2021年6月28日月曜日

庄川 駈足谷

 














 山登りやクライミングを始めると世界を見る目が変わる。どこかに岩はないか、登れそうな岩なのか、滝はあるのか等今までただの景色であった物達が忽ちマイワールドと相関し始める。そんなことだからまともな車の運転は覚束ない。急峻な地形があれば周辺確認に忙しくてハンドル操作どころではないのだ。

 ご存知の通り国道156号線は五箇山までつづら折りの国道でやっかいだ。それゆえ国道304号線五箇山トンネルの開通により交通量は減少しているように思う。そんな国道の偵察中に気になっていたのが駈足谷である。国道横からすぐに小滝が連続するのが視認できる上、上部には大滝の存在を臭わせる地形表現がなされている。これまで祖山以南の土砂がちな谷の印象が強かったので、「釣り球」という判断で見送っていた。しかし、杉尾峠~栃原区間沢登り楽しい説が自身に急浮上したので思い切って振りぬいてみた。結果、右中間を抜ける2ベースヒット。よい沢であった。

 入渓と共に見た目通り軽快な小滝が連続する。2本目の林道までの岩はむちゃんこ硬くて非常に快適である。部分的に難しい滝があるのでロープを出したが、カムとピトンが良く効くので楽しい。予想通りの場所に20mクラスの滝があったが、これは勝負せず巻くこととした。ここの巻きは悪くない。1本目の林道を越えても楽しい小滝はまだ続く。水量が少ないので思い切って水流を登れるのも充実感がある。2本目の林道から先は水量が一気に減りエンタメ性が乏しい。途中まで登ったが雨に濡れそぼる中の長時間下山を憂いて戻り途中下山した。

 文字通り駈足で、とはいかないところが面白い。早立ちすれば丁度半日で帰ってこれるくらいの谷だが十分に楽しめるとお知らせいたします。なので、これを見た方は156号線を運転の際にはよそ見せず安全運転をお願いします。国道沿いには下山中の沢屋が歩いておりますので!

<アプローチ>

国道156号で駈足谷橋まで。スノーシェッドの手前に工事車両用のスペースがあるのでそこを借りる。工事日は駐車できないので月~土は駐車不可と考えた方が良い。右岸に工事用水を引水するための道が付けられているので利用して入渓。下山は砕石用の道や林道がそこかしこに走っているので活用すると良い。ただし、この辺りはしばしば山崩れを起こしているので林道が生きている保証はない。藪まみれのところもあると思う。

<装備>
カム少々、ピトン数枚

<快適登攀可能季節>
5月~11月。東面だが急峻過ぎて雪渓の溜まる量は少ないと思う。

<温泉>
大牧温泉:舟で対岸に向うという、火曜サスペンス劇場的なロケーション。もちろん行った事は無いが一度行ってみたい。

庄川温泉ゆずの郷やまぶき:比較的新しい施設なのでお風呂は綺麗。食堂のちゃんぽん麺と職員さんの漫画が名物。

袴腰山 山田川右俣

 





 県西部の山で最も印象的な形の山は袴腰山だと思う。庄川や砺波から眺めると、こたつ台にそっくりな台形が目立ち一目瞭然である。県内では春のシャクナゲ群生地として親しまれている。一般的な登山口は歩いてすぐ山頂へ到達できる場所にあるので、元気のある登山者にはやや物足りなく感じるかもしれない。近年は登山ブームの影響かこの駐車場は満車が多いとも聞く。

 体力が有り余っていたり、混雑な苦手な方には山田川を遡って山頂へ至ることをお勧めしたい。内容は沢登りというよりも沢歩きが殆どである。上流部でちょっと渋い小滝が出てきても簡単に巻くことができるので、沢靴以外の装備は必要ない。稜線も豊かなので春の山菜取りのコースとして最適かもしれない。

 ところで、県内に山田川ってどうして複数あるんだろう。大きなものでは八尾にも山田川があるし、小河川でも幾つかあったような気がする。確かに山も田も多い地域だけどはて?

<アプローチ>

右俣と左俣が分かれる手前の橋の袂に駐車する。下山は左俣を下降するか、1068m付近から北に延びる送電線巡視路を利用する。この送電線巡視路は夏季藪に覆われることがあるので油断ならない。春秋は大丈夫だと思う。


<装備>
何もいらない。

<快適登攀可能季節>
6月~11月。北面だから雪は残り易いかもしれない。

2021年6月20日日曜日

小川 下若狭谷












 小川は黒部川の陰に隠れた存在ではあるが遡行対象となる谷は多い。その中で曲りなりにも全国的に認知されているのは尾安谷だけと言える。富山の沢愛好家であれば、小さな険谷、打谷中俣を思い浮かべる方も多いはずだ。

 では、下若狭谷はどうだろう。少なくとも私はその名前を知らなかった。地図で面白そうな沢だなぁと目を付けていたが、如何せん名前が判らないので愛着が湧かず後回しにしていた。訪れてみれば知名度0となっているのが全く謎、ピリ辛うまい渓であった。

 小川温泉からすぐ河鹿橋で出合う谷なので絶対に間違うことは無い。堰堤が連続する出だしは右岸にうっすらと残る踏みあとを辿り巻く。標高310m二俣までは問題は無い。序盤に見られる赤いカリ長石を含んだ花崗岩は打谷や布施川と同じ質である。筆者らは右俣を遡行し、左俣を下降することとした。しばらくは快適な小滝登りが楽しめるが、すぐにゴルジュとなる。ゴルジュ内も登れる小滝が続くのが有難い。筆者らは6月中旬に訪れたが、スノーブリッジを潜りながらの遡行となった。地形図が急峻となっている箇所はもれなく20mクラスの滝が付いてくる。この流域に特徴的な花崗岩スラブ滝で手が付けられない。巻きはそれほど悪くないものの慣れていないと往生するはずだ。ゴルジュ地形が終わっても滝は続く。処理できる滝ばかりだが、連続するので緊張が解けることは無い。稜線までは予想通りちょっと際どい泥登りが続くがヤブコギは少ない。

 973mピーク付近から左俣へと下降する。この稜線の地形は迷いやすいので、下降点には細心の注意を払う必要がある。下降し始めは意外に調子よくクライムダウンが楽しめる。このまま行けるかなーと思ったら大間違い。徐々に緊張するクライムダウンが増えてスラブ滝の巻き降りが多くなる。ゴルジュ地形になってくると20mクラスも2~3つほどあったような気がする。

 山は小さいながらも遡下降を終えるとおなか一杯となる。下若狭谷の下降はハマり易い要素が多いので足並みのそろったパーティーで臨んだ方がよいだろう。

<アプローチ>
小川温泉の駐車場をお借りする。ホテル前ではなく、登山者用の駐車場を利用しよう。
車一台であれば左俣と右俣を遡行下降組み合わせることになる。下降が難しい地形なので、時間がかかると思った方が良い。車二台で負釣山の登山道を利用すると時間的余裕は生まれるだろう。或いはちょっと長いけども音谷を下降するのも興味深い。

<装備>
スリングだけで大丈夫だと思うが、念のためピトンとカム。

<快適登攀可能季節>
7月~11月

<温泉>
小川温泉元湯:かつて日帰り入浴は不老館で安価に楽しめたが今はホテルおがわの高級温泉のみ。

<博物館など>
護国寺:別名石楠花寺。とやま花名所に選ばれるだけある庭園。シャクナゲとツツジの時期が素晴らしい。謎の置物も気になる。

朝日町歴史公園:縄文時代の不動堂遺跡が再現されている他、江戸時代町屋であった旧川上家の家屋が当時の状態を保ったまま移設されている。ここでは朝日町名産のバタバタ茶を自分で点てて試飲できる。12月~3月は閉館するので注意。

朝日町立 ふるさと美術館:昨今の大正アートブームで再注目の竹下夢二の作品を所蔵している。江戸~大正期、朝日町の泊は宿場町で大いに栄えており、その盛り場に夢二が訪れていたようだ。妻たまきとの破局事件の舞台は宮崎海岸だ。この情事の続きは朝日町の図書館で。

百河豚美術館:野々村仁清の作品を数多く展示している。デフォルメされた鶏が描かれコップもあり、仁清のモダンな感性を感じる事ができる。他にも話題の伊藤若冲や、尾形光琳に酒井抱一といった琳派ビックネームの作品も展示。

下山芸術の森発電所美術館:きらりと光る興味深い展示をやっている。こちらも12月~3月の冬季は休館するので注意。

杉沢の沢杉:地口か回文のような名称だが素晴らしい場所。田園と防風林の中にポツリ広がる湿地杉林で、まるでもののけ姫の森のようである。近年、入善乙女キクザクラという桜の新種がここで発見されている。この原木は未だ杉沢の沢杉でしか発見されていない。北陸は菊咲きの桜の品種が多いらしい。

2021年6月13日日曜日

倉谷川コシアゲ谷 弁慶岩

 





 白山山系犀川上流を訪れる登山者は多くない。国土地理院発行の地形図に支沢の名称が示されていないので、縁遠くなるのも頷けるところである。現在犀川ダムへの林道が封鎖されていることも相まってとても山深い存在となっている。広大な山域中には岩場マークが点在しているし、いくつかのゴルジュと大滝の存在を示唆するような表現には惹きつけられるものがある。登山記録は多くないが、古くから志篤き人々によって拓かれてきた。

 筆者と弁慶岩との邂逅は古く、大町山岳博物館で読んだ「さわわらし」か「野良犬通信」にあった犀川流域記述中のたった一文だったと思う。当時はどえらいとこに存在する岩場で別の世界のお話だと思ったが、いつの間にやらマイワールドの一部になっていることが恐ろしい。久しぶりに思い出して誰か登っているかと検索してみたら、何と近年めっこ山岳会の方が訪れていた!さすが地元山岳会である。
 
 俄かに熱を帯びる気配がある弁慶岩。あ、そもそも場所が判る人は殆どいないね。倉谷川の374m地点の支流の次に出合う左岸支流がコシアゲ谷であり、その540m付近の左岸に展開するのが弁慶岩である。地形図では岩崖マークが付けられているので間違うことは無いはず。目の前にする弁慶岩の傾斜は緩くロープが必要となるか悩ましい傾斜である。我々はフリーソロで高差にして5/6くらい登って最後だけ3ピッチロープを出した。全然難しくないので、自然の造形美に酔いしれながらグングン高度を上げるのは爽快。登り切った先の尾根には登山道は無いので沢の下降が必須となる。951m地点から倉谷川へと下降する沢(クワ谷)は概ね下降しやすいが、倉谷川出合い付近は連瀑なので油断できない。

 これだけを目的に登るのはちょっと勿体ない。二又川支流を登り降りしつつ、高三郎山を登り、コシアゲ谷を下降。そこから弁慶岩を登ってから倉谷川を遡行するなんてどうだろうか。広大な山域を巡るなか、ワンポイントの岩要素が良いアクセントとなるだろう。そして初夏の岩魚、秋の紅葉とキノコどちらも涎だらだら計画である。

<アプローチ>
遠回りになる犀川ダムから入山するよりも刀利ダムから山越えをして入山する方が良いように思う。刀利ダムから小矢部川上流部へ車で入り、標高375mの橋がある場所に駐車する。ここは瀬戸の長瀞の入山口でもある。そこから、小矢部川本流ではない沢(沢の名前は枝谷)の林道を歩いたのち、沢を登り赤堂山の南北いずれかのコルから倉谷川へ下降する。どちらの沢も下降は難しくない。帰りもこの沢を使用すると早い。なお、この山域における各支沢の名称は長崎幸雄著「わが白山連邦~ふるさとの山々と渓谷」に詳しい。

<装備>
たぶんスリングだけでOK。ピトンも使えるところはあるが、基本全然取れない。

<快適登攀可能季節>
6月初旬~11月 早い時期だと残雪が残っているはず。ゴルジュ内に残っていた場合は処理に難儀するだろう。7月末から8月末まではオロロが発生するので避けた方が良い。

<温泉>
福光温泉:刀利ダムから降りるとすぐにある温泉。さっぱりとした天然温泉で毎日は入れる地元民の憩いの場。

2021年6月7日月曜日

庄川 十八谷右俣

 












 十八谷の地形はとても不思議である。庄川に注ぎ込む直前に左俣と右俣が分かれているが、左俣と右俣では標高の上げ方が対照的だ。左俣は序盤は緩いのだが、突如谷の向きが反転するかの勢いで向きが変わる。終盤の傾斜の上げ方はきつく登れない大滝に手焼く。右俣は全く逆で、序盤は流れが直線的で傾斜が強く後半は部分的に急ではあるが平均傾斜は緩い。まるで子供の落書き線のように衝動的に流れる水の線。この谷の地形図を眺めていると、世界がなぜこのように存在しているのか、という宇宙規模の疑問がじんわり湧いている。

 十八谷の出合いに立って「右俣やな!」という意気込みに駆られる人は幾人いるのだろう。左俣に比して圧倒的に少ない水量と二段堰堤を見て左俣へ吸い込まれる人がほとんどだろう。在りし日の筆者もその一人であった。だが、寄る年波に負けず圧倒的連勝記録を続ける好奇心に押され、疑いながら訪れた右俣は素晴らしかった。
 出会いからの急傾斜帯はどうせ土砂だらけだろうと思ったら、意外と許容範囲内で小滝が快適に続く。谷が狭まるところはゴルジュだが快調そのもの。一か所滝を巻く箇所があったが特段の悪さは無い。谷が西向きに向きを変えも大人しくはならず、最後の最後まで小滝とミニゴルジュ時々ナメと楽しませてくれる。水流の多い方を忠実に進むと988m北のコルに出る。ヤブコギは無いまま、嘆息が出るほど美しい森へ出る。

杉尾峠から扇山までの稜線は隠れた沢登り好適地なのではないかと思い始める今日この頃。ちょっとした支流や小さな沢筋でも手軽に楽しめるので、まだまだ探検したいところだ。

<アプローチ>
国道156号で祖山まで。入渓点前の広いスペースに駐車する。杉尾峠から送電線巡視路を利用して祖山橋の方へ降りると楽。稜線上のそこらじゅうに送電線巡視路があるので地図をしっかり読んで現在地を把握したい。

<装備>
ピトン少々

<快適登攀可能季節>
6月~11月。早い時期だと残雪が残っている。

<温泉>
大牧温泉:舟で対岸に向うという、火曜サスペンス劇場的なロケーション。もちろん行った事は無いが一度行ってみたい。