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2024年7月29日月曜日

笠谷 ヒアケ谷

 













笠ヶ岳は古く修験の山であり古くから登られていた。江戸時代中期に一旦登山分化が途絶えるがそれを再興したのは御存知、播隆上人である。古来ルートは笠谷からが通常であり、割合多くの登山者を迎えたようだ。時は流れ21世紀。便利な登山ルートが拓かれた今、笠谷に登山者の姿はごく稀である。木材を切り出し搬出する高齢者ばかりがこの谷を行き来する。本谷ですらかくの状況であるのに況や支流をや。

しかし、決して支流に情報が無いわけではない。登山大系にはしっかりと遡行図があるし内容も割合細かく示されている。そんな中でヒアケ谷は登山道に出るわけでもないので最もマイナーと言える。登山大系にもあっさりとした基準であるが故に興味を惹かないのかもしれない。しかーし、遡行内容はちゃんと面白い。出合いから1500m二俣までは立派な滝やナメが連続して心躍る。関門状の20m滝はクライミングも楽しめる。その後現れるシャクナゲの滝は正に剛瀑でこれを見るだけで訪れる価値がある。筆者らは1500mを左俣に進んだが、こちらは難しいところは無いもののナメ状でミスの許されない滝が1つあった。稜線から200m以上手前から笹薮の存在感が増してくる。苦しい笹薮漕ぎを経て辿り着く三角点ピークから眺める景色は格別だ。ホウガ谷への下降となるが上部はやはり笹と戯れる。下部は難しい下降は無い。ホウガ谷と並行する林道は現存しないので注意されたし。

一泊二日で遊ぶのであれば笠谷で継続遡下降を計画するのはどうだろうか。ヒアケ谷本谷から笠谷本谷へ降りて笠ヶ岳へ行くのもいいし、笠谷A沢やB沢へと詰めるのも面白そうだ。1965.9m三角点からホウガ谷を下降で足並みがそろっていれば早朝発で日帰りも十分に狙える。富山から近くて虫も少ないので夏の沢登りにいかがでしょうか。

<アプローチ>
笠谷入り口の林道に入り、発電所のゲートに駐車。しばし林道を歩き本谷へ降りやすい適当な所から入渓。ヒアケ谷の少し手前に滝が3本連続する箇所がある。これをヒアケ谷と間違えないように注意。ヒアケ谷も本谷と滝で出合っている。筆者らは1965.9m三角点からホウガ谷を下降した。ヒアケ谷内上部、ホウガ谷内いずれも幕営適地は意外に少ない。

<装備>
カム一式、念のためピトン。足回りはフェルトの方が良いかも。


<快適登攀可能季節>
7月~9月。標高が高いので寒い時期は辛そう。虫は少ないので盛夏に楽しむと良いかもしれない。

<温泉>
割石温泉

<博物館など>
江馬氏館跡公園:江馬氏は室町時代~戦国時代に北飛騨地域を治めた豪族武将である。その時の武将が室町時代に命じて作庭させたのが会所庭園である。来客をもてなす為に作られた石庭は失礼ながら地方豪族が設計したとは思えない瀟洒さで都の風を感じる。作庭費用は鉱山で得た資金を投下したのであろうか。飛騨が天領となった元禄以降は田に埋められてしまったが、昭和に発掘され再現されている。すごくいい庭なのにお庭を眺めながらお弁当を食べられるというフレンドリーさよ。

高原郷土館:鉱山資料館、神岡城、旧松葉家と3つの博物施設が集まった公園。神岡城内では神岡の歴史を概観でき、鉱山資料館では昭和における採掘~精錬までの工程をビデオで学習できる。鉱山資料は少し情報が古いものの鉱業の現場を知ることができるので貴重。そして最も推したいのが松葉家。神岡に現存した合掌造りで農具、山仕事道具(刃物含む)養蚕具が3階建ての中に所狭しと並ぶ。背の高い人は上階で頭をぶつけないように注意。
なお、近現代の生活に関する書物は「奥飛騨山郷生活文化の記録」が面白く、土木開発については「土と木と水と人と : 建設概史」が概観にふさわしい。どちらも国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧可


2023年3月13日月曜日

抜戸岳 秩父沢左稜

 










北アルプスの数多ある単一ルートの中で合理性を有しながら冬期未踏、かつ最も困難ラインは秩父尾根だと思っている。槍西稜なんて目じゃないくらいのスケールで岩搭が連続する高差350mのやや脆い岩場で夏に登っても歯ごたえが十分なルートである。東面なので年によってキノコ雪に苦しめられるだろうし、秩父沢へのアプローチ時期を見定めるのも難しい。さらに、Ⅰ峰の頭から左手に展開する秩父沢奥壁(こちらも多分冬期未踏)へは無理なく継続できれば最高のクライミングとなることは間違いない。

そんなルートに臨む実力も無ければ根性もないので、お隣にある面白雪稜から観覧することにした。左稜の末端は壁になっているので、左の谷を少し登り乗り上がった。壁を登る準備をしてこなかったため巻いたが、この末端壁から登ったらルートの充実度はマシマシとなるので登ることを推奨したい。白馬主稜を想起させるすっきりと爽快な雪稜が続き気分は最高。スタカットとコンテを切り替えながら楽しく登る。やがてアップダウンのある岩稜が現れるが、これがモアイ岩である。極端に岩が脆いので崩壊が進み35年前の記録にあるモアイ感は消失している。この辺りが核心なのだろうが、どうこういうほどではない。雪庇の張り出しが少ないところを選んで乗り上がると、たおやかな稜線で面白い。

秩父尾根の南面の物凄い岩壁を眺める絶好の尾根である。登ったタイミングは雪が少なかったが、着雪が多いとナイフリッジとなるはずだ。着雪の多い2月となればより難しくなるはずだ。懸案の秩父尾根の偵察だが、やはり難しそうという結論に至る。南面の方が高差が大きくまだ弱点らしいラインは有った。数年前と比較して大崩壊している箇所もあり岩が安定していないことが伺える。秩父沢奥壁も同じで傾斜は大変強く岩は脆そうだ。こちらは強いて言うならば北面の方が登り易いのかもしれない。以下、秩父尾根と秩父沢奥壁の写真を掲載する。意欲あるクライマーに是非挑戦していただきたい。なお、秩父尾根の北面側に期待していた氷は発達していなかった。









<アプローチ>
新穂高から左俣林道をへて秩父沢出合いまで。標高2150m付近で尾根末端である。末端は壁となっているので間違えることは無い。幕営するのであれば稜上で適当に張ることも可能だ。エスケープはクライマー向かって左右のルンゼから簡単にできる。最もお勧めは秩父尾根の頭にある台地で、秩父沢奥壁と対面にそびえる槍穂高の勇壮な景色を楽しめる。下降は秩父平から秩父沢右俣を下降するのが容易ではやい。

<装備>
下部岩壁を直登しないのであればトライカム適宜、ピトン又はボールナッツ。雪が多い年は土嚢袋があった方がいいかも。

<快適登攀可能季節>
2月~4月。日当たりが大変良い尾根で雪が落ち着くのは早いだろうが、秩父沢のアプローチが安全になるタイミングとなる時期を十分検討されたし。

<温泉>
栃尾の荒神の湯は良い露天風呂。体を洗う場合は石鹸を持っていこう。寒くて洗えないかもしれないけど。帰りならば割石温泉まで行くのもいいだろう。


2022年2月27日日曜日

抜戸岳南尾根 2421.6m峰東南壁 2ルンゼ

 









 山を歩いていて、地形図を眺めていて面白そうだなと思う場所は必ずと言っていいほど先人によって登られている。登られていて残念、なんて全然思わなくて人間の好奇心と探求心が文化を創っているのだなぁとしみじみして嬉しくなる。

抜戸岳南尾根 2421.6m峰東南壁は飛騨山岳会によって拓かれた岩場で、新穂高という好立地にありながら通年を通して訪れる者は殆どいない(と思われる)岩場である。岩場は前衛壁と奥壁で構成される。奥壁は横に広い岩場で南尾根の南壁コルからずらーと広がっている。岩は非常に硬く絶妙にリスとクラックが存在しているので、まだまだラインは引けるんじゃないかな。

2ルンゼは南尾根南壁コルから岩小屋沢を下降すると圧倒的な存在感を示しており、「冬壁愛好家の皆さんこちらへどうぞ」よろしく語り掛けている。気持ちの良いゴルジュ状ガリーを2ピッチ登ると、上部雪壁前の核心部である。草付きの浅い凹角からハングをワイルドに乗越して抜ける。落ち着いて丹念に支点を探せば安全な支点が取れるので思い切って突入してみよう。あとは易しい雪壁を快適に登り、雪庇の張り出しが小さい場所を探してトップアウト。穴毛谷の景観が圧倒的である。
 
 2ルンゼはラインの合理性と下部の登攀内容が素晴らしい。お隣の3ルンゼも面白そうだったのでまた来よう。そして、抜戸岳南尾根 2421.6m峰東南壁から穴毛谷4ノ沢へと継続するという計画もきっと面白い。こんな素晴らしい遊び場新穂が近い富山万歳!

<アプローチ>
南尾根からもアプローチ可能だが最も楽なのは岩小舎沢を詰めるアプローチである。穴毛谷同様、雪崩のリスクが高い沢なので雪の状態には留意したい。登攀終了後の下降路は南尾根を少し北上し、雪庇の小さい場所を選んで下降する。或いは南尾根を南下し南壁を懸垂下降(65mくらい)し岩小舎沢を下降する。岩小舎沢は夕方日が当たらなくなった時間帯に下降するのが安全

<装備>
カム一式(小さいサイズが有効)、ピトン各種、トライカム少々、ボールナッツ有効。なお、当岩場の開拓は主に飛騨山岳会によって為されている。商業誌として発行された資料で詳しいのは岳人1985年5月~7月に掲載された開拓記録である。詳細で正確な概念図と写真で大変解りやすい。

<快適登攀可能季節>
12月~3月中旬。岩小舎沢に入れるコンディションのとき。気温が低くて高曇りの日がベストコンディション。2ルンゼは氷雪の状態が非常に重要となるので、2月中が良いだろう。ただし2月だと谷筋の雪がしまり切っておらず、ラッセルは覚悟したい。朝日が当たると瞬く間に雪崩るので息せき切って標高差を一気にラッセルできる能力が求められる。

<温泉>
新穂高温泉なのでどこでも入ることが出来る。価格帯は高い。

栃尾の荒神の湯は良い露天風呂。体を洗う場合は石鹸を持っていこう。寒くて洗えないかもしれないけど。割石温泉まで行くのもいいだろう。

2021年3月20日土曜日

穴毛谷二ノ沢本谷 ドーム壁

 









山登り、特に冬期登攀において南面というのは不遇な方角である。幾ら良い壁があったとしても季節風が吹き当らず日射を受ける南側では氷雪を生かしたクライミングはままならない。加えて結晶性の岩質の場合は寒暖差よって岩内部に破断力が生じるためか岩は脆い場合が多くて手を焼く。しかし、幼少のころ誰しも言われたであろう「好き嫌いはいけません」というという教育訓を思い出してほしい。食指が動かないと言って登らなかったら、いつしか北面の壁しか登れない体質になってしまう恐れがある(これを北面武士と称そう)。バランスの取れた適度な食事こそが健康を保つ秘訣であるのと同じく、何でもおおらかな気持ちで気楽に取り組むのが長く楽しむコツなのではないかと思う。感性はグルメより貧乏舌、肉食より雑食ダボハゼがハッピーなのである。

穴毛谷のドーム壁は中央壁(右峰岩峰)に相対する小ぶりな壁で南東向きの物件である。積雪が平日に殆どなかった週末に訪れたら、それはそれは絢爛な草付きをまといつつも黒々しい姿をしていた。東面は傾斜がかなり強く、興味深いワイドクラックがあったが今回はパスして、傾斜が少しゆるい壁左側から登り始めることとする。草付きにアックスを刺すとさながらカントリーマアムココアのようなソフト感触がしてイマイチ信用がならない。それでもロープを伸ばすうちに何だか楽しくなってくる。短くて難しくは無いがチムニー、クラック、フェースと要所で興味深いムーブが味わえる。大体3ピッチで岩壁を抜け、ロープのいらない簡単な岩稜と雪稜へと出る。正味3ピッチ程度でドーム壁だけを目的に訪れるのは少々勿体ないかもしれない。笠ヶ岳登頂や継続登攀の一環として取り組むのが丁度いいだろう。


<アプローチ>
地形図で示されている蒲田川へ分岐する手前から川を渡ると都合がいい。あとは地形図通り二ノ沢本谷を詰める。下山はクリヤ谷が早い。雪が閉まっていればクリヤの頭から谷へと一直線。

<装備>
カム一式、トライカム少々、ピトン少々

<快適登攀可能季節>
1月~3月。高曇りの日を狙いたい。

<温泉>
新穂高温泉なのでどこでも入ることが出来る。価格帯は高い。

栃尾の荒神の湯は良い露天風呂。体を洗う場合は石鹸を持っていこう。寒くて洗えないかもしれないけど。割石温泉まで行くのもいいだろう。

2020年3月14日土曜日

穴毛谷 本谷中央壁(右峰)







 数ある穴毛谷の岩壁の中でもすっきりとして見栄えがするのが中央壁(右峰岩峰)である。穴毛谷の岩壁は呼称が統一されていない場所があるが、この岩壁もそうである。中央壁というのは岐阜登攀倶楽部によって命名されたようだが、登山大系では右峰岩壁となっている。穴毛谷の真ん中に位置して存在感があること、左峰とはアプローチする谷が異なることを勘案すると中央壁を推したくなるが本稿では併記しておく。
 中央壁(右峰岩峰)は、地形図で「雷鳥岩」の記載がある相似峰の北側が右峰、その直下に高差250mスケールで広がっている。幅広の壁で下流側から取り付くほど登高距離は長くなる。岩質は流紋岩質の溶結凝灰岩で概ね固いが、スラブ状なので弱点に乏しい。ルンゼ状にはベルグラが張り付いているが日当たりが良い立地のため、心もとない色をしている。そのうえ、雪田上部からの雪崩が頻発するのでベルグラの利用は天候を踏まえて慎重に判断するのが賢明だ。
 筆者らは壁中央の凹状を辿りながら右上しつつ、上部の岩壁へ到達後は傾斜の強い小リッジから草付きへを登り右峰直下の稜線へと抜けた。草付き交じりではあるが、部分的に傾斜の強い岩場もあり興味深い登攀であった。雪の要素が多いので、迅速な処理ができないと思いがけず時間がかかるだろう。東面のため、雪のコンディションが悪いことが多く侮れない。稜線直下の雪庇越えも醍醐味となるが崩壊を誘発させないように細心の注意を払いたい。
 アイゼン登攀には難儀な壁ではあるものの、カンテラインやベルグララインは魅力的であった。さらに対岸のドーム壁も大迫力で垂涎ものである。週末一日でここまでスリリングな登山ができる山はそうそう有るもんじゃない。アプローチとする本谷は実に雪崩が怖い谷ではあるが、きっとまた訪れるだろう。穴毛谷にはまだ謎が沢山あるからね。

<アプローチ>
地形図で示されている蒲田川へ分岐する手前から川を渡ると都合がいい。あとは地形図通り二ノ沢本谷を詰める。下山はクリヤ谷が早い。雪が閉まっていればクリヤの頭から谷へと一直線。

<装備>
カム一式、トライカム少々、ピトン少々、ラインによってはスクリュー

<快適登攀可能季節>
1月~3月。高曇りの日を狙いたい。

<温泉>
新穂高温泉なのでどこでも入ることが出来る。価格帯は高い。

栃尾の荒神の湯は良い露天風呂。体を洗う場合は石鹸を持っていこう。寒くて洗えないかもしれないけど。割石温泉まで行くのもいいだろう。

2020年3月3日火曜日

穴毛谷第二尾根









穴毛谷第二尾根はスケールのある雪稜登攀が楽しめる好ルート。掘削の苦労を伴うキノコ雪は連続する訳ではなく、2~3軽いアクセントとして登場する程度なので、爽やかな雪尾根歩きがメインとなる。崩壊ルンゼを上がってからP3付近までが少々ややこしい箇所だ。知らず知らずの内に傾斜の強い箇所や氷化した場所に出くわすのでアイゼンへの履き替えやロープの結束は早めに行いたい。ラインの繋がりが分かり難い場所もあるのでルートファインディングにも注意を払いたい。P4からコルへは雪を支点にした懸垂下降となる。以降ルートは明瞭で時々現れる急雪壁をダブルアックスで適宜こなしていく。P1への登りは右側は凹状になっていて雪崩のリスクが有るので尾根側を注意して登りたいところだ。P1を超えると稜線まではもうあと一息。稜線は岩稜ではなく難しくはないが、雪庇の張り出しには十分注意したい。週末一泊二日で第二尾根から笠ヶ岳を登ることができれば中々の充実感を味わえることだろう。

<アプローチ>
地形図で示されている蒲田川へ分岐する手前から川を渡ると都合がいい。崩壊ルンゼは新穂高からも一目瞭然だが、取り付きは暗いと分かりにくいかもしれない。幕営場所は東面で風が弱い上、適地が随所にあるので困ることはないだろう。2199mの右稜と左稜のジャンクションピーク付近が幕営点としてはちょうどいい。一泊二日でトップアウトしてから笠ヶ岳へ行くには結構な頑張りが必要となる。下山はクリヤ谷が早い。雪が閉まっていればクリヤの頭から谷へと一直線。

<装備>
P4の懸垂用に竹ペグか土嚢袋が必要。藪が豊富なのでスリングのみでOK。

<快適登攀可能季節>
1月~4月中旬。雪が安定している時期とタイミングでないと取り付きにくい。

<温泉>
新穂高温泉なのでどこでも入ることが出来る。価格帯は高い。

栃尾の荒神の湯は良い露天風呂。体を洗う場合は石鹸を持っていこう。寒くて洗えないかもしれないけど。割石温泉まで行くのもいいだろう。