水の状態がいくつあるかご存じだろうか。定義にもよるが大体25種類くらいあるそうである。このうち多くは結晶状態を分類したもので日常生活でお世話になることはない。しかし、宇宙での物質の成り立ちのような普遍現象を解き明かすうえで水の構造と物性の理解は欠かせないのである。ゆえに日々活発に研究が続けられているが新しい発見が尽きない。どういう機序で氷の上で物質が滑るのかも人類は正確に知らないのだ。
翻って三方崩山の大ノマ谷の雪稜の話である。雪稜といえば戸隠でのキノコ雪登攀が話題になるが、戸隠は純然たる雪の量はそれほど多くない。雪の量は後立山、白山に軍配が上がる。白山山域の雪稜では雪が記録的に多いシーズン、かつ最も積雪量が多い時期ではどのような景色が広がるのだろうか。
大ノマ谷は多少埋まるものの基本的に雪は締まっており快適。ドカ雪後に少量の降雨がありそれから数日間纏まった降雪がなかったためだろう。夜明前より第四岩稜の末端から真っ向勝負を試みる。が、明るくなると周囲の岩には5~6mと規格外のスケールでキノコ雪の発達がみられることに気が付く。ちょっとした段差でも2mクラスである。支点を構築できる藪と岩はもちろん隠れている。こうなると到底登れる代物ではない。本稜は即時却下となり、登れるところから上がることに転換。第四岩稜周辺は良くも悪くも自由度が高く弱点となるルンゼは常に左右どちらかにある。凹状を繋ぎつつ尾根を時々登って行くと無理なく南尾根に出る。この冬の最高気温を示す天候で落雪には肝を冷やした。
豪雪まっさかりのキノコ雪は人類には厳しく4ピッチと雪崩対策のコンテ少々で終了。エスケープ気味なのでクライミングとしては不発と言える。その代わりにえげつない湿雪で足腰の筋トレが完了。運動量増加はシェイプアップと夕飯における最高の調味料である。
雪稜の面白みは状況によってルートが変貌することにある。その差異は水の性質を反映しており、研究対象として興味は尽きない。一言にキノコ雪と言えども訪れる時々やエリアによって微妙に物性は異なっているわけで、その差異には因果がある。老子曰く上善水の如し。この命題が真であるならば、水の探求は即ち善の探求である。次は大ノマ谷雪稜から岩屋谷雪稜へ継続登攀することにより倫理学を修めることとしよう。
<アプローチ>
大ノマ谷は三方崩山南東の谷の事で大ノマとは「大きな雪崩が出る谷」の意である。岩場や雪稜は登攀クラブによって初めて登られ、以後一部の愛好家に細々と登られてきた。谷の上流から第一、第二、第三、第四岩稜と命名されているようだ。何となくそうなんじゃないか概念は以下の通り。
近年(と言っても20年位前)では名古屋ACCが紹介し一時脚光を浴びた模様。大白川方面から林道を歩いて大ノマ谷を詰めるのが楽だろう。2月でも雪が締まって取り付けるタイミングがあるのでそれを狙うといい。ただし、南東面の谷なので雪が緩むのが速い。暗いうちに谷を歩いて尾根に取りつかない落雪のリスクが高い。尾根上に幕営適地はほどほどにある。山頂付近もよいテンバだ。
<装備>
スコップは携行しやすい工夫が必要。もちろん要バックアップ。支点は基本藪でとれるはず。時期が遅くなると岩のギアもあったほうがいいかも。
<快適登攀可能季節>
2月~3月。積雪がたっぷりある時期に登りたい。
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