2019年1月27日日曜日

錫杖岳 P4ダイレクトルンゼ





P4は良質なチムニーがそこかしこにあり、冬壁チムニー銀座といった様相である。その中でもダイレクトルンゼは見栄え良し、内容良しで前衛壁でも指折りのライン。容易な取り付きアプローチは取り付きに小さな氷柱が垂れる雪のルンゼである。ただ、これは少々退屈なアプローチだ。チムニールートの洞穴から登れば、ベルグラと氷雪も交えた多彩な内容となるのでお勧めである。チムニールートから右に合流するルンゼに合流すると正面にダイレクトルンゼが見える。下部はクラックの発達したフェースをフッキングとワイドクラック技術を交えて登る。体重を壁に逃がしながらジリジリと登る感覚が心地よい。核心は被り気味のチムニーで奮闘的だ。その後もほどよく悪いのがいい。これを抜けると左へ雪のバンドが続く。やがて現われるハングに抑えられたコーナーをフッキングで右へトラバースする。ここはフットホールドが悪く露出感もあるので良い緊張感が楽しめる。これが終わるとリッジに出るのでクライミングは終了する。4P~5Pで技術的には1ルンゼ左より少し難しい印象だが、支点設置に迷う事は無く危険性は低い。冬のザギンで岩登りを楽しんではいかがだろうか。

<アプローチ>
槍見から登山道。下降はチムニールート側へ懸垂下降三回で降りることが可能。槍見まで富山市内からおよそ1時間40分。

<装備>
キャメロット#0.3-#3を2セット有ると安心。そのほかトライカム少々。

<快適登攀可能季節>
12月~4月。上部に大きな雪田がないので降雪時も楽しめる。

<温泉>
栃尾の荒神の湯は良い露天風呂。体を洗う場合は石鹸を持っていこう。寒くて洗えないかもしれないけど。割石温泉まで行くのもいいだろう。

2019年1月19日土曜日

不帰東面 Ⅲ峰C尾根






Ⅲ峰東面のA,B,Cリッジ群は3月以降の雪が安定した時期に登られる事が多い。その方が快適で楽しい登攀が望めるので合理的だ。しかし、人間サイドの合理性と自然の摂理は何の相関性もない。虎穴入らずんばの精神で立ち向かわねば解らないことも沢山ある。難しいのは、虎穴かと思っていたら、虎だけでなく龍も居て大変恐ろしい思いをする可能性もある点である。大事なのは穴を見て中に何が住むか判別できる能力なのだろう。

C尾根は序盤に二つの岩峰を有し、そのどちらも普通に難しい。2つ目の岩峰のチムニーでは楽しいクラッククライミングが味わえる。その後に続く雪稜もすっきりしていて美しく、変化に富んだ面白いルートだ。厳冬期、風の影響を強く受ける稜線直下の東面となれば雪の付着は著しい。気温の上昇は大きくないので雪の沈降が遅く、登高は慎重に成らざるを得ない。登路設計での雪崩しにはスコップが有効だ。雪稜登攀は道具が進歩しても変わらない時代を超えた難しさがあり、それこそが醍醐味である。

不帰は西面と東面にクライミングエリアを有する貴重なエリアである。その両方を一度に登る事でまた違った味わいが出るものである。例えば霧氷の発達なんか興味深い観察対象である。不帰周辺は越中側からガスが発生しやすい上、風も良く通る地形のため霧氷が発生しやすい。過冷却水が風によって岩に当たり霧氷が発達するわけだが、その形成に温度、湿度、風向、岩の凹凸などがどのように関係しているか調べたら面白そうである。山で考えた後、家で行う実験としてはアクリル板の箱の中を冷却して、その中へ加湿器を使って水滴を送り込み扇風機で風を送ったら面白い実験ができそうだ。その中にジオラマ模型を作って東面・西面を再現し、積雪状況も再現できたら更にいい。となると少し大きな温調管理が可能な部屋と人工降雪機(雪質が調整可能なもの)が必要である。おおっ何だか山に行かずとも、山の事がわかるようになりそうだ。もう山なんか行くよりも家で実験だ!そのためにまず稼ぐための仕事だ!といって山登りを卒業する諸兄が多いか、というとそんな事は無く、もっと人の繋がり関連、所謂大人らしい事情で卒業していく。きっと私はいつまでも虎穴が有れば入りたいし、入らなくなってもどこの穴に何が生息しているか調査するだろう。無理なものは無理なので、今後は虎の穴の善き住人伊達直人を目指す事を目標としよう。

<アプローチ>
唐松本谷かDルンゼを下降する。唐松本谷の方が雪庇の張り出しが少なく下降し易いが、直ぐ隣が別の支尾根なので暗いと間違えるかもしれない。Dルンゼを下降すれば隣がC尾根で間違いないので間違いにくい。概念図通り谷が広まってから3本のリッジが平行している。

<装備>
カム少々、トライカム少々、ピトン少々、スコップ

<快適登攀可能季節>
12月下旬~4月。雪が付いてからが面白い。3月以降が登り易いのは間違いない。

<温泉>
みみずくの湯:日本有数の強アルカリ泉です。周辺の温泉は有名。入って損は無し。
倉下の湯:みみずくの湯を含む白馬八方温泉とは源泉が異なり、ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉。価格も同じ600円なので気分応じて入り分けられる。

2019年1月17日木曜日

不帰西面 第三尾根





不帰西面の岩場は第一尾根から北側へ行くにつれ、岩場はスラブ状を呈し岩は脆くなる印象がある。第三尾根と思われる場所を登ったが、支点が取りづらくスラブと傾斜のきつい凹角が交互に現われるスパイシーな内容はさながら明神岳。カムが有効な第一尾根とは違いピトンの打てる場所を探す楽しみがある。凹角から登りはじめ、傾斜の緩いところを突いたつもりが、気づいたらスラブに囲まれてしまい難儀した。幸い程よいリスが見つかり渾身のピトンワークで事なきを得た。この壁は凹角かフェース状のほうが支点を構築しやすいのであろう。霧氷の鎧を纏った最高のロケーションとともにピリリとしたクライミングはいかがだろうか。

<アプローチ>
Ⅱ峰南峰、北峰間のコルからルンゼを下降する。するとスラブ状のルンゼの先に顕著な岩が見える。この辺りがおそらく第三尾根の辺りだと思う。短いルートなので、西面をもう一本登る事が出来るだろう。

<装備>
カム一式、トライカム少々、ピトン各種。支点は取りにくい。

<快適登攀可能季節>
12月~3月。西面なので雪が締まっている事が多いはず。八方尾根のアプローチも良いので厳冬期でも割と登り易いと思う。初冬の足慣らし、雪稜と組み合わせての継続登攀など良い。

<温泉>
みみずくの湯:日本有数の強アルカリ泉です。周辺の温泉は有名。入って損は無し。
倉下の湯:みみずくの湯を含む白馬八方温泉とは源泉が異なり、ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉。価格も同じ600円なので気分応じて入り分けられる。

不帰西面 第二尾根右稜




稜線の東西に岩壁を有する不帰という山は猛烈で激烈に魅力的である。東面は雪を纏った泥臭く総合力を試されるルートが目白押しであるし、西面は美麗に凍る岩壁がスタイリッシュなミックスクライミングを提供してくれる。言わずもがな、スキー愛好家にとっても特別な山であろう。

西面はスケールの大きな第一尾根にしか注目されないが、ショートルートも捨てがたい。第一尾根以外の壁の構成がごちゃごちゃしていて解りにくいが、適当に登ってもピリリとした登攀が楽しめるのがいい。筆者らは中央チムニー(これは解りやすい)の右隣にある凹角を適当に繋げて登ったのだが、部分的なハングも現われ実質2Pだったものの相応に充実した。途中に残置が1つあったので第二尾根右稜を少しは辿ったのだと思う。手でつかめるホールドが少ないのでフッキングとトルキング、はたまたジャミングなど冬壁らしい楽しさがある。上部は登山大系の記載と違ったのでどこを登ったか解らない。第二尾根右稜付近は程よい傾斜と形状なので、トポは仕舞って気分に応じて適当に遊ぶのが粋だ。

<アプローチ>
Ⅱ峰南峰、北峰間のコルからルンゼを下降する。すぐ左手に見える顕著な岩峰が第一尾根である。Cルンゼを下降し、Bルンゼを少し登ってA・Bギャングウェイから続くバンドを確認したら大体取り付きだとおもう。短いルートなので、1日あれば西面をもう一本登る事が出来るだろう。

<装備>
カム一式、トライカム少々、ピトン各種。

<快適登攀可能季節>
12月~3月。西面なので雪が締まっている事が多いはず。八方尾根のアプローチも良いので厳冬期でも割と登り易いと思う。初冬の足慣らし、雪稜と組み合わせての継続登攀など良い。

<温泉>
みみずくの湯:日本有数の強アルカリ泉です。周辺の温泉は有名。入って損は無し。
倉下の湯:みみずくの湯を含む白馬八方温泉とは源泉が異なり、ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉。価格も同じ600円なので気分応じて入り分けられる。

2019年1月5日土曜日

赤沢山 針峰PⅡ・PⅢフランケ中央チムニー





赤沢山の岩場は遠い。林道と平坦な登山道を延々約20km歩かなければベースとなる槍沢ロッジまで着かないのだ。単純に山登りの遠さならば我慢できるのだがこれは堪える。赤沢山の岩場に行きたいけど、遠いので錫杖岳でよしとしよう。なんていうのは大いなる誤謬である。赤沢山の岩場は当然赤沢山にしか無いわけで、そこにしかない超絶貴重な大自然なのだ。遠いだのと文句を垂れていては山の謎に迫ることは到底出来ないのである。

さて、本題の登攀である。赤沢左俣の岩場は主にフェース、スラブ状で冬らしいラインというのは少ない。そんな中で針峰PⅡ・PⅢフランケ中央チムニーは冬壁愛好家ならば一目で登りたくなる形状を呈している。針峰2つを脇に沿え、ぐいっと迷い無く一直線に食い込むチムニーは正に男前そのもの。しかし、その実態は優男で誰にでも好まれる好漢である。1P目は傾斜の強い草付きから始まりⅢ+程度のチムニーを登り雪壁を目一杯伸ばす。2P目はスラブ状フェースのⅣ級か、チムニーからルーフトラバースのラインが取れる。3P目は簡単なチムニーから長い雪壁を登りコルへ至る。

この岩場は花崗岩質のようだが、少し変成を受けているように思える。針峰槍沢側正面壁の下部は綺麗な花崗岩であった事を踏まえると、穂高岳の火山で岩が焼かれたのだろうか。赤みを帯びているのは本当に酸化鉄なのだろうか。訪れたものの謎は深まるばかりである。次は事前に調査をして正面壁でも登るとしよう。

<アプローチ>
沢渡か坂巻温泉に駐車。坂巻温泉の駐車料は一日600円。富山から大体2時間30分あれば着く。槍沢ロッジ周辺にテントを張ってベース方式で登るのが無難である。もちろん、続く岩壁を登りPⅡ頂上を踏んで縦走するのも興味深い。針峰PⅡ・PⅢは赤沢を詰めれば一目でそれとわかる。そして中央チムニーも一目瞭然である。下降は同ルートが簡単である。赤沢は雪崩のリスクはそれなりに高いように思う。南面にある沢なので、降雪直後の好天時には注意したい。

<装備>
カム一式、ピトン各種、トライカム

<快適登攀可能季節>
12月~4月くらい。チムニー内は日陰なので壁のコンディションは安定していると考えられる。

<博物館など>
福地温泉で日本最古の化石が発見されている。年代は古生代オルドビス期~デボン紀。即ち5億年~3億6000年前である。残念ながら冬期登攀後は観察できない。

<温泉>
坂巻温泉、平湯温泉

赤沢山 針峰槍沢側正面壁 大ジェードル










針峰槍沢側正面壁は草付きが多いスラブ状の岩壁で、氷が発達していれば弱点を突いた自由なライン取りが可能である。PⅡ,PⅠの間を貫く大ジェードル、という字面は困難さを予想させるが実際はそうでもなく、雪壁とベルグラを程よい難易度で楽しめる好ルートだ。取り付きから凡そ5Pで終了するというこの壁では最も手ごろなラインである。針峰槍沢側正面壁は非常に日当たりの良い壁だが、この大ジェードルは日中日が当たらないので壁の状態は安定しているだろう。大ジェードルルートから入り、上部で強点となる岩壁部を交えても非常に充実するはずだ。なお、針峰PⅢのジェードルも大変魅力的であり、こちらは相応の困難が予想される。氷の発達するタイミングで挑戦するのもまた面白い。

<アプローチ>
沢渡か坂巻温泉に駐車。坂巻温泉の駐車料は一日600円。富山から大体2時間30分あれば着く。槍沢ロッジ周辺にテントを張ってベース方式で登るのが無難である。もちろん、登攀終了後針峰PⅠから赤沢山へ継続登攀するのも面白い。ババ平からラッセルをして壁を目指す。赤沢側PⅢフランケの基部をトラバースして取り付くことも可能。大ジェードルを登るとPⅡ,PⅢコルに出るのでチムニールートを下降し赤沢側へ出ると早い。壁の左側を登るとPⅠの頭に出るので赤沢側を懸垂下降をして赤沢へと通じるルンゼを下降すると早い。

<装備>
カム一式、ピトン各種、トライカム、氷が厚い場合はスクリュー。

<快適登攀可能季節>
12月~3月くらい。日当たり良好なので寒い時期が良さそう。氷が最も発達するのは2月だと思う。

<博物館など>
福地温泉で日本最古の化石が発見されている。年代は古生代オルドビス期~デボン紀。即ち5億年~3億6000年前である。残念ながら冬期登攀後は観察できない。

<温泉>
坂巻温泉、平湯温泉

槍ヶ岳 大槍東璧






槍ヶ岳における冬期登攀の一番星は西稜で間違いない。でも、あんな寒い壁取り付くの嫌だわ、でも山頂へ突上げる美しいラインが良いの。という欲張りな貴方へピッタリなのが大槍東璧である。槍山頂へ向う登山道からトラバースして壁に取り付く東璧は風当たりがもっとも弱い上、日差しも当たるので快適だ。クライミングはⅢ+くらいが大体3Pとコンパクトかつポップな内容でありながら十分面白いので初めての冬壁にもお勧めできる。ロケーションも最高なので、カップルで登るデート冬壁にもいいだろう。暖かい昼過ぎから登り始めて、美しく沈む夕日を山頂で眺めれば二人の仲も深まる事間違いなし。

<アプローチ>
とりあえず、どこからでも良いので槍ヶ岳山荘まで行こう。登山道入り口から右へトラバースする。トラバースして突き当たりにあるリッジが東南稜で、その側壁周辺が東璧である。

<装備>
カム一式、トライカム少々。暖かいとは言っても3000m稜線上の岩場なので防寒はしっかり。

<快適登攀可能季節>
11月~3月。脆い岩場なので氷でガッチリ固まっている冬期が良い。

<温泉>
新穂高温泉なのでどこでも入ることが出来る。価格帯は高い。

栃尾の荒神の湯は良い露天風呂。体を洗う場合は石鹸を持っていこう。寒くて洗えないかもしれないけど。割石温泉まで行くのもいいだろう。