2022年7月25日月曜日

西谷 金ヶ丸谷



















中部地区に在住で生き物に興味がある人ならば一度はヤシャゲンゴロウの存在を耳にしたことがあるだろう。ヤシャゲンゴロウとは夜叉ヶ池のみに生息するゲンゴロウ類で、メススジゲンゴロウと極めて近い種でありながら遺伝的に分化していることが立証されている希少種である。ヤシャゲンゴロウの起源はメススジゲンゴロウが鳥類による生物攪乱作用によって夜叉ヶ池に運搬され、遺伝的分化を遂げたと推測するとこである。メススジゲンゴロウとヤシャゲンゴロウの交雑が可能なのか、可能だったとして第二世代に生殖能があるのかは未確認である。隔離が生じてから最も近い種間との交雑が不可になるまでの時間は生物種ごとに異なる。一体どれだけヤシャゲンゴロウはこの池で孤独な時間をすごしたのだろうか。この池での時間がどれだけで、この環境が如何なる遺伝子の選択圧力が働いたのか興味が尽きない。

ヤシャゲンゴロウは見たいがそれだけの為に訪れるのは勿体ない。何か一緒に味わえるラインが無いか物色する。近くに詰めあがる金ヶ丸谷は日本の渓谷に「命の洗濯効果抜群」と記載されていた(命の洗濯という言葉はある一定以上の年代しか使用しないのも興味深い)。洗濯と選択というダブルミーニングが成立する奇跡!命がめっちゃセンタクされる山域であれば行くしかない。

金ヶ丸谷は美しい谷で遡行は文句なし。美しすぎる森、撫愛するように流れる水、瀬を流れる水音。全てが完璧に整っている。谷が狭まる箇所ではしっかりとゴルジュ地形の美しさも備えているのも素晴らしい。一応小滝も現れるが登るということのリスクは非常に低く安全な沢でもある。ロープの出番がなく登攀好みの沢屋には物足りないかもしれない。その場合は三周ヶ岳東面の岩場を併せて登ればきっと充実するはず。傾斜が強く支点に乏しいチャートだが何がしかのラインは取れるだろう。さて、お楽しみのヤシャゲンゴロウ。遊歩道を乗り出して観察していると何匹も泳いでいる姿が見えて大興奮。まさかあっさり出会えるとは思っておらず本当に来てよかった。

夜叉ヶ池には夜叉姫伝説もある。これは山の池あるあるの旱魃→生贄→龍神化というパターンである。さて、日本人は一体なぜ水が足りなくなると山の池に祈るのだろうか。山の池の水位が安定している不思議が信仰心を掻き立てるのだろうか。そして生贄は殆どの場合は女性なのは何故だろうか。本邦では古来生命の象徴であった女性を差し出すことで願いが叶うという論理だろうか。神話の根底にある日本人の女性観は一体どのようなものなのだろうか。日本中の山岳湖沼を廻り世界の神話についても調べなければ全体像は掴めない。

山行の結果、センタクの原動力を感じる旅に出るなら夜叉が池を絡めた登山が最適というのが結論です。

<アプローチ>
美濃側からアプローチすると徳山ダム経由となって物凄く遠い。越前側から山越えして取り付くことを推奨したい。筆者らは大河内川真谷を遡行後に金ヶ丸谷715m付近へと合流する支流(多分大ヤブレ谷)を下降した。この下降した付近は非常に良い幕場となっている。三周ヶ岳から夜叉が池までは藪が刈られていないので歩きずらい。

<装備>
沢慣れしていればロープは要らない。磨かれているがヌメリもあるのでフェルト推奨。

<快適登攀可能季節>
6月~10月。割と長期間たのしめるのではないかと思う。筆者らは7月中旬にも拘らず害虫を一切感じなかった。

2022年7月24日日曜日

神渕川 本谷左岸220m支流

 















飛水峡右岸はチャートが浸食されたゴルジュの発達が著しい。うねる様に、時には一直線に伸びるゴルジュの突破は楽しいの一語。下山を含めて3~5時間で終了するので富山からちょっと遠いが何かと便利な山域だと思う。

本谷左岸220m支流はピリリとしたシャワークライミングが楽しめる良渓。出だしからすぐに美しいゴルジュに滝がかかる。手が付けられない滝は割と簡単に巻ける。川原と小滝をこなし標高350mから物凄いゴルジュが始まる。思いっきりシャワークライミングを堪能しよう。チャートはやや滑りやすいがプロテクションは落ち着けばしっかりとれる。ナメを越えると何事もなかったかのような植林の平凡な渓相になる。眺めのいい室兼高屋山頂でのんびりランチタイムするのも最高だ。

しっかり突破系なのに早上がり。おかわりにもう一本はもちろん、ボルダーの前後にもいい。

<アプローチ>
そらふさがりのある本谷林道に入る手前に広い駐車スペースがあるのそこに駐車する。遡行終了は室兼高屋から七宗体育館へ降りる尾根へと入ったのち、林道入り口へ適当に尾根を下るか本谷右岸支流を下降する。尾根はどこもすっきりしておりどこでも下降可能。

<装備>
カム#1まで。ピトンは無くてもOKだったと記憶する。足回りはフェルトでもラバーでもいいかも。

<快適登攀可能季節>
4月~11月。標高は低いし長期間たのしめるのではないかと思う。

<博物館など>
日本最古の石博物館:地球岩石の成り立ちを学べる。怪しげな外観に反し、ちゃんとした科学館だ。レッキー君と地球の歴史を旅しよう!ただし、日本最古の石の称号は新たに発見された島根県の石に奪取されている・・これも実際に触れて感動!


日野川支流大河内川前谷 真谷

 













奥美濃(越美山地)の福井側の山は富山から遠いのであまり縁がなく概念すら怪しい。しかし実は交通の便は良く、高速道路を使えば2時間で到着することが発覚。よっしゃ時には豪勢に奥美濃でも行ってみようや。

大河内川の真谷はまずどれかという話。日野川本流の標高400m左岸より合流するのが真谷であり、真谷には3本水線が描かれているが最初の左岸支流が杉谷、次の右岸支流が源平谷、そして真ん中を流れるのが真谷である。真谷の上部でも支流が綺麗に分かれて突き上げるピークが違ってくるのがややこしい。筆者らは830m付近の左岸支流より稜へ上がった。

真谷という谷は中々美しい谷で何気ない川原歩きも楽しい。ほとんどの滝は楽しく登れるのもありがたい。1箇所だけ凄いゴルジュのドン突きに落ちる滝から先が登れない滝が続くので左岸から巻いた。この巻きも全然悪くない。この山域は雪が多いのだろうが、普段登っている山域よりも巻きが容易な傾向にあるのが不思議。上部は昨今の大雨で荒れたのだろうか倒木が多くなる。奥美濃の稜線は登山道が無いのが最高だ。登山計画に合わせた下降する谷のルートを取ろう。

大河内川流域と山隣りの西谷や赤谷を絡めて色々な山の楽しみ方ができそうなので再訪が楽しみである。

<アプローチ>
広野ダムから日野川上流へと向かう林道へと車を走らせる。林道途中に取水堰堤があり、そこから先はダートとなる。道が悪く転回も難しいので無理せず早めに駐車が吉。日野川400m左岸より合流するのが真谷である(上部支流は真ん中)1288mに上り詰めると下降が厄介となる。1290mのロボットピークか、美濃俣丸北側のピークに出て適当に谷を下降して戻るのがいい。ロボットピーク伸びる尾根に踏みあとが有るらしいが未確認。

<装備>
沢慣れしていればロープは要らない。磨かれているがヌメリもあるのでフェルト推奨。

<快適登攀可能季節>
6月~10月。標高は低いし長期間たのしめるのではないかと思う。

2022年7月18日月曜日

片貝川 坂様谷右俣






サカサマ谷なのかサカヨウ谷なのか良く解らないまま、訪れた坂様谷。出合いはちょっといい雰囲気だが、すぐに土砂っぽくなる。谷中にそんなに嫌な雰囲気はないものの川床が浅いので沢登り的には物足りないかもしれない。足元には当地ではおなじみの赤色の斑点が混じった花崗岩が多い。これといった滝が無いまま右俣へ入ると、一瞬シャワークライミングとなり期待が高まるが以後は単調となる。簡単な沢なので午前中の早い時間には終了する。山菜取りに、ハイキングがてら、午後から天気が崩れる時、家族との時間を大切にしたい方、多くのニーズに応える坂様谷である。下山後、チロルで伺ったところサカサマと判明。それで、さかさまって何なんだ?

<アプローチ>

洞杉駐車場から歩いて坂様谷出合いまで。右俣を遡行する場合土倉谷支流を下降するのがいい。この支流は上部で山抜けが発生しており土砂堆積が著しい。流木を利用して2回懸垂があるが概ね下り易い。


山抜けが起きている花崗岩は赤みを帯びていたり、異様に白っぽかっ買ったりする。これはなんでだろう。もちろん同ルート下降も容易。

<装備>
沢慣れしていればプロテクション類は要らない。滝中の岩は硬いのでピトンやカムなど十分に使えると思う。

<快適登攀可能季節>
6月~11月。水は少なく、濡れも多くないので晩秋も行けると思う。

<博物館など>
洞杉:魚津が誇る岩を抱えるように発達した杉の巨木群。南又方面へ向かう際には訪れてみるといい。



魚津水族館:歴史有る水族館で主に県内に生息する魚を展示。こじんまりとしているが魅力的な水族館。可愛いPOP解説も面白い。
魚津埋没林博物館:でっかい木が沈んでいるだけなのだが、なぜか趣がある。

2022年7月16日土曜日

寂地山 宇佐川 犬戻峡

 








旅すがらふらりと訪れる里山ほど楽しい登山は無い。山口県にある寂地山という山は一切聞いたことは無かったのだが、クライミングしていて周辺で高い山を探したら山口県最高峰という事が判明。これは行かざるを得まい。

寂地山南面には犬戻峡、寂地峡、浦石峡と綺羅星のごとく峡谷が居並ぶ。このほかにも魅力的な渓谷があるが、寂地山を目指すため、ぐっと堪えてお犬様へ向かう。犬戻峡の渓相は奥美濃の谷と雰囲気が似ているがちょっと違う。何より明るい谷でうきうきしてしまう。犬戻の滝周辺は想像の3倍素晴らしく感動。そして快適に登れる。竿を出したらイワナが生息していることを確認できた。中国地方にも高密度で生息しているのかもしれない(放流なのだろうか)。とても気持ちよく遡行を終了してのんびりしていると、信じられないことに犬が登山道から降りてきた。リアル犬戻事象の発生に重ねて感動。さて、本題の寂地山も見晴らしには乏しいが大変よい里山である。賑わう山頂で地元の方とのおしゃべりは楽しい。地域の声を聴くのは旅の醍醐味。そんなこんなで忽ち山が好きになってしまう。次は浦石峡かな。

<アプローチ>
寂地峡キャンプ場に駐車して右岸に続く林道をあるき適当なところから入渓。下山は林道を歩いて楽勝だが、折角なので寂地山までハイキングしていくのがよい。

<装備>
スリングのみでOK

<快適登攀可能季節>
3月~11月。たぶん