2017年4月24日月曜日

白馬鑓ヶ岳北稜










春山は東面の雪稜が素晴らしい。夜明け前に取り付き、安定した雪稜をぐいぐい登り高度を上げるのが最高だ。その間に空は星の瞬きから鴇色、浅緋色と色を変え、日の出とともに山は韓紅に染まる。この荘厳で甘美な時の移ろいにはどんな言葉も軽薄で意味をもたらし得ない。ただ、人が山に登り続ける理由の一つがこの一瞬にある。

白馬鑓ヶ岳北稜は登山大系に白馬東面で最も困難と書かれており興味をそそる。筆者は4月の残雪期に登ったが快適そのもので、全く困難は無く楽しいばかりであった。おそらく厳冬期の不安定な雪と雪崩の危険がこの尾根を困難にするのであろう。軍艦ピークの手前150m程度はスタカットで登ったが、あとは殆どコンテで軽快に抜けた。雪面登りが多く、雪が安定している場合は簡単である。この手のルートは爽やかに楽しく登るのがいい。騒がしい春の白馬東面でも人気が無く静かな登山ができる尾根だ。

<アプローチ>
12月からは二俣以降の林道は封鎖されるのでラッセル。雪の量にもよるがGW頃なら猿倉まで除雪され車が入ることが多い。双子尾根の樺平をベースにアタックするのが一般的なようだ。春ならば下降は杓子沢を駆け下りる事が可能。厳冬期は双子尾根を下降する事になると思う。春に荷物を担いで登り三山縦走し大雪渓から下山すると素敵だ。

<装備>
スリングを適当に。岩の要素は無い。

<快適登攀可能季節>
12月(根雪が有る場合)、3月~5月中旬。傾斜が強い尾根なので、雪の安定した3月がもっとも楽しいと思う。日中雪がグサグサになる前に登りきるのが吉。

<温泉>
みみずくの湯:日本有数の強アルカリ泉。入って損は無し。
倉下の湯:みみずくの湯を含む白馬八方温泉とは源泉が異なり、ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉。価格も同じ600円なので気分応じて入り分けられる。

<グルメ>
グリンデルというレストランのベーコンステーキが秀逸。小洒落た雰囲気だが、汚い山ヤが居ても違和感無く食事が出来るのは白馬ならでは。白馬駅近くのおおしもはカレーライスの量が凄かった!他の定食メニューも美味しいしお勧め。

<博物館>
富山への帰りしな、糸魚川有るフォッサマグナミュージアムは素晴らしい。ここでは石の鑑定も行っているので、山で見つけた気になる石を鑑定してもらおう!(一人10個までです)

2017年4月17日月曜日

大辻山





滝は自らの流れによって岩盤を削り、日々わずかながら後退している。弥陀ヶ原台地は約10万年前の立山火山活動によって形成され、溶岩の末端は立山町小見まで達したと考えられている。称名滝は弥陀ヶ原の形成に伴い千寿ヶ原で誕生した。誕生日から後退が始まったとして、千寿ヶ原から現在の称名滝の場所まで約7kmなので単純計算で年間平均にして10cmの速度で後退している事になる。換言すると、称名川ゴルジュは年間10cm短くなっているともいえる。それにしても10cm/年とはかなり速いのではないか。人生80年とすると、人の一生の中で8mも下がっているのだ。

大辻山から立山を望むと称名滝によって侵食された溶岩台地がばっちり観察出来て嬉しい。側壁の急峻さは反対の真川側とは比べ物にならない。仮に20分間山頂にいて、弥陀ヶ原を眺めていたのならば、その間に称名滝は約3.8μm後退している事になる。ひと時も同じ姿を見せない、無常と空をしみじみ味わえる山頂だ。

話は変わるが、鍬崎山の北面には大追戸谷という滝が続く素晴らしい沢がある。この谷は雪が着くと滝は埋まり凄い斜面となっている。

この谷は山スキーのルート対象にはならないのだろうか。山頂からダイレクトに滑る美しいラインのように思える。誰か滑っているのだろうか。

<アプローチ>
無雪期は沢登り気分の白岩川ルートや南面の沢を登るのもよし、国立立山青少年の家から登山道を歩くもよし。積雪期ならば適当な尾根から直接取り付いたほうが楽な気がする。

<装備>
季節に応じた山歩きの恰好

<快適登攀可能季節>
1月~12月。いつ登っても楽しいと思う。ただ、残雪期に林道が閉鎖されていると歩くのがやや面倒。

<温泉>
ホテル森の風立山、吉峰グリーンパーク

<博物館>
立山博物館:別館まんだら遊園の異空間を一度は味わってほしい。
カルデラ砂防博物館:マイフェイバリット、治水の恩人ヨハネスデレーケの展示もある。

2017年4月10日月曜日

大鷲山






県境の決定は山か川を利用する事が多い。県境となる河川は安直に境川と呼ばれるのだろうか、富山県には2つの境川が存在する。1つは大畠谷で有名な岐阜県との県境の境川であり、もう一方は新潟県との県境の境川である。越中越後国境地帯は北陸道きっての難所の親不知から近く、軍事的な要所であったため血生臭い歴史を重ねている。平安~戦国時代は宮崎城が戦の最前線となったようだ。

さて、大鷲山は新潟側の境川左岸に位置する山で海抜0m、即ち海から登る粋な山である。街道から直接尾根に取り付き800mを一気に登る。山頂は広く黒部川扇状地と親不知の断崖が見渡せるので、緩急際立った自然の造形を楽しめる。筆者は残雪期に登ったが、イワウチワの薄紅とヤブバタツバキの深紅が雪に映える清明な登山であった。もう少し遅い時期になればより多くの花を楽しめそうだ。自然と人の歴史ロマンを感じる事ができる素晴らしき里山である。

<アプローチ>
国道8号線の境橋の境川第二発電所付近に邪魔にならないよう駐車する。登山道入り口は8号線側のアスファルト階段を登り水路を直ぐに渡り尾根に取り付く。積雪期・残雪期に黒菱山まで縦走したら面白そうだ。無雪期は烏帽子林道利用で標高500m付近まで車で上がれる。

<装備>
季節に応じた山歩きの恰好

<快適登攀可能季節>
年中登れる。夏は暑い。

<温泉>
境鉱泉:含鉄塩泉の温泉。銭湯価格で温泉が入れるのが嬉しい。石鹸は備え付けてないので持参。

<博物館など>
護国寺:別名石楠花寺。とやま花名所に選ばれるだけある庭園。シャクナゲとツツジの時期が素晴らしい。謎の置物も気になる。

朝日町歴史公園:縄文時代の不動堂遺跡が再現されている他、江戸時代町屋であった旧川上家の家屋が当時の状態を保ったまま移設されている。ここでは朝日町名産のバタバタ茶を自分で点てて試飲できる。12月~3月は閉館するので注意。

朝日町立 ふるさと美術館:昨今の大正アートブームで再注目の竹下夢二の作品を所蔵している。江戸~大正期、朝日町の泊は宿場町で大いに栄えており、その盛り場に夢二が訪れていたようだ。妻たまきとの破局事件の舞台は宮崎海岸だ。この情事の続きは朝日町の図書館で。

百河豚美術館:野々村仁清の作品を数多く展示している。デフォルメされた鶏が描かれコップもあり、仁清のモダンな感性を感じる事ができる。他にも話題の伊藤若冲や、尾形光琳に酒井抱一といった琳派ビックネームの作品も展示。

下山芸術の森発電所美術館:きらりと光る興味深い展示をやっている。こちらも12月~3月の冬季は休館するので注意。

杉沢の沢杉:地口か回文のような名称だが素晴らしい場所。田園と防風林の中にポツリ広がる湿地杉林で、まるでもののけ姫の森のようである。近年、入善乙女キクザクラという桜の新種がここで発見されている。この原木は未だ杉沢の沢杉でしか発見されていない。北陸は菊咲きの桜の品種が多いらしい。

帰りには生地の道の駅で新鮮な魚を買って帰るのもいい。

2017年4月4日火曜日

赤沢岳 北西壁中央稜 








赤沢岳山頂から下降し、コルを乗越し北西壁を目にすると「こんなん登れんのか・・」と思うくらいぶっ立って見える。しかしこれは眺める角度の問題のようで、取り付きに実際立つと意外に寝ていて、節理も豊富で程よく弱点のある壁である。中央稜は右岩壁と左岩壁を分断する登高意欲を掻き立てられる岩稜だ。中央稜側壁の上部のチムニーを目指して登り始める。一段上がると雪面となり、そこからピナクル基部までロープを伸ばす。基部からはルンゼを登り、少しだけ嫌らしいスラブを登り左に抜けると緩傾斜の草付きとなる。最後は赤茶けた傾斜の強い凹角をバチ効きのフッキングで気持ちよく登ると北西稜に合流する。尚、この最後の凹角は右から巻く事ができるようだ。全体を通して難しすぎず,簡単すぎない。快適なクライミングを楽しめる好ましいルートである。60mロープスケールでおよそ4~5Pと岩稜としては少し短いが、立山と剱岳をバックに登るのは爽快そのもの。登攀ラインの自由度が高いので登攀内容はパーティーによって変化しそうだ。

後立山の岩場や雪稜は余り馴染みは少ないが、北西壁や大スバリ沢奥壁など赤沢岳の岩場は良く訪れている。この岩場は行政区画上富山県立山町なので、富山県では数少ない週末に冬期登攀が出来るエリアなのだ。しかし、大町のほうが距離的に近いため、地方の甲子園常連校の生徒が殆ど県外出身者で全力で応援しきれない感覚と同じく、「ここは富山の山だ!」と胸を張って主張できないのが苦悶の種であった。

この問題を解決するために地元の山という言葉を「在住する地の水源となっている山」と定義することとした。日々飲む水や食べ物がどこに由来するのか考えたとき、水と大地を生み出す山に帰着する。つまり、登山者の血にその地の山が流れているのだ。そう気づけば、近所の山々の愛おしさが七の七十倍である。今日もご飯が美味しいし、もっと地元の山を知りたくなる。今回も地元の山を学ぶ良き旅であった。イワヒバリの伴奏に合わせ、指を鳴らし、タップを踏んで、赤沢燦燦(自作曲)を絶唱しながらのご機嫌下山である。結論、赤沢岳を「ここは富山の山だ!」とは主張しないけど、富山地元の山。

<アプローチ>
日向山ゲートから扇沢まで歩いて大沢小屋から屏風尾根に取り付く。屏風尾根の稜線直下は絶好のベースキャンプ地である。屏風尾根の頭から赤沢岳山頂まで行き、山頂から西尾根側を少し下る。そこから遭難碑プレートが埋めてある岩がある所から(状態次第では埋まって良そう)大スバリ沢側の急峻なルンゼを下降する。西尾根の頂上から3つ目、ダケカンバの群生するコルを北側へ乗越し壁へ通じるルンゼをクライムダウンする。頂上からのルンゼ、壁へ下降するルンゼいずれもかなり急で慎重さを求められる。中央稜は壁を左にトラバースして突き当たるリッジである。凹状から稜に上がり取り付く。

日向山ゲートまで富山市内から国道8号~148号で3時間と少々。

<装備>
カム一式、ピトン各種、トライカム。ナッツ一式。

<快適登攀可能季節>
12月~4月上旬 3月になれば積雪状態次第で1泊2日で2本登ることが出来る。北西面なので割と遅い時期まで楽しめるかもしれない。概念を把握していて気合を入れれば日帰りも可能だと思う。ただ、扇沢は東面なので谷筋をアプローチにするのは賢明ではない。

<博物館など>
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。ボルダリング壁も一回100円で一日利用可。

塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。

<温泉>
上原の湯:410円で石鹸&シャンプーが付いている温泉。
薬師の湯:温泉博物館と酒の博物館が近くにある。
みみずくの湯:白馬にある日本有数の強アルカリ泉。入って損は無し。

<グルメ>
昭和軒:大町駅近くにあるカツ丼の店。大盛りはプラス100円で凄い量が食べられる。