2021年8月29日日曜日

万古川 戸倉沢

 

















富山に住んでいるとフォッサマグナ(糸魚川静岡構造線)の存在感は強いが中央構造線の存在を意識することは無い。中央構造線の境界に目を向けると、中部地方では南アルプスと伊那山地跨る上村川~青木川に境界がある。

万古川の戸倉沢は中央構造線の西側に当たり、領家帯と呼ばれる花崗岩で構成されている沢である。直近で遠山川流域の沢を登っていたので、高々20キロくらい車で走るだけでこれほど性質が異なることに驚く。出合いからしばらくは穏やかな谷で時折現れるナメ状に癒されながら淡々と歩く。このまま終了かと思いきや突然地形図には似つかわしくないゴルジュ状になって滝をかけ始める。502m二俣手前のゴルジュでは一段目は快適に登れるものの2段目は手が付けられない。2段目単体を巻こうとしても泥とスラブ、か弱い草付きと傾斜に阻まれて断念。一旦下降して大きく高巻いた。天候と時間の都合により谷京峠へと抜ける左俣に進路を取ったが、ここは倒木により谷が荒れていた。名前の由来となった戸倉山山頂へと至る本流もいずれ訪れてみたいものだ。

谷京峠から名田熊へと下降する道を辿って驚愕したのは山中に大きな家屋が存在したことだ。しかも一部の家屋に2016年のカレンダーが掛かっていることから最近まで住んでいたことが分かった。ここは最終道路から標高差100m以上高い場所にあるにも関わらずにもだ。周囲には墓地と思われる石仏が祀られており歴史を偲ばせる。下山した林道終点に地元新聞記事の切り抜きが張られていて判明したのだが、この谷京峠は秋葉権現への参詣路の最短道として往時は相当な賑わいを見せたようだ。名田熊集落に有った大きな家屋は峠の宿場として営業していたものが、やがて森林管理用へと切り替わったのであろう。祀られていた石仏は鎌倉様と呼ばれており、源実朝の一子吉若を祀ったものであることも分かった。思わぬ歴史文化との邂逅を得て旅の良さをしみじみ味わうことができた。

山中の急斜面に構造物を立てて、現存しているというのは富山県では考えられないことだ。そして道の往来が年中行われ、その目的が富山ではあまり信仰の篤くない秋葉権現へ参詣であったとはとても興味深い。このほか、万古川本流左岸にもかつての集落跡があり歴史を感じることができた。このような旅風情と大地の営みをビッタビタに感じる登山をするならば中央構造線の境界線、南アルプスから伊那山地で決まりだね!

<アプローチ>
地形図で示されている万古隧道出口から続く、万古川へと下降する登山道マークの道は健在で歩くことができる。廃村となった万古集落を過ぎてからは道が判然としない。川原を歩いても問題ない。

<装備>
念のためカム少々とピトン。ヒルがとても多い山域なので気になるならば相応の対策をした方がいい。

<快適登攀可能季節>
良く解らないけど、たぶん5月~10月がいいと思う。

<温泉>
天龍峡温泉交流館 ご湯っくり:広い施設ではないがアットホームな雰囲気とぬるりとする特徴的な泉質が面白い。

<博物館など>
天竜川総合学習館・かわらんべ:天龍峡にあるその名の通り天竜川流域を総合的に学ぶことができる無料博物館。体験型学習のみならず、常設展示や企画展示もあり面白い。さらには充実の河川関連資料も魅力的で時間を忘れる。

大所川 ヨグラ沢

 





















ヨグラ沢は頸城の中でも秀渓と呼べるほど素晴らしい谷だ。地形図に示された意味深な名前とほどほどなスケール、知名度の薄さからいずれ行きたい所であった。計画しては天候の都合で流れを繰り返していたが漸く訪れる事ができた。Google先生に尋ねてみて驚いたのはここを訪れるような同志がいたこと。このような北陸の無名の自然に目を向けている人が少なからず存在することが寿ぐことで実に嬉しい。余勢を駆って富山県へ移住していただければいいなぁ。

出会いからゴルジュ内に小滝が連続する。登ったり巻いたりするが極端に悪い箇所は無い。この谷全体を通してだが、合理的な巻きのラインを見出すことがポイントとなる。谷の全ての滝で弱点を突けば懸垂下降することなく落ち口へと降りることができる。確保して直登する滝は5mに足らないものばかりだがどれも面白い。巻きでも確保が必要な場面が多くなるがブッシュで支点が取れるので問題ないだろう。

760m付近の二又では豪快な2段瀑が現れる。ここから上部がこの谷の最も美しくて楽しい箇所だ。快適なシャワークライミングとナメ状の岩盤を踊る水を楽しもう。やがて高差40m程度のハングに掛かる大滝が現れる。空中に水を一気に落とす存在感抜群の素晴らしい大滝だ。この上にもう一段15mの滝があるが登れないので纏めて右岸から巻く。大滝以降は渓相は落ち着きを見せる。時折シャワークライミングや滝横を登るが確保の必要は無いだろう。1350m付近の2段滝を右壁から登り終えると沢登りとしての核心は終了となる。1600m付近まで本流を詰めてみたが遡行興味が薄い谷となっていたのでツリコシ沢へと下降した。

ヨグラ沢の岩は硬い泥岩とSiO2リッチな溶岩で構成されているように感じた。ゴルジュは泥岩、小滝とナメ状の美しい光景は流紋岩質の溶岩(或いは凝灰岩)で構成されている可能性が高い。異なる性質の岩が絶妙に配置されることで遡行内容に多様性を与えてくれる。有難い演出だなあ。ツリコシ沢の岩はシマシマの圧力系変成岩で全くことなる性質を示していたのも興味深い。ツリコシ沢下部では緑色に輝く脆い岩があり崩壊を誘発していた。あの脆い岩は何なのだろう?

<アプローチ>
蓮華温泉に向かう林道の途中から分かれる大所川林道の入り口に駐車して歩く。ゲートの鍵の番号を知っているのか、釣り人の車がじゃんじゃん鍵を開けて入っているのが恨めしい。下山は1653m地点からツリコシ沢へ取った。少し本流を遡行したけど遡行としての興味は薄く、黒負山は藪が盛んな山のようだし、山頂へ至る意義を見いだせなかった。幕営適地は少ない。小さな場所であれば幾つもあるが決定的な場所は無い。好天を選んで訪れたい。

<装備>
ピトン少々、小さいカムが有ったら使うかも。釜が深い滝の上陸用にバイルタイプのハンマーを推奨。磨かれた岩でフェルトだと滑る気がしたが、ラバーで良いという保証もない。なのでフェルトで良いと思う。

<温泉>
姫川温泉瘡の湯:最寄りの温泉で古くから信玄の隠し湯として知られているそうだ。源泉50℃の源泉かけ流しのため浴槽が44℃くらいと熱い!水で薄めないと入れなかったが、湯治場のような雰囲気で楽しい温泉。600円也。

糸魚川ひすい温泉:塩泉かつナトリウム泉という温まりながら美肌も謳える贅沢な泉質の日帰り温泉。ちょっと施設は古めだが22:00くらいまで営業しているので遅くなっても入浴可能。650円也

このほか帰りしなならば、朝日町の境鉱泉、たから温泉、地中海などナトリウム泉の温泉がある。500円くらいで入浴可能

<快適登攀可能季節>
8月~10月。

<博物館>
糸魚川有るフォッサマグナミュージアムは素晴らしい。ここでは石の鑑定も行っているので、山で見つけた気になる石を鑑定してもらおう!(一人10個までです)

翡翠園:散策可能な日本庭園。よく考えられていて、どこから見ても趣が有る。島根県足立美術館の作庭が有名な中根金作による庭園である。構成から考察するに、彼はあの巨大なヒスイ原石を嫌悪していたのではないかと邪推してしまう。

玉翠園:同じく中根金作による庭園。こちらは観覧庭園でガラス越しにしか眺めることは出来ない。柔らかな丘による高低が印象的。

2021年8月22日日曜日

子不知  権現山 洞川

 










親不知・子不知の海岸へと落ちる谷の中で唯一滝記号が記されているのが洞川である。しかもその水源である権現山は石灰岩ときている。親不知は花崗岩類であるため、石灰岩と花崗岩が直接接触する珍しい地域。これは行かねばなるまい。

スタートは日本海なので海水タッチしてから入渓。堰堤を越えると硬い岩に水が躍る小滝が連続する。そして北陸では珍しい照葉樹林によるジャングル感の演出が印象的だ。登りは快適そのものであり、クライミング的にも楽しい。水量は少なく水はぬるい。加えて水流沿いにホールドが豊富なので積極的にシャワーを楽しみたい。地形図の滝マークは計35mくらいの連瀑となっている。この登りもあくまで爽やか。標高200mの二俣から上部以降は傾斜が緩くなるが藪は少なく、自然と送電線巡視路へと出ることができる。標高200mくらいから石灰岩質の岩が散見されるが、花崗岩マグマの熱で焼かれたのか結晶質となっている石も多い。権現山にはカッレンフェルト、とまでは言えないが石灰岩ボルダーがちょこちょこあって面白い。こちらは結晶化していないので、川床の石はやはり花崗岩マグマの熱の影響があったのであろう。

自然観察だけではなく、沢登り的にもとても楽しい谷だ。クライミング要素も十分あるので沢登り入門としても推薦したい。小さい山なので下山を含めて4時間以内でも十分楽しむことができる。水量の心配をしなくても良いので降雨後、ちょっとした時間の合間など訪れるなど利用価値が高い。

<アプローチ>
国道8号線の深谷スノーシェッド手前のスペースに駐車して入渓する。下山は送電線巡視路を利用して子不知トンネル方向へ降りることを推奨したい。筆者らは勝山方面へと降りる谷を下降したが、この谷の上部が猛烈な蔦藪地帯で悶絶しながら這い這いしたり、乗り上がったりと大変苦労した。

<装備>
基本的に何もいらないが、沢慣れしていない場合はカムとピトンが少しあれば安心。

<快適登攀可能季節>
4月~11月。標高が低いので長い時期楽しめるだろう。

<温泉>
境温泉:たから温泉と境鉱泉の2施設ある。境鉱泉は備え付けの石鹸類が無いので要準備。

<博物館など>
護国寺:別名石楠花寺。とやま花名所に選ばれるだけある庭園。シャクナゲとツツジの時期が素晴らしい。謎の置物も気になる。

朝日町歴史公園:縄文時代の不動堂遺跡が再現されている他、江戸時代町屋であった旧川上家の家屋が当時の状態を保ったまま移設されている。ここでは朝日町名産のバタバタ茶を自分で点てて試飲できる。12月~3月は閉館するので注意。

朝日町立 ふるさと美術館:昨今の大正アートブームで再注目の竹下夢二の作品を所蔵している。江戸~大正期、朝日町の泊は宿場町で大いに栄えており、その盛り場に夢二が訪れていたようだ。妻たまきとの破局事件の舞台は宮崎海岸だ。この情事の続きは朝日町の図書館で。

百河豚美術館:野々村仁清の作品を数多く展示している。デフォルメされた鶏が描かれコップもあり、仁清のモダンな感性を感じる事ができる。他にも話題の伊藤若冲や、尾形光琳に酒井抱一といった琳派ビックネームの作品も展示。

下山芸術の森発電所美術館:きらりと光る興味深い展示をやっている。こちらも12月~3月の冬季は休館するので注意。

杉沢の沢杉:地口か回文のような名称だが素晴らしい場所。田園と防風林の中にポツリ広がる湿地杉林で、まるでもののけ姫の森のようである。近年、入善乙女キクザクラという桜の新種がここで発見されている。この原木は未だ杉沢の沢杉でしか発見されていない。北陸は菊咲きの桜の品種が多いらしい。

鉾ヶ岳 ヒソノ又







鉾ヶ岳山塊、権現岳の南側に流れるのがヒソノ又川である。登山大系に名称記載は無いが、能生町史にはしっかりとその名前が書かれている。

ヒソノ又川にはしっかりと滝マークが2つ記載されており、その1箇所目の直近まで林道が敷設されているので取り付きやすい。最初の滝マークは傾斜はそれほどでもないし、支点も取り易いので快適に登れるだろう。しばらくは硬い岩盤を小滝が散発的に表れる楽しい雰囲気。もう一つの滝マークは登れるかちょっと微妙な感じ。鉾ヶ岳周辺の他の谷と同じ硬い岩質で支点が取りづらいだろう。その上部は釜を持った小滝が幾つか現れて美しい。ホールドが乏しいのも多いが小さく巻くことは簡単な地形なので問題ないだろう。筆者らは840m付近から下降したため、それより上部は解らない。水量が少ない谷なので詰めは灌木モンキークライムになるかもしれないが、進退窮まることは無いだろう。

<アプローチ>
西飛山から滝マークがあるところまで地形図で林道が示されているが、実際にここは車が通行できる林道となっている。舗装されているものの、ちょっと悪い箇所もあるので注意。下山は権現岳経由で柵口へと登山道を使って降りるのが良い。

<装備>
カム#0.2~2まで一式。ピトン各種。滝の登攀にクライミングシューズは要らないと思う。

<快適登攀可能季節>
7月~11月。夏は暑いしオロロが酷い。

<温泉>
柵口温泉権現荘:露天風呂付きの風呂と入り口が別の内湯が二つある。600円也

<博物館など>
フォッサマグナミュージアム:地学系の博物館で興味深い展示に見入ってしまう。ここでは石の鑑定も行っているので、山で見つけた気になる石を鑑定してもらおう!(一人10個までです)

翡翠園:散策可能な日本庭園。よく考えられていて、どこから見ても趣が有る。島根県足立美術館の作庭が有名な中根金作による庭園である。構成から考察するに、彼はあの巨大なヒスイ原石を嫌悪していたのではないかと邪推してしまう。

玉翠園:同じく中根金作による庭園。こちらは観覧庭園でガラス越しにしか眺めることは出来ない。柔らかな丘による高低が印象的。至近の谷村美術館も個性的なので訪れる価値あり。

糸魚川市民図書館:糸魚川市、能生町の郷土史は重厚な作りで読み応えが有る。青海町の郷土史は発刊は古いがシニカルな語り口が面白い。ジオパーク関連資料も豊富で嬉しい。なお、能生町、青海町にも分館があるのでそちらでも資料は閲覧可能である。

鉾ヶ岳 イヨリ谷

 








イヨリ谷は鉾ヶ岳の谷の中でもめちゃ傾斜の強い谷がである。序盤はゆるーとした渓相なのだが650m付近から谷とは思えない傾斜でトッケ峰へと突き上げている。衛星写真では壁のようにも見えるが、登れるものか登れないものかはちょっと判断はできない。近いし、登れたらラッキーぐらいの気持ちで入山した。

477mの二俣を右に進むと、岩壁の鎧を纏ったおどろおどろしい谷にビビる。右支流を分けてすぐに5m、6mの2段滝。鉱泉が湧いていて、硫黄の臭いが漂っているのが印象的な滝。1段目はカムで支点を取りながらスリリングなフリークライミング。2段目はネイリングで支点を取りながら岩と泥草付きミックスで沢クライミング感全開。しばらくは歩きやすい。幾つか登り易い滝を越えると、岩壁状に掛かる2段30m滝が現れる。1段目は問題なく登れるが、2段目はリス、クラックに乏しい緻密な岩で支点が取れない。うーんここまでか。下流側のチムニー状ルンゼを25mくらいクライミングしてから、ボロイスラブとちょいやばい草付きを登って灌木帯へ。そこから傾斜の強い灌木帯をロープを出しながら数ピッチ伸ばして尾根へと逃げた。尾根へと抜ける手前でイヨリ谷を見ると、同高度までスラブ状滝が続いているのが望まれ慄然とするのであった。

鉾ヶ岳区画の地形図では滝ノ内沢の傾斜表現でギリギリ勝負できる渓相なのだろう。それでもボルト埋設で漸く登れる代物なのだ。それよりも傾斜が強い谷は非常に難しい。ホールドは割合ポジティブなので登れる可能性はあるが、支点が取れないのが大きな問題だ。意欲のあるクライマーの皆様、いかがでしょうか。

<アプローチ>
南又川手前の林道入り口に駐車して少し林道を歩いて堰堤を越えてから入渓する。南又川周辺に地形図で示されている登山道マークは道が有ったり無かったりで期待しない方がいい。そして西飛山へ通じる登山道は廃道化しており使用不可。北側のヒソノ又川を下降するか尾根をヤブコギして権現岳経由の下山とするのが良い。なお、海谷や鉾ヶ岳の登山道情報は糸魚川登山マップとして糸魚川市がPDF配布しているのでとても便利。

<装備>
カム#0.2~2まで一式。ピトン各種を沢山。マジで連瀑帯を突破するのであればラープとペッカーがあれば結構使えそう。ヌメリは少ないが、ままあるのでラバーソールが有利とも言い切れない。クライミングシューズは流心を登るのであれば有効だが、ちょっと外れるとドロドロで滑る。

<快適登攀可能季節>
8月~11月。夏は暑いしオロロが酷い。

<温泉>
柵口温泉権現荘:露天風呂付きの風呂と入り口が別の内湯が二つある。600円也

<博物館など>
フォッサマグナミュージアム:地学系の博物館で興味深い展示に見入ってしまう。ここでは石の鑑定も行っているので、山で見つけた気になる石を鑑定してもらおう!(一人10個までです)

翡翠園:散策可能な日本庭園。よく考えられていて、どこから見ても趣が有る。島根県足立美術館の作庭が有名な中根金作による庭園である。構成から考察するに、彼はあの巨大なヒスイ原石を嫌悪していたのではないかと邪推してしまう。

玉翠園:同じく中根金作による庭園。こちらは観覧庭園でガラス越しにしか眺めることは出来ない。柔らかな丘による高低が印象的。至近の谷村美術館も個性的なので訪れる価値あり。

糸魚川市民図書館:糸魚川市、能生町の郷土史は重厚な作りで読み応えが有る。青海町の郷土史は発刊は古いがシニカルな語り口が面白い。ジオパーク関連資料も豊富で嬉しい。なお、能生町、青海町にも分館があるのでそちらでも資料は閲覧可能である。