2023年9月25日月曜日

黒部川 尾沼谷





















ザクロ谷や不動川のような誰かが埋設した残置物が無いと登れない谷は沢登りなのだろうかとしばしば思う。好コンディションの中、泳いで小滝をガンガン登るゴルジュは楽しい。感覚的に沢登りの中ではスポーツに近い。泳ぎ、クライミング、歩きとバランスよく運動するので健康にも良いく、ゴルジュ内は害虫が居ないので快適だったりする。それに対して巻きが連続する谷はヤブコギ、泥の草付き登り、害虫やブッシュかぶれとの戦いを強いられる。だがしかし!そこには残置は一切ないし(あっても分からない)、水が流れた水路という限定された登路を離れ広い自由なフィールドを思うままに移動することが出来るのだ。そして、一つの判断が数時間の遅延となり危機的状況に陥る緊張感が常に漲っている。これぞフリークライミングかつ沢登りなのだ。

一泊二日で尾沼谷ほど厳しい巻きが連続する谷もそうなかろう。入谷すると嘉々堂谷とは全く異なる黒い岩が出迎えてくれる。花崗岩は殆どなく飛騨帯の中でも角閃岩が優位な谷なのだろうか。本谷である中俣まで小滝を幾つか楽しく登っているうちにたどり着く。ここまでロープを出した箇所も有った。中俣に入ると迫力のある8mくらいの滝が現れる。ここから巻いたり降りたりまた巻いたりを延々と繰り返す。どの滝をどう巻いたかの記憶がないくらいに忙しい。標高750m付近から怒涛の瀑流ゴルジュ帯が始まる。幾つかは登れるが、一旦巻き始めると降りることがためらわれる渓相が望める。この巻きの悪さで黒部を感じる。筆者らは時折強まる雨もあり、降りる判断が出来ず尾根まで押し上げられた。それでもガスの切れ間から見えるV字渓相には嘆息が漏れる。930m二俣を過ぎるとゴルジュの陰惨さは軽減する。巻きの渋さも和らぐが、時にはクライミング的巻きを決断しないとえらい目に合うだろう。1100mを越えるとびっくりするぐらい谷が広くなり快調に進める。黒部の谷は上部がとても開けており、この緩急にはいつも驚く。どうしてどれもこれもこんな渓相なのだろうか。急隆起した北アルプスの成因や氷河の影響もありそうだ。ハイカーで賑わう僧ヶ岳でほっこりしてから楽しく登山道を下山である。

道具の進歩とクライミングアベレージの向上により、突破系ゴルジュよりも尾沼谷のような谷の方が相対的難易度が増している気がする。正解ムーブがより曖昧な高巻きは内省的な面があり、山登り的面白さが凝縮されている。好き嫌いなく何卒このような谷も訪れていただきたい。もちろん尾沼谷のゴルジュが内部突破できればそれに越したことが無いんだけどね。

 <アプローチ>
とちの湯の駐車場に駐車し、林道を歩いてほとんどの堰堤はパス可能。ちなみに入渓途中出会う十二貫用水路は江戸時代に超ハイスピード施工されたで伝説的用水路でこちらの歴史も押さえておきたい。1日行動後にたどり着ける範囲で幕営適地は殆どなく、川原近くで張らざるを得ないと思う。増水が懸念される場合は入谷しない方がいい。筆者らは930mの二俣付近で幕営した。なお、ゴルジュから解放されてからは幕営適地があるが一日で辿り着くのは困難。下山は車が二台あれば僧ヶ岳登山道にデポして登山道利用で可能。車一台の場合は宇奈月尾根の1180mから尾沼谷支流を下降するととちの湯に戻れる。

<装備>
カム0.3~1.0、ピトン少々。足回りはラバーでもフェルトでもいいが、ラバーの方に利があるように思う。

<快適登攀可能季節>
8月~10月 残雪、水量、寒さ、害虫など各種事情を鑑み判断されたし

<温泉>
とちの湯:宇奈月温泉総湯は駐車場も無いし、露天風呂もない。山屋のみなさまはこちらへどうぞ。

<博物館など>
うなづき友学館:黒部市立図書館の分館と歴史民俗資料館が併設している。何と言っても1/2愛本刎橋が見ものの博物館である。30年おきにかけ替える刎橋だが、当時のオーソドックスな橋脚がある木造橋の架け替え頻度ってどのくらいだったんだろうか。もっと深く橋の構造比較をしてくれればありがたいと思う。このほか、稚児舞や七夕といった地域の祭事展示も興味深い。

<グルメ>
よか楼:昨今話題の町中華。コスパという卑しい概念を持ち出さなくても味で選べる良店。ジビエ料理も時折そろえる。

2023年9月21日木曜日

布施川本流









県内河川における布施川の存在感は乏しい。僧ヶ岳の仏ヶ平を源流とし、田籾川と合流後河口間近で片貝川と合わさる。ダムが建設されているが流程距離約20㎞の小河川であるがゆえ、農業利用範囲は広くはない。そのほか洪水調整と消雪設備用水としてひっそり活躍している。そんなこんなで地域住民にしか意識されない川なのかも知れない。

鼻の滝から入渓すると水が綺麗でとても冷たいことに驚く。鼻の滝は壁からの放水だし、本谷の水量も安定している印象があるので湧水系の谷だろうと推察するところである。予想外のゴルジュと予想以上の堰堤数を乗り越えて進む。堰堤は人の往来を想定していない作りで、異様に悪い巻きを強いられる。こんなことでへこたれていては人生百年時代を生き抜けないので頑張っていこう。川原に転がる花崗岩はピンク色の長石を含んでいるのでカワイイ。沢登りにカワイイ要素を感じることは殆どないため、相対性理論により圧倒的なカワイイを誇る谷といえよう。小杉谷を分けてからすぐに現れる滝は微妙に悪い。地形図より側壁が高い印象を受けるので緊張感がある。うねうねゾーンから益々側壁が高くなり、地形図間違ってんじゃないかと疑い始めるとムズ楽しそうな小滝出現。クラックが発達しているので楽しく登れる。右岸ガレマークを過ぎると途端に沢が開けてBダッシュが気持ちいい渓相となる。登るにつれどんどん水が冷たくなるのが面白い。水が美味しい。林道で合流する地点で遡行を終了とした。

下山の方法が少し面倒なので足が向かないかもしれないが、行ってみたら楽しめる谷である。ところで県内の地質図でP/T変成岩の縦縞模様になっている当該地域だが、登ってみてあんまりピンとこなかった。あの意味深な細かいうねうね、どうやって調査して誰が設定したのだろう?

<アプローチ>
車を一台僧ヶ岳の烏帽子登山口へデポしないと下山が難しい。鼻の滝を見物する駐車場に駐車。展望台から適当に藪を漕いで入渓。林道が合流して遡行を終了してもいいし、仏ヶ平まで登って僧ヶ岳を登頂するのもいい。

<装備>
カム#1まで。足回りはフェルトでもラバーでも可

<快適登攀可能季節>
7月~10月。

<温泉>
尾の沼体験交流施設 とちの湯:露天風呂の眺めが良いお風呂。閉店は17:00と入浴施設にしては異例の早さなので注意。
バーデン明日:遅くなったらこちらへどうぞ。露天風呂もきもちいい。

<博物館>
下山芸術の森発電所美術館:時おり興味深い展示をやっている。冬季は休館するので注意。
魚津水族館:歴史有る水族館で主に県内に生息する魚を展示。こじんまりとしているが魅力的な水族館。可愛いPOP解説も面白い。
魚津埋没林博物館:でっかい木が沈んでいるだけなのだが、なぜか趣がある。
帰りには生地の道の駅で新鮮な魚を買って帰るのもいい。

2023年9月19日火曜日

黒部川 サンナビキ谷右俣
















富山県は超ざっくり申し上げれば花崗岩からなる土地である。その主たる役者は飛騨帯由来の花崗岩、ジュラ紀に形成された毛勝花崗岩、滝谷よりも新しい世界最新花崗岩の可能性もある黒部川花崗岩が挙げられる。このほかにも十字峡閃緑岩、猫又花崗岩、黒部別山花崗岩等々、花崗岩類は実に多い。皆さん気が付いただろうか。県東部の谷はこれらの花崗岩類が隣り合って混在していることに。境界には発見という魔物が住む。出かけよう自らの眼で楽しむ好奇心の旅へ。

サンナビキ谷に入渓してまず驚くのは側壁の高さと巨岩の数々である。岩盤の岩を観察すると結晶片岩や片麻岩で飛騨帯の特性を持った岩が多い。谷の入り口から花崗岩が優位である嘉々堂谷とは大きく異なるのが興味深い。磨かれた岩はラバーソールが有利である。下部廊下で最大のポイントは一見ショボく見える大岩が三条の流れをなす小滝といえよう。右側の水流しか弱点が無いので下部をフリー、上部をハングしたクラックを人工登攀で登る。水流を受けながら登るので水量次第で突破の成否が分かれるはず。その後の3段大滝の巻きは楽勝で問題ない。その後は取水堰堤まで大岩をエンヤコラするが微妙にクライミングなので疲れる。取水堰堤を過ぎると俄かに岩質が変わり始める。772mを過ぎ嘉々堂谷と似た花崗岩が現れ始めると谷の浸食形状が鋭利になりリッジとルンゼが幾重にも折り重なった側壁となる。この花崗岩は片貝の花崗岩に似ているので毛勝花崗岩に近いのだろうか。ここから上部ゴルジュの始まりだ。筆者らは残雪が全くない好コンディションで良い感じに巻いたり、登ったりすることができたので772mから1000mまで大体4時間半で抜けた。たまたま順調にいった訳だが、バナナを剥いたら中がサンマといった予想外の展開になると平気でプラス数時間となり得るので判断は的確かつ迅速にしたい。1000m付近を右に入り駒ケ岳を目指す。ここから入ってしばらくする連瀑の滝が意外に悪いので気を抜かずに臨みたい。1200mからは快速モード渓相である。飛騨帯の石灰珪質片麻岩が多くなり始めると残り標高500m以上を残して水が伏流する。益々オラオラと進むとあっという間に駒ケ岳である。

沢登り的にはサンナビキ谷といえば左俣だろうが、右俣も観察対象としては大変面白い。左俣はまた次回。

<アプローチ>
詰めあがる方向によって下山は片貝か宇奈月となる。筆者らは車二台で一台を宇奈月の僧ヶ岳登山口へデポして宇奈月へ降りる事とした。黒部峡谷鉄道の鐘釣駅で下車して美山荘の近くから黒部川本流へと下降する。出平ダムは土砂で埋まっており、バックウォーターはサンナビキ谷まで到達していないことが多くなっている。幕営箇所は二俣、右俣へ入ってすぐのところ、772m支流の付近がある。772m以降は良いところが無い。宇奈月へスムーズに下山するには1000m付近で左岸支流へと入り駒ヶ岳へと目指すのがいい。上手い事水流と溝を当てられるとヤブコギは無く登山道へ出られるだろう。筆者らは初日に772mで泊まり、一泊二日でちょうどよく下山することができた。

<装備>
カム0.3~1.0、ピトン少々。足回りは圧倒的にラバー有利。

<快適登攀可能季節>
8月~10月 水量、寒さ、害虫など各種事情を鑑み判断されたし

<温泉>
とちの湯:宇奈月温泉総湯は駐車場も無いし、露天風呂もない。山屋のみなさまはこちらへどうぞ。

<博物館など>
うなづき友学館:黒部市立図書館の分館と歴史民俗資料館が併設している。何と言っても1/2愛本刎橋が見ものの博物館である。30年おきにかけ替える刎橋だが、当時のオーソドックスな橋脚がある木造橋の架け替え頻度ってどのくらいだったんだろうか。もっと深く橋の構造比較をしてくれればありがたいと思う。このほか、稚児舞や七夕といった地域の祭事展示も興味深い。

<グルメ>
よか楼:昨今話題の町中華。コスパという卑しい概念を持ち出さなくても味で選べる良店。ジビエ料理も時折そろえる。

2023年9月11日月曜日

黒部川 嘉々堂谷















かっこいい。曖昧な形容詞である。顔が整っている、運動神経が良い、頭がいい、おしゃれ、仕事ができる等々これに当てはまる人となりは多い。便利な言葉なのだが、人によりずれが生じる恐れがある文言だから注意が必要である。

では、今の私にとってかっこいいとは何か。それは高巻きを最短かつ最少の労力でクールに素早くこなすことである。登れる滝は登った方が楽しいし充実するので、登るという行為はファーストチョイスなのだ。そこを全体の流れ、個々人の能力、手持ちの装備を考慮し高巻きという選択をする。即ち高巻きは妥協の産物である。しかし、妥協を最善に収束させるのは案外難しい。第二の選択となると漫然、怠慢になりがちで軽んじられる。そこを引き締めて涼しい顔で実行するのは洒脱で大人びている。何事も真正面から臨むだけがベストではない。それを理解する高巻き上手はナイスミドルの必要条件なのである。

ミドルの入り口立つこの頃、そろそろ嘉々堂谷でも行こうか。入渓すると側壁の高さにプレッシャーが高まる。幾つかの小滝を登り、20m滝を巻き、やってきました暗い30m滝。高い両岸に端正な美瀑だが弱点は無い。巻きにかかろうにも一見して易しい箇所は無いことが分かる。2本の尾根筋が弱点だが、下流側と上流側どちらが良いか判断が難しい。上流側から取り付き、右へトラバースしつつ尾根手前でピッチを切る。想像よりずっと難しいクライミングで空荷じゃないと登れない。慎重に左へ戻り予定の尾根に取り付いたが、灌木へと続くハング2mがプアプロ&脆い岩で断念。斜め懸垂とトラバースにより下流側の尾根に移る。こちらも悪いが支点はカムで取れるので安全に登れた。ラインを初見で見通せず、ナイスミドルへの道のりは遠いことを痛感する。50mロープを伸ばすと容易になり、リッジをコンテで進んで20m+25mの懸垂で川床へ降りる。以後、けっこう難しめの小滝が幾つか出てくる。特に8m斜瀑は一番厄介だ。巻きは標高820mくらい最初の2段連瀑がやや悪い他は難しくない。あとは下部廊下から緩急効き過ぎの川原をブウァーと歩いて登山道へ合流する。

果たして30m大滝の下流側の尾根下部は簡単だったのだろうか。もしかしたら、今回の判断が最善だったのか。山登りの答えはいつも靄の中。もやもやした気分で下山。ミドルの足音は左膝の痛みとして明確に聞こえ始めている。

<アプローチ>
宇奈月ダムからしかるべきところを歩き、吊り橋を渡り嘉々堂谷出合いまで歩く。吊り橋を渡ってから他にも入渓する方法はあるが普通は解らないし、やらない方がいい。幕営適地は意外に多い。30m滝を越えてから標高700mくらいから再びゴルジュ状になりたじろぐが、突入しても幕営可能箇所は適時出てくるのでOKだ。良く解らなかったので筆者らは640mくらいのところに泊まったが、快適なところだった。下山は登山道を利用するか、片貝川へ下降する。いずれにせよ車2台無いと面倒。残念ながらとちの湯からの尾沼登山道は廃道となっているようだ。

<装備>
カム0.3~1.0、ピトン少々。足回りはラバーでもフェルトでもいいかも。

<快適登攀可能季節>
8月~10月 水量、寒さ、害虫など各種事情を鑑み判断されたし

<温泉>
とちの湯:宇奈月温泉総湯は駐車場も無いし、露天風呂もない。山屋のみなさまはこちらへどうぞ。

<博物館など>
うなづき友学館:黒部市立図書館の分館と歴史民俗資料館が併設している。何と言っても1/2愛本刎橋が見ものの博物館である。30年おきにかけ替える刎橋だが、当時のオーソドックスな橋脚がある木造橋の架け替え頻度ってどのくらいだったんだろうか。もっと深く橋の構造比較をしてくれればありがたいと思う。このほか、稚児舞や七夕といった地域の祭事展示も興味深い。

<グルメ>
よか楼:昨今話題の町中華。コスパという卑しい概念を持ち出さなくても味で選べる良店。ジビエ料理も時折そろえる。