2024年1月9日火曜日

池平山 ガンドウ尾根













 人類の発展歴史を考えたとき刃物の文化史は欠かせない。日本は森林に恵まれた国土で木材加工が重要であった。 その点において鋸の加工技術は古来より富国強兵の礎であったことに間違いない。日本各地の郷土資料館を巡ると実に多くの種類の鋸に出会う事が出来る。サイズ、歯形、材質、材の厚みなど、当時のものづくり技術を垣間見る事が出来る道具は面白い。特に歯形の仕上げは難易度が高く、当地の木材にあった仕様に設計する専門の職人がいたのであろう。古い鋸を眺める度に現代に生きる我々には失われてしまった技術と感性があることに気づかせてくれる。

 鋸フリークが絶対に訪れるべきなのが十字峡からのガンドウ尾根である。ガンドウとは鋸そのものの意である。その体を表すのが、北側や東側からではなく南側(十字峡側)から眺めたあの鋸歯状のリッジであることは想像に難くない。南面にある低標高の藪尾根であれば、そうそう雪稜登攀の対象となりにくいが豪雪地帯黒部では十分登る対象となる。内容的にも大変面白く気持ちの良い尾根である。
 十字峡から高差150mくらいは急傾斜で登攀的である。剣沢大滝やトサカ尾根の展望台となる左のリッジに乘ってから本格的に雪稜となる。筆者らが訪れたのは寡雪の12月末であったがそれでも十分に楽しめた。1600m双耳峰を過ぎるまでキノコ雪や小ギャップの処理など時間がかかる要素が多い。そこを過ぎると少しだけ地形は穏やかになり、最後の1710mピークを越えればあとは池ノ平山まで黙々とラッセルする。本当の核心はここから北方稜線を経て早月尾根を下降することなのだが・・・

 鋸はもちろん、藪雪稜も日本の文化。しかも南面の1000mから始まるキノコ雪なんかそうそう有ったもんじゃない貴重な存在である。ガンドウ尾根は雪稜フリークも訪れるべき貴重な稜である。

<アプローチ>
後立山を越えて十字峡に至る経路としては牛首尾根か岩小屋沢岳北西稜となる。筆者らは後者を利用した。1583mのピークから十字峡に至る尾根を下降して1150m付近で西へ向かい、傾斜が強くなった所から懸垂下降とする。1583mピークは広河原周辺の壁尾根側壁の眺めが素晴らしいところだ。1350m付近が最終幕営可能地点であることを覚えておくと便利である。懸垂下降の出だしは藪だらけなので細かく切っていくといい。緩傾斜を狙うと自然とルンゼ状に入って行く事になるが、左右の藪を使えば懸垂の問題はない。
 12月であれば十字峡より200mくらい上流であれば膝上くらいの水量の渡渉で行ける。ここは北尾根からのルンゼ末端となっているので2月ならばスノーブリッジが懸かる可能性がある。距離にして50mくらい上流側にさらに大きなルンゼが有り、そちらの方が歩道に上がり易いが少し雪崩のリスクが有るので状況に依り判断が必要。十字峡の北尾根末端と、ガンドウ尾根の1P終了点(歩道から高度30mくらいUP)は大変良い幕営点である。ガンドウ尾根上にも意外に幕営点は多いので、気にせず突入されたし。なお、携帯の電波は岩小屋沢岳北西稜~十字峡~大滝尾根の頭までバリバリ入る。そこから先は弱くなり、2173m三角点は入らない。

<装備>
基本アックスは1本で良い。荷揚げやユマーリングを考慮して軽量細径スタティックロープを持っていくと大変都合がいい。完全に保証範囲外の利用方法だが、確保にも使用するのが装備が軽くて便利。軽量細径スタティックロープへ噛ませる登行機はタイブロックではなく必ずスプリング付きの機種にしよう。十字峡の渡渉時の足元はネオプレーンソックス必携。渡渉ばかり気になるが、実際には雪の上へ上陸するための道つくりが大変である。この時もネオプレーンソックスのまま雪を踏み固めたり掘削したり作業するのがいい。横断後はスコップの上で燃やせば荷物にならない。標高が低くむちゃんこ濡れるので出来ればシェルは新品で臨みたい。叶わないならば最善の防水&撥水加工を施して。

<快適登攀可能季節>
12月末~3月 根雪が付いていなかったり、雪が無かったりすると厳しい藪漕ぎになって不快かも。その点を考慮すると2月が最も楽しい。

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