2017年12月13日水曜日

明神岳東稜









巷ではインスタ映えなる言葉が流行である。インスタグラムというSNSに投稿する際に見栄えがする写真、或いは場所という意味だそうだ。インスタ映えを求めて、ある決まった場所に人が大勢詰め掛け、その場所でのマナーが問題となっていると聞く。色々な意見があるとは思うが、ホモサピエンスにとって何かを表現し、伝えるために趣向を凝らすというのは意義深い活動だと思う。そのきっかけがSNSでもいいんじゃないかなと思う。

しかし、一様に同じところへ詰め掛けている所をみると「映え」の主体はあくまでも写真であり場であると推察される。送り手の個性が際立ち写真ではなく発信者そのものが「インスタ映え」していれば面白い。そのためには撮影技術もさることながら全体の構成が大事であろう。例えば、「竹下通りでクレープ食べました」といったステレオタイプゆるふわ投稿の後、「へら絞りで室内灯をつくりました」とか「柳川鍋の泥鰌をウチダザリガニに変えて調理しました」のような投稿をすれば、その人の創造性と趣向の振れ幅が興味を引き、いいね!が増大するのではないだろうか。

インスタ映えという点において、明神岳東稜は非常に優れている。どのシーンも絵になる上、登山ルートとしても色々な要素のある名クラシックである。前半は岩壁を前に上宮川谷を詰める。スケールが大きく感じられ興味深い景観である。もちろん雪の状態次第では尾根から取り付いたほうがよいだろう。ひょうたん池からは見通しの良い尾根になる。雪は東南面のためか、重かったり、底抜けすることが多い。思わぬ転倒も有りうるので慎重にこなしたい。左には登攀意欲を掻き立てるⅣ峰東北稜があり、右には前穂高の岩場がある。振り返れば霞沢岳と乗鞍岳が美しい。山頂のほぼ直下にあるバットレスは完全に名前負けで小さく傾斜も緩い。雪面を登り、山頂へ出ると奥穂高を中心とする均整のとれた稜線美に感動するはず。下降の明神主稜も侮れない。雪が乗ったⅡ峰の登りは意外に悪く緊張した。Ⅲ峰への下りはクライムダウン可能だが、状態次第で懸垂した方がよさそうだ。Ⅴ峰まで岩稜登行を堪能し少し雪の吹き溜まった前明神沢を下降した。

この度の明神東稜では誰にも会わなかった。登山の世界には、まだ映えを求める人種はやってきていないようだ。鉄工所、ウチダザリガニ、山。この三つ巴の争いの末にどの業界がインスタグラムを制するのか。今後の動向に眼が離せない。

<アプローチ>
上宮川谷を詰めて取り付くか、上宮川谷左岸尾根末端から取り付くのが妥当。Ⅴ峰から西面の前明神沢を下降したが、意外に雪は吹き溜まっており安定しにくいと感じた。降雪直後は尾根を忠実に下降するほうが無難かもしれない。幕営はひょうたん池が最適。ラクダのコルも張れるがやや風が強いかもしれない。

<装備>
トライカム少々、ナッツ。歩く箇所はどこもかしこも残置だらけである。

<快適登攀可能季節>
12月~5月。しっかり雪が付いていた方が楽しそう。

<博物館など>
穂高岳周辺の地質は原山智・山本明著『「槍・穂高」名峰誕生のミステリー』に詳しい。熟読してから登れば穂高周辺の登山が六百倍楽しくなるはず。

<温泉>
坂巻温泉、平湯温泉

0 件のコメント:

コメントを投稿