2016年10月23日日曜日

庄川支流 木滝谷












山の最も豪華な時は秋だと思う。錦秋という言葉の通り、紅色、黄色、緑色の木々が集まった山は大きな刺繍織物のようだ。その森の中は木の実にきのこと美味しいものが揃っておりこれまた贅沢。沢の音を聞きながら楽しめばこれ以上の僥倖はあるまい。

木滝谷は国道360号の真横を流れるので人目にはつきやすい谷だ。木滝、中滝、高滝の天生三滝が知られているが、その人臭げな条件からか沢登りの対象として捉えられる事は少ないようだ。だが登ってみればこの沢の内容の良さに驚くはずだ。天生三滝の他にも10mクラスの滝を多く落とし、その間には美しい釜を持ったナメ、終盤の小滝連瀑と見所が息つく間もなく現れる。その登りは難しすぎず簡単すぎない。幾つかはロープを出す事になるはずだ。あっという間に帰りの国道に上がることが出来るので、帰りやエスケープルートの心配もない富山周辺での登攀系沢登り体験にはピッタリといえる。新たな沢登り入門渓として推薦したい。

川床に結晶質の石灰岩(大理石)が多く転がっていたのが気にかかった。谷の側壁も片麻岩質の部分が多い。この辺りが飛騨帯の西縁なのだろうか。小芦倉谷は流紋岩だったし、釿谷は花崗岩であった。木滝谷では流紋岩も花崗岩も見られたので何かの境界のような気がする。水源が天生湿原というのも意味深だ。今後もこの山域に入山し調査したいと思う。樹木の種類も本当に豊富だったので新緑や花の時期にハイキングもたのしそうだ。

<アプローチ>
国道156号は九十九折で時間が掛かる。値は張るが五箇山ICまで高速利用か、国道359号で城端へ行き五箇山トンネル経由がお勧め。木滝前の最終堰堤から入渓し、地形図で最後の滝記号まで遡行するのが一番内容が濃いと思う。下道で富山市内から大体1時間30分で入渓地

<装備>
大滝を巻くのであればスリングだけでも事足りる。大滝はコンディションと力量次第で登れそう。紅葉の時期はウエット着用で快適にはしゃぎたい。

<快適登攀可能季節>
8月~10月中旬。紅葉の時期に行きたい。シャワークライミングや泳ぐ事もできるので夏も楽しそうだ。雪解けは水が多いと思う。

<温泉>
くろば温泉:国道沿いに有るのでわかり易い。600円也
五箇山荘:高速のインターを少し過ぎたところにある綺麗な温泉。500円也

2016年10月13日木曜日

城ヶ平山




おおかみこどもの雨と雪(2012年公開,細田守監督)の舞台モデルは富山県だ。話題作だったので上映当時劇場で鑑賞した。子供の成長と母親との絆を描いた作品で内容に賛否は有るかと思うが個人的には楽しく鑑賞できた。その親子の家(花の家)が上市町浅生にあり、誰でも見学することが出来る。上映から4年立った今でも訪れる人が絶えないようだ。

花の家の裏山、城ヶ平山は豊かで素晴らしい里山だ。登山口は浅生側と大岩側があるがここでは浅生のほうを紹介する。登山道は畑の横を通るところから始まる。休耕になっている所もあるが駆り払われていて日当たりは良く開けた場所となっている。畑を抜けると南向きの緩やかな杉林となる。谷にはチョロチョロと水が流れていて潤いがある。稜線はナラを中心とした広葉樹の雑木林だ。稜線といっても幅は広く尾根にも谷にも草木が種類豊富に生い茂っていて、巨大な乳房に全身を包み込まれるような感じ。もちろん実際に乳房に包まれた経験は無いが、きっとこの雑木林の中ような感じだろう。いずれ包まれてみたいものである。細かなアップダウンを楽しみながらかつてお城があったといわれる山頂へ。広い山頂は家族で昼食を食べたり、今様を吟じながら舞う事が出来るような展望台となっている。天候がイマイチだったので写真で良さが伝わらない事が惜しまれる。同ルートを戻っても良いが大岩へ降りて林道を戻ってきても面白い。

生物にとっての豊かさとは、手付かずの山とは限らないと思う。この短いルート内の自然環境はとても変化に富んでいる。それは人間住みよいように手を入れたためだ。それぞれの場所に適した生き物が住み着くことで、生息する生物の種類は多くなる。単位面積当たりの生物種は里山の方が多いという話も聞く。生き物が多く居て何になる?という意見もあるとおもう。でも種類が多いほうがゴージャスな感じがして良いじゃないか。ビーフカレーの食べ放題よりも、50品目のブッフェスタイル、ケーキ付きの方が嬉しいように。しかも里山のブッフェは無料で味わいは訪れる人の観察眼次第で3つ星レストランにもなる。時間制限も無いので立ち止まりながらゆっくり味わいたい。

<アプローチ>
大岩山から続く細い山道を入る。花の家の脇に駐車し看板にしたがって入山。駐車場は広くないので注意が必要。縦走して帰ってくるのもよい。

<装備>
念のため熊鈴。図鑑片手に一日遊ぶのもよさそう。

<快適登攀可能季節>
1月~12月。オールシーズン楽しいはず。夏は暑いかな。

<温泉>
大岩不動の湯:小さめの施設だが天然温泉で露天風呂もある。420円とリーズナブルなのも嬉しい。

<博物館など>
花の家:おおかみこどもの雨と雪のモデルの家。土日祝日は管理している人が居て見学可能。



西田美術館:ロシアイコンや曼荼羅を展示。そして剱岳の資料が豊富。魚津岳友会の会報が熱い。

大岩山:行基菩薩の石仏は大迫力。夏には千巖渓遊歩道で涼みそうめんを食らうのが良い。

富山県薬用植物指導センター:5月中旬に芍薬の花が満開になるとても綺麗。五月の連休より少し後が見頃になる。芍薬は生薬として用いられるので栽培されている。有効成分はペオニフロリン。有名なのは甘草との組み合わせたもので芍薬甘草湯。グリチルレチン酸との組み合わせである。





2016年10月8日土曜日

抜戸岳 秩父尾根












「鳥も通わぬ滝谷」の名言は近代登山の案内人として活躍したカリスマ猟師、上條嘉門次であり誰もが知っている言葉であるが、「東洋のパタゴニア上宝」と言ったのは一介の自然愛好家である筆者なので誰も知る由はない。日本にはフィッツロイ山群のように針状岩峰が乱立する山体はそれ程多くないと思う。だが上宝村は洞谷奥壁、秩父尾根、穴毛谷の各岩場、槍ヶ岳と鋭峰が立ち並んだ山が多く、日本きっての岩峰セレブリティ地域なのだ。

秩父尾根は大小併せて十三峰の岩峰であるが、顕著なコルを境に稜線側から順にⅠ峰、Ⅱ峰、Ⅲ峰と大別されている。縦走路からよく望め、その屹立する様は誠に勇ましいので登攀意欲を掻き立てられる。はずなのだが、登ったとか登りたいと言っている人には出会ったことは無い。先人の記録では1986年~1988年に飛騨山岳会の瀬木紀彦氏によって各岩峰を別個に登攀した記録がある。未だ成し遂げられていない岩峰の完全縦走と積雪期登攀の可能性を探るべく入山した。

秩父尾根の末端に当るⅢ峰の末端壁は風化が激しくボロボロなので北面側P1、P2コルへ通じるルンゼから取り付く。顕著なルンゼから右のクラックを登り、まだ岩の堅そうなP1へのリッジに移る。そこから傾斜が強い草付と脆い岩を登りⅢ峰頂上に到着する。懸垂下降でⅡ、Ⅲ峰コルに到着するが、稜線上(Ⅱ峰東壁)はプロテクションの取れそうに無いスラブと、無慈悲な大チムニーに阻まれ登る事が出来なかった。弱点をさがして北面側に回り込んでいると、殆どルンゼに下降する形となり、縦走してる感覚がなくなってしまった。北面下流側のチムニーが見えるガリーを登るが傾斜も強くクライミングは面白い。勿論岩は脆いので細心の注意が必要だ。Ⅱ峰は5つのピークから成るが、筆者らのラインは恐らく上から4つ目、P4、P3間のコルに出たようだ。非常に脆いフェースを恐々登りP3に到着するが、翌日の悪天予想のためここで時間切れ。P3からP2へは5mほど懸垂して脆いフェースを登りP1へ達するようだが中々悪そうだった。P3肩から北面側へ懸垂2回でルンゼに降りる事が出来た。

完全縦走はならず、Ⅲ峰とⅡ峰の概念は凡そ掴めたがⅠ峰の解明は成らなかった。だがⅡ峰から望むⅠ峰周辺は弱点がさらに少なく、無雪期においても主稜線の縦走にはボロイ岩の処理を含む相当な登攀力が必要だと感じた。オンサイトでのワンデイ縦走は難しいと思うので、どこかでビバークとなるだろう。さらに積雪期には東面のため厄介なキノコ雪が発達して縦走は困難を極めることが予想される。ただ、北面には急峻なルンゼが有るので魅力的なミックスルートと成る可能性はある。北面ルンゼからの主稜縦走が大きな課題だろう。

最後に筆者はパタゴニアには行ったことは無く、ALPINIST誌の見開きページでしたフィッツロイを眺めた事しかないので、行って見た所「全然違うじゃねかよ!、腐れ外道詐欺師のスカタン糞三下」といった御批判は受け付けておりませんし、その山行を起因とするパートナーとの別離には一切責任を負いかねます。ご了承下さい。

<アプローチ>
新穂高から左俣林道をへて秩父沢出合いまで。標高2220m付近で二俣となるがここを右の谷に入ると秩父尾根北面側のニードルルンゼに入る事が出来る。左に入れば昭和35年に小牧山岳会によって拓かれた秩父沢奥壁がある(下写真参照)。こちらも全く登られていないと考えられる。



無雪期にBC適地となる幕営場所はほぼ無い。強いてあげるならば2150m付近の岩の上が平ら
で2-3人用テントが辛うじて張れた。増水には全く耐えられない。積雪期であれば秩父尾根末端を整地して幕営できるかもしれない。

<装備>
カムを大きめ含め1.5セット。ピトン各種。岩が脆いので小さいパッシブプロテクションの使用頻度は
ほぼ無い。ニッチもサッチも行かなくなった場合に備えて撤退用ボルトが有っても良いかもしれない。無雪期のアプローチシューズはランニングシューズやラバーソールの沢靴が良い。基本フリーで登る事が出来る。縦走以外にもⅡ峰大チムニーや、Ⅱ峰P3にあるハングワイドクラックなど課題は豊富である。

<快適登攀可能季節>
3月~10月。まだ良く分からないけど。谷筋に雪が完全になくなると非常に歩きにくく危険なガレになる。下降も含めて登山の力量が求められる場所である。残雪がしっかり付いている5月下旬から6月ならば壁もドライで残雪を利用したスピーディーなアプローチができる可能性がある。積雪期は雪崩が凄いだろうから雪が落ち着き、北面の氷が発達する3月~4月が良いのではないか。

<温泉>
栃尾の荒神の湯は良い露天風呂。体を洗う場合は石鹸を持っていこう。寒くて洗えないかもしれないけど。帰りならば割石温泉まで行くのもいいだろう。