2022年2月23日水曜日

戸隠 表山奥社右稜












庭園が好きだ。庭園というのは自然物を利用して現す人工的な表現である。外で遊んでいる時間が長いので割と自然の風景には明るい人種なので、造園された景色が自然風景とは全く異なることは直ぐに分かる。重森三玲の作庭した庭園を見たとき、漲る緊張感と自由な表現が混在することで独特のリズムを感じることに衝撃を受けた。不自然な石の配置なのだが、悠久の時間ではそのような一瞬もあったかも・・と思わせる妙味。一瞬を表現して観る者に永遠を想像させるところが素晴らしい。自然の美がエントロピーが環境に応じた極大安定に達する状態であるならば、人間営為の美とは一瞬を切り取ることでのみ存在しうるのではないか。

キノコ雪が林立する尾根を歩くと素敵なお庭を散策しているような気がする。奥社右稜は表山の中で最も取り付きが分かり易い。下部の樹林帯から上部の岩峰3つが認められるものの一見すると難しくなさそうに見えた。「昼に下山してランチ、蕎麦でも手繰るか!」と舐め腐った態度でいたら、しっかりやられた。岩峰は1650m付近から始まる。最初は氷化した草付きをダブルアックスで距離にして120mくらい登る。キノコ雪を崩してコルを経ると岩峰が立ち塞がる。傾斜が強い上、壁の基部は雪が空洞となることも有り、重心移動には気を遣う。小乗越は常にハングした雪帽を崩さねばならず時間を要する。あれよあれよと時間が過ぎて、残り標高100m弱のところで黒雲が迫ってきて退却。奥社周辺は九頭龍山周辺より威圧感は無いが、見た目から困難度が推し量り難いと感じるのであった。

雪稜は人間の時間間隔でも十分に捉える事の可能な自然の瞬間美。その稜を攀じる遊びは今も昔もこれからも変わることなく、三玲曰くの永遠のモダンだろう。都へ出て東福寺やら松尾大社にでも参じたくなってきたわい。

<アプローチ>
有料の奥社駐車場か戸隠スキー場に駐車。奥社まで歩いてすぐ右側に延びる尾根に取り付く。表山の中で最も分かり易い尾根かも知れない。難しい箇所は限られて短いので日帰りアタックの方が臨みやすいだろう。とはいえ、幕営可能箇所は割と多いので時間をかけて取り組んでもよいと思う。積雪が安定しているのであれば懸垂下降をしてルンゼを降りればあっという間に戻れる。そうでない場合は複雑な同ルート下降又は何とかして稜線へと至り登山道のある尾根から下降する。

<装備>
スコップは登攀具として必須。キノコ崩しはもちろん、段差を乗り越す時にはピッケルよりも安定感がある。不安定な場所で振り回すので要バックアップである。藪が発達しているので支点はスリングのみでよい。ダブルアックスで登る箇所も多いのでアックスは小指が引っ掛かるタイプがいい。

<快適登攀可能季節>
2月~3月上旬。岩峰が発達していて昇温による雪の脱落は早い。適期は2月中と考えた方がいいかも。

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