北又谷は登山大系曰く本邦屈指の美渓。その美渓からつるべ落としの如く連瀑を連ねる漏斗谷へ繋げれば本邦屈指の総合沢登りルートとなるのは自明の理。そして、そのような所を沢屋が訪れるのは瞭然の極み。
北又谷本谷下部はご承知の通り、水との熱いバトルとなる。最も注意したいのは大釜淵で、どんなに水量が少ない状況でもロープをつけて臨みたい。花崗岩の白とエメラルドグリーンが眩しく酩酊するぜ。漏斗谷の出合から直ぐに7m滝が現れるがこれは簡単に巻ける。以後、非常に楽しいゴルジュ連瀑をわいわいと進む。8m+15mの二段滝を右岸から巻いたら第一ゴルジュが終わったようだった。第二ゴルジュはシャワークライミングと泳ぎが連続して益々うふふ~んなワールドである。ゴルジュの最狭部抜け口にあるハンドジャム&フットジャムがバチ効きクラックが気持ちいい。第二ゴルジュを抜けてゴーロになる辺りから突如花崗岩が消失し、やがて泥岩のような黒い岩となり崩壊が進んだゴルジュ地形へと変化する。この急変する至福を何卒どうかよろしく味わってほしい。以後、短い区間に蛇紋岩や何らかの変成岩など岩質が多様化する。第三ゴルジュは耕作滝からスタート。今度は左のチムニーをワイドクラック風に楽しめる。岩の隙間から抜け出るのは沢でもクライミングでも登山道でも幸福感湧き出でるのは何故だろう。びしょ濡れシャワークライミングの後、耕作滝級のでかい滝が現れる。滝の右側にある傾斜の強いクラックチムニーを登ろうか逡巡したが、下部クラックがフレア気味のハンド~フィストで支点が取れずヌルヌルだったので右岸から巻くことを決定。この草付きの巻きがこの谷で唯一悪いところだった。核心はこれで終了。その後も嬉しい楽しい小滝を登り、どえらい急な階段状を登ったら想像以上に長い詰めである。
さて、今山行の筆者らの目的は1791m南と長栂山西の秘境お池巡りを堪能し、湖畔にてペルセウス座流星群を観測することである。抜群のロケーションの中、天候に恵まれ人生最高の観測会を無事終了。湖面に浮かぶ無数の星明りは生涯忘れることはない。
水量と天候に恵まれる好コンディションだったため、悪さはほとんど感じることはなく楽しいばかりの遡行であった。完成度抜群の沢登りは漏斗谷で是非どうぞ。
<アプローチ>
小川温泉の登山者駐車場からタクシーを使って越道峠まで行き、石碑横にある謎の登山道を利用する。そこから支流を下降して魚止滝下に出る。筆者らは1083.9三角点と1097のコルから下降した。下山は朝日岳を経てイブリ尾根登山道を利用する。そこそこの幕営点は第一ゴルジュの手前、第一ゴルジュを抜けた後、第二ゴルジュを抜けた後、1800m付近と割合豊富である。筆者らは幕営可能点の見当がつかずに、時間にむっちゃ余裕があったが第一ゴルジュ終了後標高1000m付近に泊った。それでも、2日目に頑張れば下山できそうな時間であった。渇水期、足並みの揃ったパーティーで北又谷入渓初日を早朝にすれば第二ゴルジュを抜けるところまで行けるはず。そうすれば一泊二日で行けると思う(速くて楽しいかどうかは別でね)。
<装備>
カム0.4~1.0、ピトン少々。足回りはフェルト推奨。クライミングシューズ不要。荷揚げ用にフローティングロープを持って行ったが、なくても良いかも。ライフジャケットがあると安心だがなくてもいい。盛夏を過ぎるとウェットがあったほうが快適。
<快適登攀可能季節>
8月~9月 水量、寒さ、害虫など各種事情を鑑み判断されたし
<温泉>
小川温泉元湯:ホテル小川と不老館、あなたはどちらに入る。
<博物館など>
護国寺:別名石楠花寺。とやま花名所に選ばれるだけある庭園。シャクナゲとツツジの時期が素晴らしい。謎の置物も気になる。
朝日町歴史公園:縄文時代の不動堂遺跡が再現されている他、江戸時代町屋であった旧川上家の家屋が当時の状態を保ったまま移設されている。ここでは朝日町名産のバタバタ茶を自分で点てて試飲できる。12月~3月は閉館するので注意。
朝日町立 ふるさと美術館:昨今の大正アートブームで再注目の竹下夢二の作品を所蔵している。江戸~大正期、朝日町の泊は宿場町で大いに栄えており、その盛り場に夢二が訪れていたようだ。妻たまきとの破局事件の舞台は宮崎海岸だ。この情事の続きは朝日町の図書館で。
百河豚美術館:野々村仁清の作品を数多く展示している。デフォルメされた鶏が描かれコップもあり、仁清のモダンな感性を感じる事ができる。他にも話題の伊藤若冲や、尾形光琳に酒井抱一といった琳派ビックネームの作品も展示。
下山芸術の森発電所美術館:きらりと光る興味深い展示をやっている。こちらも12月~3月の冬季は休館するので注意。
杉沢の沢杉:地口か回文のような名称だが素晴らしい場所。田園と防風林の中にポツリ広がる湿地杉林で、まるでもののけ姫の森のようである。近年、入善乙女キクザクラという桜の新種がここで発見されている。この原木は未だ杉沢の沢杉でしか発見されていない。北陸は菊咲きの桜の品種が多いらしい。