2022年12月14日水曜日

烏帽子岳~七倉岳











 陽あるところに影あり。日当たりのいい場所の昆虫であるカマキリやチョウも好きだったのだが、ゼニゴケの近辺を闊歩するダンゴムシにワラジムシ、それに岩の下に住むハサミムシにトビムシの方が好きだった。それに昔から日当たりのいい乾燥したところに長居していると、喉が痛くなり風邪をひく。

 不遇な山というフレーズをしばしば耳にする。それは近辺に登山的スター性のある山があり、その内容が良いにもかかわらず注目されていないという意味で用いられる。スターと不遇以外はそこにあるだけの山といった扱いになるのだろうか。
 「後立山」は登山大系において白馬岳~蓮華岳と定義されており、バリエーションルートが目白押しの人気山域である。以南の北アルプスでは烏帽子岳~槍ヶ岳は「裏銀座」という名の知れた縦走路になる。その間の北葛岳から南沢岳はただそこにある山に違いない。やもすると無かったことにされそうな山域なのだが、南北一直線の山稜が突如東西方向にガタガタと向きを変えるこの場所は間違いなく特別な何かがある。目に見えるお楽しみ要素だけでも二重山稜の池あり、鋭いアップダウンあり、立山連峰南部の東面の眺望ありと揃っていてよいではないか。

烏帽子岳の奇峰を雪が付いた時期に登るのは意外に難しい。アイゼンを履いて臨みたい。池塘が埋まった場所をぽろっかと歩いてちょっと登ると南沢岳である。烏帽子君と南沢君はよく似た雰囲気の山で風化した花崗岩の山といった風情。西側に風化に耐えた小さな岩峰があるのが印象的だ。不動岳は唐沢幕岩を登ったとき、どっしりと背後から見守ってくれる山で登ってみたかった。12月の中途半端な積雪量でハイマツの藪ズボに喘いだが、心に留めていた山を登るのは感慨深い。ここから高度を下げ樹林帯に入る。細かなアップダウンが続き地図で見るより体力を消耗する。積雪量が少なかったので西側の方が歩きやすかったが、適宜稜上を歩く。2459mピークから縦走路の核心で最初から一気に傾斜を上げて下降する。風の影響を受けやすそうなので、降雪量によっては雪崩が発生しそうだ。ワイヤーロープが垂れている段差は登山道としてはかなりヤバい部類で懸垂下降を推奨する。ボロボロの花崗岩ザレを針ノ木谷側にラインを取りながら進む。藪を絡めながら激しくアップダウンを繰り返す様はさながらリトル黒部別山。この花崗岩は高瀬川を形成した断層の破断応力によってボロボロになっているのではないのかと推察するのだがどうだろう。船窪乗越で緊張が解けるが、この先の登りでも一部雪崩の起こりそうな斜面を絡めるので注意したい。七倉岳への登りは急斜面で辛い。ハイマツ帯に西風で叩かれた着雪となるのでいつでも藪ズボ状態だと思う。七倉尾根も意外に急峻な尾根で迷いやすいので最後まで気は抜けない。

体力的に非常にやりがいのある縦走であった。船窪岳周辺のほどよい緊張感も面白いし、北アルプス中では標高の低い山域なので多少荒れていても行動できるのもいい。バリエーションルートの七倉岳南尾根から登り始めるとまた違った味わいがあるだろう。今回は登れなかった北葛岳であるが東尾根1965m南尾根から登って烏帽子岳まで縦走するのも魅力的だ。陽向ばかりが世界じゃない。時には日陰で遊んでみてはいかがでしょうか。あんまり長居していると風邪ひきますよ。

<アプローチ>
ブナ立尾根、七倉尾根いずれも登山道が拓かれている。七倉尾根の登山道は露岩、木の根、ハシゴ等が多く中々歩きずらい。船窪小屋と烏帽子小屋いずれも冬季小屋がある。幕営するのであれば烏帽子~南沢間の二重稜線内、2341mピーク少し先の東面、2299mピーク東側、2459mピークが好適地である。早ければ2泊3日で抜けられるが、それなりに頑張る必要があるだろう。予備日含めて4日間は日程が有るといい。

<装備>
ロープとスリング。アックスは1本で良い。

<快適登攀可能季節>
12月~4月。大昔訪れた夏の船窪周辺はマサ化したザレが堆積して危険極まりない状態だったので積雪期を推奨する。船窪周辺はリッジ状を進むことができない箇所で雪崩のリスクが有りそうな斜面を登行することになるので注意が必要。

<博物館など>
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。

塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。

<温泉>
上原の湯:500円で石鹸&シャンプーが付いている温泉。温泉街よりもアットホームな雰囲気でよい

<グルメ>
昭和軒:大町駅近くにあるカツ丼の店。大盛りはプラス100円で凄い量が食べられる。