2024年8月21日水曜日

大海川 大倉沢

 











 富山県民にとって頸城の山といえば海谷渓谷や早川流域、それに鉾ヶ岳山塊といった北側の山が身近な存在。小谷村の南側は少し回り込む経路となるため何となく遠く感じてしまう。況や東側の妙高となれば異国である。
 小谷村中谷川上流の渓谷は粒ぞろいでよろしい。浅海川のゴルジュ造形美、横沢のナメと大滝連続コンボ、どちらも素晴らしかった。では、中谷川の本流とも呼ぶべき大倉沢はどうだろうか。
 黒沢出合いまでは緩やかな川原を淡々と歩くだけである。そこからV字状渓谷となっていく。黒々としたボロイ岩は正に海谷上流と同じ。加えて水の濁り具合、ちょっぴり苦い味も同じ。住み慣れた地獄はほっとする。周囲の光景がイカツイいうえ屈曲点が多数ある。角を曲がる度にくるのか・・と身構えるが全然来ない。快適に小滝を登るうちにゴルジュ帯を終了していた。以後も淡々と進み、1930mの二俣を左に入ると急なルンゼ状となる。ここから高差50mくらいがこの谷の核心である。下部が容易なだけに油断せずに登りたい。最後は竹のようになった笹の密生を漕ぎ分けて登山道のある稜線にやっとこさ出る。
 頸城の沢の雰囲気は漂っているのだけれども遡行は比較的容易といえる。取り付きにくい印象のある山域の中で日帰りで丁度いい遡行距離で、金山に登ることもできる。at 頸城沢登り入門にいかがだろうか。

<アプローチ>
小谷温泉の雨飾山登山道入り口に駐車して任意の場所から入渓。下降は登山道を利用してもいいが、アップダウンが多い。茂倉峰からの右岸支流や黒沢を下降すると合理的である。筆者は黒沢を下降したが、最後に大滝がある以外割合下降し易かった。

<装備>
沢慣れしていれば懸垂用のロープのみでOK。フェルトの方がいい。

<快適登攀可能季節>
8月~10月。残雪が多い時期だと不安定な雪渓が残る。やはり秋がよいだろう。

<温泉>
小谷温泉:雨飾荘、山田屋温泉旅館など複数あるが日帰り温泉終了が早いので要注意

2024年8月20日火曜日

篭川 黒沢

















 アルペンルートの東側玄関口である扇沢の横を流れる篭川。この支流を沢登りする人は多くないかもしれない。地形図ではどの支流も一直線に水線が描かれており変化に乏しそうに見える。その中でもしかしたら、と思わせるのが黒沢の1070m左支流だろう。手始めは面白そうなところからやりたいのが人情というもの。北アルプスの新たな側面に期待して入渓。

 篭川の広い川原を流れる水は川幅に比して小さい。しかし、足を入れると水は重く足をすくわれそうになる。油断せずに渡渉したい。黒沢本流は思った以上に水量があり、左支流とは滝で出合っている。右の方が楽しそうだが左へ入る。左は赤みを帯びた花崗岩で黒沢という名前がどうも似合わない。ガレも結構堆積している。はずれの不安を抱きながら歩みを進めるとやがて美しい段瀑やナメが現れ一安心。シャワークライミングと小さい巻きで越えると一旦川原となる。中盤からもシャワークライミングをまま味わえるので飽きない。終盤は側壁が地形図と整合しないスケールで発達しており、谷は水の無いスリットゴルジュとなる。迫力のある景色のなか小滝群を楽しく登ると、それ程のヤブコギも無くシャクナゲが繁茂した尾根に出る。
 さて、反対側の本流へ下降だ。本流へのアクセスはぬめり易いものの下降はしやすい。水が現れ始めると驚くほど冷たく谷全体が冷気に覆われている。そして、黒沢という名前の表すがごとく岩盤が黒い!地形図では淡々とながれるように描かれているが、豊富な水量を豪快に流れるナメ滝が多く登っても面白いのではないかと思わせる。黒い岩に発達する緑色の苔も良き演出である。清冽な水は真夏の遡行にぴったりであろう。意外な20m大滝も現れて下降も飽きさせない。終わってみれば大満足の半日遡行であった。

 小さな流域にも関わらずここまで変化にとんだ渓相を楽しめるとは想定外であった。花崗岩のシャワークライミングと安山岩質の溶岩による黒ナメの美。剛柔兼ね備えた良渓と言えよう。いずれ篭川の他の支流も登り比較したいものだ。次は白沢天狗山西面の岩場と合わせて対岸の白沢を登ってみようか。

<アプローチ>
黒沢出合い付近の道路路側帯に駐車する。登攀は左俣遡行~右俣下降のラインの方が面白いと思う。

<装備>
沢慣れしていれば懸垂用のロープのみでOK。そうでないならばカム少々。

<快適登攀可能季節>
7月~10月。北アルプス主稜よりも標高が低いのでシーズンは長い。

<博物館など>
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。

塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。

乳川谷 ヨセ沢左俣





















 忘れられない出会いがある。宮川水系のとある支流を登るため沢登りの準備をしていたら軽トラで初老のおじさんが登山者らしからぬホームセンターで売っている作業着で現れた。滑り込むように駐車してから颯爽と降車し我々に声を掛ける。「沢登りかい?」「そうです。そこの谷を登ります。おじさんも沢登りですか?」「いやぁ、俺は藪専門だからそこの尾根。藪山しか登れないから」と登山道のない尾根を指さすおじさん。想定より斜め上の回答をさらりされ、自分の中の時空が少し歪んだが、尋ねるのも野暮な気がして「そうですか、どうか楽しんで!」とあっさり互いの無事を祈り別れた。あれから幾年経ったのか分からないが、私の夜空に彼はシリウスのごとく輝いている。
 彼の発した言葉とその表情から、これからする登山が楽しみであること、藪を漕ぎながら一人静かに山を登ることを愛していることが自尊と自嘲がない交ぜになりながらも強く表現されていた。決してそれは意図したものではなく、重ねてきたと山登りの経験とその思いが自然と表出してたように思う。果たして彼のように山を楽しめているだろうか。

 乳川谷の支流を地図で眺めたとき沢登りが最も楽しめそうなのは1200m右岸に本流と交わるヨセ沢ではないか。ヨセ沢は清水岳を最も高い水源とするが、三角点は東の馬羅尾山にある。終着点となる点が明確な方が分かり易いし、山名も良いので馬羅尾山へ向かうことにする。
 ヨセ沢は期待以上の素晴らしい沢であった。出合から比較的硬い花崗岩を滝で標高を稼ぐ。快適なシャワークライミングを中心として時折ロープを出しつつ登っていく。清水岳へ向かう本流と別れると出合いからゴルジュ連瀑シャワーで爽快だ。どれも絶妙に登れるので思わず笑みがこぼれる。馬羅尾山へ向かう支流に入ると見たことない異形のぬりかべ滝が現れる。この滝を見るだけでも訪れる価値があるんじゃないか。その上も少しシャワークライミングを楽しんだのち笹薮へ入る。水溝を自然と馬羅尾山山頂へと導かれる。三角点からの眺めは無いがやはり山頂に来れたのは嬉しい。北側の尾根を少し下り東側へと支流を下降した。この下降した支流は下り易いけれどもナメと大滝が美しく印象的であった。

 ヨセ谷から馬羅尾山を登る周遊は日帰り登山として丁度いい。富山からだと日帰りでは勿体ないので他の沢を絡めて一泊二日の遡行を計画したら面白いだろう。ヨセ谷の後中沢や北沢を登り餓鬼岳登頂後に釣魚沢を下降するなんてのはどうだろうか。南沢の左俣を登ってヨセ沢右俣を下降するのも興味深い。北アルプスの端っこにある目立たない山域だがまた遊びに来よう。

 <アプローチ>
乳川谷の右岸側の林道に駐車する。左岸より右岸側の方が道が整備されており、地図の登山道マークは実は林道で車高が高ければ走れる。標高1060m付近の橋が崩落しているのでそこが広場となっており車で入れる最奥となる。馬羅尾山東側の支流は割合下降しやすい。この下降した支流もナメ滝や大滝を随所に配しており美渓。

<装備>
カム一式。ヨセ沢内はぬめるのでフェルトの方がいい。

<快適登攀可能季節>
6月下旬~10月。雪が少なく標高も低いのでシーズンは長い。ただし、乳川谷の水量は多めなので注意。

<博物館など>
碌山館:荻原碌山やその仲間の作品を展示。鉱夫、デスペア、手(高村光太郎)等の有名作品がある。建物も趣がある。

安曇野市豊科近代美術館:宮芳平という作家の作品が良かった。特に詩集「AYUMI」は好み。

高橋節郎記念美術館:漆の絵画が興味深い。

安曇野市穂高郷土資料館:穂高町の歴史、特に縄文時代についてが詳しく展示されている。養蚕についての展示も興味深く楽しめる。

安曇野ちひろ美術館:いわさきちひろの作品を中心とした絵本の美術館。いわさきちひろは絵本を俳諧になぞらえて表現していたとか。人となりを理解して味わえるの展示となっているのが面白い。

<温泉>
すずむし荘:単純弱放射能温泉(ラドン温泉)でさっぱりとしたお湯。内湯、露天ともに綺麗で快適である。

高瀬川 北葛沢

    


















 北葛沢は本格的な沢登りが楽しめる好渓である。と、本格という紋切り型フレーズを用いたが沢登りの本格的というのは未だ一般化されていない概念なので、ここは一丁覚悟して定義を提案したい。1.水量が豊富であること、2.ゴルジュがあること、3.滝、ナメ、川原と渓相に変化があること、4.稜線に到達できて頂上に至れること。5.日帰りで登ることが困難で一般的には2日以上の時間を要すること、以上5点を満たすとき本格的(或いは本格派)と称していこうと決めた。今後、本格的を活用していこかと思う。

 さて、本格派の北葛沢は入渓して直ぐに豪快な花崗岩ゴルジュ帯が始まる。流石北アルプスを水源とする水は冷たく勢いがある。音と水勢に威圧感が良きスパイスだ。ゴルジュ帯が突破可能設計なのがこの沢の魅力。ゴルジュ内の小滝群を登ったり巻いたりしながら進む。登攀も巻きも簡単ではないのが面白い。ゴルジュの側壁を人工登攀を交えて灌木帯へ抜けた箇所もあった。とはいえ、あくまで突破仕様なので沢慣れした少人数パーティーならば比較的早く下部ゴルジュは突破できるだろう。少し癒し系の渓相を挟んで吊り橋跡を過ぎると上部ゴルジュが始まる。こちらは幾分開けており、巻きも登りも下部よりは易しくなる。七釜の連瀑を越えると谷は一気に開ける。いかにもアルプスらしい豪快な景色が嬉しいところだ。七釜以降は花崗岩ではなくなり谷の白さは無くなる。ふと沢の岩壁を見ると岩が黒い。安山岩質に見えるのだが実際はどうなのだろうか。黒々とした岩壁で冬に登ったら面白そうなのだが、如何せんクラックに乏しく脆い。もし、冬に登るのならばリッジ状を登るのがいいところだろう。絵にかいたようなガレをゆっくり慎重に上り詰める。北葛乗越からはアップダウンの多い稜線で疲れた体にはつらいかもしれない。北アルプスの稜線眺望を楽しみながら下山。

 スケールがあり誤魔化しの効かない沢である。沢慣れしているか否かで遡行所要時間は大きく変わるだろう。足並みの揃った少人数であれば一泊二日も十分可能だと思う。本格派遡行を志向するならば是非どうぞ。

<アプローチ>
北葛沢入口付近にある路側帯に駐車して入渓。幕営箇所で最も良いのは下部ゴルジュを抜けた1150m地点である。上部ゴルジュを抜けた1740m地点もまずまず。ゴルジュ内でも十分に幕営できる箇所があるものの、相応の増水には耐えかねる。晴れの日ならば問題ないと思う。下山は縦走登山道を使うのが一般的だろう。縦走路も相応に悪いので要注意。筆者らは針ノ木谷へ一度下降してから七倉岳を登る沢を詰めた。特に合理性は無いけども気分的に。

<装備>
カム一式、ピトン少々。フェルトでもこなせないことは無いが、ラバーソールの方が利がある沢だと思う。

<快適登攀可能季節>
8月~9月。残雪が多い時期だと上部は雪渓歩きになるはず。とはいえ、時期が遅いと寒い。

<博物館など>
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。

塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。