイソウの当たり年のようで正に大花畑である。黒部五郎の山頂から眺めるカールに残雪が驚くほど少ない。植物や動物たちはこれからどうなるのだろう。残された短い時間ではあるが自然の変容を観察するのが楽しみでもある。
 下降した谷はややオープンとなっている地形で上部は易しく快調に下れる。こちらの谷の方が堆積岩の割合が多く巨岩やゴルジュは殆どない。本流出合から高差300mくらいはクライムダウンと懸垂の連続となり少し時間がかかる。最後に核心があるというのはクライミングにおいて一番面白い。本流に着くとほっと安心。狙い通り静かに沢登りをしながら花を堪能できるいい山登りであった。

 誰が登るかわからない沢ではあるが登りごたえ十分であり遡下降を1日でこなすと身心ともに充実する。登りたい山を基準に沢を選ぶと時に嬉しい発見がある。この沢だけを目的にすると所要日数と内容が物足りない人もいるかも。そんな場合は夏休みに黒部源流逍遥ツアーや上ノ廊下下降と組み合わせるのはどうだろうか。北アルプスの深みを堪能する遊びはいいものである。

<アプローチ>
双六ダム手前に駐車して歩く。双六ダムはR8年まで工事中のため工事実施日は上流に車を入れる事が出来ない。昔は金木戸川の上部まで林道が入れたものだが、今はゲートは解放されていないし、鍵は割合厳重。1192mの最終取水堰堤から先だが、以前は歩道があったが今回崩壊したのか道が見当たらなかった。さっさと諦めて川へ降りると渡渉と巨岩を登下降する本格本流遡行開始となる。金木戸川本流は水量が多いのでコンディションよっては行き詰まるので注意。幕営は1570mくらいの右岸に適地がある。1625m右岸支流を登った後は1580m右岸支流を下降した。上部は非常に下降しやすいが1850mからクライムダウンと懸垂を繰り返す沢となる。




遡行と下降を併せるとまるっと1日掛かりの行動になる。下降の最後に核心が待っていることから時間的に無理をしない方がいい。1580m右岸支流の1850mより上部には幕営適地が散見されるので無理せず一泊するのも良いかも。

<装備>
カム一式、ピトン各種、足回りはラバーソールがいいと思う。

<快適登攀可能季節>
7~9月 残雪の量次第だが7月から登れるケースもある。金木戸川本流の水量が最も注意すべき事項かもしれない

<温泉>
割石温泉

<博物館など>
江馬氏館跡公園:江馬氏は室町時代~戦国時代に北飛騨地域を治めた豪族武将である。その時の武将が室町時代に命じて作庭させたのが会所庭園である。来客をもてなす為に作られた石庭は失礼ながら地方豪族が設計したとは思えない瀟洒さで都の風を感じる。作庭費用は鉱山で得た資金を投下したのであろうか。飛騨が天領となった元禄以降は田に埋められてしまったが、昭和に発掘され再現されている。すごくいい庭なのにお庭を眺めながらお弁当を食べられるというフレンドリーさよ。

高原郷土館:鉱山資料館、神岡城、旧松葉家と3つの博物施設が集まった公園。神岡城内では神岡の歴史を概観でき、鉱山資料館では昭和における採掘~精錬までの工程をビデオで学習できる。鉱山資料は少し情報が古いものの鉱業の現場を知ることができるので貴重。そして最も推したいのが松葉家。神岡に現存した合掌造りで農具、山仕事道具(刃物含む)養蚕具が3階建ての中に所狭しと並ぶ。背の高い人は上階で頭をぶつけないように注意。
なお、近現代の生活に関する書物は「奥飛騨山郷生活文化の記録」が面白く、土木開発については「土と木と水と人と : 建設概史」が概観にふさわしい。どちらも国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧可


2026年7月13日月曜日

小滝川 ヨシオ沢

 









 糸魚川の山の面白さは尋常ではない。その一要素として付加体構造が挙げられる。糸魚川の付加体は各層の規模が小さいため、一本お隣の沢や対岸の沢へ入るだけで全く異なった味わいが楽しめるのだ。小滝川上流域の詳細な調査はまだなされていないため、自ら訪れて謎を堪能することができるのだ。ヨシオ沢の地質は小滝川の他の支流とは少し毛色が異なっている。下部は青海川アイサワ谷と概ね同様のようだ。そしてその下部にはヨシオ滝が架かっている。加えて、途中に謎の平坦地形が存在するとなればこれはもう行かざるを得ない。

ヨシオ滝は確かにアイサワ谷で見られるような圧縮されたシマシマの岩である。段瀑となっており、最上段の瀑布は宙を舞っている。難しそうだし、こいつの直登が目的ではないので、左岸からロープを出して高巻く。弱点を突いているとはいえ傾斜はあり、いやらしい箇所がある。最上段の高巻きの途中で、人工的な隧道跡を発見して驚愕する。ヨシオ滝の上も小ゴルジュになっており、10mクラスが3つ、5m程度が1つの滝が出てくるが、いずれも容易に越えられる。これらの滝を越えると土砂が多くなり歩きの沢となる。 平坦地に入ると倒木が目立つ。少し上流には大きな山崩れ跡があった。ちょうど泥岩・砂岩の堆積岩に切り替わった地点だったため、崩壊が生じやすかったのだろう。このような崩壊によって河道閉塞による堰止湖が生じ、その後の堆積によって平坦地が形成された可能性が高いと推察した。 詰めは源太夫山へ向かう沢とした。心配していた悪い滝は土砂に埋まっているのか、一切姿を現さなかった。途中、藪っぽい箇所はあったものの、尾根上に出るまで藪漕ぎは殆どなかった。小滝川左岸の沢から詰め上げた尾根とは違って、ここにはブナの大木が無く、代わりにササが見られる。源太夫山は藪が深く、人間にとって決して居心地の良いピークではないが、確かな満足感がある。下降に選んだオソロ沢は往路以上に土砂と倒木の堆積が顕著で体力・精神ともに疲弊した。しかし、これこそ裸の自然といえよう。想像力を働かせたあとの深い充足感とともに林道を歩んだ。

小滝川の沢は、不快なことが多いのは間違いない。しかし、登山、自然、そして文化における謎が多く、面白いのでやめられない。土砂が有ろうが、倒木が有ろうが、毛虫にやられようが、引き続きこの山域との距離を詰める所存である。

<アプローチ>
小滝川発電所から先はゲートがあり封鎖されている。ここに駐車して入渓。ヨシオ沢を登った後は源太夫山を経てオソロ沢を下降する。オソロ沢の土砂倒木の堆積は一見の価値あり。難しくないけど凄まじい歩きづらさ。今だけの限定かもしれないのでぜひ訪れてみるといい


<装備>
カム一式、ピトン各種。フェルトがいいと思う。

<快適登攀可能季節>
7月~10月。