2025年7月23日水曜日

乳川谷 中沢

 










 乳川谷の中沢はオーソドックスな沢登りで無理なく餓鬼岳へ登ることができる。中沢を登るに際して技術的な核心は南沢~北沢と合流点までだろう。巻き道は割合分かりやすく沢登りに慣れていない人も大丈夫だと思う。中沢の入口は広い河原となっている北沢とは対照的な藪っぽい感じである。森の中を時々現れる小滝で遊ぶ。東向きで午前中は大変明るく気分がいい。ケンズリへと向かう沢は水が枯れているが明らかに難しそう。普通の人はケンズリに入らず左へ向かうだろう。あとは体力勝負の詰めである。

<アプローチ>
乳川谷の右岸側の林道に駐車する。左岸より右岸側の方が道が整備されており、地図の登山道マークは実は林道で車高が高ければ走れる。標高1060m付近の橋が崩落しているのでそこが広場となっており車で入れる最奥となる。沢内に泊れる場所はあるが、遡行が速いのであまり幕営する意義を感じない。下降は南沢が最短路であるが餓鬼岳の山頂を踏んで釣魚沢を下降するのも良いだろう。釣魚沢は上部が崩壊しており、下降点には注意がいるが降り込んでしまえば難しい個所は無く早く戻れる。幕営も随時可能で森の雰囲気が良く気持ちいい。

<装備>
沢慣れしていれば何もいらない。上部はぬめるのでフェルトの方がいい。

<快適登攀可能季節>
6月下旬~10月。雪が少なく標高も低いのでシーズンは長い。ただし、乳川谷の水量は多めなので注意。

<温泉>
すずむし荘:単純弱放射能温泉(ラドン温泉)でさっぱりとしたお湯。内湯、露天ともに綺麗で快適である。

2025年7月15日火曜日

青屋川 九蔵本谷

 




















 山の水たまりには惹かれるというのが人情というもの。湖、池、湿原に池塘が秘めたる神秘は尽きることが無い。池塘と花のコンボが大好物なのでシーズンに一度は訪れたいものである。同じ考えの登山者は多いので容易に行ける7月の湿原は大混雑が予想されるうえ、ましてや沢登りを楽しんで到達できる場所は少ない。しかし、千町ヶ原は登山道整備の不確定さから穴場の湿原で、南や西からはそれなりの渓谷が稜線へと延びている。
 九蔵谷は沢歩きを基調としながら、時折小滝が出てくる感じの谷である。沢登りらしい楽しさは1200mの滝マークまでと考えて差し支えないだろう。沢登らしさはあくまで爽やかで、嫌な悪さは無い。快適に景観を楽しみながら登ることができる。1250mから上流は近年の集中豪雨の影響があるのか土砂や倒木が見受けられ魚影はやや薄い。程よく遊んでもらえる密度なのでのんびり釣りを楽しみながら上がるのがいい。淡々と標高を上げ、なだらかなゾーンに到達すると柔らかく流れる水に癒される。笹薮を漕ぎ進むと眼前にワタスゲの大群落が忽然と現れた。過去一番の密度でこれだけでも大感動なのであるが、折よくニッコウキスゲも咲いており、バイケイソウの花にはクジャクチョウも舞っている。恋の季節のカオジロトンボは湿原中散り散りに四つ羽で飛んでいる。新しい夏を迎える嬉しさと侘しさがない交ぜになったこの感じ。これがまた次の季節へと歩む力となる。やはり山はいい。
 下山は青屋道とした。上牧太郎之助が安置した石仏を眺め歴史に思いを馳せつつ長い下山を終える。今も見つかっていない石仏は引き続き捜索中とのことだ。一介の身勝手な登山者だがこの道を開いた行者と救われた民を思う人が続いてくれるよう道の存続を祈念したい。

 九蔵谷は遡行内容重視の沢屋には物足りないのだが、高山植物シーズンの逍遥渓としてはなかなか良い。沢登りらしいところは林道が並走しているので沢慣れしていない人も取りつきやすいのではないだろうか。

<アプローチ>
九蔵川の左岸に走る林道のゲートに駐車して入渓する。地形図の林道終点までならば大体どこでも泊まれる。それ以上登るのであればは1650m~1700mの区間、1750m右俣の少し上で探すことになる。最上流域の平坦地も良いのだが薪に乏しいかもしれない。下山は青屋道が
草刈りされていればこれを使うといい。されていないのであれば同ルートが最も無難。なお、千町尾根の登山道は地形図の位置から少し北側へとずれているため注意。

<装備>
沢慣れした人間であれば特に何も要らない。

<快適登攀可能季節>
7月~10月 高山植物を愛でるといい。

<博物館など>
千光寺:円空ゆかりのお寺で作品を豊富に所有する寺。定番の不動明王はもちろん、宇賀神や水神もいい。しかし、千光寺保有の円空仏といえば鬼気迫る傑作の両面宿儺であろう。円空仏のなかでは複雑で力強く彫られており印象深い。

2025年7月9日水曜日

大武川 赤薙沢ミツクチ沢





















 脆い岩は危ないから登りたくない。何なら固い岩だって登れば高くて危ないのであんまり登っていいものではないと思う。それでも登るのは自然の摂理を体得するため止むに止まれず、しゃーなしでやるのである。
 ミツクチ沢は以前から行きたかった。南アルプスの中でも崩壊が進んだ谷で、上部は石空川北沢と不思議な地形を形成している。これで訪れるべき理由は十分ある。が、ボロイという前評判があり、前頭葉がしっかりと働く若年期は適切にブレーキが効いていた。しかし中年になると徐々に認知機能は低下し抑制ができなくなる。加えて膝や足首など関節には不具合が出てくる。こうなれば危険登山者一丁上がりである。

 赤薙沢に入ると赤薙の滝が激しい連瀑となって落ちる。これは登れなさそうなのが続くので一気に高巻いた。ミツクチ沢に入ると脆くない登って楽しい小滝が連続する。そう、こうして油断させるのが彼らの手口なのである。側壁が立ち始めると谷中に巨石や土砂の堆積がえらいことになる。すぐに現れる左側にチョックストンがある滝が技術的には核心となる。左岸側のスラブから凹状を登りスラブトラバースをして最後はワイドクラック。こうして記載すると内容が多彩で面白しろそうだがボロさがあり危ない(しかしクライミングは面白い)。次に現れる二段30m滝は下段をフリーで登り二段目からクライミングスタート。水を浴びながら登ることにになるが、ここは少し岩が固く楽しめる。二段目上部は崩壊したような岩なので、たまらず右トラバースして灌木へと逃げた。以後は連瀑に次ぐ連瀑で標高をぐいぐい上げる。普通の沢ならばボーナスステージなのだが岩がぼろかったり、ガレが堆積した巻きになったりと緊張が続く。最上部で左に入ると瀑布が宙を舞い、水がガレに消える大滝が現れる。周囲の崩壊地形から巻きは絶望で少し戻って右岸ルンゼを登って尾根に出ることとした。右岸ルンゼから左へトラバースすると首尾よく木登りで標高を稼げる。垂直の悪い木登りを続けると無事に尾根に飛び出す。ここから離山までの道のりもスリリングで気が抜けない。山頂付近はボルダーと砂が織りなす景観で眼前には赤石沢奥壁と甲斐駒が岳が重厚に構える。離山は登りごたえのある隠れた名山である。筆者らは石空川北沢を下降したがこれも巻き降りや懸垂を含めて歯ごたえがあり良かった。フィナーレが精進ヶ滝の懸垂というのも締りがあってよい。

 ミツクチ沢は緊張感の漂う沢で好みが分かれるだろう。崩壊はエネルギーの発散といえる。その場に身を置くことで地の揺動に共振する。登りながら変動する周波数に応じて怖かったり、嬉しかったりするのが良い。この沢を訪れるのであれば離山を必ず登ってほしい。ミツクチ沢はこの山を登ってこそ価値があると思う。さらに北沢の下降を含めて極めて良質な登山であった。今後も認知機能の衰えが齎す新発見が楽しみである。

<アプローチ>
林道のダートが始まる手前のキャンプ場のある堰堤スペースに駐車する。走破性のある車なら林道を進めるが、ゲートが割と近くにあるので意味がないと思う。林道を歩いて適当に最終堰堤のある所から入渓する。ミツクチ沢内に幕営適地はない。強いて言えば1600m付近の三俣だろうか。ここに幕営すると翌日の行動が長くなりつらい。北沢源頭離山南の平坦地は素晴らしいテンバで、三俣手前の段差となっているところは奇跡的に水が汲める。ただし、枯れていることもありうるので過度な期待は禁物。北沢を下降すると適宜よいテンバがある。

<装備>
カムワンセット、ピトン各種。ラバーでもフェルトでも登れると思う。フェルトならばクライミングシューズを持っていくといい。

<快適登攀可能季節>
6月~10月 

2025年7月1日火曜日

黒部川 森石沢













 帰宅して地形図を眺めて驚嘆したのだが、森石「沢」なのである。富山県なのになぜここだけ「谷(タン、ダン)」ではないのか。黒部川流域で末尾語が沢となっている谷は信濃側の猟師達の呼称で県境の谷ばかりである。思いっきり越中のこの谷に主として東日本で用いられる沢という地名がぽつんとあるのは何かの手違いとしか思えない。

 名称遍歴に謎を持つ森石沢の遡行記録は少ない。志水哲也氏の著作に遡行記録があるが、谷の様相は土砂が流入しており随分と変わっていた。しかし下部のゴルジュ小滝群は健在で手ごわく悪い。うーん黒部だなぁ。足元に転がる岩はザクロ石を含む片麻岩や結晶質石灰や角閃岩を含む岩が多い。富山だなぁ。下部ゴルジュを抜けると土砂堆積が著しく谷が埋まっているのが分かる。主として花崗岩からなる谷なので部分的な脆い個所が崩壊によって谷に土砂をもたらしているようだ。志水氏の遡行図にある小滝は埋まってしまったり、倒木が架かっているのも多い。中部~上部のセクションはひと時楽しい小滝と美しい渓相となる。途中に雪渓が沢山出てきたので沢中の様子は一部不明な所がある。どこだったか忘れたが小滝を水線沿いに登れず非常に悪い左岸の泥壁を登ることになった。1303mへ向かう沢は小滝は出ずに体力勝負の急登。尾根に出てからも登山道は無いためほかの沢を下降することとなる。筆者らは弥太蔵谷右支流を下降したが、雪渓だらけで下降は相応に緊張を強いられた。右支流は登っても面白そうな地形をしており、次は遡行したいところである。

水量は多く雪が多かったこともあり歯ごたえ十分の遡行であった。小渓流でありながら側壁の高さが大渓谷の風格を醸すのがいい。容易に下山できる登山道が無いことも一層この谷での登山活動を面白くする。遠方から遡行対象とすることは滅多にないだろうが、週末系の山行としては完成度は高く行けば満足間違いなし。

 <アプローチ>
宇奈月ダムからしかるべきところを歩き出合いまで歩く。森石沢内の幕営好適候補地が雪で埋まっていたのでどこが良いのか不明。ただ、入渓時間と内容を考慮したら森石沢で泊まることはあまりないと思う。下降は弥太蔵谷右支流が合理的だが、この谷も下降は相応に時間がかかる。右支流中はそこそこ快適に幕営できる箇所は多い。

<装備>
カム0.3~1.0、ピトン各種。足回りはラバーでもフェルトでもいいかも。泥壁草付きが多いのでハンマーはピックが長いほうが有利。

<快適登攀可能季節>
7月~10月 残雪、寒さ、害虫など各種事情を鑑み判断されたし

<温泉>
とちの湯:宇奈月温泉総湯は駐車場も無いし、露天風呂もない。山屋のみなさまはこちらへどうぞ。

<博物館など>
うなづき友学館:黒部市立図書館の分館と歴史民俗資料館が併設している。何と言っても1/2愛本刎橋が見ものの博物館である。30年おきにかけ替える刎橋だが、当時のオーソドックスな橋脚がある木造橋の架け替え頻度ってどのくらいだったんだろうか。もっと深く橋の構造比較をしてくれればありがたいと思う。このほか、稚児舞や七夕といった地域の祭事展示も興味深い。

<グルメ>
よか楼:昨今話題の町中華的定食屋。コスパという卑しい概念を持ち出さなくても味で選べる良店。ジビエ料理も時折そろえる。