2021年8月14日土曜日

遠山川 北又沢支流葡萄沢














 ここまで快適で楽しい沢はそうお目にかかることはできない。葡萄沢はそれくらい素晴らしい谷であった。

 南アルプスの谷はどれもスケールが大きいうえ、アプローチも時間がかかることが多いために日帰りの沢が余り無さそうな印象がある。そうは言っても、お天気の都合もあるので休暇中いつでもお泊り山行が叶うとは限らない。有事の際に備えて事前に調べておけば良いのだが、そんな周到な準備はしないので現場で地図と睨めっことなる。すると、<隕石クレーター><池><神社>といった興味深い表示が地図上に示されている谷があるではないか。それが葡萄沢との邂逅であった。現場での生半可な調査では1439mの地点表記がある支流のどこかに2~3万年、直径900mの隕石が落下したことが分かった。人類史も始まっている比較的最近でもこれだけのスケールの隕石が落下していたことに驚く。これは行かねばなるまい。

 下部はゴルジュ状の地形表現(あまり見かけない表記)はそれほどゴルジュではないが、10mクラスの滝やナメが幾つも現れる。全く予想だにしない展開に期待が高まる。岩石は中央構造線東側の南アルプスらしい付加体メランジなのであろう。もしかしたら、隕石衝突時の熱や圧力で変性していたりして。ともあれ色々な岩が混在しているのが楽しい。滝は容易に登れたり、巻けたりする。巻きでは木の根っこをホールドとする場面が多いが、足元は枯葉と砂利で不安定だ。草付きが多い北陸の巻きとは勝手が違うので寧ろ緊張するだろう。 
 980m地点で左の沢へ入り、隕石落下方面へと向かう。この支沢は川原とゴーロが無い、沢登り的には最高な渓相である。豪快なシャワークライミングにスラブ登りといった爽快な滝登りと美しいナメが交互に現れて唖然呆然となる。しかも長さも十分で登り応えもある。敢えて北陸の沢に例えるのであれば、竹田川の小倉谷のスケールを2.2倍にしたような谷だ。適当に計画立案した登山でこのような僥倖を味わうと罪悪感さえ覚える。
 数えてもキリがないくらいの滝を越えていくと、やがて水はガレも無く森へとやんわり吸収される。そこから林道へはあっという間だ。御池山の少し下から笹が現れるが、ネマガリタケのような竹槍ではないので、優しいタッチでご挨拶可。山頂下にある池は思ったよりも大きかった。雨乞いの際にはこの水を持ち運んだそうだが、途中でこの水をこぼしてしまうと大雨災害が起こるとの言い伝えがあるそうだ。雨乞いの為にこの山に登るというのも興味深い文化だ。

 南アルプス界隈ではこの沢は有名なのだろうか。これほど面白い沢ならば多くの登山者を迎えても良さそうなものだが、地理的に不遇な存在になってしまっている可能性も高い。ほかにも南アルプスには素晴らしい渓谷が沢山あるのだろう。ああ素晴らしき哉!

<アプローチ>
富山からは中々距離があるので辛い。芝沢ゲート手前の北又発電所に車を停車して北又沢右岸に敷設された林道を歩いて入渓する。下降はコスマ沢かボッタ沢が良い。筆者らは上部に崩壊地形のあるコスマ沢を避けてボッタ沢を下降した。標高1300m付近では標高差100mくらい連瀑となるが、懸垂下降とクライムダウンで対応する。この辺は放散虫と酸化鉄がコラボした赤色チャート地帯で感動的。



この1300m~1200m付近以外は非常に下降しやすい沢であった。下降も含めると意外に時間がかかるので敢えて一泊するのも良いかもしれない。

<装備>
念のためカム少々か適当なパッシブプロテクション。岩は非常に硬いので支点は取り易い。ヒルの生息地帯なので気になる人は対策した方がいい。

<快適登攀可能季節>
良く解らないけど、たぶん5月~10月がいいと思う。

<温泉>
遠山郷かぐらの湯:道の駅に併設された入浴施設。源泉の引水システム不良からしばらく市水加温の銭湯となっている。経営母体が公営に切り替わっており、修繕予算が充てられるまで我慢。

<博物館など>
天竜川総合学習館・かわらんべ:天龍峡にあるその名の通り天竜川流域を総合的に学ぶことができる無料博物館。体験型学習のみならず、常設展示や企画展示もあり面白い。さらには充実の河川関連資料も魅力的で時間を忘れる。


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