2024年9月21日土曜日

庄川 東赤尾谷

 

 山があれば全部登ってみたい。谷があれば全て詰めてみたい。これは人類共通の願いだろう。その願いの強弱は人に依るところで、筆者なんかはできれば全て行ってみたいくらいのマイルドなスタンスで日々呼吸をし、飯を喰らい、糞をして、寝ている。

 大滝山に登ってみたいと思っていた。登山道を歩くようにしても車でのアプローチは結構やっかいだし、そもそも登山道が整備されていない可能性の方が高い。里山を登る際には沢を詰める行為をこよなく愛するので、東赤尾の集落へ流れる東赤尾谷から目指すことにする。
 林道終点に着いた瞬間あら~?となる。下流域から水量は乏しく両岸が藪だらけなのである。さながら宮川水系の中流域である。ふむ、堰堤が土砂を堆積しているから土砂が溜まり、そこに植物が繁茂しているのだね。という事は堰堤が終わってしばらくすると谷は深くな・・・・・・らない!!標高700mくらいまで我慢して進み続けるが常に藪が纏わりつきかわしたり、潜ったりと背中をまっすぐにできない。藪も倒木、灌木、蔦と多彩な攻撃を繰り出すのでHPの消耗は指数関数的に進む。願いが足りない。こうして大滝山へ登ることなく、すごすごと戻ることになった。花崗岩の脆い岩が崩れやすく土砂が堆積するのだろう。

 筆者らは8月に訪れたが、この谷を詰めて大滝山を登るには時期が悪かった。藪の繁茂が少ない5月中旬から下旬に山菜を取りながら登るのが正解なのだろう。天の下では何事にも定まった時期があり、全ての営みには時がある。

<アプローチ>
東赤尾の集落から東海北陸自動車道をくぐり、林道の入り口まで。林道は最後まで続いていないので入り口の広場に駐車する。

<装備>
多分何もいらない。

<快適登攀可能季節>
多分5月~6月上旬。

<温泉>
くろば温泉、五箇山荘

<グルメ>
高千代という猟師の店が有る。熊、猪、鹿は当然。なんとハクビシンも味わえる。春には山菜、秋にはきのこと折々の味を楽しめる。観光と思って訪れてはどうだろうか。

<博物館>
世界遺産の五箇山集落に古民家があり歴史を学べる。平家の落ち武者によって拓村された。
囚人を幽閉する場所でもあった。古い流刑小屋もあるので立ち寄ろう。江戸時代には、加賀藩の火薬庫で塩硝を製造していた。ブナオ峠から火薬を運搬していたのだろうか。そんな思いを馳せながら山を楽しもう。

瀬戸蔵山 牛首谷 龍神の滝









 富山県民ならば極楽坂山~鍬崎山の山域に親しみがあるのではないだろうか。市内からほど近く、森は美しくと標高を上げるにつれ植生が変化するので楽しい事この上ない。さらに百間滑と龍神の滝といった清涼系スポットまで備えているのでちょっとハイキングする人にもお勧めできる。

 百間滑は砂岩やら堆積岩が圧力と弥陀ヶ原火山の熱によって変成してできたようだ。ナメという存在をハイカーが認識できる貴重な場所である。溶岩龍神の滝は遠方から眺めると傾斜の強い直瀑で手のつけようのないスラブのように見える。しかし近づいてみると硬い岩にクラックがしゅるーと走っており、登らせてくれそうな雰囲気だ。出だしからシャワーを浴びつつフィンガークラックを登り流心へ向かう。激しいシャワーを浴びつつ高度を稼ぎ、滝芯左側を登る。1段目を登り切るあたりのランナウトしたスラブの1手は怖いので左へと逃げて灌木にて1P目終了。安定した灌木から右へ少しトラバースして再び流心へ戻る。2段目は割合快適だが終始水を浴びるのでちょっと寒い。抜け口は右からフィンガー~ハンドクラックを登り落ち口の灌木で終了である。高差約40mだがライン取りも考えさせられることも有り充実感がある。岩はバチバチに硬く、軍手から伝わるフィンガーラックの吸い付きが気持ちぃ。クライミングシューズのフリクションも良好なので楽しさしかない。
 滝を抜けると弥陀ヶ原と同じ溶岩台地の緑のゴルジュが出迎えてくれる。火山溶岩はここまで流れて、その後に河川が谷を浸食し飛騨帯基盤岩が露出しているのだと解り感動するポイントである。ゴルジュ内の滝は難しく無いので景観をゆっくり楽しもう。沢が開けて平らになると後は何もない。酷いヤブコギも無く瀬戸蔵山へと至る。
 
 大滝登攀というには小さい滝だが内容は濃い。瀬戸蔵山まで登って降りても半日コースなのでお気軽に行ける。一日あればお隣の松尾の滝も登るのも良いだろう。ただし、松尾の滝は貯水池からの放水状況が読めない。思わぬ増水となっている場合があるので龍神の滝メインで考えた方がよいだろう。

<アプローチ>
あわすのスキー場の駐車場に駐車して龍神の滝へと続く遊歩道を登る。滝が見えたら沢から取り付く。松尾の滝と間違えないように注意。下山は登山道を利用するのが楽。

<装備>
カム0.1~#2、0.2~0.5まで2セットあるといい。ピトン各種、クライミングシューズ

<快適登攀可能季節>
7月~10月。シャワークライミング全開だけど、オロロやブヨが多いので9月がベスト。

<温泉>
ホテル森の風立山、吉峰グリーンパーク

<博物館>
立山博物館:別館まんだら遊園の異空間を一度は味わってほしい。
カルデラ砂防博物館:立山の自然と砂防について学べる良き博物館。僕の好きな治水の恩人ヨハネスデレーケの展示もある。

2024年9月17日火曜日

尾添川 荒谷
























 尾添川荒谷は不遇な谷である。数多の名渓がある白山山域で詰め上げる中で標高は高くなく、登り終わってから入山口へと戻れる谷が存在しない。加えて登山道は無いし、廃道化した長い林道があるばかりときている。そして意外に長い行程は日帰りでは長いし、泊りだと持て余すことになり上部まで訪れる人が少ないのも無理はない。ところがどっこい、名前に反して渓相は美しくシャワークライミング、ちょっと悪い巻き、快適な幕営と総合的に沢登りが楽しめる良渓なのだ。

 入渓して直ぐに堰堤が連続するが、右岸にあるドアを開けて隧道を登れば簡単に巻くことができる。序盤はゴーロ滝の合間に美瀑小滝が続く。そして岩質は飛騨帯変成岩でお隣の手取川右岸の沢と同じであることにも注目したい。一旦平らになる手前の700m付近はゴルジュ小滝のシャワーが爽快だ。どこだったか忘れてしまったが、右岸を嫌らしい巻きで交わした10mくらいの滝があったはず。傾斜が強く不安定なブッシュをホールドにして乗り越した。さー、あとはのんびりかなぁ。なんて思っていたら美的ゴルジュになってきて退屈させない。ゴルジュ内は全て突破可能で慣れていればロープは不要だが、適宜お助けヒモを使った方が安全だろう。1000m地点で穏やかな川原となり、今度こそ終わりかと思わせてから訪れる小滝、大滝、ミニゴルジュの素晴らしさよ。不思議なことに最後まで深い釜を持った小滝がありちょっと泳いだりしていい気分。のんびり出発してゆっくり登っていたら1174m付近二俣で時間切れ。それでも十分な充実感であった。

 荒谷は全く荒れていない美谷であった。富山からはそんなに遠くないので初級沢からもう一つ踏み込む対象として是非訪れてみてほしい。日帰りが不安ならば幕営して楽しむのも良き計画だ。遠方から来る方ならば目附谷への入渓路バリエーションとして何卒ご活用願います。

<アプローチ>
スノーシェッドの合間にある荒谷出会いの駐車スペースを利用する。沢慣れしたパーティーならば、早立ち日帰りで1174m右俣~左俣を下降して林道を使って下山できるだろう。相応に充実するはず。荒谷中の幕営適地は1000m地点と1174m付近の二俣。車が二台無い場合は同ルート下降か林道を歩いて下降する。林道は車は全く通ることはできないが、歩くことはできる。ただし、現状それなりに藪っぽい。目附谷へ向かう林道の途中から登山道マークがあるが当然そんな道はない。ただし、この尾根は藪がそれほどでもなく意外に歩きやすいので下降可能。車が2台あれば小嵐谷を下降するのも面白い。また、カマボコ谷を下降すれば目附谷へと入れるので継続遡行の出だしにはぴったりだ。

<装備>
カム少々。ピトンも有ったらいい。

<快適登攀可能季節>
6月~10月。オロロが酷い地域なので注意。

蛇谷 ジライ谷











 白山蛇谷支流の沢は言わずもがな素晴らしい。のだが、歩行禁止、自転車も禁止の有料道路とその開門時間制限のため登山者を寄せ付けない雰囲気に満ちている。日帰りが基本となるのも遠方からの登山者を遠ざける一因なのだろう。遡行内容が絶品なだけに惜しいものである。

 ジライ谷は取り付きにくい蛇谷支流群のなかでも、料金所ゲート手前であるため組し易い。遡行内容も蛇谷の中では易しめでありながら纏まっており期待を裏切らない。序盤は大岩の合間を縫ったクライミングで基本エンヤコラ系の登りとなる。シャワークライミングもあるので暑い日が良いだろう。ザラザラの岩肌が足底に吸い付くようで気持ちい。下部は飛騨帯変成系の岩だが、上部は流紋岩質となり少しだけヌメリと脆さが出る。標高1000mからはスラブ滝連瀑帯となる。右岸から巻き登りしたが、スラブ系の沢らしく甘くない。ここから中盤は気持ちの良い小滝登りと時々現れるナメを楽しもう。1418mピークに向かおうとしたら悪い滝が出てきたので少し戻って尾根を乗越す別の沢から途中谷へ降りる。上部は非常に降りやすいの助かる。途中谷は登られることは多くないけれども散発的に出現する滝の形は面白いのでこの山域の入門には悪くないかも。最後に堰堤が2つ出てくると取水導水の巻き道が現れ林道に出る。

 沢慣れしたパーティーならば早立ちして昼には終了するだろう。よく考えると富山からは海谷に向かうのと同じ距離と時間である。スタートが遅くなっても一泊するつもりで気軽に訪れるのもいいかも。

<アプローチ>
ホワイトロード(旧スーパー林道)の料金所手前のゲートが7:00~19:00に締まるようになっている。初日はどんなに早くても7:00からしか車が入れないことに注意。なお、前日からゲート内に入っていれば問題なく早立ちできる。或いは早朝にゲート手前に駐車して自転車で中宮展示館へ向かうのもいいかも。中宮展示館に車を駐車して蛇谷本流を少し歩いて入渓する。下降は途中谷が無難である。途中谷の下降は取り立てて難しくはないものの、慎重なクライムダウンと複数回の懸垂下降を要する。

<装備>
カム少々、ピトン数枚。足回りはフェルトでもラバーでも大丈夫

<快適登攀可能季節>
6月~10月。オロロが酷い地域なので注意。

<博物館>
中宮展示室:一般的な日本の動物に関する展示は普通だが、中宮の歴史が面白い。出づくりでの生活や学校といった近代山人の生活を垣間見れる。昔から発刊している「白山の自然誌」は地域を概観するには好適で全号PDFで無料閲覧可能。いい時代だなぁ。

<温泉>
中宮温泉露天風呂:歴史1300年という由緒ある温泉で24時間入浴可能。ただし、洗い場やシャワーは無くもちろん石鹸も無い。飲用温泉としても用いられており、胃腸の霊泉と呼ばれる。確かにおいしい。源泉かけ流しなので体を綺麗にするというより温泉に浸かって楽しむスタイル。

2024年9月10日火曜日

中御所谷本谷










 中央アルプス屈指の名渓と称される中御所本谷である。屈指というのは指折りという意味なので、手足含め20位以内のランカーという事になるのだが、日本人の慣用的には5位乃至は10位以内ではないだろうか。中御所谷への名声は聞くもののあんまり乗り気にはなっていなかった。強制的に乗り物を使わされる感があり、しかも頭上から丸見えとなると積極的にならない人が多いはず。そういう訳で、中御所本谷だけの為に訪れるのは勿体無いと考え、継続遡行スタイルで臨むことに。皆が行くから易しいと高を括っていたわけだが・・・

 日暮の滝という粋な名前の付いた大滝登りから遡行が始まる。いきなり思っていたよりもちゃんとクライミングとなり、意外~と思ったらそこから滝に次ぐ滝、美瀑揃いの沢屋天国である。しかもどれも大きくてロープなしで登るには嫌らしい雰囲気で油断ならないと来ている。順層かと思いきや逆層になってみたりするので、情報無しでは安易にロープなしで取り付くのは怖い。アプローチが良い名渓にありがちな残置が少ないのも心地いい。中盤のゴルジュ大滝連瀑は圧巻である。ここは唯一踏みあとがしっかりしていて気楽に見物できた。気持ちの準備をしていないので疲れてきたころにロープが要らない快適連瀑となる。そして最後は岩場に囲まれたカール内の絶景に飛び出す感動のフィナーレ。お花畑最盛期の7月だったなら更に素晴らしかった事だろう。

 中央アルプスの谷は詳しくないけども内容的には1番に成り得るのではないだろうか。全然簡単ではないので沢慣れした人も確実に楽しめる。他の沢からの継続は勿論楽しいけど、宝剣岳の岩場へ継続も魅力的だ。沢登りとクライミングを併せて週末を遊ぶのが良いと思う。そういえば、ロープウェイに乗ってみたら眺めも良いしビューンと速くて面白いものだった。並んで乗るこの感じはもしかしたら、もしかしてディズニーランドに似ているのでは。たまには乗り物乗車も発見があってよい。

<アプローチ>
一般的にはしらび平駅までバスを利用して遊歩道を歩いて入渓するそうだ。筆者らは梯子ダルから継続したので、濁沢を下降してそのまま取り付いた。上部に人が沢山常駐しているので、沢の水は飲まない方が良さそう。下山はロープウェイを使うとあっという間。

<装備>
カム一式、ピトン少々。足回りはラバーが有利。

<快適登攀可能季節>
7月~10月。標高が高いので秋は寒さに注意。

太田切川 梯子ダル













 登山大系は空前絶後の名著であるが、何が面白いかというと愛に溢れた印象的なフレーズが随所に見られる点にある。その愛は偏愛そのものなのだが、ルートガイドというその特性を鑑みて自制抑制的に発露している点がくすぐられる。中央アルプスの概説においては「岩稜の北アルプス、森林の南アルプス、渓谷の中央アルプス」の文言が冴えわたる。そんな事言っている人にはついぞ出会ったことが無い。大体、北アルプスにも南アルプスにも名立たる渓谷があるではないか。中央アルプスにも森林だって岩稜もある。そう、ただ中央アルプスと沢が好きな人が書いているのである。他にもすべての渓谷を何かにつけて礼賛する雰囲気が漂っており、ポジティブなバイブスで登山者を好きな山へ誘う作戦が丸見えだ。

梯子ダルは伊那谷を代表するルートとして挙げられているので、富山からでも行く価値があるのだろうと察したわけである。ダルというのは信濃では滝を指す言葉のようで、黒部にも何々のタル沢といった地名がある。ちなみに谷は西日本、沢は東日本と使い分けられており、その境目が剣・黒部である点も忘れてはならない。梯子ダルというのは梯子のように滝が連なる意なのであろう。梯子ダルはいきなり見栄えのする大滝で出合っている。左から登れると美しいのだが、水圧に負けそうなので見た目の悪いボロ壁から取り付いた。ちょっと怖いけど困難は無い。それから2000mくらいまで滝に次ぐ滝で直登したり巻いたり、程よい難しさが続く。直登する滝は問題ないが、巻きはラインを誤ると少し面倒なことになるかも。2000mから先はガレとなったのち、ぼさっとしたカール状地形に消える。沢慣れしているパーティーならば早立ちすれば割と余裕で日帰りできるだろう。折角富山から遠出するのであれば檜尾岳まで登ってから太田切川へ下降して継続遡行、濁沢を下降して中御所谷方面へ継続などしたい。

伊那谷を代表するルートである梯子ダルは本当に素晴らしい沢であった。登山大系は他にも中央アルプス屈指、第一級、変化に富んだ、遡行者を失望させない等、誘い上手な書きっぷりなので中央アルプスへの意識は高まるばかりである。特に失望させないということはどういう事なのか(面白いならそう言えばいいのに)検証したいところだ。

<アプローチ>
空木岳登山口の駐車場(スキー場)に駐車する。そこから歩くかバスに乗って檜尾橋まで行き、取水堰堤への道を利用して入渓。幕営適地は中間部に相応の場所はある。滝場を抜けてからはガレとなるのでいいところは無い。梯子ダルだけを登るのであれば早朝発日帰りで登るのが良い。下山は登山道を降りるのが楽。筆者らは中御所谷へ継続したので登山道の2520mのコルから濁沢へと降りた。この下降は酷いガレだが難しくは無い。

<装備>
カム一式、足回りはラバーが有利。ピトンは使わなかった。クライミングシューズは要らない。

<快適登攀可能季節>
7月~10月。標高が高いので秋は寒さに注意。