2023年2月27日月曜日

硫黄岳前衛峰 東壁左岩壁












硫黄岳前衛峰東壁は左岩壁と正面壁に小別されている。アプローチルンゼから正面に見え、藪と壁が交互に現れるのが左岩壁で、北壁に近いぶっ立ちサイドが正面壁である。壁を見上げて山頂のように見える箇所まで高差350mと中々登り応えのあるのが東壁の売りポイント。

東壁を一目見て最も登れそうなのが左岩壁と正面壁のコンタクトラインとなる氷雪と岩のミックス。これがまた傑出のラインで、ちょっとした歩きとコンテを含め10ピッチ程の楽しーいラインなのである。ルンゼから一段上がるところは難しすぎず、簡単すぎない右岸ガリーを選択した。2ピッチ目は草付きを跨ぎ広いルンゼへ至ると意外にも氷が発達しており嬉しい。傾斜を緩んだ箇所を挟んで傾斜の強い岩場へ。草付きへと左トラバースするところがバランシーで面白い。るんるんな氷雪を挟んでから稜へと抜けそうに見える岩壁部へ至る。適当に弱点を探して取り付くが、抜け部分の傾斜は強く思いがけないミックスクライミングとなる。この箇所で初登時と思われる残置物を発見し、やはり適当に登れどラインは被るものと得心。ちょいムズを登り終え、終わったかなーと思ったら雪のバンドの奥に再び氷の張ったルンゼが見える。思いがけない楽しいルンゼを2ピッチで登る。以後、藪交じりの岩稜が続いていたが、明確な岩場は無くなったので終了とした。確証はないが標高2000~2080m付近だったと思う。

これだけのスケールがあって冬楽しめる壁というのも大変珍しい。殆どのピッチはⅢ級程度であり、最大瞬間風速はⅣ~Ⅳ+級くらいで難しくはない。鹿島槍北壁主稜をちょっと難しくして、1.5倍のスケールにした感じと言えば伝わるだろうか。岩場部分で氷が発達するのであればもっと充実するライン取りも可能だろう。きっと山の中にはまだまだ面白いラインが隠されているはず。宝探しはまだまだ続く。

<アプローチ>
 葛温泉に駐車し高瀬ダムから湯俣方面へ。湯俣までは良く整備された登山道であるが、湖畔の林道歩きは小ルンゼを跨ぐので実は危ない気がする。
 湯俣からは水俣川を遡行する。渡渉を幾度か求められるので、早急なアプローチには何らかの対策が必要。釣り用の胴長ゴム長靴を履いていくとジャブジャブ行けるので早い。
 壁へのアプローチは登山大系の概念図に間違いがあるので注意が必要。中東沢から至近の東壁が見えるルンゼ(標高1510mから出合うガレマークのあるルンゼ)を詰める。幕営は水俣川のほとり樹林帯に張れる。登攀後の下降は同ルート下降が無難。殆ど捨て縄を使わなくても下降可能。壁を登るだけならば、稜線歩きのリスクはない。もう少し登られても良さそうな場所である。

<装備>
カム1セット、トライカム少々、ピトン少々、アイススクリュー2本くらい。氷が発達した好条件ならばスクリューはもっと準備したほうがいい。

<快適登攀可能季節>
12月~3月上旬。雪が安定していないと取り付きまでのアプローチが怖い。ベストシーズンは恐らく2月中旬から3月上旬で北壁よりもちょっと早い。日当たりがいいので、できれば高曇りの日を選んで登りたい。

<博物館など>
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。ボルダリング壁も一回500円で一日利用可。

塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。

<温泉>
上原の湯:地域に親しまれている温泉でリーズナブル。

<グルメ>
昭和軒:大町駅近くにあるカツ丼の店。大盛りはプラス100円で凄い量が食べられる。 

硫黄岳前衛峰 北壁第1ルンゼ

 







硫黄岳前衛峰にある壁はとても面白いと思うのだが人気が無い。コンディションさえ掴めればベースキャンプ方式で遊んでよし、硫黄尾根へ継続してもよし、魅力的な立地なのである。

とはいっても、壁そのものはぶっ立ち+節理に乏しいため登れそうなラインは限られる。北壁での最弱点は最も奥にある第一ルンゼで間違いない。ゴルジュに氷が張っている様は錫杖北東壁のルンゼのようだ。下から見える氷を登ると左手にさらに立派な氷瀑が懸かっている。筆者らはそのまま簡単なルンゼを本流を詰めたが、この氷瀑を登り尾根へ抜けたら充実しそう。下降は北壁へとアプローチしてきたルンゼの本流へとる。ここもゴルジュ状の地形でその景観は壮観だ。このアプローチルンゼ内には氷結状態如何によって登れそうなところが複数ある。コンディションを掴んだら遊んでみたいものだ。

<アプローチ>
 葛温泉に駐車し高瀬ダムから湯俣方面へ。湯俣までは良く整備された登山道であるが、湖畔の林道歩きは小ルンゼを跨ぐので実は危ない気がする。
 湯俣からは水俣川を遡行する。渡渉を幾度か求められるので、早急なアプローチには何らかの対策が必要。釣り用の胴長ゴム長靴を履いていくとジャブジャブ行けるので早い。
 壁へのアプローチは登山大系の概念図に間違いがあるので注意が必要。中東沢から至近の東壁が見えるルンゼ(標高1510mから出合うガレマークのあるルンゼ)を詰める。幕営は水俣川のほとり樹林帯に張れる。登攀後の下降はルンゼ左岸の尾根を乗越して懸垂下降かクライムダウンをして隣のルンゼを降りられる。壁を登るだけならば、稜線歩きのリスクはない。もう少し登られても良さそうな場所である。

<装備>
カム小さいの、トライカム少々、ピトン各種、アイススクリュー10~12本くらい

<快適登攀可能季節>
12月~3月。雪が安定していないと取り付きまでのアプローチが怖い。3月のほうが氷の発達が良いはず。北面なので一回雨が入り、東壁や谷の雪が落ちきってから登るのが良いと思う。東壁の旬と若干時期がずれるので両方楽しみたい場合は悩ましい。

<博物館など>
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。ボルダリング壁も一回500円で一日利用可。

塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。

<温泉>
上原の湯:地域に親しまれている温泉でリーズナブル。

<グルメ>
昭和軒:大町駅近くにあるカツ丼の店。大盛りはプラス100円で凄い量が食べられる。

2023年2月6日月曜日

戸隠 西岳P6稜

 







 記録の少ない山域においての登山記録というのは有効期限が長くなり延々と用いられがち。行ってみたら、あっけないという事は多々ある。増して状況が多様な雪稜であれば猶更である。西岳東面の各稜で末端から明確な尾根上を呈してそれなりに長さもあるのはP1、P3、P5およびP6と言える。その中でP6というのは初登以外の記録が少ない。3日間かかったという記録もあれば日帰りで十分という話もある。何はともあれ面白そうなので気楽にレッツゴー。

 尾根の末端から胸を突くような急登雪壁で盛り上がる。雪の処理に慣れていないと大分と時間はかかりそうだ。樹林帯が随分と高くまで続いており雪壁でずんずん標高を稼ぐ。登山大系に殆ど壁に雪が付いていないと書いている第一岩壁だが、これは全くの間違いで積雪期はほぼ雪に埋まっている。雪を掘り起こして草付きダブルアックスで登ろう。第二岩壁も埋まっていたようでどこだったのか判然としない。ちょっとした岩の段差草付きの凹状を40mくらいダブルアックスで登ったがそこだったのだろうか。ここもイボイボとブッシュで支点を取りながら快適クライミングだ。続く第三岩壁も埋まっており、尾根から左側へトラバースし雪壁へと抜けた。もう終わるのかな、と思ったが核心は稜線直下の高差60mにあった。これまで登ってきた尾根はナイフリッジから岩搭へと続いて登れなくなるので左側へとクライムダウンか懸垂下降をする。岩峰の間に食い込むルンゼを除雪系ダブルアックスで2P登ると稜線直下に達する。稜線直下も傾斜の強い草付きダブルアックスからキノコ雪を除雪して巻くようにして這い上がる。

 キノコ雪の要素は稜線のみで、雪壁とダブルアックスが楽しい爽やか系好ルートであった。積雪条件にも依るが北アルプスの冬壁を登っている人であれば中々楽しめるのではないでしょうか。 

<アプローチ>
P6稜はP5稜を過ぎて谷を越えてすぐの尾根。品沢高原の最終除雪地点に駐車して林道を歩く。筆者らは地図通りに尾根末端から取り付いた。幕営できる箇所は第三岩壁基部が比較的平で安全だったような。しかし、短い尾根なので敢えて泊まる必要は無いように思う。下降はP5稜を下降するのが安牌。少し歩いて下降し、懸垂下降を2回行ってからルンゼを降りていけば早く下降できる。参考までにP6尾根取り付きから林道到着までの時間は9時間だった。

<装備>
ダブルアックスで傾斜の強いところを登るのでアックスはひん曲がって小指がひっかけられる方が便利。稜線直下はスコップ除雪も必要となる。イボイボは必携で3~4本

<快適登攀可能季節>
2月~3月上旬。草付きが凍っている時期でないと難しく感じると思う。第1~第3岩壁に雪が付いていないと印象は変わってくると思うが、各岩壁とも傾斜は緩いのでにそんなに難しくはないと思う。

<温泉>
鬼無里の湯:とんでもないところにあるが、綺麗で良いお風呂。リーズナブルはお値段も嬉しい。火災から復活して無事に営業中。ただし、日帰り入浴は早く終了するので要確認。レストランでご飯も食べられるよ!

戸隠 西岳P3稜

 







 戸隠山塊の西岳辺りの岩壁は禍々しい。黒々としたとした凝灰岩に大きさの異なる礫が無残に埋まる様は阿鼻叫喚といった風情。もし、地獄の演出してくれと業務委託された折には、この辺の岩を贅沢に配しゴージャスな三途の川大ゴルジュ帯を作成しようかと思っているところである。そんな西岳の岩を登ろうとしたとき、礫を含んだ凝灰岩はクラックが極めて乏しく、リムーバブルプロテクションは受け付けないので相当に難儀する。それでも先人たちは溢れんばかりの登行意欲をあらゆる道具を駆使しつつ発散させており、西岳の各稜もしっかりと登られている事実には執念を感じる。P3稜は登山大系を読むと特殊ボルトがどうのこうの記載されており、現代の感覚では今一つピンとこない。この辺の山域の取り扱われ方を考えると初登以後ボルトが追加された可能性は低い。登れるかどうかはさておき、遺跡観光と登山が楽しめると考えたら一石二鳥である。

 傾斜の緩い尾根を楽しくラッセルしていくと他の岩壁より品位に欠ける泥壁が出現する。これがナマズ岩壁で右から余裕で巻ける。何がどうナマズなのかは謎である。しばし雪稜をラッセルするとすぐにマッコウ鯨の岩壁である。と言っても、2月では岩壁は殆ど埋まっている。左側から雪壁を登っていくが、稜に上がる高差5mだけクライミングとなる。ここは草付きダブルアックスで快適なフリークライミングで登れた。何がどうマッコウ鯨なのかは謎である。ちょっとキノコ雪が発達したリッジを歩いてから現れるピークは右から草付きダブルアックスで登る。ピークからは登山大系にある横に連なる岩壁帯基部テラスから本格的な岩登りとなる。雪を丹念に除去しつつイボイボを打っていく。やがて草付きが無くなり岩のみとなると、待ってました!特殊ボルトです。釘の頭が正方形になっているような面白い形のボルトで、いにしえのスリングがいい味出してる。ボルトの施工方法は想像できない。そのすぐ上には最近大きく剥離崩壊した痕跡があり、かつてはホールドや支点があったことが伺える。ここから垂直から薄かぶりの傾斜となる。いわゆるドライツーリングでちょっと登ってみるが、けっこう難しいし岩は直ぐに欠ける。そんで次の支点は全く見当たらず6m以上ランナウトを耐えねばならない雰囲気。そんな気合は無いので、そろりと特殊ボルトに体重を預けて懸垂して帰った。

 クライミングそのものは5.7~5.9くらいなのだろうが、遺跡化したボルトでランナウトしつつ先の支点も取れないまま登ることはできなかった。岩壁も日々崩壊しているようで、かつての通りに登ることができないのだろう。とは言え全く不可能とは言い切れないし、新たな崩落により、快適に登れるようになるかもしれない。遺跡巡りと思って挑戦してみてはいかがでしょうか。

<アプローチ>
ややこしいが国土地理院の第2峰へ通じる尾根がP3稜である。品沢高原の最終除雪地点に駐車して林道を歩く。取り付きからナマズ岩壁までは傾斜の緩い尾根である。登り終わった後の下降はP1、P2コルから谷へ降りると早い。もちろんP1稜を降りてもいいし、P5まで縦走してP5を少し歩いて2回懸垂下降をしてから広いルンゼから大沢を下降するのもいい。雪の状態次第ではあるがルンゼから大沢や仏沢を下降すれば敗退も容易である。幕営箇所はマッコウ鯨の岩壁より上部の壁付近が無難。ただし、短い尾根で登る時間はさほどかからないので日帰りで臨むのが得策だろう。

<装備>
スコップは登攀具として必須。キノコ崩しはもちろん、段差を乗り越す時にはピッケルよりも安定感がある。不安定な場所で振り回すので要バックアップである。ダブルアックスで傾斜の強いところを登るのでアックスはひん曲がって小指がひっかけられる方が便利。イボイボ2~3本、カム#1番まで。

<快適登攀可能季節>
2月~3月上旬。岩峰が発達していて昇温による雪の脱落は早い。岩壁を抜けてからのキノコ雪崩しや壁の雪落としが無い方が楽だが草付きが凍っていないと難しいかも。

<温泉>
鬼無里の湯:とんでもないところにあるが、綺麗で良いお風呂。リーズナブルはお値段も嬉しい。火災から復活して無事に営業中。ただし、日帰り入浴は早く終了するので要確認。レストランでご飯も食べられるよ!