2020年4月13日月曜日

稲子岳南壁 左ダイレクト







八ヶ岳という山は実にたくさんの人が登る山である。しかも3000m級でありながら一年中登られる稀有な山だ。車を所有していない学生の頃は電車とバスで登山口まで容易に行けるので何回か長期間滞在して西面東面ともに登ったものである。昔は青春18きっぷで北陸本線、大糸線、中央線と乗り継いでえっちらおっちら訪れていた。今は北陸本線路線が別会社運営になってしまったので青春18きっぷで行けないのが何となく悲しい。
そんな八ヶ岳、とってもいい山だと思うのだが、富山から遠いのと多くの会社員の開放日(土日)はめたくそ混雑するのでめっきり訪れなくなった。

ところが近場の山の状態がどうしよもなく悪い3月、稲子岳南壁の存在を思い出してたのでふらりと行ってみた。そうしたら、あーらびっくり。いい感じに岩壁なのである。南八ヶ岳の冬期登攀の殆どが岩稜登りであるが、稲子岳南壁はまごうことなき岩壁である。しかも節理が発達しているためラインの自由度は高く、今日的な楽しみ方ができるのが魅力である。

1P目は面白そうな凹角から取り付いて,Ⅳ。2P目はちょっとリッジ状を辿ったのち、右へトラバースして傾斜の強いクラック入り口へ,Ⅲ+。核心の3P目は右フェースの細かいホールドを使いながらやや幅広のクラックを登る,Ⅴ級。最後の4P目は岩が脆いフェースから巨岩帯をくぐってトップアウト。核心部は中々の登りごたえであった。表題に左ダイレクトと書いたがルート同定にあんまり自信は無い。話半分で訪れていただければ幸いである。

南壁なので好天が続けば夏と変わらない状態となるだろう。南岸低気圧通過後の雪が付いた状態で登った方がムードがあってよいと思う。トップアウトしてからの眼下に広がる森の雰囲気が独特であるのも興味深い。火山地形であるのは間違いないが、どんな活動をした火山なのだろう。また新しい山を調べる楽しみができた。稲子岳南壁には冬山ブームは到達していないようで他の登山者の姿は見られなかった。喧騒から離れたクライミングを楽しめるであろう。近くで遊べない時、ちょっと登山に変化が欲しい時、はたまた稲子湯への温泉旅行を兼ねてなど、ふらりと訪れてみてはいかがでしょうか。

<アプローチ>
稲子湯からちょっと先の林道脇にある登山者駐車場に駐車する。ここまでは三才山トンネル、佐久市を経由して行くと安くて最短のように思う。よく歩かれた登山道を2時間くらい歩いて壁までの分岐点に到着する。この分岐点はかなり分かりづらいが良く見ると赤テープがある。ここから壁の基部まで結構な傾斜の斜面を上がり取り付きに到着する。下降は登山道を利用すればトップアウトしてから1時間半程度であっさりと降りられる。

<装備>
カム一式、ナッツ少々、トライカム少々。核心のクラックはキャメロット#4以上があれば支点が取れると思う。無い場合はちょっとランナウトする。岩は割合硬いが上部に行くほど脆くなる。

<快適登攀可能季節>
年中登れるだろうけど、岩が脆いしので冬の方が楽しいのでは。

<温泉>
稲子湯:源泉は温泉ではなく鉱泉で加温している。二酸化炭素硫黄泉で何となくピリリとした肌触りであった。秘湯めいた情趣ある旅館である。

2020年4月9日木曜日

甲斐駒ヶ岳 赤石沢奥壁中央稜






駒ヶ岳といったら、海谷の駒ヶ岳が一番、二番目は僧ヶ岳のちょっと南にあるやつ、三番は強いてあげたら木曽駒ケ岳という親しみ具合である。甲斐駒ヶ岳は冬に行くにはちょっと遠いなぁと思いつつ幾星霜。思わぬ僥倖により訪れる機会を得た。ぶったまげた。めちゃ良い山なのだ。どこもかしこも花崗岩の岩壁だらけでスラブには氷が張り付いている。もしゃもしゃの藪を盲点に追いやっておけばアラスカのクライミングがアラスカに行かなくてもできるのだ。

赤石沢奥壁中央稜は甲斐駒ヶ岳の岩場の中でおそらく最もポピュラーなライン。序盤3ピッチ程度が岩の要素が強くて面白い。支点は取り易いが、3ピッチ目のワイドクラックでは大きいカムが無かったのでランナウトとなった。ここを越えるとあとは雪稜、雪壁とちょっとした岩場が続く。簡単なのだが長いので要領よくこなさないと時間がかかるだろう。終了点は山頂のすぐ近くなのが嬉しい。十分なスケール、程々な難しさ、多彩な内容で人気な理由がよくわかった。せっかく岩壁と氷が一杯あるので、氷と岩壁の継続登攀をしたいところだ。

<アプローチ>
黒戸尾根8合目岩室から左へトラバースするとすぐに岩場へ至る。ただし、3月だと岩小屋は埋まっていて分からないと思う。ちょっとコルになっているのでたぶんわかる。
富山からだと松本から高速道路を使って大体4時間半くらいで登山口に到着する。

<装備>
カム一式、ナッツ少々、トライカム少々。ワイドクラック部でキャメロット#5以上があれば万全。

<快適登攀可能季節>
年中登れるだろうけど、岩はちょっと脆いし藪がうるさいので冬の方が楽しいのでは。

2020年3月14日土曜日

穴毛谷 本谷中央壁(右峰)







 数ある穴毛谷の岩壁の中でもすっきりとして見栄えがするのが中央壁(右峰岩峰)である。穴毛谷の岩壁は呼称が統一されていない場所があるが、この岩壁もそうである。中央壁というのは岐阜登攀倶楽部によって命名されたようだが、登山大系では右峰岩壁となっている。穴毛谷の真ん中に位置して存在感があること、左峰とはアプローチする谷が異なることを勘案すると中央壁を推したくなるが本稿では併記しておく。
 中央壁(右峰岩峰)は、地形図で「雷鳥岩」の記載がある相似峰の北側が右峰、その直下に高差250mスケールで広がっている。幅広の壁で下流側から取り付くほど登高距離は長くなる。岩質は流紋岩質の溶結凝灰岩で概ね固いが、スラブ状なので弱点に乏しい。ルンゼ状にはベルグラが張り付いているが日当たりが良い立地のため、心もとない色をしている。そのうえ、雪田上部からの雪崩が頻発するのでベルグラの利用は天候を踏まえて慎重に判断するのが賢明だ。
 筆者らは壁中央の凹状を辿りながら右上しつつ、上部の岩壁へ到達後は傾斜の強い小リッジから草付きへを登り右峰直下の稜線へと抜けた。草付き交じりではあるが、部分的に傾斜の強い岩場もあり興味深い登攀であった。雪の要素が多いので、迅速な処理ができないと思いがけず時間がかかるだろう。東面のため、雪のコンディションが悪いことが多く侮れない。稜線直下の雪庇越えも醍醐味となるが崩壊を誘発させないように細心の注意を払いたい。
 アイゼン登攀には難儀な壁ではあるものの、カンテラインやベルグララインは魅力的であった。さらに対岸のドーム壁も大迫力で垂涎ものである。週末一日でここまでスリリングな登山ができる山はそうそう有るもんじゃない。アプローチとする本谷は実に雪崩が怖い谷ではあるが、きっとまた訪れるだろう。穴毛谷にはまだ謎が沢山あるからね。

<アプローチ>
地形図で示されている蒲田川へ分岐する手前から川を渡ると都合がいい。あとは地形図通り二ノ沢本谷を詰める。下山はクリヤ谷が早い。雪が閉まっていればクリヤの頭から谷へと一直線。

<装備>
カム一式、トライカム少々、ピトン少々、ラインによってはスクリュー

<快適登攀可能季節>
1月~3月。高曇りの日を狙いたい。

<温泉>
新穂高温泉なのでどこでも入ることが出来る。価格帯は高い。

栃尾の荒神の湯は良い露天風呂。体を洗う場合は石鹸を持っていこう。寒くて洗えないかもしれないけど。割石温泉まで行くのもいいだろう。

2020年3月3日火曜日

穴毛谷第二尾根









穴毛谷第二尾根はスケールのある雪稜登攀が楽しめる好ルート。掘削の苦労を伴うキノコ雪は連続する訳ではなく、2~3軽いアクセントとして登場する程度なので、爽やかな雪尾根歩きがメインとなる。崩壊ルンゼを上がってからP3付近までが少々ややこしい箇所だ。知らず知らずの内に傾斜の強い箇所や氷化した場所に出くわすのでアイゼンへの履き替えやロープの結束は早めに行いたい。ラインの繋がりが分かり難い場所もあるのでルートファインディングにも注意を払いたい。P4からコルへは雪を支点にした懸垂下降となる。以降ルートは明瞭で時々現れる急雪壁をダブルアックスで適宜こなしていく。P1への登りは右側は凹状になっていて雪崩のリスクが有るので尾根側を注意して登りたいところだ。P1を超えると稜線まではもうあと一息。稜線は岩稜ではなく難しくはないが、雪庇の張り出しには十分注意したい。週末一泊二日で第二尾根から笠ヶ岳を登ることができれば中々の充実感を味わえることだろう。

<アプローチ>
地形図で示されている蒲田川へ分岐する手前から川を渡ると都合がいい。崩壊ルンゼは新穂高からも一目瞭然だが、取り付きは暗いと分かりにくいかもしれない。幕営場所は東面で風が弱い上、適地が随所にあるので困ることはないだろう。2199mの右稜と左稜のジャンクションピーク付近が幕営点としてはちょうどいい。一泊二日でトップアウトしてから笠ヶ岳へ行くには結構な頑張りが必要となる。下山はクリヤ谷が早い。雪が閉まっていればクリヤの頭から谷へと一直線。

<装備>
P4の懸垂用に竹ペグか土嚢袋が必要。藪が豊富なのでスリングのみでOK。

<快適登攀可能季節>
1月~4月中旬。雪が安定している時期とタイミングでないと取り付きにくい。

<温泉>
新穂高温泉なのでどこでも入ることが出来る。価格帯は高い。

栃尾の荒神の湯は良い露天風呂。体を洗う場合は石鹸を持っていこう。寒くて洗えないかもしれないけど。割石温泉まで行くのもいいだろう。

2020年2月27日木曜日

宝剣岳 天狗尾根






天狗なんちゃらといった地名は山に実に多い。一体どのような存在なのかよくわかっていないが、飄々と山を舞う姿を想像すると羨ましい。

宝剣岳の天狗尾根を飄々と登るのは難しかった。尾根と名を冠されているが、尾根とは言い難くちょっとした岩峰である。1P目は凹角から登り始め、スラブ状の興味深いトラバース後、がちゃがちゃした凹角を登る。雪稜を70m程度登って最後の岩峰へ取り付く。傾斜の強いチムニーだが、氷でクラックが埋められていると往生する。尾根登りはなくクライミングだけでアッちゅうまに終わってしまう。初日アプローチの後1本、或いはおかわりとしてふらりと登るスタイルが丁度いいかも。

<アプローチ>
上松尾根を利用する事をお勧めする。厳冬期なら場所柄くそラッセルになることは少ないと考えられる。前日深夜に出発すれば入山日に一本登ることも可能。幕営場所は玉ノ窪小屋陰にテントを張ることが出来る。風当たりは強め。ただし、2月以降は埋まってしまって幕営適地は無い。ロープウェイを使うと登山の趣も無いし、お金は掛かるし、時間を気にしないといけないし、体力は低下する。などなど善くない事が多い。標高は自分の脚で上げよう。
天狗尾根は図でみるより短い印象を受けるであろう。え、これだけ?ていう感じでA沢ルンゼを下降して凹角状から取り付く。あとは登れそうなところを繋ぐといい。

<装備>
カム一式、ナッツ少々、トライカム少々

<快適登攀可能季節>
11月下旬~5月。良く知らない山域だがこれ位の期間は快適そう。

<博物館など>
妻籠宿:中仙道の宿場町を保存して観光地化してある。いかにもな観光地。おばちゃんの解説はさながら噺家であり職人技である。内容は非常に興味深い。そして歴史資料館も秀逸である。斜に構えて行かないのは損。

義仲館:木曽義仲の資料館。県民には火牛の計で御馴染み義仲公である。旗揚げまではこの地で育った。ここから北陸道進撃が始まったと思うと感慨深い。

寝覚ノ床:木曽川の流れと方状節理が生み出した景勝地。一見の価値あり。裏寝覚め~寝覚めまではボルダリングも可能。お勧めの課題は一斗の缶。

2020年2月12日水曜日

北岳バットレス 下部フランケ~第四尾根











冬型なのに風も弱いし晴れとる!

冬、越の国から甲斐の国までの道のりは遠い。これは実距離もさることながら心の距離の問題である。雪や雨の降る幾多の峠と隧道を越えるには空は余りに鈍色で、長時間ドライブ遂行のドライビングフォースを滅尽させるのである。つまり、自らの心の弱さにより、隣県近場での登山を選択してきた。駄目だ、而立を越えたというのに甘えていてはならぬ。とにかく行こう、北岳へ。

なんつって目の前に広がる北岳バットレスの高差は350mと中々でかい。ものの本に書かれている通り継続登攀にはうってつけの壁構成である。筆者らは第四尾根の下部フランケから第四尾根主稜へと継続した。下部フランケは3Pほどのスケール。凹状になっているので支点は取りやすいもののスラブ状の岩は侮れない。全体を通しての核心は間違いなく1P目だ。小ハングをフィンガークラックにアックスを打ち込み捻じ込み超える。Ⅴ級ではあるが支点は取り易いので思い切って突入できる。登攀時の積雪量は少なく、第四尾根主稜はスラブに雪が付いた雪稜だったので部分的にスラブに張った氷登った。下部を登れたならば城塞ハングは楽しく登れるはず。以降は距離にして200mくらい雪壁を登り雪庇を崩して稜線に上がった。山頂から廻りを見渡すと富士山が圧倒的な存在感を放っていた。登っているときは気づかなかった。

下部フランケ1ピッチ目は固い凝灰岩っぽかったのだが、2P目では粘板岩も見られた。粘板岩地帯はボロいので注意を要したが、北アルプスでは見かけない岩だったのでニヤニヤである。バットレスでも部分的には石灰岩も見られるようである。林道では真っ黒な泥岩も見受けられる。ダイナミックな時の積層、付加体メランジュを3000mスケールで楽しめるのが日本唯一北岳バットレスの長所である。思い切って行ってしまえば、あとは青空クライミング。日本の風土を楽しむならば、近場だけではなくいろんな山登らないとね。冬の南アルプスは新鮮な驚きばかりでしたとさ。

<アプローチ>
厳冬期は夜叉神のゲートから池山吊尾根を登りアプローチする。林道を歩いたり、下ったり登ったりと中々の長丁場である。八本歯のコル付近から小さな支尾根を下降して大樺沢へと降り立つ。ここからdルンゼを登って下部フランケ取り付きまで。幕営点はボーコン沢の頭手前の最後の樹林帯がお勧め。春は広河原から大樺沢を詰めて取り付けるそうだ。富山市内から夜叉神のゲートまで松本~韮崎間を高速を利用しても4時間30分くらいかかる。

<装備>
カム一式、ナッツ少々、トライカム少々。

<快適登攀可能季節>
年中登れるだろうけど、岩が脆いので冬の方が楽しいのでは。

<博物館など>
南アルプス芦安山岳館:芦安の暮らしと南アルプスの自然がコンパクトに纏まった博物館。写真に写ったあしやす娘の歩荷力には目を見張る。さらにここでは「南アルプス 白峰三山の自然」など好資料が販売されており、財布のつい紐が緩む。ただし、早まることなかれ。南アルプスの資料は「南アルプス学概論」、「南アルプス学総論」という素晴らしい資料が無料PDFでダウンロードできる。富山県、長野県、岐阜県も協力し北アルプスについてまとめた文書の作成と公開を切に願う。

2020年2月8日土曜日

大熊山





富山県の県木である立山杉。根っこに近いところの幹は非常に太いが、地面から比較的近いところから枝分かれする樹木が多い。これは若木のときに北陸特有の重い湿雪と強風に叩かれて枝が折れながらも生長したからなんじゃないかと推察するところである。富山の気象と地質が育んだ特異な森の景観だ。その中でも上市川、片貝川、称名川流域に自生する立山杉に際立った巨木が多いような気がしている。片貝川上流には洞杉と呼ばれる岩を抱えた立山杉が自生しているが、これがまた素晴らしいビジュアルなので一度は訪れもらいたい。

大熊山の良さは立山杉の巨木とブナの美しい森林にある。1264mまでは立山杉が多い。はっとするような樹形の巨木も幾つかあり、急登も苦にならない。1200m付近からはブナ林に変わる。かなりの急激な変化なので面白い。ここからは、だらりとした地形が山頂まで続く。積雪期はルート取りに注意が必要だ。筆者が訪れた際はど吹雪だったので、何も見えなかったが展望が素晴らしいと聞く。木々達の声をゆっくりと聞きながらまた訪れるとしよう。

<アプローチ>
小木曽谷右岸の尾根に2010年ころに拓かれた登山道が付いている。赤布も豊富にあるので迷うことは無いと思う。小又川の大きな橋から林道に入って、大きくカーブするところから小道へ入り尾根に入る。冬はここまで伊折のゲートから徒歩。

<装備>
冬~春はワカンなど冬山装備

<快適登攀可能季節>
通年。

<温泉>
アルプスの湯、ゆのみこ温泉

<博物館など>
滑川市立博物館:上市町のイメージが強い早月川だが、人の住んでいる殆どの流域は滑川市を流れている。流域の自然と人の営みをバランスよく知る事ができる。手の込んだジオラマも学習の一助となる。

西田美術館:ロシアイコンや曼荼羅が展示されている。そして剱岳の資料が豊富。魚津岳友会の会報が熱い。

大岩山:行基菩薩の石仏は大迫力。夏はそうめんが名物で多くの観光客が訪れる。

富山県薬用植物指導センター:5月中旬に芍薬の花が満開になるとても綺麗。五月の連休より少し後が見頃になる。芍薬は生薬として用いられるので栽培されている。有効成分はペオニフロリン。有名なのは甘草との組み合わせたもので芍薬甘草湯。グリチルレチン酸との組み合わせである。