2016年8月29日月曜日

川浦谷 銚子洞











「男一人をカオレにやるな」と言われる川浦谷。この枕詞の意味が良く分からない。一人で行ったら危ないから行かせるなの意なのか、その素晴らしさに魅了され帰ってこなくなるのか。

川浦谷上流の銚子洞は原生林に包まれた居心地の良い谷で「このままここで暮らそうか」と考えてしまうような場所である。随所に滝とゴルジュを配し良きアクセントとなり飽きさせる事はない。逍遥系沢ヤはもちろん登攀系沢ヤも楽しめるはずだ。比較的組し易い滝が多いので経験者同行であれば沢慣れしていない人も大丈夫だと思う。上部は一転して平流となるが岩と苔と森が織り成す庭園風の景色は趣がある。沢の又ではこれまで見た事もないトチの巨木に出会えた。猛烈な感動を仲間と共有でき良き時間であった。もしかしたら例の枕詞は「男一人で行くと侘しいから辞めとけよ」という意味なのかもしれない。

<アプローチ>
富山からはやや遠い。下道で高山からせせらぎ街道(県道73号)経由で郡上まで。さらに国道256号を使いタラガトンネルを抜けて北上。林道終点(ゲートあり)から徒歩30分で銚子滝遊歩道起点に着く。そこから遊歩道を利用して銚子滝へ。銚子洞のみで楽しむ場合、下降は同ルートとなるだろう。入渓点まで富山大学からおよそ3時間半。

<装備>
沢慣れしたパーティーならば、岩のギアは必要ない。岩は堅いので持って行けば使える。下降のために50mロープ一本は必要。

<快適登攀可能季節>
6月~10月くらい。8月に遡行したがヤマビルが多く生息していた。川原には殆どいなかった。秋の紅葉シーズンはきのこも出て素晴らしいと思う。
長期の休暇に本谷ゴルジュ~銚子洞~東河内谷下降~明神洞~箱谷下降~海ノ溝という周遊コースを楽しむのもよいと思う。すぐ近くには松谷洞という面白い谷やフクベボルダーもあるので、長期滞在もいい。

<温泉>
板取川温泉バーデェハウス:600円でしっとりぬるるぬ系の温泉。泉質が塩基性で二価金属イオンが少ない場合、皮脂がNa+やK+と鹸化反応をする為にぬめるのかと考えていた。でも、体を石鹸で洗って入っても、ずっと入っていてもぬるぬるする。メタケイ酸やホウ酸ナトリウムの水溶液はぬるぬるするのでそちらかも。

<博物館など>
洞戸円空記念館:円空は高賀山で修行をしたといわれる。縁の地に数多く作品を残した。虚空蔵菩薩、狛犬など後期の名作が多い。筆者はここで展示してある前衛的な狛犬が好きで何度も行ってしまう。高賀神社では円空直筆の歌集も発見されいる。山頂への登山道の途中には修行に使われた岩屋がある。円空好きには堪らないスポット。

モネの池:洞戸の神社の入り口にある美しい池。ここ一年で急激に注目されるようになった。日中は無茶苦茶混むので早朝がお勧め。次は蓮の花が咲いたときに訪れてみたい。



大滝・縄文鍾乳洞:郡上郊外にある鍾乳洞。普通に廻ったら一周するのに20分くらいかかる大きさである。洞内にある30mの大滝は凄い。観光地化されていて入場料1300円とお高いが訪れる価値は十分ある。


2016年8月23日火曜日

庄川 釿谷







富山周辺で沢登りをやってきて、面白い谷の条件が朧げながら解ってきた気がする。その内容を以下に列挙する。

<地質>
・流紋岩(凝灰岩含む)の谷は期待大。地形や水量の多寡によらず当たりが多い。
・花崗岩の谷は非常に急峻であるか水量が豊富でないと土砂だらけになる。ただし古期花崗岩(毛勝岳花崗岩)のように生成年代が1億年以上古ければ堅い岩のスラブを楽しめる場合もある。
・立山溶岩台地の谷は小さくともザクロ谷のように緑の苔が生えて綺麗。
・飛騨帯変成岩の谷は予想しにくい。いってみて片麻岩が優位ならば楽しい事が多い。さらに方解石が豊富だと面白い形の石や滝が有る。
・堆積岩の谷は年代が古く変成を受けている場所に面白いところが多い。新しいところは土砂が多い場合が多い。

<地形>
・地形図で急峻に見えても平均的にずっと同じ傾斜であれば雪崩土砂によるゴーロが多い。
・大きめの支沢(一本調子)が同じ標高で数多く入っている場合は下部から土砂が多く、上部は荒れている事が多い。
・数少ない南面の谷は寒暖の差による雪崩土砂が多く谷自体が浅い事が多い。

まだ県内総ての谷を調査したわけではないので断言は出来ないが上記のような傾向にあると考えている。更なる情報・見解をお持ちの方、ご教授いただければ幸いである。

さて、庄川支流の釿谷である。以前より庄川本流を横断せねば取りつくことが出来ない場所の特殊性と刃物系の名称から興味は持っていたものの地質、地形どちらの面を考慮しても面白い谷である可能性は非常に低いと考えていた。しかし、自分の目で確かめるまで絶対は無い。近くの大芦倉谷、小芦倉谷はどちらも良渓であった。そして1/25000地形図区画「鳩谷」には間違いが多々ある事が解ってきた。そこでようやく重い腰をあげて、ライフジャケットを装着し庄川を渡る気になったのである。

息を切らし上陸して直ぐに「ああ、やっぱりか」とため息が漏れる。谷は土砂に埋まり踝までしか水が無い。そして地形図でゴルジュ状になっている下部の谷筋はそれほど狭くない。堪らず最短の支流を詰めて尾根に上がろうとするが、水量が少なすぎて藪が繁茂しており水が流れる不安定な足元でのヤブコギを強いられる。さらに上部は倒木が多くなり脛を強打しまくる。誠に容赦ない沢である。尾根に逃げると、急峻な地形のためか藪は少なくスムーズに巡視路に出る事が出来た。

楽しいばかりが自然そのものである訳は無いし僕もそれを求めてはいない。奇声を発し全力で悪態を突くことが許されるのも山だからであり、それはとても自由で素敵な時間である。僕は自由に笑いたいのだ。でなければ怒りたいのだ。そして自ら推察した因果性を検証する事ができて、とても有意義な時間を過せた。ありがとう釿谷。

<アプローチ>
国道156号は九十九折で時間が掛かる。値は張るが五箇山ICまで高速利用がお勧め。白川郷道の駅近くのトンネル横から小道に入り、釿谷の向かいまで車を入れる。斜面を降り庄川を泳いで取り付く。尾根まで出ると送電線巡視路があり有家ヶ原まで綺麗な道が続いている。車の回収は国道を歩く。五箇山、白川郷、利賀周辺は送電線巡視路が縦横に付けられている。どの巡視路も美しい自然林の尾根を辿る事が多く、歩いていて非常に気持ちが良い。今回もブナ林に癒された。秋の紅葉シーズンに巡視路を繋いでハイキングをするととっても楽しいと思う。その際には地図とコンパスで現在地をよく確かめて。

<装備>
ライフジャケット、浮き輪(庄川横断用)基本的にロープは必要ないような谷

<快適登攀可能季節>
7月上旬~10月中旬。紅葉の時期に行きたい。梅雨明け直後だと残雪があるし、真夏ではオロロに発狂する。

<温泉>
くろば温泉:国道沿いに有るのでわかり易い。600円也
五箇山荘:高速のインターを少し過ぎたところにある綺麗な温泉。500円也

<博物館>
世界遺産の五箇山集落に古民家があり歴史を学べる。平家の落ち武者によって拓村された。
囚人を幽閉する場所でもあった。古い流刑小屋もあるので立ち寄ろう。江戸時代には、加賀藩の火薬庫で塩硝を製造していた。ブナオ峠から火薬を運搬していたのだろうか。そんな思いを馳せながら山を楽しもう。


2016年8月18日木曜日

巻機山 五十沢本流
























クライマーが大好きな花崗岩は太陽系では地球にしか現存しないという事をご存知だろうか。玄武岩質のマグマがプレートへ沈む込む際に水を含んで、融解し花崗岩質マグマとなり、ゆっくり冷える事で結晶を含んだ花崗岩となるそうだ。つまり花崗岩は水が存在しなければ出来る事はないのだ。そして比重の軽い花崗岩が大地を創り地球に大陸を生み出したという。水と大地と遡行者は地球ならではの熱い三角関係なのである。因みに、かつて水が存在した火星は、花崗岩が存在した可能性があるが激しい温度変化のため岩石はその姿を保つことなく砂の大地である。

五十沢は訪れる遡行者が一体何者であるのか詰問し続けてくるような渓である。その問いに答えるべく、我々は激流を泳ぎ、滝を登り側壁を攀じり、藪を掻き分け渓の最後の一滴を求める。
不動滝の5.10a程度のフリークライミングに始まり、続く夫婦滝をテクニカルな人工登攀で突破すると延々と続く花崗岩の大ゴルジュ帯に入る。下部ゴルジュは明るく朗らかな雰囲気だが、積極的に泳いで突破しなければ進む事は出来ない。側壁は高く巻きのラインもセンスが問われる。先人の記録よりも自らの感性を信じて登ろう。上部ゴルジュは井戸底のように暗くおどろおどろしい。狭い水路は突っ張りで流れをかわしながら突破する。永松沢に入っても気が抜けない滝が続くので油断しないようにしたい。藪を掻き分け登山道に出ると稜線は池塘が点在する美しい平原が迎えてくれる。最初から終わりまで一切の緩み無い素晴らしい渓谷であった。

だが五十沢の問いにはまだ答えられそうにはない。曲がりくねった回廊の先に何があるのか、そこで自分は何が出来るのか。ただ好奇心の奴隷として流れに逆らい続ける他は無いようである。

<アプローチ>
五十沢キャンプ場から天竺の里まで車を入れて裏巻機の登山道を利用し不動滝まで歩いて遡行開始。早朝に出発する場合には、五十沢キャンプ場に予め連絡を入れておくと、ゲートの鍵を開けておいてくれる。稜線に出てから牛ヶ岳まで笹薮のヤブコギ。うっすら踏み跡があるのでそれ程苦にはならない。4合目から2合目取水堰堤までの登山道は激悪で注意が必要。泊まり場は2合目取水堰堤、4合目、東沢出合、巻機沢(本谷沢)出合、下カケズ沢周辺(増水には耐えられない)、永松沢出合くらいではないか。
富山からは国道8号線で上越まで行き、国道253号線を利用すると早くて安上がり。もちろん上越までは高速を利用すると更に早い。富山から総て下道で4時間30分くらい

<装備>
花崗岩なのでアクアステルスが有効。不動滝の登攀にはフラットソールが有れば心強い。カムは#3まで1セット、トライカムを少々、ナッツ一式、ピトン各種。ロープはダイナミック50m1本と同じ長さのフローティングロープがあると泳ぎや懸垂に便利だ。

<快適登攀可能季節>
8月~10月。水量の多寡によって難易度は大きく変わる。残雪の量も水量に影響するだろう。秋の方が勝算が高いだろうが寒いと思う。相当頑張れば3泊4日で遡行可能だと思おうが、5日間の日程は欲しい。出水が速いので全日晴天が望ましい。

<温泉>
五十沢温泉:700円とお高めだが天然温泉だしリゾートと思えば悪くない。露天は混浴。
湯らりあ:六日町リーズナブルな銭湯。石鹸は持参

<博物館など>
絵本と木の実の美術館:廃校になった小学校を利用した美術館。とっても面白いのでいってみよう。ヤギが三匹いて触れ合おうとしたらド突かれた。要注意

越後湯沢雪国館:川端康成がボンボンでどうしようもない奴だったのではないかと思ってしまう

棟方志功アートステーション:道の駅の二階にあるので入ってみると良いと思う。

2016年8月17日水曜日

巻機山 神字川 金山沢








ナンジャモンジャと呼ばれる木がある。正式名称はヒトツバタゴというのだが、木一杯一斉に白い可憐な花を咲かせるその異様な様から何じゃもんじゃと呼ばれるようになったそうだ。この木は日本では珍しいが、クライマーには御馴染み笠置山ボルダリングエリア近くで見る事が出来る。

金山沢を遡行し1100mあたりに来れば誰しも「何じゃもんじゃ!」となるに違いない。信じられないくらい広大なスラブに水が均整を保ってリズミカルに流れているのである。これと近い景色は谷川の西ゼンでも見たが、こちらの方が傾斜とスケールが感じられ凄みがある。花崗閃緑岩の堅い岩は適度な緊張感を持って自由に登る事が出来る。上部は立ってくるので登攀ラインには気をつけたい。スラブを越えてもナメが続き、もう最高の一語に尽きる。

<アプローチ>
神字川沿いの林道終点に駐車するがわかりにくい。下山後は清水へ下山し歩いて車を回収しに行く。富山からは国道8号線で上越まで行き、国道253号線を利用すると早くて安上がり。もちろん上越までは高速を利用すると更に早い。富山から総て下道で4時間30分くらい

<装備>
アクアステルスが有効。こんな感じのスラブの沢には園芸用のゴム底地下足袋が使えそうだ。濡れた所はわらじ履き、乾いた岩は脱ぐというオールドスクールが良いかも。第二スラブの登攀では小さめのカムが良く使える。日帰りで登るパーティーが多いが上部で敢えて泊まっても趣があり良いと思う。1550m付近の台地に泊れる。

<快適登攀可能季節>
7月~10月。8/15は蟹沢集落にて毎年恒例BBQ大会が開催されている。挨拶しよう。その際にはカラオケで一曲歌う準備も忘れずに。

<温泉>
湯らりあ:六日町リーズナブルな銭湯。石鹸は持参

<博物館など>
絵本と木の実の美術館:廃校になった小学校を利用した美術館。とっても面白いのでいってみよう。ヤギが三匹いて触れ合おうとしたらド突かれた。要注意

越後湯沢雪国館:川端康成がボンボンでどうしようもない奴だったのではないかと思ってしまう

棟方志功アートステーション:道の駅の二階にあるので入ってみると良いと思う。

2016年8月8日月曜日

利賀川 定倉谷












利賀の最奥に位置する水無山は富山で最も遠い山ではないだろうか。アプローチの県道はほぼ通年通行止めで、通る事が出来ても道路状況は非常に悪い。近年、登山道の整備が為されているようだが登る人はごく稀だろう。もちろん筆者の周囲でこの山域で沢登りを行った話は聞いた事がない。

利賀川の地形図を眺めて最も気を引くのがこの定倉谷である。両岸が立った地形から何かあるぞという気にさせられる。入渓すると飛騨帯らしい石英と長石を含む岩に出迎えられる。マサ化が進行しておりこれは外したか?と心配になったが標高を上げると堅い岩となり、釜を泳いだり、小滝を登ったりと楽しくなってくる。1240m二俣を右に入ると3段80mの大滝が現れる。これも快適に登る事が出来る。大滝から上も美しい渓相が続き、穏やかな流れは平原からブナ林へと消える。小粒ではあるが、ピリリと辛く旨みも持ち合わせた良き沢である。

この沢でカワネズミに出会う事が出来た。ネズミと名付けられてはいるがモグラの仲間であり、その愛らしいビジュアルから筆者が最も愛する渓の生物である。水の中を泳ぎ給餌する彼らはエネルギー消費が激しく、イワナや川虫などの餌が豊富な環境で無いと生息する事は出来ない。彼らの存在は豊饒の証である。

嬉しい出会いである一方、遣る瀬無なさも混じる複雑な心境になった。この地にこれほど豊かな自然が残っているのは、ダム建設によって一般登山者が容易に立ち入る事が出来なくなったためである。何と言う皮肉だろうか。だが、ダムの建設や堰堤工事、林道の敷設など土木治山事業を攻撃する権利は我々には無い。我々はそのダムの水を飲み、水害から守られた安定した生活を享受し、林道を利用し車を走らせて自然に親しんでいるのである。山に入り、自然を知ろうとすればするほど、彼らの生活を脅かす事になるのである。人間も自然の一部なので、その生存を追及するのは致し方ないのかもしれない。だが傲慢になってはならないと思う。滅多にお会いできない彼に別れ際の挨拶をしておいた。
「いつもご迷惑おかけしております。今は大きな顔をしてますが、10万年後にはきっと僕らは居ません。申し訳有りませんが少しの間だけ遊ばせて下さい。貴殿の子や孫が絶える事無い様、可能な限り環境の保全に努めます。200万年後には貴殿関係者が万物の霊長となる事を願っております。それでは、また。」

<アプローチ>
利賀から県道34号線に入るか、大長谷から楢峠より県道34号線に入る。34号線は悪名高き開かずの県道である。ゲートが締まっていると車が入る事が出来ない。我々は軽トラにスクーターを載せてダートを走破した。34号線は藪だらけの一車線ダートで普通車の通過は難しい。道そのものは利賀側のほうがよいと思う。橋桁が外された橋を慎重に歩き藪だらけの林道を歩き堰堤を2基越えて入渓。下降は同ルートが安易である。水無山へ登ると更に充実するはずだ。山頂からは下山に登山道を利用できる。登山道の状況は要確認。

<装備>
CS滝と大滝を登らないならばスリングだけでも良いかもしれない。折角なので積極的に登ろう。岩は堅く支点は良く効く。カム、ナッツ、ピトン各種。

<快適登攀可能季節>
7月~11月。虫が多い時期は鬱陶しい。やはりオロロはおびただしい。

<温泉>
大長谷温泉:小さいけどアットホームな良いお風呂。露天風呂はいつもぬるい。
天竺温泉:大長谷温泉よりリゾート感がある。露天風呂からの眺めは上々。

<グルメ>
県道7号線沿いのグリル高野のカツ丼はボリュームも味も文句なし。7号線から少し離れるが田村農園のきみソフトクリームは300円ながら絶品。一度ご賞味あれ。