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2025年2月17日月曜日

三方崩山 大ノマ谷第四岩稜

 














 水の状態がいくつあるかご存じだろうか。定義にもよるが大体25種類くらいあるそうである。このうち多くは結晶状態を分類したもので日常生活でお世話になることはない。しかし、宇宙での物質の成り立ちのような普遍現象を解き明かすうえで水の構造と物性の理解は欠かせないのである。ゆえに日々活発に研究が続けられているが新しい発見が尽きない。どういう機序で氷の上で物質が滑るのかも人類は正確に知らないのだ。
 翻って三方崩山の大ノマ谷の雪稜の話である。雪稜といえば戸隠でのキノコ雪登攀が話題になるが、戸隠は純然たる雪の量はそれほど多くない。雪の量は後立山、白山に軍配が上がる。白山山域の雪稜では雪が記録的に多いシーズン、かつ最も積雪量が多い時期ではどのような景色が広がるのだろうか。
 大ノマ谷は多少埋まるものの基本的に雪は締まっており快適。ドカ雪後に少量の降雨がありそれから数日間纏まった降雪がなかったためだろう。夜明前より第四岩稜の末端から真っ向勝負を試みる。が、明るくなると周囲の岩には5~6mと規格外のスケールでキノコ雪の発達がみられることに気が付く。ちょっとした段差でも2mクラスである。支点を構築できる藪と岩はもちろん隠れている。こうなると到底登れる代物ではない。本稜は即時却下となり、登れるところから上がることに転換。第四岩稜周辺は良くも悪くも自由度が高く弱点となるルンゼは常に左右どちらかにある。凹状を繋ぎつつ尾根を時々登って行くと無理なく南尾根に出る。この冬の最高気温を示す天候で落雪には肝を冷やした。
 豪雪まっさかりのキノコ雪は人類には厳しく4ピッチと雪崩対策のコンテ少々で終了。エスケープ気味なのでクライミングとしては不発と言える。その代わりにえげつない湿雪で足腰の筋トレが完了。運動量増加はシェイプアップと夕飯における最高の調味料である。
 雪稜の面白みは状況によってルートが変貌することにある。その差異は水の性質を反映しており、研究対象として興味は尽きない。一言にキノコ雪と言えども訪れる時々やエリアによって微妙に物性は異なっているわけで、その差異には因果がある。老子曰く上善水の如し。この命題が真であるならば、水の探求は即ち善の探求である。次は大ノマ谷雪稜から岩屋谷雪稜へ継続登攀することにより倫理学を修めることとしよう。

<アプローチ>
大ノマ谷は三方崩山南東の谷の事で大ノマとは「大きな雪崩が出る谷」の意である。岩場や雪稜は登攀クラブによって初めて登られ、以後一部の愛好家に細々と登られてきた。谷の上流から第一、第二、第三、第四岩稜と命名されているようだ。何となくそうなんじゃないか概念は以下の通り。


近年(と言っても20年位前)では名古屋ACCが紹介し一時脚光を浴びた模様。大白川方面から林道を歩いて大ノマ谷を詰めるのが楽だろう。2月でも雪が締まって取り付けるタイミングがあるのでそれを狙うといい。ただし、南東面の谷なので雪が緩むのが速い。暗いうちに谷を歩いて尾根に取りつかない落雪のリスクが高い。尾根上に幕営適地はほどほどにある。山頂付近もよいテンバだ。

<装備>
スコップは携行しやすい工夫が必要。もちろん要バックアップ。支点は基本藪でとれるはず。時期が遅くなると岩のギアもあったほうがいいかも。

<快適登攀可能季節>
2月~3月。積雪がたっぷりある時期に登りたい。

2024年9月17日火曜日

尾添川 荒谷
























 尾添川荒谷は不遇な谷である。数多の名渓がある白山山域で詰め上げる中で標高は高くなく、登り終わってから入山口へと戻れる谷が存在しない。加えて登山道は無いし、廃道化した長い林道があるばかりときている。そして意外に長い行程は日帰りでは長いし、泊りだと持て余すことになり上部まで訪れる人が少ないのも無理はない。ところがどっこい、名前に反して渓相は美しくシャワークライミング、ちょっと悪い巻き、快適な幕営と総合的に沢登りが楽しめる良渓なのだ。

 入渓して直ぐに堰堤が連続するが、右岸にあるドアを開けて隧道を登れば簡単に巻くことができる。序盤はゴーロ滝の合間に美瀑小滝が続く。そして岩質は飛騨帯変成岩でお隣の手取川右岸の沢と同じであることにも注目したい。一旦平らになる手前の700m付近はゴルジュ小滝のシャワーが爽快だ。どこだったか忘れてしまったが、右岸を嫌らしい巻きで交わした10mくらいの滝があったはず。傾斜が強く不安定なブッシュをホールドにして乗り越した。さー、あとはのんびりかなぁ。なんて思っていたら美的ゴルジュになってきて退屈させない。ゴルジュ内は全て突破可能で慣れていればロープは不要だが、適宜お助けヒモを使った方が安全だろう。1000m地点で穏やかな川原となり、今度こそ終わりかと思わせてから訪れる小滝、大滝、ミニゴルジュの素晴らしさよ。不思議なことに最後まで深い釜を持った小滝がありちょっと泳いだりしていい気分。のんびり出発してゆっくり登っていたら1174m付近二俣で時間切れ。それでも十分な充実感であった。

 荒谷は全く荒れていない美谷であった。富山からはそんなに遠くないので初級沢からもう一つ踏み込む対象として是非訪れてみてほしい。日帰りが不安ならば幕営して楽しむのも良き計画だ。遠方から来る方ならば目附谷への入渓路バリエーションとして何卒ご活用願います。

<アプローチ>
スノーシェッドの合間にある荒谷出会いの駐車スペースを利用する。沢慣れしたパーティーならば、早立ち日帰りで1174m右俣~左俣を下降して林道を使って下山できるだろう。相応に充実するはず。荒谷中の幕営適地は1000m地点と1174m付近の二俣。車が二台無い場合は同ルート下降か林道を歩いて下降する。林道は車は全く通ることはできないが、歩くことはできる。ただし、現状それなりに藪っぽい。目附谷へ向かう林道の途中から登山道マークがあるが当然そんな道はない。ただし、この尾根は藪がそれほどでもなく意外に歩きやすいので下降可能。車が2台あれば小嵐谷を下降するのも面白い。また、カマボコ谷を下降すれば目附谷へと入れるので継続遡行の出だしにはぴったりだ。

<装備>
カム少々。ピトンも有ったらいい。

<快適登攀可能季節>
6月~10月。オロロが酷い地域なので注意。

蛇谷 ジライ谷











 白山蛇谷支流の沢は言わずもがな素晴らしい。のだが、歩行禁止、自転車も禁止の有料道路とその開門時間制限のため登山者を寄せ付けない雰囲気に満ちている。日帰りが基本となるのも遠方からの登山者を遠ざける一因なのだろう。遡行内容が絶品なだけに惜しいものである。

 ジライ谷は取り付きにくい蛇谷支流群のなかでも、料金所ゲート手前であるため組し易い。遡行内容も蛇谷の中では易しめでありながら纏まっており期待を裏切らない。序盤は大岩の合間を縫ったクライミングで基本エンヤコラ系の登りとなる。シャワークライミングもあるので暑い日が良いだろう。ザラザラの岩肌が足底に吸い付くようで気持ちい。下部は飛騨帯変成系の岩だが、上部は流紋岩質となり少しだけヌメリと脆さが出る。標高1000mからはスラブ滝連瀑帯となる。右岸から巻き登りしたが、スラブ系の沢らしく甘くない。ここから中盤は気持ちの良い小滝登りと時々現れるナメを楽しもう。1418mピークに向かおうとしたら悪い滝が出てきたので少し戻って尾根を乗越す別の沢から途中谷へ降りる。上部は非常に降りやすいの助かる。途中谷は登られることは多くないけれども散発的に出現する滝の形は面白いのでこの山域の入門には悪くないかも。最後に堰堤が2つ出てくると取水導水の巻き道が現れ林道に出る。

 沢慣れしたパーティーならば早立ちして昼には終了するだろう。よく考えると富山からは海谷に向かうのと同じ距離と時間である。スタートが遅くなっても一泊するつもりで気軽に訪れるのもいいかも。

<アプローチ>
ホワイトロード(旧スーパー林道)の料金所手前のゲートが7:00~19:00に締まるようになっている。初日はどんなに早くても7:00からしか車が入れないことに注意。なお、前日からゲート内に入っていれば問題なく早立ちできる。或いは早朝にゲート手前に駐車して自転車で中宮展示館へ向かうのもいいかも。中宮展示館に車を駐車して蛇谷本流を少し歩いて入渓する。下降は途中谷が無難である。途中谷の下降は取り立てて難しくはないものの、慎重なクライムダウンと複数回の懸垂下降を要する。

<装備>
カム少々、ピトン数枚。足回りはフェルトでもラバーでも大丈夫

<快適登攀可能季節>
6月~10月。オロロが酷い地域なので注意。

<博物館>
中宮展示室:一般的な日本の動物に関する展示は普通だが、中宮の歴史が面白い。出づくりでの生活や学校といった近代山人の生活を垣間見れる。昔から発刊している「白山の自然誌」は地域を概観するには好適で全号PDFで無料閲覧可能。いい時代だなぁ。

<温泉>
中宮温泉露天風呂:歴史1300年という由緒ある温泉で24時間入浴可能。ただし、洗い場やシャワーは無くもちろん石鹸も無い。飲用温泉としても用いられており、胃腸の霊泉と呼ばれる。確かにおいしい。源泉かけ流しなので体を綺麗にするというより温泉に浸かって楽しむスタイル。

2024年8月27日火曜日

瀬波川 瀬波倉谷








 山登りでは予断が適切でなければ危険である。将来を予見し妥当と推量する行動を選択するのが基本筋。しかし、あんまりにもマージンを取りすぎると何もできなくなり、ちっとも面白くない。

 瀬波倉谷の地形図だけを見て面白そうと予想するのは困難である。傾斜はそれ程強く記載されていないし、高低差も高々550mだ。短いし面白くなさそう。と予断を許すと勿体ない。入渓して直ぐに硬い岩盤が露出し深い釜があることに驚く。北側の直海谷川の上流域に近い岩質だろうか。集水面積が小さいものの、ゴルジュもナメもあり貫禄のある渓相である。小滝のクライミングは簡単なので水を浴びながら楽しく進める。水流は幾つも分かれているが、今回は851mのハチブセ山を目指す。最後は藪漕ぎが少なそうなルンゼを嗅ぎ分けて進むと登山道へ出る。この稜線は888.6m三角点のあるオンソリ山へも登山道が拓かれておりアプローチは良い。そして稜線の植生は多様な植物が残る原生林風なので歩いていて面白い。ここは四季を通じて歩いたら多くの発見が有りそうな道である。富山県西部~白山山域の標高1500m以下の森があらゆる山の中で最も好きな場所かも知れない。

 登山道を使って下降をしたところ、遡行を含めて大体2時間半で登山活動が終了した。これほどライトで充実するルートも多くはあるまい。日の長い時期であれば出勤前に登山することも可能なのでは。雨の日や白山里の温泉旅行と併せてなど多くの場面で楽しめるだろう。

<アプローチ>
ハチブセ山の登山口となる白山里の近く駐車スペースを利用する。下山は登山道を利用するのが楽。

<装備>
沢慣れしていれば何もいらない。

<快適登攀可能季節>
5月~10月。オロロが酷い地域なので注意。

<温泉>
白山里:瀬波川から最寄りの温泉。こじんまりした綺麗な温泉で450円とリーズナブル。地元の野菜が大量かつ安価で売っていていい。