2019年7月29日月曜日

権現岳東璧





鉾ヶ岳は小さい山域ながら厳しい沢とスラブを有し大変魅力的である。その一角である権現岳は信仰の山であった。白山信仰を持った修験者がこの地に赴き行を積んだとされている。初めてこの山を見たとき、毎日この山を間近で仰ぎ生活する人々の気が知れないと思った。スラブを持って屹立する禍々しい山で、近くにあると全く落ち着かない。昭和61年にもこのスラブを雪崩が走り集落を襲っている。古来、この地に住んだ人々はこのような災害に度々被災しながら何を思い願ったのだろう。

さて、権現岳東璧である。筆者らは沢登りからの転進で急遽訪れたが、スラブ上の開放感が素晴らしく、スリリングな山登りを満喫することができた。こんな山はそうないのではないだろうか。クライミングらしいところは下部、ロープスケールにして約70mである。この壁の岩は節理が極端に乏しくカム、ピトンいずれも全く受け付けない。ここは先人のボルトを有りがたく使用した。といっても、ハング帯の抜け口は中々のランナウトになるので注意が必要である。我々は最終ボルトから左へトラバースし凹角を登った。全体を通してⅣ~Ⅴ級程度だろうか。急傾斜帯を抜けるともうロープの必要ない(と思う)。開放感のある広大なスラブを注意して登り続けるのみ。登山道へ抜ける藪漕ぎは殆ど無い。壁を抜けると山頂はもう目の前である。

<アプローチ>
雪崩防護柵のある万年雪の駐車場から目の前にある壁である。下山は登山道を利用するのが早い。あとは林道を歩いて万年雪駐車場へ戻る。

<装備>
クライミングシューズ、スリングとアルパインクイックドロー。ロープレスの上部はラバーソールの沢靴が登り易い。ロープは1本で十分

<快適登攀可能季節>
6月~11月。夏は暑い

<温泉>
柵口温泉権現荘:4年前に改装工事がなされて綺麗な温泉旅館になった。露天風呂付きの風呂と入り口が別の内湯が二つある。500円也

<博物館など>
フォッサマグナミュージアム:地学系の博物館で興味深い展示に見入ってしまう。ここでは石の鑑定も行っているので、山で見つけた気になる石を鑑定してもらおう!(一人10個までです)

翡翠園:散策可能な日本庭園。よく考えられていて、どこから見ても趣が有る。島根県足立美術館の作庭が有名な中根金作による庭園である。構成から考察するに、彼はあの巨大なヒスイ原石を嫌悪していたのではないかと邪推してしまう。

玉翠園:同じく中根金作による庭園。こちらは観覧庭園でガラス越しにしか眺めることは出来ない。柔らかな丘による高低が印象的。至近の谷村美術館も個性的なので訪れる価値あり。

糸魚川市民図書館:糸魚川市、能生町の郷土史は重厚な作りで読み応えが有る。青海町の郷土史は発刊は古いがシニカルな語り口が面白い。ジオパーク関連資料も豊富で嬉しい。なお、能生町、青海町にも分館があるのでそちらでも資料は閲覧可能である。

2019年7月22日月曜日

アワラ谷右俣












アワラ谷は白山の沢の中でも決して人気の高い沢ではないが捨て難い魅力がある。大白川の湯谷と同様、少し脆い岩質の谷のため下部は荒れている。2018年西日本豪雨の影響だろうか真新しい土砂が多く堆積していた。そして、本流に地形図で記載されている堰堤は破壊され無くなっていた(これは昔からかもしれない)。右俣に入り1300m付近で10m程度の滝が出てくるが処理に難儀するような代物ではない。1520m付近で右に入ると硬いスラブに水が踊るようになり俄然面白くなる。側壁に咲く高山植物の粋な演出も相まって非常に気分が良いところだ。詰めは苦しい藪漕ぎも無く尾根に上がることができる。この尾根は大きな池が3つもある不思議な尾根である。そのうちの一つを見物したがひっそりと佇む美しい池であった。きっと動植物たちの貴重な住処なのだろう。生態系を乱すことが無いよう、水には浸からずに遠くから眺める程度にしておきたい。

上部は文句なしの内容で素晴らしい。しかし下部があっさり系なのでアワラ谷右俣一本では少々物足りないかもしれない。下部での釣りと抱き合わせ、或いは秋にアワラ谷~湯谷上流部~尾上郷川上流へと継続するなど変化をつければより楽しい山旅となるだろう。

<アプローチ>
林道の入り口は鍵が掛かっている。車が入れないのならば、思い切ってミモテタくらいから下降して釣りをしながら遡行してはどうだろうか。アワラ谷下部は幕営場所豊富である。右俣の遡行自体はそれ程時間は掛からないので早めに泊まっても良いはずだ。右俣に入ってからは1500m付近にそこそこの幕営点はある。車が一台の場合の下降は1985mのピークから支流を下降するのがよいだろう。車が二台ある場合は湯谷へ下降すると楽である。下降は難しくない。湯谷へ下降後、地獄谷出合までは湖畔の藪漕ぎとへつりをすることになる。地獄谷以降は林道を使用できる。

<装備>
トライカム少々、ピトン少々

<快適登攀可能季節>
7月~10月。

<温泉>
大白川温泉:硫黄泉ーナトリウムー塩化物泉。洗い場は無いので石鹸をもって行こう。道の駅にも温泉が併設されているがこちらはあっさりとした泉質。

<博物館>
白川郷の古民家には生活の知恵が詰まっている。一度は行っておくと良いでしょう。世界遺産だし。自然に溶け込んで非常に理にかなった建物である。


2019年7月18日木曜日

三方谷右俣(野々滝谷)










国土地理院発行の地図に記載される地名はどのような基準があるのだろうか。三方谷右俣には野々滝という滝記号が付けられている。県道が敷設されたとは言え、一般の方が容易にたどり着ける場所ではない所に名称が付けられていることは驚きに値する。この谷は小矢部川流域では最も急峻な場所だ。となれば現地で確認せざるを得ない。

小矢部川本流瀬戸の長瀞が終了すると合流するのが三方谷である。出合からは良い雰囲気の渓相に時おり小滝を挟む普通の沢である。右俣懸案の急峻地帯は非常に傾斜強い巨岩ゴーロ+スラブ滝が続く。大きな滝が出てもおかしくない地形表現だが、快適に高度を上げられる。岩壁が発達してくると、お待ちかねの野々滝が近い。表現しづらいのだが、野々滝周辺は面白い地形になっている。前衛の滝2つの登りも特に難しくは無い。ご本尊は多少雲に隠れていたものの無事礼拝が叶った。高差約40m、2段となった野々滝様である。水量はやや少なめで中段の窪みとブッシュが女陰を髣髴とする特徴的な形の滝だ。しかし、これに固有名称を与え国家公認の地図に記載するのは不思議に感じる。その後も現われる滝を快適に登り、比較的薄い藪を高差100m漕いで猿ヶ山の山頂へ至った。

自らの目で野々滝を拝んだものの、名称の謎は解けない。完全な当てずっぽうだが、野々滝は刀利集落における信仰の滝であったのではないだろうか。「のの」という言葉には仏、神といった尊い存在の意味がある。女陰のようなその形から豊饒の信仰対象と化した可能性は無いだろうか。こればかりは山に行っても解ける問題ではない。ダムに沈んだ集落にはしっかりとした郷土史が作成されることが多い。また、雨の週末にでも小矢部歴史を調べる事としよう。それにしても、こんな不思議面白体験のきっかけを作ってくれる1/25000地形図は本当に素晴らしい。国土地理院にはこれからも地名の奇襲攻撃を登山者へ仕掛けてもらいたい。

<アプローチ>
標高375mの橋がある場所に駐車する。林道を歩いて入渓することも可能だが、日帰りで三方谷右俣のみを遡行対象とするならば、ぜひ瀬戸の長瀞から継続したい。猿ヶ山山頂から北側の左俣を下降するのが合理的である。

<装備>
基本スリングのみでOK。野々滝をトライするのであればそれなりに準備が必要だと思う。

<快適登攀可能季節>
7月初旬~中旬、9月~11月 早い時期だと残雪が残っているはず。7月末から8月末まではオロロが発生するので避けた方が良い。

<博物館など>
縄ヶ池:五月連休あたりに水芭蕉が満開になる。駐車場から砺波平野の散居村を一望できるのも魅力。5月ならば田植えの時期、水田の水面に反射する夕日を眺めたい。10月ならば実りの時期、赤く染まった揺れる稲穂を堪能したい。

福光美術館:福光は棟方志功が6年ほど疎開していた土地である。そのため作品が多くの作品が残されている。企画展も渋く見逃せない。別館の愛染苑も訪れたい場所である。厠にまで絵を描く棟方志功の自由な人柄が感じられる家だ。

南砺バットミュージアム:日本プロ野球の往年の名選手のバットが触れる。メジャーリーガーのバットもある。タイカッブとベーブルースが使用したバットを触って大興奮!親父さんも気さくで良い時間を過せる。

井波彫刻総合会館:井波彫刻は県外にそれほど認知されていないように思う。豪快かつ繊細な技術に感動する。瑞泉寺も行っておこう。

2019年7月17日水曜日

犀川 倉谷川














犀川上流は山深い印象があるエリアである。二又川と倉谷川という長大な沢を抱えているものの、入下山に少々難が有るためか登山者や釣り人は少ないようだ。倉谷川は登山大系で白山でも屈指の名渓と称えられている。地形図を眺めてもその片鱗は想像し難いのだが、訪れてみれば正にその通り。白山らしさを随所に感じることができる素晴らしい谷であった。

水量豊富な序盤に現われる多段の滝からが本番である。スラブの発達したゴルジュと滝が続く。この多段の滝は水量が少なければ左岸を水際をトラバースできるだろう。少々水量が多めだったので我々は左岸から右支流へと高巻いた。次に2つ続くスラブ滝も弱点に乏しい。1つ目は気合を入れれば滝の右を登れそうであったが、無難に右岸からスラブをトラバースした。ここのスラブが濡れているとやや悪く感じるかもしれない。一端沢が開けてから再び始まるゴルジュ帯は突破系。どれも簡単すぎず易しすぎない小滝が続く。美しい廊下を舐めるように堪能ところだ。10m前後の滝が現われ始めると登攀系になる。これも同じく簡単すぎず易しすぎない。概ね快適に直登することが可能だが、巻くにしても特に難しさはないだろう。筆者らは大門山を目指して登山大系に記載の無い左俣を登ったが、こちらも美しい渓相と小滝がいくつか現われて最後まで十分に楽しむことができた。

序盤の赤みを帯びたスラブゴルジュ、ぬらりとした流紋岩系のゴルジュ、節理のある滝群と白山らしい渓相が一度に堪能できる名谷である。この長さでも中弛みを感じさせる事は無い。足並みが揃ったパーティーならば、小矢部川から山越え入山することで一泊二日での山行も可能だ。この計画ならば、小矢部川との地質構造の違いを感じられるのも嬉しい(瑪瑙みたいな石が沢山あるよ!)。総合的に考えて白山の沢入門として最適ではないだろうか。

<アプローチ>
下山の便を考えると、犀川ダムから入山するよりも刀利ダムから山越えをして入山する方が良いように思う。刀利ダムから小矢部川上流部へ車で入り、標高375mの橋がある場所に駐車する。ここは瀬戸の長瀞の入山口でもある。そこから、小矢部川本流ではない沢(沢の名前は未確認)の林道を歩いたのち、沢を登り赤堂山の南北いずれかのコルから倉谷川へ下降する。この入山方法であれば、ブナオ峠から県道54号線を使って車へ戻る事が可能だ。ただし、県道54号線は荒廃しているので藪漕ぎのつもりで臨む必要が有る。安全な幕営場所はゴルジュが発達しているので限られる。そこそこの場所なら随所にあるので、好天が約束されている場合はゴリゴリ進んでも問題ないと思う。最も安全な場所としては標高631m上流の川原である。

<装備>
トライカム少々、ピトン少々。

<快適登攀可能季節>
7月初旬~中旬、9月~11月 早い時期だと残雪が残っているはず。ゴルジュ内に残っていた場合は処理に難儀するだろう。7月末から8月末まではオロロが発生するので避けた方が良い。岩魚のコンディションも合わせて考えると7月中旬が最も良いのかもしれない。

<博物館など>
縄ヶ池:五月連休あたりに水芭蕉が満開になる。駐車場から砺波平野の散居村を一望できるのも魅力。5月ならば田植えの時期、水田の水面に反射する夕日を眺めたい。10月ならば実りの時期、赤く染まった揺れる稲穂を堪能したい。

福光美術館:福光は棟方志功が6年ほど疎開していた土地である。そのため作品が多くの作品が残されている。企画展も渋く見逃せない。別館の愛染苑も訪れたい場所である。厠にまで絵を描く棟方志功の自由な人柄が感じられる家だ。

南砺バットミュージアム:日本プロ野球の往年の名選手のバットが触れる。メジャーリーガーのバットもある。タイカッブとベーブルースが使用したバットを触って大興奮!親父さんも気さくで良い時間を過せる。

井波彫刻総合会館:井波彫刻は県外にそれほど認知されていないように思う。豪快かつ繊細な技術に感動する。瑞泉寺も行っておこう。

2019年7月10日水曜日

直海谷川 右俣















直海谷川の左俣は大タル、右俣は小タルと称されている。誰が称したのまでは調査していないのだが、きっと地元の人がそう呼んだのであろう。「タル」というのは富山でも一部用いられており滝という意味がある。これを適用するならば左俣は大滝、右俣は小滝になる。ところがどっこい右俣も十分大きな滝のある沢であった。

標高850m二俣までも立派なゴルジュと滝がいくつも現われ渓谷美を堪能できるだろう。右俣の入り口は捩れ滝になっている。これはそれ程苦労は無い。940mからのゴルジュマークも困難は無く楽しく登ることができる。特に樋状の滝からナメ滝のコンビネーションは秀逸である。1200mから標高差50mのゴルジュ直瀑が2つ続く。筆者らは手前にあったボロカス雪渓とまとめて巻いたので、この2連瀑が登れる代物なのか判別できなかった。それ以降は時おり現われるナメと小滝を楽しみながら登ると稜線へ出る。稜線から奥三方山は登山道が自然に還っている。山本来の姿に何だか充実した気分になる。ここから登山道跡を藪漕ぎするのも沢を下降するのも厳しさを味わう事ができるはずだ。

全国各地で林道の荒廃が進んでいる。それに伴って登り難くなる山も増えている。それはそれでいい。遠かろうが、時間が掛かろうが本当に行きたい人は行くだろう。元来自然に接近するのは危険で面倒なのである。自然の開かれていないもう一方の扉を叩くには相応の覚悟或いは暴力的な好奇心が必要なのだろう。その扉の先は下へ続く螺旋階段になっていてまた扉がある。それがもうずっとずっと続くので、地上に這い上がれる気がしなくなってきた。地上の光はとうに届かない。こうなったら横穴を掘って快適に生活できるようにするしかない。客人があればもっと楽しいはずだ。深い地下からおいしい匂いを漂わせて待つばかり。

<アプローチ>
口三方登山道の駐車場より少し先までは車で入ることが出来る。車高の高い車ならば滝谷手前までは入れる可能性がある。しかし林道は荒廃の一途なので余り期待しないようにしたい。筆者らは滝谷手前の川原が近い地点から入渓した。谷中には決定的な幕営適地は少ない。大人数で行く際には気をつけたほうが良いだろう。奥三方山の登山道は長らく未整備なのか、足元を良く見ながら登山道の跡を探して歩くことになる。水平距離は長く、藪漕ぎにもなるので油断しない方がよい。左俣を下降するのも手強く面白い計画だ。入山口まで富山市内からは県道9号線を利用すると距離は近くそこそこ速い。およそ2時間で到着する。

<装備>
ピトン、カムを少々。

<快適登攀可能季節>
6月~10月。オロロが酷い地域なので注意。6月は残雪が残る。

<温泉>
セイモアスキー場の横に河内千丈温泉がある。静かで綺麗な良い風呂。

<博物館など>
ハニベ岩窟院:日本唯一の洞窟美術館。知る人ぞ知る日本最高クラスの珍スポット。おどろおどろしい鬼気迫る作品に圧倒される。男女で行くと水子供養かと聞かれるのでそのつもりで突入しよう。

石川県立ふれあい昆虫館:標本の数はまずまず。なにより生きた昆虫を間近に観察できる。蝶の放し飼いされた温室は凄い。皇太子ご夫妻(現天皇皇后)もこの昆虫館を訪れている。雅子妃が温室に入った際、雅子妃の頭に蝶がとまったシーンは何度もテレビ放送された。

<グルメ>
白山からの帰りにある酒屋(名前は忘れた)に日本酒入りソフトクリームがある。もちろんノンアルコール。おいしいのでいつも食べる。