2026年10月18日日曜日

常願寺川 妙壽谷



























 立山の地図を広げて弥陀ヶ原を眺めてほしい。鬼ヶ城谷と妙壽谷の浸食具体に目を引くはず。弥陀ヶ原火山溶岩台地の浸食地形なのだから浸食されたゴルジュが面白いのは瞭然。ザクロ谷が称名川の子供だとすると、この2つの谷は水量が少ないので玄孫くらいのDNAを受け継いでいるといえよう。それに加えて下部は飛騨帯を含んで溶岩の懸崖があるのだから名渓の要素は揃っている。

 入渓して直ぐに登れない小滝が現れるので右岸から小さく高巻く。出合からヤバい谷なのかと焦るが、以降は懸崖部までゴーロと美しい小滝が続き一安心。快調に進むともの凄い両門の滝が目の前に現れる。本流の女性的な流れの滝に対して、左支流の滝は魔羅の如く屹立しており男性的。妙壽谷の雌滝と雄滝と称すべき夫婦美瀑である。惜しむらくは水量の乏しい秋だったので勇壮さと耽美さをやや欠いていたこと。この滝を眺めに来るのであれば初夏がよいのだろう。なお、節理はないので登れる可能性は一切ない。雌滝を左岸ルンゼから高巻くが、下流の大谷にある下部大滝よりも易しい巻きで難しくは無い。懸垂下降なく降りると又しても大滝出現。この滝も容易に巻くことができる。
 巻き終わるとスラブが200m以上続く信じられない地形が展開する。航空写真と地形図から傾斜が緩いスラブ滝だと予想していたが、これほど快適なスラブ滝が立山にあるとは。スラブ滝登りは難しくは無いのだが緊張感はそれなりに続くのが面白ポイントである。
 これが終わるとポットホールとスラブだけの緑色ゴルジュが約1.5km続く。序盤は強烈なゴルジュで登れない滝が1箇所出てくる。その後ゴルジュは強弱を繰り返して続くが全て突破可能である。徐々に緩まって平坦なナメが出てくるとアルペンルートの七曲りが近い。藪っぽくなってきたら適宜脱渓するとすぐに登山道である。

 妙壽谷は鬼ヶ城谷の飛騨帯&柱状節理ジオと双璧をなす名渓であった。夫婦大滝の存在だけでもこの谷を訪れる価値はあるが、スラブとゴルジュと変化に富んだ渓相が素晴らしい。常願寺川の右岸谷は、この妙壽谷、鬼ヶ城谷に加えて大谷と津之浦谷も魅力的である。そしてこれらは日帰りで登れるというのが嬉しいポイント。カラスギ谷や大迫戸谷といった骨太登山となる左岸支流よりもライトでエンジョイ指数が高いので県民の皆さんはぜひ遊んでみて欲しい。

<アプローチ>
妙壽谷は常願寺川630m右岸より合流する谷。その時々の状態に合わせていい感じで出合いまで行く。下山はアルペンルートの横にある登山道を利用するか弥陀ヶ原からバスで下山。

<装備>
筆者らはスリングのみで問題なく登れた。カムが多少あっても良いかも。上部ゴルジュは水水に結構漬かるのでウェットがあるといい。

<快適登攀可能季節>
8月~10月。南面で標高は低いが残雪が残りやすい地形のため積雪量による。

<温泉>
ホテル森の風立山、吉峰グリーンパーク

<博物館>
立山博物館:別館まんだら遊園の異空間を一度は味わってほしい。
カルデラ砂防博物館:いい。僕の好きな治水の恩人ヨハネスデレーケの展示もある。

2026年10月13日火曜日

尾添川 中ノ川地獄谷

 


























 日本百名谷という本がある。沢登り記録と紀行文が混合した独特の文集で日本全国各地の谷を紹介する興味深い書籍である。入手困難な本だが県立図書館や国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧することができる。中ノ川地獄谷は大畠谷と並んで白山山域の一つとして挙げられている。いずれの書籍でも沢の内容はさらりと書かれており伺い知れない。地元石川県の山岳会が作成している「続北陸の名山」という書籍においても、遡行ポイントだけの記載で謎は深まるばかり。その後、秋に行こうと思っていたシーズンに中ノ川二俣付近斜面が地すべり崩壊したり、更に岩間道への道が崩壊したりと気持ちが遠のいていた。そこへ友人が会話の中でシーズン一番印象に残った沢として挙げて焼け木杭が燃え上がる。

 まず、アプローチで彷徨う。迷った友人らは入渓した時点で昼になっていたと聞いており焦る。何とか道をみつけて降りていると先行するおじさんが!なんと露天風呂の整備をされているとのこと。北電の堰堤道を使うといいと教えてもらい最短で堰堤にたどり着けた。
 不気味白色の水をざぶざぶ徒渉して進むと自噴する温泉が現れ感動に打ち震える。天然記念物の墳泉塔は土石流で崩壊してしまっているが、天然温泉シャワーを浴びていい気分。ゴルジュになって谷全体がもの凄い雰囲気を醸す先にあるのが二段滝である。過去は梯子や橋が架かっていたようだが今は無い。ずっと下流から大岩壁のバンドを高巻くか、左岸の凹状を登るか迷ったが近い凹状に取りつく。凹状の登り口は登れそうな所は3つくらいあるが、正面のフェースとした。小ハングを乗り越し泥を掘り起こしてリスを探す奮闘クライミング。思いのほかクラックとリスが有って助かる。潅木まで伸ばしてトラバースすると歩いて滝上に出られた。全体を通してこの谷で最も難しいピッチだった。その後は土砂が堆積した広い川原を難なく歩いて二俣まで進む。途中の倒木で思いがけず二日分のマイタケを採取する。2014年に崩壊した斜面はやはり大きく今後も荒廃が進むことが思いやられる。二俣は広く平らで薪は豊富。焚火の傍で星を眺めて良き夜を過ごす。ペガサス座の四辺形と土星の競演が印象的であった。
 
 地獄谷の川床は真っ赤。水は鉄さびくさくて飲みたくないので、仙人谷の水を採水してスタート。地獄谷本谷は二段滝からゴルジュスタートこれは登れない。水量が少なければ登れるのでは?と思っていたが全然そんなことは無く右岸ルンゼからクライミングして高巻き。滝上は広くなっていて容易な懸垂で谷に戻れた。その後も中々面白いクライミングと立派なゴルジュで歓声が止まない。この谷で最も快適で楽しい15m滝を登るとゴルジュを抜ける。ここから先の景観こそが地獄谷の醍醐味である。火の御子稜(地獄尾根)の側壁は圧巻でこれを眺めにこの谷に来る価値があるだろう。紅葉の色づきも相まって最高である。踊り廻るように喜び、来てよかったと仲間と語り合うこの時間がいい。幕営して山頂を踏むことを考えていたが、薪が無く貧弱な装備で快適な夜を過ごすのは難しそう。止む無く尾根に上がり小桜平の避難小屋へ向かう。たどり着いた避難小屋は全天が開けており天体観測には最高。ガスが切れて新月ときた。こりゃ今日も外で寝るしかない。星空の流星と引き換えに、薪が無い沢中よりも寒い夜を過ごした。

 百名谷に大畠谷と地獄谷が選出されているのが納得の内容であった。どちらも本邦唯一無二の景観が楽しめる。それにしても温泉、クライミング、キノコ、ブルーベリー、紅葉、星空、ゴルジュ、崩壊地巡りとこれだけ多彩に山遊びを楽しめた谷は多くない。白山フリークは秋の中ノ川地獄谷へおいでくださいませ。

<アプローチ>
地理院地図の道が林道も登山道も死んでいるので、何も知らずに墳泉塔へ向かうのはすごく難しい。たまたま岩間露天風呂へ向かう地元の人に概要を聞くことができた。岩間道へむかう林道は大崩壊しており、当面復旧は難しそうである。この崩壊を巻いて岩間休憩舎へむかう道が楽々新道の入り口付近付近から左側についている。この道の入り口は解りにくいが基本トラバースしていけば道らしきところに出会う。ロープがいくつも付けられた急傾斜帯を降りると崩壊地を過ぎた林道へ出られる。更にここからしばらく林道を歩いて、取水堰堤の近くとなる道路左側草陰にコンクリート階段で堰堤へ向かう道がある。これを降りていくと遡行開始地点の堰堤に降りられる。この堰堤に向かう道も単純ではなく、油断すると道が無い尾根を降りそうになる。地獄谷本谷の水は鉄くさく飲めたものじゃない。ゴルジュ内の支沢もくさい所も有ったりする。水質を考慮すると谷中の幕営適地は仙人谷二俣か七倉山へ向かう沢の出合尾根末端がいい。といっても、どちらも何か違和感のある味ではある。七倉山尾根末端は平らで寝やすいけど薪はなく秋はテントがいい。

<装備>
カム♯1まで一式、トライカム少々、ピトン各種。基本岩は硬いのでカムが良く効く。足回りはラバーソールがいい。更にクライミングシューズもあったほうがいい。ロープは二本あったほうが懸垂と荷揚げに便利。

<快適登攀可能季節>
9月~10月。残雪を考慮すると秋がいいはず。幕営地は広いので秋が深まってきたらテントを持っていくと快適だと思う。

2026年10月7日水曜日

水無川 真沢

 
































 恥ずかしながら、いい加減な登山をしている。有名なところだと各種色々な情報がある時代で遡行図や谷の情報が多分得られるのだが、じっくり読んで理解し行くことができない。遡行図を持っていくことも無いので、概念把握も適当で地形図を見ながら成り行きで適当に登っている。安全上望ましくないことは明白であり危険な登山者と罵られても仕方ない。ただ、理解していないからこそ良かった!と思えることも多いのも事実である。
 真沢はその昔友人に良い所だと教えてもらって以来気になっていた沢。二俣に大きな滝が架かっていてそれがもの凄い景観とのこと。大体そのくらいの情報だけで行ってみることになる。

 滝ノ沢を過ぎるといきなりゴルジュになってきて既に猛烈に綺麗だ。一見すると登れなさそうな滝でも取りついてみると簡単だったり、際どかったりしつつ登れる。登れない滝はクライミングして草付きに入り高巻く。関門の滝下は普段は雪で覆われているのだろうか。定石は不明だが綺麗で楽しいゴルジュである。関門の滝から先はそれはもう筆舌に尽くしがたい美渓で圧倒される。ロープを出さずに登れてしまう滝ばかりだが、高いので落ちたらアウトで緊張感が高い。危険なのでちょっと嫌だが時間を掛けると困るのも事実であり受け入れる。楽しみにしていた二俣の景観は世界遺産級で想像よりずっと素晴らしい。見慣れない渓相から腰を抜かす大滝が二つ架かっている様は圧巻だ。真沢って沢登り界で有名なのだろか?この景色は越後だと当たり前なのか?登山界のみならず広く一般に知られていても良い場所だと思う。その後も登れる大滝、スラブ状滝、ナメが連発し感激の土石流、感動の火砕流が同時多発発生する。そんなこんなでわーわー騒ぎながら登ることになる。祓川という支沢を登るつもりだったが、概念を間違えており気づいたら真沢本流?を詰めて中ノ岳の北側へ出る。祓川には大滝が架かっており凄い大滝だねぇ~と言いいながら、のんきにやり過ごしていた。真沢には美景ナメが連発していたのでこれもたよし。ハードな笹薮漕ぎをして稜線に出るとこれまた美しい山に囲まれて幸せになった。登山道も美しい森で楽しくゴール。

 富山県近隣には見られない景観の味わえる空前絶後の名渓であった。謎の変性岩群である上越帯がなせる業なのだろう。登っていても堆積岩の変性岩っぽさと火山岩っぽさが混合していた。理解が及んでいない世界で親しく遊ぶのは実に興味深いこと。遡行景観は独特で相対的に表現しがたいが強いて類似した雰囲気を挙げるならば白山のよう。雪国では貴重な秋シーズンだが、たまには遠出して名渓を訪れるのも良きものである。

<アプローチ>
越後三山森林公園の駐車場から林道を歩いて廃道化してきたら適当に沢に降りて入渓。幕営適地は北沢との出合にある大滝を登った大岩地帯。といっても、薪が比較的豊富にあるだけで決して平らで安全というわけではない。車が二台あったので事前に十字峡に一台デポしていたので中ノ岳から登山道で容易に下りられた。

<装備>
カム一式、ピトン各種、足回りはラバーの方がいい。クライミングシューズがあると大滝で安心。

<快適登攀可能季節>
残雪が多いので9月~10月くらいだと思う。

<博物館など>
トミオカホワイト美術館:歴史的に変色や割れのない白色の油絵具の使用が難しかったことを初めて知った。富岡 惣一郎が作り上げた油絵白色の抽象的な世界は心地よい。