生活から遠い文化の発展は気づきにくい。黒部川流域の地質や造山運動の理解がここ十数年で格段に理解が進んでいることを知っている富山県民はどれくらいるのだろう。20年前は滝谷花崗岩が世界一若い花崗岩とされていたが、現在は約80万歳となる黒部川花崗岩が世界一となっている。さらに黒部川流域の隆起速度が衝突帯でもないのに7.5㎜~10.2㎜と異常に速いために新しい花崗岩が露出していること、その隆起が速い理由は沈み込み帯火山弧によるマグマによって温められたが地殻が脆弱化し、沈み込み時の圧縮力に対しての隆起が早くなるというメカニズムの理解まで進んでいる。これは世界の沈み込み帯の隆起を説明できる可能性がある成果だと思う。黒部というフィールドでの活動によって人類の世界観が明確なっていることは県民として嬉しいことである。悦ばしきことに沢登りができれば、その黒部の自然を直接的に五感で味わうことができるのである。
餓鬼谷は黒部川流域きってのエンタメ渓である。爽やかな渓相と恵比寿ノ滝周辺のゴルジュ連瀑はもちろん秘湯野湯マニア垂涎の餓鬼の湯という温泉が存在からである。川湯がある温泉は日本に幾つかあるだろうが沢登りがこれほど面白い沢もあるまい。更に黒部川花崗岩が分布しており下部はあのパンダ石が見られるのである。温泉旅行と黒部川花崗岩の観察を兼ねて訪れた。
出合いの滝はスラブ状で登れそうだがあまりにも簡単に巻けるので巻く。下部のゴルジュは水量も豊富で直登が難しいものが現れる。部分的にロープを出すが巻きはそれほど難しくない。ゴルジュの抜け口で黒部川花崗岩に含まれるエンクレーブの元となった可能性のある岩を見つけて盛り上がる。新しい黒部川花崗岩といっても年代に差はあって大体2万年単位でマグマの貫入があったと考えられているようだ。よーく目を凝らすと似た岩のようで違う岩があるのは火山活動2万年の境界なのだろう。遡行中に2万年単位で時が流れたようで面白い。
ゴルジュを抜けると開けた川原となり割合直ぐに餓鬼の湯に到着する。餓鬼の湯は全て右岸側から湧出しており、大体長さ300~400mくらいの範囲に存在する。川の水と混ざり合って奇跡的に良い湯加減になっているところがあるはずなので、そこを探して整地して湯としよう。バイオマットの繫茂も綺麗にして立派な露天風呂としたらあとはゆったりと楽しむ。なお地熱がすごいので右岸側で寝ない方がいいだろう。
温泉から恵比寿ノ滝まではゴルジュになった小滝が出てきて巻いたり登ったりする。ラインの自由度は比較的高いので登り、巻きいずれもやりやすい部類だと思う。岩は暗色包有岩かと思いきやゼノリスが混じっているので注意して観察されたし。恵比寿ノ滝の付近は奇瀑と美瀑のカーニバルで登っても観ても楽しい。その後大黒鉱山跡がすごいスケールで展開してこれまた驚く。唐松岳へ詰め上げる沢は途中で泥岩ミニゴルジュが出るがその後は猛烈なガレと雪渓となったので2250mくらいから登山道の方へエスケープ。登山道は廃道が決定しており崩れが顕著な箇所もあるが唐松までは問題なかった。八方尾根は本物のカーニバル開催中かと思うほどの人だかりだった。皆さん楽しそうでいい。近年の八方尾根は毎日カーニバルなのかも知れない。
餓鬼谷は変化に富んだ内容、エンターテイメント、手頃な遡行難易度から黒部川でも屈指のお勧め渓。そして富山県民であれば黒部の大地の恵みを享受するべく来訪必須の渓谷といえよう。
<アプローチ>
黒部鉄道トロッコ欅平から歩いて折尾谷を下降して取りつくか、阿曽原温泉小屋の斜面から本流に降り立ち本流を下降して取りつく。欅平~唐松岳の登山道は崩壊が相次ぎ廃道化が決定した。下降路は①草木に埋もれ完全に廃道となる前に藪を漕いで旧道を降りる、②猿猴沢を下降して欅平へ、③八方尾根又は遠見尾根を降りて白馬へ至るの3通りが考えられる。幕営が可能な箇所は随時現れるが行程と楽しみを考慮した適地は温泉地帯の適当な箇所にある左岸、大黒銅山後の広い川原の2箇所となる。
<装備>
カム0.3~1.0、ピトン各種。足回りはラバーの方がいいと思う。
<快適登攀可能季節>
8月~10月 残雪、寒さ、害虫など各種事情を鑑み判断されたし
<温泉>
とちの湯:宇奈月温泉総湯は駐車場も無いし、露天風呂もない。山屋のみなさまはこちらへどうぞ。
<温泉>
とちの湯:宇奈月温泉総湯は駐車場も無いし、露天風呂もない。山屋のみなさまはこちらへどうぞ。
<博物館など>
うなづき友学館:黒部市立図書館の分館と歴史民俗資料館が併設している。何と言っても1/2愛本刎橋が見ものの博物館である。30年おきにかけ替える刎橋だが、当時のオーソドックスな橋脚がある木造橋の架け替え頻度ってどのくらいだったんだろうか。もっと深く橋の構造比較をしてくれればありがたいと思う。このほか、稚児舞や七夕といった地域の祭事展示も興味深い。
うなづき友学館:黒部市立図書館の分館と歴史民俗資料館が併設している。何と言っても1/2愛本刎橋が見ものの博物館である。30年おきにかけ替える刎橋だが、当時のオーソドックスな橋脚がある木造橋の架け替え頻度ってどのくらいだったんだろうか。もっと深く橋の構造比較をしてくれればありがたいと思う。このほか、稚児舞や七夕といった地域の祭事展示も興味深い。
シーラカンス毛利武士郎記念館:晩年を富山で過ごした沈黙の彫刻家、毛利武士郎のアトリエを改装して作られたアートギャラリー。代表作である哭Mr.阿の誕生や工作機械を用いて作られた謎の金属造形が常設展示されている。
<グルメ>
よか楼:昨今話題の町中華的定食屋。コスパという卑しい概念を持ち出さなくても味で選べる良店。ジビエ料理も時折そろえる。