富山県内の河川すべてで一般的に楽しいと考えられる沢登りが出来るわけではない。県西部に目を向けて地形図を広げてみよう。久婦須川、野積川、大長谷川、百瀬川、利賀川では南北にほぼ直線的に流れている。これらの河川の支流を見ると、これまた直線的に少ない集水面積を短距離で稜へと上がるものが多い(野積川は比較的やや大きな支流を有する)。そのような地形の河川で行う沢登りでは一般的な享楽性は乏しい。先に挙げた河川の特徴は富山県の基盤岩である飛騨帯と呼ばれる変成岩を主とする事だと思う。県西部においては濃飛流紋岩の影響がおよぶ庄川水系とは異なる点に注目したい。俯瞰的な構造の観点では、県東部から西部にかけて東西に断層が走るが、庄川と小矢部川から断層は南北方向へと向きを変えているのも面白い。このような背景を踏まえて、県西部の直線河川の支流にはそれぞれどのような特徴があるのか、或いは特徴は無く一様なのか。探求の旅へバモス。
久婦須川の下流域の調査手始めとしてのイオリ谷である。この流域では比較的ゴルジュ地形となっていて微妙な蛇行もある。ちょっとだけ享楽性を期待しての入渓。堰堤を越えるとすぐに10mくらいの滝。岩は非常に硬くてSiO2リッチなことは想像できるがどのような岩石なのかは分からない。ただ、上流域でかつて遡行した黒谷とは岩石が異なるのは間違いない。予想外に美しい渓相で小滝も散発的に表れて楽しい。ちょっとしたナメも出てこれは最後まで楽しめるか・・・と思ったが三俣以降の上流は3つどれも平凡となり直ぐに涸れそうだったので退却した。
宮川水系のようなボロボロ、土砂土砂を予想したが見事に外れた。そして想像以上に沢登りとしても楽しめた(個人の感想)。果たしてこれより上流域にイオリ谷と同じ岩石が分布しているのだろうか。それは行ってみなければ解らない。行っても益々謎は深まる。こんな素晴らしい探求の旅が3時間でできるとなればやるしかない!家からの往復含めて5時間なのでお忙しい方にもお勧め。
<アプローチ>
イオリ谷は久部須川に275m右岸に合流する支流で上部で特徴的な三俣が目を引く谷。親水公園に駐車して歩いて入渓するか、入渓点近くの路肩に駐車する。筆者らは同ルート下降したが、稜に出て北、南、東の沢を下降するのも一興。なお、ダム上流の桐谷林道はダートとなるが車高の高い車ならばある程度は走破可能。ただし、先のゲートの有無は未確認。
<装備>
登攀具は何もいらない
<参考図書>
富山のジオロジー増補改訂版:初版は増刷されずに長らく購入不可であったが、地学ブームに乗り増補改訂版が出版された。飛騨帯の探求のお供にどうぞ。
富山のジオロジー増補改訂版:初版は増刷されずに長らく購入不可であったが、地学ブームに乗り増補改訂版が出版された。飛騨帯の探求のお供にどうぞ。
<快適登攀可能季節>
5月~7月、9月~11月。オロロが出る時期は避けた方がいい。ブヨ、毛虫など害虫がいない時期を選ぶと快適