2016年8月8日月曜日

利賀川 定倉谷












利賀の最奥に位置する水無山は富山で最も遠い山ではないだろうか。アプローチの県道はほぼ通年通行止めで、通る事が出来ても道路状況は非常に悪い。近年、登山道の整備が為されているようだが登る人はごく稀だろう。もちろん筆者の周囲でこの山域で沢登りを行った話は聞いた事がない。

利賀川の地形図を眺めて最も気を引くのがこの定倉谷である。両岸が立った地形から何かあるぞという気にさせられる。入渓すると飛騨帯らしい石英と長石を含む岩に出迎えられる。マサ化が進行しておりこれは外したか?と心配になったが標高を上げると堅い岩となり、釜を泳いだり、小滝を登ったりと楽しくなってくる。1240m二俣を右に入ると3段80mの大滝が現れる。これも快適に登る事が出来る。大滝から上も美しい渓相が続き、穏やかな流れは平原からブナ林へと消える。小粒ではあるが、ピリリと辛く旨みも持ち合わせた良き沢である。

この沢でカワネズミに出会う事が出来た。ネズミと名付けられてはいるがモグラの仲間であり、その愛らしいビジュアルから筆者が最も愛する渓の生物である。水の中を泳ぎ給餌する彼らはエネルギー消費が激しく、イワナや川虫などの餌が豊富な環境で無いと生息する事は出来ない。彼らの存在は豊饒の証である。

嬉しい出会いである一方、遣る瀬無なさも混じる複雑な心境になった。この地にこれほど豊かな自然が残っているのは、ダム建設によって一般登山者が容易に立ち入る事が出来なくなったためである。何と言う皮肉だろうか。だが、ダムの建設や堰堤工事、林道の敷設など土木治山事業を攻撃する権利は我々には無い。我々はそのダムの水を飲み、水害から守られた安定した生活を享受し、林道を利用し車を走らせて自然に親しんでいるのである。山に入り、自然を知ろうとすればするほど、彼らの生活を脅かす事になるのである。人間も自然の一部なので、その生存を追及するのは致し方ないのかもしれない。だが傲慢になってはならないと思う。滅多にお会いできない彼に別れ際の挨拶をしておいた。
「いつもご迷惑おかけしております。今は大きな顔をしてますが、10万年後にはきっと僕らは居ません。申し訳有りませんが少しの間だけ遊ばせて下さい。貴殿の子や孫が絶える事無い様、可能な限り環境の保全に努めます。200万年後には貴殿関係者が万物の霊長となる事を願っております。それでは、また。」

<アプローチ>
利賀から県道34号線に入るか、大長谷から楢峠より県道34号線に入る。34号線は悪名高き開かずの県道である。ゲートが締まっていると車が入る事が出来ない。我々は軽トラにスクーターを載せてダートを走破した。34号線は藪だらけの一車線ダートで普通車の通過は難しい。道そのものは利賀側のほうがよいと思う。橋桁が外された橋を慎重に歩き藪だらけの林道を歩き堰堤を2基越えて入渓。下降は同ルートが安易である。水無山へ登ると更に充実するはずだ。山頂からは下山に登山道を利用できる。登山道の状況は要確認。

<装備>
CS滝と大滝を登らないならばスリングだけでも良いかもしれない。折角なので積極的に登ろう。岩は堅く支点は良く効く。カム、ナッツ、ピトン各種。

<快適登攀可能季節>
7月~11月。虫が多い時期は鬱陶しい。やはりオロロはおびただしい。

<温泉>
大長谷温泉:小さいけどアットホームな良いお風呂。露天風呂はいつもぬるい。
天竺温泉:大長谷温泉よりリゾート感がある。露天風呂からの眺めは上々。

<グルメ>
県道7号線沿いのグリル高野のカツ丼はボリュームも味も文句なし。7号線から少し離れるが田村農園のきみソフトクリームは300円ながら絶品。一度ご賞味あれ。


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