2017年10月30日月曜日

高落場山





秋の山はわくわくする。きりりと澄んだ空気に錦の葉を纏った森に差し込む柔らかな光。鳥のさえずりは静まり、その場にしっとりと馴染める感覚が心地よい。藪を掻き分けてキノコを探すのも面白いものだ。

高落場山はブナの美しい森が誰でも手軽に楽しめるお勧めの山である。たいらスキー場側の入山地点からほど近い道谷は富山でも指折りの紅葉名所だ。かさとり地点からの真っ赤な山肌は本当に素晴らしい。山頂から草沼山へは美しいブナの群生地となっており、黄葉が心を浚う。南砺周辺は近年猛威を振るったカシノナガキクイムシが媒介するナラ菌による被害が大きかった地域であり、倒木の樹皮がはげている事が多い。そのためにキノコが激減したと地元の方から聞いた。寂しい気もするが森の遷移の過程なのだろう。また、数十年後には元気な雑木林に戻ってもらえると有り難いものだ。

<アプローチ>
縄ヶ池に通じる林道を利用して、登山道を使うと最も楽に登る事が出来る。しかしながら、この林道は通行止めになる事が多い。近年はたいらスキー場から梨谷川を渡る道が整備されているのでそちらを利用するのも良い。五箇山の行徳寺から井波の瑞泉寺に至る縦走路は道宗道(どうしゅうみち)と呼ばれてトレイルランニング大会も開催されている。道宗という僧が瑞泉寺まで通った道を概ね再現しているそうだ。

<装備>
熊が多い地域なので熊鈴は準備したい。

<快適登攀可能季節>
5月~11月。新緑と紅葉の時期が素晴らしい。

<博物館など>
縄ヶ池:五月連休あたりに水芭蕉が満開になる。駐車場から砺波平野の散居村を一望できるのも魅力。5月ならば田植えの時期、水田の水面に反射する夕日を眺めたい。10月初旬ならば実りの時期、赤く染まった揺れる稲穂を堪能したい。

福光美術館:福光は棟方志功が6年ほど疎開していた土地である。そのため作品が多くの作品が残されている。企画展も渋く見逃せない。別館の愛染苑も訪れたい場所である。厠にまで絵を描く棟方志功の自由な人柄が感じられる家だ。

南砺バットミュージアム:日本プロ野球の往年の名選手のバットが触れる。メジャーリーガーのバットもある。タイカッブとベーブルースが使用したバットを触って大興奮!親父さんも気さくで良い時間を過せる。

井波彫刻総合会館:井波彫刻は県外にそれほど認知されていないように思う。豪快かつ繊細な技術に感動する。瑞泉寺も行っておこう。

瑞泉寺:道宗道の終点となる真宗大谷派の古刹である。木彫りの町井波にある事もあり、豪奢な彫り細工が見どころ。

2017年10月22日日曜日

千丈峰 田海川 倉谷中ギラ





千丈峰は頸城の山の中でも忘れられた存在といえる。標高が低く登山道がない上、明星山、海谷渓谷、鉾ヶ岳、黒姫山といった人気の山々の中に埋もれてしまい話題に登る事はまずない。しかし、その地味な立ち位置とは裏腹に北面の田海川には「ギラ」と呼ばれる広大なスラブを何枚も持つ隅に置けない山である。標高1000m以下の小さな山なので、相対的に環境リスクが小さく、尾根を含めて自由に動き回れるのも楽しい山だ。この山の資料としては、佐伯邦夫著「豊穣の山」が最も詳しい。

倉谷に入渓すると頸城らしい海性の堆積岩である事に気づく。一方、標高が低いのでエゾユズリハ、ヒメアオキといった常緑低木も見られるのは新鮮だ。川原を歩き、やがて現われる三段の滝を越えると岩は硬く赤みを帯びてチャートのような岩質となる。中ギラへは標高300mから山頂へと直接向う谷を詰める。中ギラは水量が乏しいため侵食は少ないが、スラブ状の滝や所々にある甌穴が魅力である。このスラブは流紋岩質のようで非常に硬い。白山周辺の流紋岩が剥離しやすいのとは対照的だ。あくまで推測であるが、これは朝日町の南保富士、黒菱山周辺でみられる太美山層群と同じ岩ではないだろうか。七重滝と硬さといい侵食の具合といいとても良く似ている。山頂下のスラブ帯を藪を絡めながら登り、少々尾根を登れば山頂へ到着する。山頂へ自然と登る事が出来る良いルートである。なお、中ギラの水はスラブ帯を介さず、尾根に消えているので、このスラブ帯を登るほうがスッキリするはずだ。

少し偵察した本流の大ギラには大滝とゴルジュがあり、とても面白そうであった。次は晴天の折、しっかりとした装備を準備して臨んでみたいものだ。





<アプローチ>
岡~倉谷間の林道は良く整備されていて快適に通行可能。青海側から登って、右側に車通行止めがある場所に駐車する。地形図では林道は繋がっていないが全線開通している。車止めから、歩道を歩き堰堤をのっこして入渓。稜線に出てからの下山路は南側の沢へ下降するか、東尾根を下降する。どちらも林道に出られるので簡単に戻る事ができる。入渓点まで富山市内から国道8号線経由で1.5時間くらい。

<装備>
カム少々(小さめ)、ピトン少々、スラブ用にクライミングシューズがあると快適かも。スラブ帯にクラックは発達していないので出番は無いかもしれない。

<温泉>
帰りしなならば、朝日町の境鉱泉、たから温泉、地中海などナトリウム泉の温泉がある。500円くらいで入浴可能

<快適登攀可能季節>
7月~11月。虫が少なく快適な時期がよい。スラブ帯の登攀は晴天時が快適だ。

<グルメ>
たら汁が名物だが、はっきり言ってそれほどでもない。量を食いたいのであれば「きんかい」で定食のご飯大盛りを注文しよう。日本昔話級のてんこ盛りが食える。宮崎海岸のヤマザキショップは定食屋に負けないほど美味しい大盛りカツ丼弁当が500円程で食える穴場。

<博物館>
糸魚川有るフォッサマグナミュージアムは素晴らしい。ここでは石の鑑定も行っているので、山で見つけた気になる石を鑑定してもらおう!(一人10個までです)

翡翠園:散策可能な日本庭園。よく考えられていて、どこから見ても趣が有る。島根県足立美術館の作庭が有名な中根金作による庭園である。構成から考察するに、彼はあの巨大なヒスイ原石を嫌悪していたのではないかと邪推してしまう。

玉翠園:同じく中根金作による庭園。こちらは観覧庭園でガラス越しにしか眺めることは出来ない。柔らかな丘による高低が印象的。

2017年10月15日日曜日

鉾ヶ岳 島道川 藤内沢















鉾ヶ岳という山の良さは水にある。均整の取れた美しい水線を良く見てほしい。これに感激しない人間は沢ヤとはいえないだろう。また谷が深い上、藪が発達していて衛星写真で偵察できないのも素晴らしい。山体は文献を調べた限り石英閃緑斑岩を主として、一部に泥岩および砂岩を含む能生谷層を挟んでいるようだ。島道川に降り立ち川原を観察すると、海谷にあるようなクッキーのように分解する泥岩が幾つもみられるだろう。能生谷層は地すべりが多発する地層として知られている。硬い岩体と脆い岩体が接近している場合、同一水系でも各支沢で遡行の性質が大きく異なる事がある。谷ごとにキャラクターが有る山域は非常に魅力的だ。そういった面で頸城の山や立山周辺はとても面白いフィールドである。

島道川藤内沢は島道鉱泉に最も近い温泉マークの有る沢だ。しかしこの藤内沢は地形図からは想像できないような難渓である。下部の一見登れなさそうに見える滝も取り付いてみれば活路が拓ける。その登攀は適度に歯応えがあるので踏み込んでみる事が重要である。入渓してまず気がつくのは森林の発達だろう。丁字滝谷がガレで覆われていたのとは対照的だ。この安定した地盤から藤内沢では能生谷層は優位でないことが推察される。序盤から水量は非常に少ないのだが、ゴルジュは発達しているのが不思議だ。そこからゴルジュ内を滝、滝、滝と一切緩み無く高度を上げていく。登山道が横切り、取水堰堤より上部は易しくなる。上部に行くほど岩は脆くなり、滝の形状はすらりとしたスラブ状からフェース状になってくる。登攀時の支点のチェックは入念に行いたい。水が涸れルンゼを登るようになれば難場は終了だ。大沢岳と金冠のコルに出る。日帰りでクライミングを楽しむならば丁度良い沢としてお勧めである。

<アプローチ>
入浴客の邪魔にならないよう島道鉱泉の手前の広場に駐車しよう。下部ゴルジュ内に幕営適地といえる場所は無いが、登山道が横切る地点は泊れるだろう。左にはスラブが広がり直ぐ上には堰堤があるので驚くはず。この周辺で水と天然ガスを島道鉱泉まで引いているようだ。上部ゴルジュの幕営点は不明である。下山は登山道を利用するのが楽である。朝方に富山から国道8号線で大体2時間30分で能生に着くと思う。時間を優先したい方は北陸道を利用すると良い。

<装備>
カム一式、ピトン各種、真剣にゴルジュ突破を狙うのでればクライミングシューズとボルトキットもあったほうが良いと思う。

<快適登攀可能季節>
8月中旬~10月上旬。残雪が無くなり日も長い8月下旬~9月がベストだろう。

<温泉>
島道鉱泉:入山口にある鄙びた温泉。鉱泉だが近くから採取される天然ガスで加温している。一応入浴は17:00までとなっている。500円也

大平やすらぎ館:ゴルフ場に併設されている温泉。泉質は島道鉱泉と異なる。400円也。日帰り入浴は18:30までなので残業の場合は注意である。

<博物館など>
フォッサマグナミュージアム:地学系の博物館で興味深い展示に見入ってしまう。ここでは石の鑑定も行っているので、山で見つけた気になる石を鑑定してもらおう!(一人10個までです)

翡翠園:散策可能な日本庭園。よく考えられていて、どこから見ても趣が有る。島根県足立美術館の作庭が有名な中根金作による庭園である。構成から考察するに、彼はあの巨大なヒスイ原石を嫌悪していたのではないかと邪推してしまう。

玉翠園:同じく中根金作による庭園。こちらは観覧庭園でガラス越しにしか眺めることは出来ない。柔らかな丘による高低が印象的。

糸魚川市民図書館:糸魚川市、能生町の郷土史は重厚な作りで読み応えが有る。青海町の郷土史は発刊は古いがシニカルな語り口が面白い。ジオパーク関連資料も豊富で嬉しい。なお、能生町、青海町にも分館があるのでそちらでも資料は閲覧可能である。

2017年10月11日水曜日

鉾ヶ岳 島道川 丁字滝沢















山登りをするとき、その山域・地域と親密になりたいと常々思っている。初めての山塊を訪れる際、最難とされている場所や綺麗と評判の場所へ入山する場合が多いとだろう。しかしそれだけで終わってしまうのは寂しい。山とも一度限りの関係ではなく末永くお付き合いしたいものである。筆者の場合、お隣の沢や尾根はどうなっているのか、違いがあるとすれば何が原因なのか、その自然に対して人は何を感じているのか。みたいな事が気になってきて、その地域の郷土史を図書館で調べたり、下山後に聞き込み調査をする。するとその場所に愛着が芽生え、故郷のような気がしてくるのである。郷愁に浸れる場所は多いほど豊かな気持ちになるはずだ。この活動を全日本故郷化計画と命名し誓願成就にむけ日々精進している。

鉾ヶ岳の沢といえば島道川滝ノ内沢が一番星だ。中部地域でも屈指の内容を誇る登攀沢だと思っている。では島道川のほかの沢は、というと訪れた話は殆ど聞かない。丁字滝沢は島道鉱泉から程近い沢で標高230mで温泉マークの無い方の沢である。この沢は能生町史では御宮内沢と記載されているが、本稿では登山大系で用いられている丁字滝沢を呼称とさせて頂く。地形図では上部の傾斜が非常に強く興味がそそられる沢だ。入渓後、堰堤を越えて最初に現われるのは美しい四連瀑だ。直登は難しいと判断し右岸から一気に巻き上がった。そこからは渋い小滝と10~20mクラスの滝が現われる。滝の部分は岩は概ね安定している。難しすぎないフリー登攀が続くので楽しめる区間だ。登山道が横切ると土砂の流出が多くなり水量は少なくなる。そのため上部はゴルジュ地形となるものの大きな困難は無い。しかしここも渋い小滝は続くので油断しないようにしたい。最上部はスラブ状を呈してくるので慎重に登ろう。藪漕ぎは10分程度で登山道へ抜ける。北陸周辺では珍しい日帰りで楽しい登攀沢だ。水量も少ないので、条件に左右される事は少ないだろう。足並みの揃ったパーティーならば充実の1日が過せるおすすめの沢である。

先の全日本故郷化計画の進捗は思わしくなく、未だ北陸圏を脱していない。これは私の不徳のいたす所であるが、先立つ資金が無いのも一因かもしれない。勧進は口座振込み、普通為替、現金書留、その他有価証券のほかビットコインでも受け付けております。ご希望の方はご連絡くださいませ。誓願成就の暁には最高級のスマイルをお届けに参ります。

<アプローチ>
入浴客の邪魔にならないよう島道鉱泉の手前の広場に駐車しよう。幕営適地は無いので、足並みの揃ったパーティーで颯爽と日帰りで登りたい。下山は登山道を利用するのが楽である。朝方に富山から国道8号線で大体2時間30分で能生に着くと思う。時間を優先したい方は北陸道を利用すると良い。

<装備>
カム一式。ピトン各種、クライミングシューズは無くても何とかなる。念のため鐙。お守りとしてボルトキットもあったほうが良いのかな。

<快適登攀可能季節>
8月中旬~10月上旬。残雪が無くなってからが楽しいと思う。

<温泉>
島道鉱泉:入山口にある鄙びた温泉。鉱泉だが近くから採取される天然ガスで加温している。一応入浴は17:00までとなっている。500円也

大平やすらぎ館:ゴルフ場に併設されている温泉。泉質は島道鉱泉と異なる。400円也。日帰り入浴は18:30までなので残業の場合は注意である。

<博物館など>
フォッサマグナミュージアム:地学系の博物館で興味深い展示に見入ってしまう。ここでは石の鑑定も行っているので、山で見つけた気になる石を鑑定してもらおう!(一人10個までです)

翡翠園:散策可能な日本庭園。よく考えられていて、どこから見ても趣が有る。島根県足立美術館の作庭が有名な中根金作による庭園である。構成から考察するに、彼はあの巨大なヒスイ原石を嫌悪していたのではないかと邪推してしまう。

玉翠園:同じく中根金作による庭園。こちらは観覧庭園でガラス越しにしか眺めることは出来ない。柔らかな丘による高低が印象的。

糸魚川市民図書館:糸魚川市、能生町の郷土史は重厚な作りで読み応えが有る。青海町の郷土史は発刊は古いがシニカルな語り口が面白い。ジオパーク関連資料も豊富で嬉しい。なお、能生町、青海町にも分館があるのでそちらでも資料は閲覧可能である。

2017年10月9日月曜日

裾花川 地獄谷














上方落語に地獄八景房亡者戯という好きな演題がある。地獄に堕ちた主人公とその仲間が様々な地獄へ投げ込まれるものの、数々の責め苦を笑い飛ばし、やりたい放題エンジョイする。その結果、地獄界から追い出されて娑婆に戻るというあらすじである。とにかく明るくパンクで自己中心的な人々が共同活躍する滑稽噺だ。この噺を聞く度に登山にも通じる精神を感じるのだ。どんな状況でも無茶苦茶に馬鹿をやって娑婆に帰る。無事の生還には笑い転げるほど楽しむのが必要条件なのかもしれない。

さて、マクラは終了して本題へ。いきなりの反転で恐縮だが、裾花川支流の地獄谷はどっちかって言うと極楽渓である。出合いの滝が威圧的だが登りそのものは慎重にこなせば問題ない。そこからはナメが煌くワールドだ。このナメは裾花本谷よりずっと長く続く。安山岩質ナメの合間に現われる滝は閃緑斑岩だそうだ。変化に富んだ渓相で遡行者を飽きさせない。一部土砂の流出が激しい地帯があるがこれもまた由。上部の大滝は油断せず確保して登った方が良いだろう。最後はうろこ状のスラブを快適に登って乙妻山山頂へ抜ける。縦走すれば高妻山も踏破できるので美味しいラインである。

ところで、全国にどれだけの「地獄谷」が存在するのだろう。これまで訪れた場所だけでも両手では足りない。翻って地獄尾根というのは知る限り白山にしか存在しない。古来より谷は生活に密着しながらも暗くて謎の多い場所であり、地獄谷という名称はそのような存在のメタファーなのだろう。そんな地獄も休日に無茶苦茶に楽しんでると、週があければ娑婆に強制退去させられるのだ。その娑婆の陰惨憂鬱たる様は深い井戸底で水渦に巻かれ、滝に打たれる地獄のようで・・・・。

<アプローチ>
縦走する場合入渓点と下山路が30km程度離れているので、車二台が前提となる。本谷を下降すれば充実する上、車の回収は問題にならない。近年奥裾花自然園への林道は水芭蕉と紅葉シーズン以外はクローズされている事が多い。奥裾花ダムから林道を歩き、裾花川出合いに下りる。幕営場所は標高1600mの滝マークを越えた地点が最高だ。新たに出来た六弥勒登山道を利用すれば下山口も近い。この道は歩きやすいブナ林で歩きそのものも楽しい。高妻山登山口まで富山から国道8号~国道406号経由で3時間30分くらい。

<装備>
カム一式、ピトン少々

<快適登攀可能季節>
7月~10月。泳ぎの場面が少ないので比較的遅くまで楽しめる。幕営地の標高が高いので紅葉シーズンは寒さ対策をしっかり。

<温泉>
鬼無里の湯:とんでもないところにあるが、綺麗で良いお風呂。値段も510円とリーズナブル。だが2016年5月に火災があり今年度の温泉営業再開は難しいようだ。温泉は入れないが夜17:00から食堂は営業中。

2017年10月2日月曜日

小芦倉谷










大は小を兼ねるという金言がある。幼少の頃は「うんこをする時にはおしっこも出る」が転じて生じた「おしっこをする際にもうんこをする時のように座ってすれば便器を汚さない」という意の教育訓かと思っていた。登山を始めて「最初にザックを購入するならマカルー80Lを選択すればよし」という真意を知り目から鱗がぼとぼと落ちた思い出がある。

先の金言を墨守適用し、大芦倉谷に行けば、小芦倉谷に行く必要は無い。とは言えないのが人生の妙といえる。この両谷は隣接するものの全く異なった味わいがあるのだ。

庄川との出合いは暗いゴルジュ地形から始まる。小さな小滝があるものの問題にはならない。長い流程のためか水量は多めである。標高470m付近には40mはあるだろう直瀑大滝が轟音とともに落ちている。この滝は左岸から巻いたが、泥と脆い岩に手を焼くことになるだろう。570m付近で谷は急激に狭まりゴルジュの抜け口には捩れ滝が待ち構えている。遡行時は水量が多く水芯突破が出来ずに、右岸側壁を人工交じりで登った。ここの上部は岩が猛烈に脆いので硬い表面が露出するまで丹念に岩を剥がさねばならなかった。このゴルジュ帯と大滝の巻きは相当に危ないので気合が必要なところだ。
778mまでは広い川原を歩く。ここまでが花崗岩地帯で土砂の堆積が激しい地帯だ。一本南側の支流である釿谷と似通った岩である。これより上部は熊野川流域のような固めの岩質となり森林も発達してくる。落ち込みには岩魚も数多く泳ぐようになり、穏やかな心持にさせてくれる。詰め上がるまで遡行内容は凡庸だが、下部とのギャップが面白いところだ。利賀村最高峰である三ヶ辻山と人形山を往復すれば充実するだろう。

大芦倉谷の安定した岩と異なる渓質は大変興味深い。同じ流域の沢を一つずつ調べる事でその地域の自然が深く理解できる。大きな河川では右岸と左岸に分けて調査すると何らかの相関性が推し量られる事も多い。なお、同山域における他の沢では木滝谷、野ノ俣が特に遡行が楽しい沢だ。纏めると「うんこにはうんこの、おしっこにはおしっこの楽しみがある」のである。どうもお粗末。

<アプローチ>
一泊二日では人形山登山道下山になるだろう。車2台とするか、自転車を準備すると良い。二泊三日の日程ならば、大芦倉谷を下降するのも興味深い。

国道156号は九十九折で時間が掛かる。城端から国道304号線、あるいは五箇山ICまで高速利用がお勧め。人形山登山道までの道はダートもあり車高の低い車は注意。小芦倉谷入り口にある発電所施設前に駐車する。ダムの放水時には庄川は濁流と化すため渡る事はできない。早朝であれば大方渡れるはずである。

<装備>
カム#1-3を良く使う。ピトン少々。大滝の巻きとゴルジュ帯以外でギアの出番はないと思う。

<快適登攀可能季節>
9月上旬~10月中旬。紅葉の時期に行きたい。梅雨明け直後だと残雪があるし、真夏ではオロロに発狂すると思う。

<温泉>
くろば温泉:国道横にある温泉。立地が良くいつも混雑している。600円也
五箇山荘:国民宿舎のこちらは静かで綺麗な温泉。500円也。

<グルメ>
高千代という猟師の店が有る。熊、猪、鹿は当然。なんとハクビシンも味わえる。
春には山菜、秋にはきのこと折々の味を楽しめる。お勧め。

<博物館など>
世界遺産の五箇山集落に古民家があり歴史を学べる。平家の落ち武者によって拓村された。囚人を幽閉する場所でもあった。古い流刑小屋もあるので立ち寄ろう。江戸時代には、加賀藩の火薬庫で塩硝を製造していた。ブナオ峠から火薬を運搬していたのだろうか。そんな思いを馳せながら山を楽しもう。