高度経済成長期、それに続く箱物建設経済によるインフラ整備政策が廃れて久しい。形あるものはいつか壊れる。令和となった現在、建設からしばらくは利用されていた林道や作業道はどんどん無くなりつつある。これにより、かつては容易に登山できた山が登ることが難しくなる現象が発生している。開発が時間を経て自然の原始性を保つのに貢献しているというのは皮肉な結果である。そうは言っても、地面は続いているのでどうにかすれば目的地にたどり着くことはできる。結果として、本当に思いのある人間しか辿り着かないのであれば悪い事では無いのかもしれない。
犀川上流の二又川もそんな場所ではないだろうか。犀川ダムの建設により一時は近い山となったが、林道の通行止めやバックウォーターにより取り付くことが困難となった。筆者らが訪れた際にはダムがほぼ満水で倉谷川付近から延々とへつり泳ぎをして取り付くことになった。取り付いてしまえば技術的な困難は全くと言っていいほどない穏やかな谷である。何と言っても白眉は犀滝である。犀川本流筋の最大の滝が堂々と水を落とす姿にはI've Got A Feeling。最後の詰めはできる限りゆるい傾斜のところを選べばスラブに出くわして往生することもないだろう。
奥三方山から奈良岳へ向かう登山道は既に全くない状態となっている。奈良岳~大笠山へ向かう登山道もここ2~3年間は刈り払われていないので、藪がかなり多くなっている。自然状態に戻るのも時間の問題だろう。もしかしたら二又川は入下山の方が難しいかもしれない。ある意味ではこれこそ在りし日の山の姿であり、継続沢登りを行う意義深い山域とも思うところである。杣人や猟師の生活に思いを寄せながら大きな登山を展開できるスウィート渓と評したい。
<アプローチ>
林道をやたらと歩く羽目になる犀川ダムから入山するよりも順尾山登山道から沢を下降して取り付くのが良いと思う。或いは刀利ダムから小矢部川上流部へ車で入り、山越え入山だろう。地形図には順尾山から月ヶ原山まで登山道が記載されていないが、実際にはよく整備された登山道がある。筆者らは継続遡下降の計画の一環として小矢部川オコ谷を登った後に水上谷を下降している。県道54号線の崩落復旧が見通せない状況である。もう車でブナオ峠へアプローチすることはできないだろう。奈良岳~大門山間の登山道は荒廃していく一方である。登山道が荒廃した暁には瀬波川左俣へと下降するのが最良の下山路となるだろう。
なお、この山域における各支沢の名称は長崎幸雄著「わが白山連邦~ふるさとの山々と渓谷」に詳しい。
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