富山に住んでいるとフォッサマグナ(糸魚川静岡構造線)の存在感は強いが中央構造線の存在を意識することは無い。中央構造線の境界に目を向けると、中部地方では南アルプスと伊那山地跨る上村川~青木川に境界がある。
万古川の戸倉沢は中央構造線の西側に当たり、領家帯と呼ばれる花崗岩で構成されている沢である。直近で遠山川流域の沢を登っていたので、高々20キロくらい車で走るだけでこれほど性質が異なることに驚く。出合いからしばらくは穏やかな谷で時折現れるナメ状に癒されながら淡々と歩く。このまま終了かと思いきや突然地形図には似つかわしくないゴルジュ状になって滝をかけ始める。502m二俣手前のゴルジュでは一段目は快適に登れるものの2段目は手が付けられない。2段目単体を巻こうとしても泥とスラブ、か弱い草付きと傾斜に阻まれて断念。一旦下降して大きく高巻いた。天候と時間の都合により谷京峠へと抜ける左俣に進路を取ったが、ここは倒木により谷が荒れていた。名前の由来となった戸倉山山頂へと至る本流もいずれ訪れてみたいものだ。
谷京峠から名田熊へと下降する道を辿って驚愕したのは山中に大きな家屋が存在したことだ。しかも一部の家屋に2016年のカレンダーが掛かっていることから最近まで住んでいたことが分かった。ここは最終道路から標高差100m以上高い場所にあるにも関わらずにもだ。周囲には墓地と思われる石仏が祀られており歴史を偲ばせる。下山した林道終点に地元新聞記事の切り抜きが張られていて判明したのだが、この谷京峠は秋葉権現への参詣路の最短道として往時は相当な賑わいを見せたようだ。名田熊集落に有った大きな家屋は峠の宿場として営業していたものが、やがて森林管理用へと切り替わったのであろう。祀られていた石仏は鎌倉様と呼ばれており、源実朝の一子吉若を祀ったものであることも分かった。思わぬ歴史文化との邂逅を得て旅の良さをしみじみ味わうことができた。
山中の急斜面に構造物を立てて、現存しているというのは富山県では考えられないことだ。そして道の往来が年中行われ、その目的が富山ではあまり信仰の篤くない秋葉権現へ参詣であったとはとても興味深い。このほか、万古川本流左岸にもかつての集落跡があり歴史を感じることができた。このような旅風情と大地の営みをビッタビタに感じる登山をするならば中央構造線の境界線、南アルプスから伊那山地で決まりだね!
<アプローチ>
地形図で示されている万古隧道出口から続く、万古川へと下降する登山道マークの道は健在で歩くことができる。廃村となった万古集落を過ぎてからは道が判然としない。川原を歩いても問題ない。
<装備>
念のためカム少々とピトン。ヒルがとても多い山域なので気になるならば相応の対策をした方がいい。
<快適登攀可能季節>
良く解らないけど、たぶん5月~10月がいいと思う。
<温泉>
天龍峡温泉交流館 ご湯っくり:広い施設ではないがアットホームな雰囲気とぬるりとする特徴的な泉質が面白い。
<博物館など>
天竜川総合学習館・かわらんべ:天龍峡にあるその名の通り天竜川流域を総合的に学ぶことができる無料博物館。体験型学習のみならず、常設展示や企画展示もあり面白い。さらには充実の河川関連資料も魅力的で時間を忘れる。