2024年2月19日月曜日

大スバリ沢 右岩壁右ルート

 








大スバリ沢右岩壁に関する情報は少ない。登山大系でも名無ルートの1本しか記載されておらず他にラインが取れるのか否か、岩が固いのかどうなのかが全然わからない。そうなると、行って調べるしかないのである。

アプローチの途中、真横から眺める右岩壁は想像より1.5倍くらいイカツイ。横から見ると縦層の板状が重なったような岩壁で屹立している。しかも明らかに逆層スラブだ。壁正面に立つと名無ルートである。岩はやはり見た目通り、難しそうでちょっと岩を触ると中々脆そう。これは敵わんわい。右のルンゼ状から岩壁際を登ることとする。一見快適そうに見えた氷雪は偽りですぐ下の固いスラブがピックを弾く。支点を取るのに難渋するので難しくは無いが緊張する。50mくらい登ってしっかりした灌木がようやく出てくる。そこから見上げる岩は積み木が積み重なったようで突入は遠慮願いたいご様子。名無ルートの上部も難しそうに見える。この壁にルートが1本しか拓かれていないのは理由があったのだ。右の尾根からブッシュを伝って登るとすぐに緩傾斜帯へ抜けた。

右岩壁を正面突破するのは非常に難しそうだ。左側は藪小リッジから凹状が続いており、こちらは登れる可能性はあるかも。といはいえ、左を登っても登行距離は長くないので何だかなぁとなる気がする。気合の入ったクライマーの皆様正面突破よろしくお願いします。

<アプローチ>
右岩壁へ直接降りるルンゼを探り当てるのはかなり難しい。恐らく屏風尾根の頭から赤沢岳へ向かい標高2500m付近から薄っすらとルンゼ状となっているところを下降するのが良いと思う。間違って右岩壁の真上に出ても左側を懸垂下降すれば壁の横のルンゼに降りられる。

<装備>
カム一式、ボールナッツの小さいの、ピトン各種(イボ重要)。

<快適登攀可能季節>
12月~3月 3月になれば積雪状態次第で1泊2日で2本登ることが出来る。概念を把握していて気合を入れれば日帰りも可能だと思う。ただ、扇沢は東面なので谷筋をアプローチにするのは賢明ではない。

<博物館など>
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。ボルダリング壁も一回100円で一日利用可。

塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。

大スバリ沢奥壁 左岩壁中央ルンゼ











 厳冬期のクライミングコンビニは錫杖岳、季節が進み晩冬~春のコンビニといえば赤沢岳である。雪が安定してくると大スバリ沢左岩壁は当日晴れていれば大体OKコンディションになるのでコンビニエンス。屏風尾根のアプローチもそれほど長くないのでベース到着後も1本登れる。即ち週末で高い山で2~3本のルートで遊べるハッピーなエリアなのだ。

 中央ルンゼという名前がついて言るけれど、壁の中央ではないし夏の登攀ラインも忠実にルンゼを登っている訳ではない。初登者はきっと中央という言葉が好きだったのだろう。クラシックルートにおいて中央はルンゼの枕詞のようになっているので、この名に着地したのかもしれない。
 さて、中央ルンゼだがダイレクトルートのお隣から登り始めて60mで1ピッチ終了。そこから黒い滝となっている中央ルンゼを横断してからバーティカルブッシュダブルアックス。その後、右のフェースをトラバース気味に登り岩稜上に出る。ここまで2ピッチは岩は硬く適度な難しさでフィールソーナイス。2ピッチ目の終了点から中央ルンゼ側にトラバースしてもいいのだけれど、なんだか不合理なライン取りになるので、岩稜の側壁を登って緩傾斜帯へ抜けた。合計4ピッチだが40~60m伸ばすので割合充実する。見た目よりもずっと快適でプロテクションも良好。比較的早く終わるので初日の一本にもよいだろう。

<アプローチ>
日向山ゲートから扇沢まで歩いて大沢小屋から屏風尾根に取り付く。屏風尾根の稜線直下は絶好のベースキャンプ地である。屏風尾根の頭から約10分ほど赤沢岳側に歩くと西側、標高差約80m程下にC岩峰が見える。C岩峰は意外に丸いので見落としやすい。C岩峰のコルを乗越し、急峻なルンゼをクライムダウンする。ここは結構緊張する。やがてトラバースできるバンドが出てくるのでトラバースしていくと左岩壁に出る。登攀終了後は雪面を詰めれば容易に稜線に達する。

<装備>
カム一式(#1まで2セットあると安心)、ボールナッツの小さいの、トライカム。

<快適登攀可能季節>
12月~3月 3月になれば積雪状態次第で1泊2日で2本登ることが出来る。概念を把握していて気合を入れれば日帰りも可能だと思う。ただ、扇沢は東面なので谷筋をアプローチにするのは賢明ではない。

<博物館など>
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。ボルダリング壁も一回100円で一日利用可。

塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。

2024年2月12日月曜日

有明山深沢左俣 奥壁右岩壁右ルンゼ

 







冬のクライミングはどんなシーズンであっても場所を選べば大概どこかは遊べる。また、土砂降りの雨でない限りはだいたい北アルプスで遊ぶことができる。有明山は北アルプスの壁の中でも最も降雪が少ない地域である。冬型でも比較的晴天率は高いうえ、そこら中に広がる岩壁と氷が魅力的で、富山から足を延ばしてでも訪れたくなるエリアだ。深沢の岩壁といえば右俣正面壁が一番人気。なかでも中央ルンゼは北アルプスの隠れた名氷瀑である。そんじゃ、左俣奥壁はというと恐らく誰も気に留めてはいない。奥壁の概念図は松本CMCの古い資料にあるくらいで雰囲気が推し量れる写真は無い。そんな状況であればその引力に抗うことは不可能で気が付いたらそこに居る。

辿り着いた右岩壁は霧が懸かって上部まで見通すことができない。それじゃあ、と移動した左岩壁は薄っすら下部が見えるだけで判然としない。結局、右岩壁の唯一開拓されているルートに取り付く。左俣右岩壁の右。左右に振れたバイブスはソニックブームを放つコマンドを想起し悪くない。最弱点である浅いスラブ状凹角をルンルンで登り始める。カンテを跨いで右隣りのルンゼに入ると5.8くらいの楽しいクライミングで盛り上がる。ここは要所でがっちりと支点が取れるが、崩壊しそうな箇所もあるので、高温時には細心の注意を払いたい。続く草付き壁もハングやスラブトラバースなど多彩な内容で面白い。最後のピッチは岩交じりの草付き灌木を登り尾根上へ出る。合計4ピッチと少々短いが十分クライミングを楽しめた。

薄っすらと見えた右岩壁全景から察するに、これ以上ラインを引くのは難しそうな印象を受けた。過去登られた記録においても右岩壁はこれ1本であるのも相応の理由があるのだろう。奥壁の再訪は左岩壁に懸かる氷柱がバッチリ繋がるような好コンディションを選んでかな。

<アプローチ>
奥壁は深沢左俣1950m付近に位置し、右岩壁と左岩壁という二つの壁で構成されている。右俣の正面壁よりも標高が高いため、比較的コンディションは良好なことが多いと推察する。奥壁の右岩壁と左岩壁は小尾根で分割されており繋がってはいない。幅が狭い岩壁2つが近接していると考えたほうがいい。
 有明山の地形は厳しく容易な尾根は無い。下部から尾根のアプローチを試みても途中に現れる岩壁と深い藪に苦しめられる。そんなわけで奥壁のアプローチは週末系冬壁のアプローチの中で最も難しい部類に入る。シンプルに深沢左俣を下から遡行するか、稜線から下降するという2通りとなるだろう。筆者らが訪れたときは氷の発達が悪いシーズンだったので稜線からの下降を採用した。黒川沢から山頂を目指すが、白河滝を登ってから山頂を目指すのがお買い得感があるので推奨したい。南峰から尾根を下降するが、2050m付近でルンゼへ下降する途中の岩壁帯に出会う。この岩壁を懸垂下降2回でやり過ごす。ルンゼに降り立ち、右へトラバースして右岩壁へ通じるルンゼに入ればよい。右岩壁へのルンゼを50mくらい下降して右へトラバースすると左岩壁に至る。山頂ベースの場合、右岩壁を登ったあとは直ぐに下降した尾根に乗れるので意外に早く山頂へ戻ることができる。黒川沢本流下降点となるコルまでの主稜線は稜上が藪と岩で複雑である。晴れていても時間はかかるし、夜間の下降はそれなりに難しいことに留意されたし。

<装備>
カム0.2~#2まで2セットあれば安心。あとは#3とボールナッツの小さいのがあれば使える。

<快適登攀可能季節>
1月~2月 壁が南向きなので多少寒気が入るタイミングの方が安定している。

<博物館など>
碌山館:荻原碌山やその仲間の作品を展示。鉱夫、デスペア、手(高村光太郎)等の有名作品がある。建物も趣がある。安曇野の山に来たらまず行きたい。
安曇野市豊科近代美術館:宮芳平という作家の作品が良かった。特に詩集「AYUMI」は熱がこもっている。
高橋節郎記念美術館:漆を用いた絵画がとても興味深い。
穂高郷土資料館:穂高町で使用されていた狩猟用具や農耕用具が展示されている。二階には近辺で出土した保存状態の良い縄文土器が数多く展示。面白い。
安曇野ちひろ美術館:いわさきちひろの作品を中心とした絵本の美術館。いわさきちひろは絵本を俳諧になぞらえて表現していたとか。人となりを理解して味わえるの展示となっているのが面白い。

2024年2月4日日曜日

三方崩山 弓ヶ洞谷第二岩稜











弓ヶ洞谷の岩稜はとても短い。短いことが悪いかというと全然そんなことは無く、ぴらっと楽しめる選択肢としてアリよりの有りなのだ。継続登攀の一環として日曜日に登るのに丁度いい。

稜から下降しながら第二岩稜を眺めると、顕著なピナクルが視認できる。雪稜とピナクルは絵になるのでこれは行かざるを得ない。第二岩稜下部は2つに分けれていて、ピナクルがあるのが左稜である。左稜の下部は尾根上で嫌らしい岩壁になっている。顕著なルンゼをダブルアックスで駆け上がる。稜上に上がるところで傾斜の強い藪交じりの草付きを登るが技術的にはここが核心である。そのあとすぐにピナクル登場。ここは苦労なく通過し、以後はコンテでロープを200mくらい伸ばした後はワカンラッセルで主稜へ至る。

第二岩稜は下部2ピッチがピリリとする。稜上までの実質登攀時間は3~4時間くらいで短いがちょっと遊ぶにはぴったりだ。

<アプローチ>
弓ヶ洞谷は三方崩山の北尾根東面にあるスキーヤーには割と滑られている谷である。雪稜は恐らく名古屋ACCによって初めて登られたものと想像するが詳細不明。尾根の南側から第一、第二、第三岩稜と命名されている。何となくそうなんじゃないか概念は以下の通り。


アクセスとしては雪がしまり切っていない2月ならば道の駅飛騨白山に駐車して平瀬尾根を登り下降するのが安全で合理的な気がする。雪が締まっているならば谷を詰めればいい。尾根から下降する場合、雪庇の張り出しが少ない箇所を選んで下降することになるが恐らく第一岩稜と北尾根の接続部が最も降り易い。3月に入ると林道を歩いて弓ヶ洞谷を詰めるのが楽だろう。尾根上には幾つも幕営可能点があるので何時に取り付いても問題ない。下降は平瀬尾根を降りるより弓ヶ洞谷をそのまま降りて国道を歩く方が最終的に早いかもしれない。

<装備>
スコップを振り回す時間が圧倒的に長いので、携行しやすい工夫が必要。もちろん要バックアップ。雪特有の支点構築品は特にいらない。ダブルアックスで登る場面が多いのでアックスは二本準備する。

<快適登攀可能季節>
2月~3月。積雪がたっぷりある時期に登りたい。

三方崩山 大ノマ谷第三岩稜









家から近い山は良いものだ。いや、山が近い富山は素晴らしいところなのだ。三方崩山はスイート系の雪稜が幾つも連ねる好山である。三方崩山の入山口は白川郷インターチェンジから15分くらいで富山市内であれば高速利用で1時間半もかからずに到着する。雪の尾根遊びがしたくなったら気軽に行ける。

大ノマ谷の第三岩稜は一見して難しそうである。下部尾根末端はしっかりと岩壁となっている。雪が多いと末端右のブッシュから快適な雪壁となるのだろうが、筆者らが登った時は寡雪で好天続き。岩壁の暗闘的な存在感に負け、尾根左の枝尾根から登ることとした。末端岩壁を登るつもりで行ったら、それも一興かもしれない。ダブルアックス&藪をかき分けて進む。岩の段差になっているところは瞬間的に岩登りをするが、ラインを選べばそれほど難しくは無い。後半はシンプルな雪稜となってひたすら気持ちがいい。夜明け前から取り付いたら泊りには丁度いいくらいの時間に稜線に出るだろう。

大ノマ谷第三岩稜は傾斜の強い下部に難しさがある。尾根末端から登るとまた違った味わいがあるのだろう。その時々の状況に合わせて楽しめる雪稜なのでまた来よう。

<アプローチ>
大ノマ谷は三方崩山南東の谷の事で大ノマとは「大きな雪崩が出る谷」の意である。岩場や雪稜は登攀クラブによって初めて登られ、以後一部の愛好家に細々と登られてきた。谷の上流から第一、第二、第三、第四岩稜と命名されているようだ。なお、第二岩稜は上部で第三岩稜と接続している。何となくそうなんじゃないか概念は以下の通り。


近年(と言っても20年位前)では名古屋ACCが紹介し一時脚光を浴びた模様。アクセスとしては雪がしまり切っていない2月ならば道の駅飛騨白山に駐車して平瀬尾根を登り下降するのが安全で合理的な気がする。尾根から下降の際には面白そうな尾根が4つ綺麗に並ぶ姿におおっ!となるはず。3月に入ると大白川方面から林道を歩いて大ノマ谷を詰めるのが楽だろう。しばしば2月でも雪が締まって取り付けるタイミングがあるのでそれを狙うのもいい。尾根上に幕営適地は殆どなく、稜線直下まで行かないと安全に泊まれない。

<装備>
スコップを振り回す時間が圧倒的に長いので、携行しやすい工夫が必要。もちろん要バックアップ。雪特有の支点構築品は特にいらない。藪で何とかなると思う。岩が出ているとき用にピトン少々。

<快適登攀可能季節>
2月~3月。積雪がたっぷりある時期に登りたい。