2021年5月31日月曜日

大地山 荒戸谷右俣

 









悲しめる者のために
みどりかがやく
くるしみ生きむとするもののために
ああ みどりかがやく

と、5月を詠ったのは金沢出身の詩人室生犀星であるが、みどりはたのしく生きむもののためにも輝いてくれる。大地山は山頂の展望は良くないが、美しいブナ林とアカマツの巨木がグッとくる山だ。特にブナ林の緑が徐々に深くなっていく5月は嬉しい。

荒戸谷の主たる遡行ラインは黒菱山なのだろうが、大地山へ至る右俣も捨てがたい。高度380m付近で分かれる右俣へ入ると谷は狭まりの登れる小滝が連続して快適である。一旦谷が穏やかになり、標高690m付近で再び二俣となる。筆者らはここを左に取った。岩はやや脆くなるが、流心は硬くシャワークライミングが楽しめるシーンが多くなるので退屈しない。小さな支流が多くなって支流を判別するのが難しくなってきて、どこに抜けたのか良く解らなかった。5月に遡行したことも幸いだったのか藪漕ぎは一切なかった。

下山で利用する登山道の下部に突如アカマツが現れる。アカマツは陽樹なので富山県の100m以上の山ではアカマツの天然林は殆ど存在しないと思っている。しかし、尾根上にはしばしば点在している。国境山稜や境界には目印となるように、敢えて周囲とは異なる樹木を植林する文化がある。陽樹だけれども貧栄養に強いアカマツは尾根上に幼木を植林すれば富山の山中でも何とか成長するのであろう。深山に点々と残るアカマツはこの文化の生き残りなのかもしれない。残雪期の里山で境界木の生き残りを探すのも、きっと面白い登山となるだろう。

<アプローチ>

発電所のスペースに駐車して林道を歩いて入渓する。なお、この林道ゲートは施錠されていないので車で進む事は可能ではある。下山は登山道を利用して戻ることを考慮すると発電所に駐車するのがいいと思う。

<装備>
ピトン少々

<快適登攀可能季節>
5月~11月

<温泉>
小川温泉元湯:かつて日帰り入浴は不老館で安価に楽しめたが今はホテルおがわの高級温泉のみ。

<博物館など>
護国寺:別名石楠花寺。とやま花名所に選ばれるだけある庭園。シャクナゲとツツジの時期が素晴らしい。謎の置物も気になる。

朝日町歴史公園:縄文時代の不動堂遺跡が再現されている他、江戸時代町屋であった旧川上家の家屋が当時の状態を保ったまま移設されている。ここでは朝日町名産のバタバタ茶を自分で点てて試飲できる。12月~3月は閉館するので注意。

朝日町立 ふるさと美術館:昨今の大正アートブームで再注目の竹下夢二の作品を所蔵している。江戸~大正期、朝日町の泊は宿場町で大いに栄えており、その盛り場に夢二が訪れていたようだ。妻たまきとの破局事件の舞台は宮崎海岸だ。この情事の続きは朝日町の図書館で。

百河豚美術館:野々村仁清の作品を数多く展示している。デフォルメされた鶏が描かれコップもあり、仁清のモダンな感性を感じる事ができる。他にも話題の伊藤若冲や、尾形光琳に酒井抱一といった琳派ビックネームの作品も展示。

下山芸術の森発電所美術館:きらりと光る興味深い展示をやっている。こちらも12月~3月の冬季は休館するので注意。

杉沢の沢杉:地口か回文のような名称だが素晴らしい場所。田園と防風林の中にポツリ広がる湿地杉林で、まるでもののけ姫の森のようである。近年、入善乙女キクザクラという桜の新種がここで発見されている。この原木は未だ杉沢の沢杉でしか発見されていない。北陸は菊咲きの桜の品種が多いらしい。

2021年5月24日月曜日

宮川 ソンボ山北西面無名沢









 何を隠そう、宮川支流の沢登りの特徴は土砂と浮石それに早々に水が枯れた後のガレ登りである。これは飛騨帯の花崗質な箇所と砂礫堆積岩が脆弱であるために崩壊しやすいものと考えている。しかし、大体そうであってもすべてがそうではない。いや、すべてがそうでないと明言するにはすべてを行かねばなるまい。

 ソンボ山は面白い形をした山だ。宮川と神通川を分かつ尾根に端を発し山稜を南西から北東へと伸ばす。南面は傾斜が緩いのに対して北面は急峻となっているのが印象的である。地質図では南面の緩傾斜帯が異なった区画となっているのが興味深い。

 地形図にソンボ山の北西面を流れる沢の名称は記載されていない。ちょっと調べた限りでは名称不明なのでいずれ宮川村誌(1981年発刊)で調査したいところだ。出合いから谷の雰囲気が意外にも良く期待させられる。そして小滝を越えると10mの滝が現れおおっーとなる。しかし、以降は地図上で水線が示された二俣手前にちょっとした滝がある程度で淡々とした沢である。そして標高750mより上は水が枯れる。残雪の残る5月中旬の遡行でガレが非常に不安定だったため、山頂は踏まずに下降した。

 晩春の緑は実に心地よかった。ガレがあっても泥だらけでも地元の山はいい。風景と匂いがじんわり体に染み入る感じがするのは、日々の水と食べ物が山からの恵みによってもたらされているからなのだろうか。この感情の湧きどころが何なのかを調査するためにはすべての山を登らなければならんかも知らん。

<アプローチ>

本流右岸、鮎飛集落おくの牛舎の脇に駐車させてもらう。ここの牛さん達はクラシックミュージックを聴きながら優雅な時間を過ごされておられる。地形図上で登山道記号が示されているがこれは送電線巡視路へ至るための道である。踏みあと程度だが十分に利用可能。


<装備>
念のためロープ。滝を直登する場合はカムとピトン

<快適登攀可能季節>
6月~11月。

<温泉>
楽今日館、奥飛騨まんが王国

<博物館など>
まんが王国は公営のまんが喫茶。舐めて掛かるとスケールの大きさにびっくりする。

2021年5月17日月曜日

黒部川 境谷







「天の下には何事も定まった時期があり、すべての営みには時がある」と聖書に記されているように、地元の小さな山の登頂と無名の小沢を遡行するのがいい時期っていうのがあるものだ。800m以下の沢登りは春がいい。藤や桐の紫色と空木のピンク色が遡行に彩りを添えてくれるし、山菜も味わうことができる。そして、眼下の空を写す水田がすべての始まりを期待させてくれる。

黒部川支流の境谷といっても場所が分かる人は殆どいないと思うのでまずは場所のご説明を。黒部川右岸にある音澤集落北側、地形図で168m地点が示されている沢が境谷である。名前の由来まで調査していないが、栗虫集落と音澤集落との境なんじゃないかと勝手に思っている。

人工の滝上から上部しばらくは護岸された水路になっているので割愛しよう。水路が終わると意外にもしっかりとした沢の雰囲気となる。地図では谷が狭いように表現されているが、特に問題とはならない。ほとんど歩きだが時々現れる小滝を楽しみながら登る。途中地形図に記載されていない堰堤が3~4基あったと思う。上部は左俣へ入り金山谷の三角点を目指した。左俣に入ってから少し登攀要素のある滝が出るが悪くはなかった。下降は舟川側としたが、北面の谷だったため残雪が多かった。春先は南面の音谷支流を下降するのが良いかもしれない。

遡行と下降を気持ちよく両方楽しめる小ぶりな沢なので、気が向いてみたら訪れてみてはいかがでしょうか。春ならば藪も薄くて丁度いいしね。

<アプローチ>

県道との出合いは人工の滝になっている。県道の待避所のなかで広い場所に駐車する。下降は色々なパターンが取れるだろう。例えば①境谷左俣遡行後、右俣を下降の周遊②音谷支流を下降して音澤集落へ③舟川支流を下降して船川ダムなどが挙げられる。さらに三角点776.6mから山抜け後に植林された形跡があり、その名残として境界区域には地形図に示されていない林道が敷設されている。これを地道に歩いて帰れば明日方面へ下りられる。この林道の路線はGoogleの航空写真で確認可能。

<装備>

10mくらいの滝2つを真っ向勝負しないのであればスリングのみでOK。登る場合はカムとピトン。

<快適登攀可能季節>
5月~11月。この範囲であれば寒かったり、雪があったりするだろうけど大体大丈夫だと思う。

<温泉>
バーデンあけび:むかーしに入ったときは古めかしい施設だった記憶がある。調べてみるとどうやらリニューアルして人気になっている模様。露天風呂なんか魅力的である。

<博物館など>
うなづき友学館:黒部市立図書館の分館と歴史民俗資料館が併設している。何と言っても1/2愛本刎橋が見ものの博物館である。30年おきにかけ替える刎橋だが、当時のオーソドックスな橋脚がある木造橋の架け替え頻度ってどのくらいだったんだろうか。もっと深く橋の構造比較をしてくれればありがたいと思う。このほか、稚児舞や七夕といった地域の祭事展示も興味深い。