2017年3月28日火曜日

千石城山




 上市町には3つの城山と呼ばれる山が存在する。それぞれの名称は稲村城山、茗荷平山(城ヶ平山)、千石城山である。これらの城は1300年~1500年代の南北朝~戦国時代に土肥氏によって築城され、有事の際の詰城として利用されたそうだ。千石城山はこの3つの城山の中で最も標高が高い山だ。さらに県内の城館跡においても鋲ヶ岳に次いで第二位の高さを誇っている。その険しい地形から文字通り最後の砦として利用されたのだろう。その後、土肥氏は1583年に佐々成政によって滅ぼされ城も使用されなくなったという。
 
 そんな最後の砦も今となっては、県内きっての人気山である。冬季も剱親自然公園まで除雪はバッチリされているので剱岳の大展望が年中楽しめる稀有な場所だ。直近で筆者は3月の残雪期に登ったがマンサクが咲く中にヒガラが囀る早春登山となり格別であった。新緑の緑も、秋の紅葉もまた素晴らしい。

 こんな環境の中で人間同士が生死をかけて争っていた事に驚く。500年前は城であった訳だから、猛々しい士どもが犇き合い、鍔迫り合いを繰り広げた事もあったのだろう。そんな時も剱岳は鎮座し、マンサクは咲き、ヒガラは囀り、早月川は水を運んでいたのだ。そんな平和的なロケーションで血しぶきとは何ともはちぐはぐで滑稽である。きっとサルもカモシカもブナだってニヤついていただろう。翻って21世紀の越中は「ブリの一世帯当りの支出額が45年連続全国一位」が18:00のトップニュースになるような安穏な国となった。人の世の変遷にも興味は尽きない。

 しかし、戦は生活のため生きるため。娯楽で命を懸ける登山なんて滑稽を極めたシュールでナンセンスな行為といえる。山の住人達は抱腹絶倒笑止千万呵呵大笑に違いない。山に喜んで貰えるのは嬉しいし、馬鹿馬鹿しい様は平和的でもある。今後とも芸を磨き入山のたびに山が爆笑するような登山者、謂わば山の桂枝雀を目指したい。春本番はもうすぐそこである。

<アプローチ>
剱親自然公園の駐車場に駐車。そこから少し林道を歩く。無雪期は登山口すぐに大きな駐車場がある。

<装備>
積雪期でも長靴にホームセンタースパッツでOKなハイク山。

<快適登攀可能季節>
1月~12月。オールシーズン楽しいはず。しかし夏は暑い。

<温泉>
大岩不動の湯:小さめの施設だが天然温泉で露天風呂もある。420円とリーズナブルなのも嬉しい。

アルプスの湯:600円と少し高いが天然温泉、炭酸泉もある広いお風呂。

<博物館など>
花の家:おおかみこどもの雨と雪のモデルの家。土日祝日は管理している人が居て見学可能。



西田美術館:ロシアイコンや曼荼羅を展示。そして剱岳の資料が豊富。魚津岳友会の会報が熱い。

大岩山:行基菩薩の石仏は大迫力。夏には千巖渓遊歩道で涼みそうめんを食らうのが良い。

富山県薬用植物指導センター:5月中旬に芍薬の花が満開になるとても綺麗。五月の連休より少し後が見頃になる。芍薬は生薬として用いられるので栽培されている。有効成分はペオニフロリン。有名なのは甘草との組み合わせたもので芍薬甘草湯。グリチルレチン酸との組み合わせである。





2017年3月21日火曜日

笠ヶ岳 穴毛谷第一尾根末端壁~第一尾根














 新穂高から穴毛谷方面を眺めると猛烈な岩壁と雪稜がすぐ近くに見える。その中でも目を引くのが距離的に近い第一尾根の壁だろう。こんなに近くに有るのに殆ど登られる事のない壁である。その末端壁から尾根に上がりキノコ雪稜を攀じれば多彩な内容と困難さで北アルプスでも屈指のルートとなる。

 第一尾根末端壁はニノ沢出合いからズドンと薙ぎ落ちている岩壁だ。冒頭の写真は寡雪であった時の写真であり実際は雪の付着が著しい壁である。登ったラインは赤線の沿いだと思う。直接突上げるルンゼは垂直の草付きでちょっと登れそうには見えなかったので右に迂回した。この壁の上部には第一尾根側壁が一ノ沢側に広がっており、末端壁を終了したリッジを少し登りトラバースして移動する事ができる。

 登攀はルンゼ状の氷から始まる。日当たりの良い東面、しかも低標高の氷とくれば勿論氷質は悪い。シャンデリア氷なのか雪なのか、はたまた草付きなのか良く分からない氷である。そこを抜けると傾斜の強い岩を登り右の雪壁に入る。傾斜が強くハングしたキノコ雪を崩しながら3Pほど伸ばすと末端壁は終了する。取り付きから計5P程である。
 
 末端壁が終わっても全く気が抜けない。リッジ上は危うげなキノコ雪が林立しているので左側に大きくトラバースして第一尾根側壁の上部に入る。ここは登る事の出来るラインは限られると思う。側壁上部に入り、ルンゼと雪壁を3P程登るとやっと第一尾根主稜線に上がる。
 
 主稜に出ても2050mの台地まではまだまだ遠い。キノコ雪を崩したり、避けたり、雪のチムニーを掘削したり仕事に追われる。台地に着いたと思ったら先に望む尾根がまだ厄介そうでぐったりするだろう。2130mからの岩場は凹状を正面突破するしかない。3Pで容易なリッジとなり、ここからコンテを含めて2P程で漸くロープを解くことができる。あとはクリヤの頭までワカンラッセルだ。

<アプローチ>
積雪期の穴毛谷に入るには雪の状態を把握して入山したい。夜中に入谷し末端壁下部の氷のセクションを気温が上がる前に終わらせた方が無難である。尾根上に幕営適地は要所にある。エスケープルートは谷に下降する。下部では一尾根側壁側ルンゼへ、上部では二ノ沢側が逃げやすい。しかし降雪時には逃げられない。末端壁から登る場合は2泊3日が標準ではないか。第一尾根側壁から登る場合は1泊2日で可能と考えられる。登攀終了後はヒロサコ尾根の途中からクリヤ谷へ下降。笠ヶ岳まで登る事が出来れば素晴らしい。新穂高まで富山市内からおよそ1時間40分。

<装備>
岩壁部分が存外に難しいので、ひん曲がったアックスと縦爪のアイゼンが有効。スコップも重要登攀具なのでバックアップを取って頭上で振り回せるようしておこう。ダブルアックス&シングルスコップがベスト。カム一式、ピトン。

<快適登攀可能季節>
1月~3月中旬。なにより穴毛谷に入ることが可能なコンディションのとき。

<温泉>
新穂高温泉なのでどこでも入ることが出来る。価格帯は高い。

栃尾の荒神の湯は良い露天風呂。体を洗う場合は石鹸を持っていこう。寒くて洗えないかもしれないけど。割石温泉まで行くのもいいだろう。

2017年3月13日月曜日

大スバリ沢奥壁 左岩壁ダイレクトルート









トポの概念図を把握するのが苦手で、どこを登ったかいつも自信が持てない。しかも大スバリ沢奥壁左岩壁はごちゃごちゃしていて一層理解できない。薄弱な認識だが弱点を突きながらも最も高い場所へ抜けるラインがダイレクトルートではないかと思う。以下紹介は参考程度にしていただければ幸いである。

左岩壁正面からみて中段草付きの左にあるチムニーに向って凹角から登り始める。見た目より傾斜が強く、途中でスラブ壁になるので一端右にトラバースして凹角に戻る。チムニーは被っているが、ホールド豊富でぐりぐり登れる。寧ろその後のフェースが悪い。上部の壁は下から見るより傾斜は緩く登り易いが、不安定な岩が堆積している部分もあり慎重に登りたい。リッジの肩までおよそ4Pで終了である。

クラック、フェースのミックスクライミングで色々な体の動きを楽しめる☆☆☆の素晴らしいルートであった。八ヶ岳にあったら渋滞発生は避けられないだろう。稜線から西面へアプローチするので雪のリスクは少ないし、屏風尾根は短いし難しい尾根ではない。騙されたと思って一度登ってみてはいかがでしょうか。

<アプローチ>
日向山ゲートから扇沢まで歩いて大沢小屋から屏風尾根に取り付く。屏風尾根の稜線直下は絶好のベースキャンプ地である。屏風尾根の頭から約10分ほど赤沢岳側に歩くと西側、標高差約80m程下にC岩峰が見える。C岩峰は意外に丸いので見落としやすい。C岩峰のコルを乗越し、急峻なルンゼをクライムダウンする。ここは結構緊張する。やがて左にトラバースできるバンドが出てくるのでトラバースしていくと左岩壁に出る。どのルートでも左岩壁を登ると自然に稜線に上がる。

日向山ゲートまで富山市内から国道8号~148号で3時間と少々。

<装備>
カム一式、ピトン、トライカム、ナッツ。ボールナッツの小さいサイズが有効。西面で日当たりが良いので暖かい日は壁は濡れて悪くなる。早朝に取り付くのが吉

<快適登攀可能季節>
12月~3月 3月になれば積雪状態次第で1泊2日で2本登ることが出来る。概念を把握していて気合を入れれば日帰りも可能だと思う。ただ、扇沢は東面なので谷筋をアプローチにするのは賢明ではない。

<博物館など>
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。ボルダリング壁も一回100円で一日利用可。

塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。

<温泉>
上原の湯:410円で石鹸&シャンプーが付いている温泉。
薬師の湯:温泉博物館と酒の博物館が近くにある。
みみずくの湯:白馬にある日本有数の強アルカリ泉。入って損は無し。

<グルメ>
昭和軒:大町駅近くにあるカツ丼の店。大盛りはプラス100円で凄い量が食べられる。

2017年3月7日火曜日

硫黄岳前衛峰北壁 第2ルンゼダイレクト







深い山の登山は病み付きになる。しかし深い山とはいささか漠然とした言葉だ。その答えは人それぞれかもしれないが、個人的には距離的に遠い、環境リスクが高い、情報が少なく人跡稀な場所だと考えている。そんな山に入る時にはびびる。だから必死になって考える。その場所の天気を調べ、雪の変化を考え、地形を考慮し、壁や尾根の状態を想像し、最良と思われる準備をする。その思考の過程こそが山登りの楽しみじゃないかな。そして、現場は実際どんな物なのかを観察する事がより深く自然に親しむという事なんだと思う。

硫黄岳前衛峰は遠い山だ。記録が少ない不遇の山と言って差し支えないだろう。長い歩きと渡渉を含む面倒なアプローチが登山者を篩にかけるようだ。この山の北壁は特に積雪期が素晴らしい。岩場の質としては唐幕と明神2263m峰を足して2で割ったような壁で、スラブに張ったベルグラと傾斜の強い凹角で構成されている。北壁の尾根に突上げる顕著なルンゼは谷の下流側から第3ルンゼ、第2ルンゼ、第1ルンゼと呼ばれている。弱点の少ないこの壁の積雪期はルンゼが主な登攀ラインになると思う。

さて、筆者らは最も長くて楽しそうな第2ルンゼを3月に登攀した。下部はアイスクライミングと雪壁登り、上部はベルグラのミックスクライミングと変化に富んでいて非常に面白い。少しランナウトする場面もあるが、安定したベルグラならば快適に登れる。壁のスケールは意外に大きく、尾根上まで6Pであった。コンディション次第ではあるが、どのピッチも適度な難しさのフリークライミングを楽しむ事ができる好ルートだと感じた。

不遇な山域の面白さは上述のように論理的な点も大きいのだが、感情的でウェットな部分も多分に含まれている。山に励まされるといえばいいのか。「お互い日陰者だけど良いところも少しは有るよね」なんて山は言ってくれないけど、もしかしたら次の娘は言ってくれるかも・・・という甘塩っぱい期待を抱きつつ、今日も地形図と地質図を重ねて衛星写真を刮目する。

<アプローチ>
 葛温泉に駐車し高瀬ダムから湯俣方面へ。湯俣までは良く整備された登山道であるが、湖畔の林道歩きは小ルンゼを跨ぐので実は危ない気がする。
 湯俣からは水俣川を遡行する。渡渉を幾度か求められるので、早急なアプローチには何らかの対策が必要。釣り用の胴長ゴム長靴を履いていくとジャブジャブ行けるので早い。
 壁へのアプローチは登山大系の概念図に間違いがあるので注意が必要。中東沢から至近の東壁が見えるルンゼ(地形図でガレマークのあるルンゼ)を詰める。幕営は水俣川のほとり樹林帯に張れる。登攀後の下降はルンゼ左岸の第2岩稜沿いの藪で懸垂するのが良い。東璧は下記写真を参照。


壁を登るだけならば、稜線歩きのリスクはない。もう少し登られても良さそうな場所である。3月に東璧を荷物を背負って登り、硫黄尾根からパチンコしたら面白いかもしれない。或いは穂高方面から北鎌尾根千丈沢側、硫黄前衛、唐幕と後半戦でも壁を繋げられそうだ。富山市内から葛温泉まで下道でおよそ3時間くらい、糸魚川まで高速を使うと2時間30分くらい。

<装備>
カム一式、トライカム少々、イボイボ数本、ピトン各種、アイススクリュー4~5本くらい

<快適登攀可能季節>
12月~3月。雪が安定していないと取り付きまでのアプローチが怖い。3月のベルグラが発達しているほうが面白いのでは。その場合、北面なので一回雨が入り、東壁や谷の雪が落ちきってから登るのが良いと思う。第1ルンゼは純粋なアイスクライミングになりそう。遠目からは2段に分かれていて上部は長い雪田になっているように見えた。

<博物館など>
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。ボルダリング壁も一回100円で一日利用可。

塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。

<温泉>
上原の湯:400円で石鹸&シャンプーが付いている温泉。
薬師の湯:温泉博物館と酒の博物館が近くにある。600円。
みみずくの湯:白馬にある日本有数の強アルカリ泉。入って損は無し。

<グルメ>
昭和軒:大町駅近くにあるカツ丼の店。大盛りはプラス100円で凄い量が食べられる。

2017年3月1日水曜日

唐沢幕岩 大凹角ルート






唐沢幕岩のシーズンは近くの岩場シーズンと近いので、訪れるにはちょっとした決意が必要。しかし岩場の質は錫杖とは全然違う。スラブに張り付いたベルグラは美しく眺めるだけでも素晴らしい。登れば普段とは違う内容に冬期登攀の奥深さを堪能できる良き山だと思う。

大凹角ルートはフリーを前提とすると手強くも面白い。下部のスラブ帯はベルグラの発達具合によって印象が変わりそう。ここはスラブ故やや支点がとりにくい。凹角に入ってからは傾斜が強くなり気が抜けない。人工登攀の支点は随分と古くなっているので、あまり信用しないほうが吉。凹角の抜け口はチョックストンの下を潜る、左の壁際、一段下バンドから右の草付き等の複数ラインがとれそう。チムニー内に雪が詰まっていると除雪に四苦八苦する。多彩な内容と素晴らしい眺めに癒される事間違いなし。ビバ冬期登攀!大自然万歳。

<アプローチ>
高瀬ダムの手前から唐沢を詰める。そこそこ雪崩の危険がある。堰堤にかかった梯子を登るのが核心。大町の宿は右稜に向う小ルンゼの右岸にある。下降は懸垂で同ルートを下降するのが安牌。富山市内から葛温泉まで下道でおよそ3時間くらい、糸魚川まで高速を使うと2時間30分くらい。

<装備>
カム一式。トライカム適当、ピトン少々。スリング。

<快適登攀可能季節>
2月~3月。ベルグラが発達しているほうが面白いのでは。

<博物館など>
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。ボルダリング壁も一回100円で一日利用可。

塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。

<温泉>
上原の湯:400円で石鹸&シャンプーが付いている温泉。
薬師の湯:温泉博物館と酒の博物館が近くにある。600円。
みみずくの湯:白馬にある日本有数の強アルカリ泉。入って損は無し。

<グルメ>
昭和軒:大町駅近くにあるカツ丼の店。大盛りはプラス100円で凄い量が食べられる。