2018年9月24日月曜日

川九里沢左俣













高瀬川流域で最も急峻な谷が川九里沢である。特に左俣は地形図上では、もはや壁のような表現が為されている。左俣出合いは滝壷の無い大滝となっており異様なことこの上ない。この出合い滝から2033m二俣まで水量豊富で情け容赦ない直瀑がひたすら続くのである。

出会いの滝の弱点は左壁にある。途中のスラブ帯は微妙だが、3Pの程よいクライミングで落ち口へと抜けられる。この出合い滝は実は二段になっていて、高差およそ70m程度であった。その先から続く滝の巻きには時間は掛からないが、微妙に悪い登りも多々出てくる。一々ロープを出していてはきりが無く、足並みが揃っていないと大変時間が懸かるだろう。二俣から上部はそれまでの豪瀑連瀑が嘘だったかのような平凡さである。花崗岩の風化が激しく、山体の崩壊が激しいので、それを押し出す水量が無いとあっという間に埋まってしまうのだろう。筆者らは上部二俣も左俣を進み、燕山荘南側へ抜けたが、何ら問題となる箇所はなかった。

高瀬川流域の支流を幾つか遡行して判明したのは、この山域の沢は両岸が立っていてもV字状のゴルジュは呈さないという点である。しっかりとした藪が川床から直ぐ近くまで発達しており、滝の部分さえ越えてしまえば懸垂下降の必要も無く沢に戻る事ができるのだ。同じく花崗岩の沢である、お隣の黒部川とえらい違いである。この差異が生じた原因は気象条件の違い、特に積雪量の違いであると推察している。雪崩に洗われない側壁にスラブは発達せず、大木も生長している。大木が有ると雪面の支持力が増して益々雪崩は起きにくくなる。そのためV字渓谷は発達しないのであろう。花崗岩の由来が異なるため、性質が違う可能性もあるだろうが、何となくそんな気がする。今後、全国各地の花崗岩の谷を訪れてこの推論を検証するのが楽しみである。

<アプローチ>
 七倉ダムに駐車し高瀬ダムを経て湯俣方面へ。アプローチの歩きが長い。谷中は快適で安全な幕場に恵まれない。足並みの揃ったパーティーで一気に登りきるのが良いだろう。筆者らは出合いから7時間ほどで稜線へ抜けた。

<装備>
カム少々。ピトンも少し。ぬめる滝が多いのでフェルト底が無難か。

<快適登攀可能季節>
7月~10月上旬 水量が多いタイミングでの遡行だったので直登は考えられなかった。もしかしたら水量の少ない場合幾つかの滝は登れるかもしれない。

<博物館など>
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。ボルダリング壁も一回100円で一日利用可。

塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。

<温泉>
上原の湯:400円で石鹸&シャンプーが付いている温泉。
薬師の湯:温泉博物館と酒の博物館が近くにある。600円。
みみずくの湯:白馬にある日本有数の強アルカリ泉。入って損は無し。

<グルメ>
昭和軒:大町駅近くにあるカツ丼の店。大盛りはプラス100円で凄い量が食べられる。

中房川 曲沢










有明山の沢の白眉は勿論岩壁をも有する深沢であるが、西側の支流曲沢でも有明山の魅力の一端は十分に感じる事ができる。明るいスラブ滝で快適に高度を上げ最後は山頂直下へ藪漕ぎ無しで飛び出す。花崗岩の谷でありながら土砂の堆積は少なめで、北陸の谷には無い朗らかな心持になれる。スケールが小さいのでツアー中の空いた時間に楽しむことができるのがいい。

<アプローチ>
中房第三駐車場に駐車して曲沢出合いの橋まで徒歩。下山は登山道を利用すると駐車場へ戻る。

<装備>
花崗岩の谷だが、ヌメリが強くフェルトの方が有効。念のためピトンとパッシブプロテクションを少々。沢慣れしたパーティーならば何も要らないだろう

<快適登攀可能季節>
6月~10月 雪が少ない山域の南西面なので早い時期から楽しめそう。

<博物館など>
碌山館:荻原碌山やその仲間の作品を展示。鉱夫、デスペア、手(高村光太郎)等の有名作品がある。建物も趣がある。安曇野の山に来たらまず行きたい。
安曇野市豊科近代美術館:宮芳平という作家の作品が良かった。特に詩集「AYUMI」は熱がこもっている。
高橋節郎記念美術館:漆を用いた絵画がとても興味深い。
穂高郷土資料館:穂高町で使用されていた狩猟用具や農耕用具が展示されている。二階には近辺で出土した保存状態の良い縄文土器が数多く展示。面白い。
安曇野ちひろ美術館:いわさきちひろの作品を中心とした絵本の美術館。いわさきちひろは絵本を俳諧になぞらえて表現していたとか。人となりを理解して味わえるの展示となっているのが面白い。

安曇野には他にも多くの美術館や博物館がある。

<温泉>
有明荘:大きな露天風呂が魅力の立派な温泉旅館である。中房温泉とは源泉が違うようだ。620円也。
穂高健康温泉館:420円で入れるお風呂。露天風呂は無いが石鹸もあり十分なクオリティー。

2018年9月3日月曜日

小坂川 若栃谷支流 深谷







御嶽山周辺の沢において高名なエリアは全て火山活動によって流出した溶岩によって形成されている。そんじゃ、それ以外の場所はどないなってんの?もし、御嶽山で火山活動が無かったらこの山はどのような姿だったの?といった疑問が湧き出てしまったら、検証せざるを得ない。

小阪川支流、若栃谷の谷は基本的に川床の傾斜は緩い。その中でも最も傾斜があるのが深谷である。何かあるとしたら、この谷しかない。やはり沢登りも楽しみたいのでこの深谷を遡行して東俣谷を下降するとした。到着後、若栃谷本流を観察し一目で沢登りへの薄っすらとした希望は霧散した。土砂が多く谷が荒れていて水深があまりに浅いのである。石は花崗岩のようである。深谷に入っても暫くは荒れた景色である。傾斜が強まってくると、少し小滝も現われて釜も出て雰囲気は高まる。やがて30mほどの大滝が現われる。この辺りはかなりしっかりした花崗岩で岩も硬い。この大滝を越えると土砂が益々多くなる。花崗岩質だが、大きな石も手で簡単に割れるほど脆い。破断面からは白色細粒の砂が漏れる。よく観察すると、脆そうな堆積岩の部分もあるのでボロさのダブルパンチである。1550mまで行くと水流は藪に埋まって支沢の判断も難しくなる。この辺りの稜線の傾斜が緩いのはマサ化が進んだ花崗岩によるものだろうか。東俣谷へ下りると堆積岩性が強くなる。中間部以降は川床の脆い泥が開析されて出来る小さなドロゴルジュ(筆者はこれをドロジュと呼んでいる)が時々出てきて景色としては愉快である。白色細粒の砂が明瞭に堆積している場所を触ると粘土質であることが解る。簡単な下降を続け5時間程度で周遊を終えた。

御嶽山西面の下層は主として花崗岩からなり一部堆積岩を含むようである。御嶽山の溶岩が流れて、これらの脆い層を覆っているために濁河川流域では楽しい遡行となるのであろう。御嶽山の火山活動が無かったらこの辺りは緩やかな平原だったのだろうか。粘土層の堆積時期は定かではないが、細かな砂が堆積するような緩やかな水の流れがあったと考えられる。これらは現場で見たものから想像したことであり学術調査は一切していない。そのため妄想の域を脱しない。ただ、遡行図のある沢登りは興味半減するのと同じく、その土地に触れるのも前情報は無いほうが面白い。まず、眼で観て触れて想像する。この時間が至福なのである。暫くは妄想を膨らませ、いずれ雨の休日にでも答え合わせするとしよう。

<アプローチ>
国道41号線から小坂方面へ行き、若栃谷林道に入り、東俣谷出会い手前に駐車する。深谷上部は嵌り易い地形になっている。コンパスを利用して慎重に下降点を見定めたい。東俣谷の下降は特に難しいところは無い。入渓点まで富山市内から大体2時間30分

<装備>
巻きメインであればギアの出番は無い。水量が少ない時期を狙って直登するならば一式。巻き道は割としっかりした獣道がある。

<快適登攀可能季節>
7月~10月。

<温泉>
ひめしゃがの湯:含鉄ナトリウム炭酸水素泉で源泉は冷泉。水面近くは炭酸ガス?でむせる。冷泉なので夏は外気に暖められるため、溶解度低下により二酸化硫黄が出てるんじゃないかと心配になる。

<グルメ>
41号沿いにぽつんとある食堂峠屋は24時間営業でボリュームもあり美味しい。