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2025年8月3日日曜日

青屋川 九蔵川小俣谷















 北陸の盛夏の沢は辛い。標高の低さからくる暑さに加えオロロの猛攻という耐え難きをを耐え、忍び難きを忍ぶ事になるので忍耐力を要するである。忍耐力もひと夏持つわけではないので、避暑というか避虫地で過ごすことが多くなる。アブの密度が薄い信濃大町以南の北アルプスということになる。

 九蔵川支流の小俣谷が好渓であるというのは聞いていたが、富山からの微妙な距離感と短さから機を逸していた。訪れてみればシャワークライミングですべての滝が快適に登れる噂通りの良渓であった。
 出合いから二段15mの滝となるが、弱点の右岸壁を快適に登れる。水量が少ないタイミングで寒さを気にしなければ水流も登れる。しばらくの河原歩きと堰堤越えをこなすと、岩盤が露出し始め俄かに谷の雰囲気が良くなってくる。ここから滝と河原が交互に現れる。滝のサイズが20mクラスが複数出てくることに驚く。ほとんどがロープ無し、または快適なクライミングで登ることができる。直登だけではなく巻きも含めたラインの自由度が高いため、易しくも難しくも登ることができる。水量に合わせた登りもできるだろう。林道終点手前くらいまでは白色の火山岩だが、上部は赤みを帯びた溶岩のような岩になり一層岩盤の露出した渓相となる。そのおかげで沢中は滝とナメが続き最後まで水が流れ快適である。笹の密度は濃いが藪漕ぎ時間そのものは凄く短いので気にならない。稜に出たら青屋道をすたこら降りて帰る。
 林道至近でムードがないかと思いきや、林道は視界に入らず快適な沢登りが楽しめる。クライミングはそんなに難しくは無いので支点構築しながら登れる練習沢としても活用できそうだ。日帰り沢登りとしてはかなり良質な部類なので富山や飛騨地方の方には推奨したい。

<アプローチ>
九蔵川の左岸に走る林道のゲートに駐車して入渓する。シンプルに出合から沢の登り始めて、尾根に出たら青屋道を利用して下山するのが合理的。青屋道が刈り払われていないのであれば、九蔵川側へ降りればよい。

<装備>
#1以下のカム、ピトン各種、ラバーソールでもいいかも。

<快適登攀可能季節>
7月~10月 

<博物館など>
千光寺:円空ゆかりのお寺で作品を豊富に所有する寺。定番の不動明王はもちろん、宇賀神や水神もいい。しかし、千光寺保有の円空仏といえば鬼気迫る傑作の両面宿儺であろう。円空仏のなかでは複雑で力強く彫られており印象深い。


2025年7月15日火曜日

青屋川 九蔵本谷

 




















 山の水たまりには惹かれるというのが人情というもの。湖、池、湿原に池塘が秘めたる神秘は尽きることが無い。池塘と花のコンボが大好物なのでシーズンに一度は訪れたいものである。同じ考えの登山者は多いので容易に行ける7月の湿原は大混雑が予想されるうえ、ましてや沢登りを楽しんで到達できる場所は少ない。しかし、千町ヶ原は登山道整備の不確定さから穴場の湿原で、南や西からはそれなりの渓谷が稜線へと延びている。
 九蔵谷は沢歩きを基調としながら、時折小滝が出てくる感じの谷である。沢登りらしい楽しさは1200mの滝マークまでと考えて差し支えないだろう。沢登らしさはあくまで爽やかで、嫌な悪さは無い。快適に景観を楽しみながら登ることができる。1250mから上流は近年の集中豪雨の影響があるのか土砂や倒木が見受けられ魚影はやや薄い。程よく遊んでもらえる密度なのでのんびり釣りを楽しみながら上がるのがいい。淡々と標高を上げ、なだらかなゾーンに到達すると柔らかく流れる水に癒される。笹薮を漕ぎ進むと眼前にワタスゲの大群落が忽然と現れた。過去一番の密度でこれだけでも大感動なのであるが、折よくニッコウキスゲも咲いており、バイケイソウの花にはクジャクチョウも舞っている。恋の季節のカオジロトンボは湿原中散り散りに四つ羽で飛んでいる。新しい夏を迎える嬉しさと侘しさがない交ぜになったこの感じ。これがまた次の季節へと歩む力となる。やはり山はいい。
 下山は青屋道とした。上牧太郎之助が安置した石仏を眺め歴史に思いを馳せつつ長い下山を終える。今も見つかっていない石仏は引き続き捜索中とのことだ。一介の身勝手な登山者だがこの道を開いた行者と救われた民を思う人が続いてくれるよう道の存続を祈念したい。

 九蔵谷は遡行内容重視の沢屋には物足りないのだが、高山植物シーズンの逍遥渓としてはなかなか良い。沢登りらしいところは林道が並走しているので沢慣れしていない人も取りつきやすいのではないだろうか。

<アプローチ>
九蔵川の左岸に走る林道のゲートに駐車して入渓する。地形図の林道終点までならば大体どこでも泊まれる。それ以上登るのであればは1650m~1700mの区間、1750m右俣の少し上で探すことになる。最上流域の平坦地も良いのだが薪に乏しいかもしれない。下山は青屋道が
草刈りされていればこれを使うといい。されていないのであれば同ルートが最も無難。なお、千町尾根の登山道は地形図の位置から少し北側へとずれているため注意。

<装備>
沢慣れした人間であれば特に何も要らない。

<快適登攀可能季節>
7月~10月 高山植物を愛でるといい。

<博物館など>
千光寺:円空ゆかりのお寺で作品を豊富に所有する寺。定番の不動明王はもちろん、宇賀神や水神もいい。しかし、千光寺保有の円空仏といえば鬼気迫る傑作の両面宿儺であろう。円空仏のなかでは複雑で力強く彫られており印象深い。

2024年6月10日月曜日

双六川 葡萄大谷右俣

 





双六川といえば信じ難き透明度に映える花崗岩の白が素晴らしい大渓谷である。しかし左岸側の支流は溶岩流や凝灰岩も見受けられ渓相の多様性が興味深い。この代表的なのは笠ヶ岳の小倉谷や打込谷だろう。

葡萄大谷右俣は短い流域ではあるが複数の岩体を跨ぐ興味深い谷である。しかし、何がそそるかと言ったら、上部が滅多矢鱈に平坦になっている点である。ここは激しい藪なのか、それとも高原川らしい穏やかな癒しなのか。どっちにせよスマイリーそれが沢登り。

苔の発達とサワグルミの新緑が迎えてくれ、入渓して直ぐに満足感に浸れる。加えてご当地お馴染みのシダの繁茂に安らぐ。遡行距離が長くないのでゆったり遊びながら進むとよい。引水パイプやワイヤーの残骸が目につくのが寂しいが、往時の山と人の関りを残す歴史遺産と切り替えればこれも楽しめる。遡行そのものは容易ではあるが、地形図で見る以上に滝や小さな浸食があり渓相は変化に富む。最後まで双六川ならぬ高原川らしさを保ったまま三角点のある稜線へ到達。なお、平坦地ではやはり破顔し、その崩れる様は顔面土石流大崩壊といって差支えない様であったと思う。稜線は古い仕事道をが薄っすら残っていて割合歩きやすい。北側の無名沢へ入ると驚きの花崗岩帯でなかなか水が現れない。ご近所の谷ではあるが、内容は葡萄大谷右俣と全然違い見所は乏しく一気に下降した。

人の営みの残滓を見ると、地域の歴史に興味がわく。古くは神通川へ木材を流していたことから、林業は盛んであったことだろう。燃料の需要から炭焼き小屋跡も多い。加えて鉱山への発電に伴う開発もあった訳である。現代史と雖も山でどのような活動が行われていたか正確に記録されているとは思えない。謎は余白のまま想像の種としても良し、自ら調査活動を行うも良し。あなたはどっち派?

<アプローチ>
双六ダム手前に駐車して歩いて葡萄大谷出会いまで行く。双六ダムはR8年まで工事中のため工事実施日は上流に車を入れる事が出来ない。昔は金木戸川の上部まで林道が入れたものだが、今はゲートは解放されていないし、鍵は割合厳重。葡萄大谷右俣は穏やかで幕営場所に困ることは無い。薪が豊富な適当な箇所で泊まればいい。筆者らは1440m三角点を確認後、双六ダム上流に当たる北側支流を下降した。この北側支流は花崗岩質でガレが堆積しており、上流の伏流区間が長い。

<装備>
筆者らが登ったラインであれば登攀具は不要。

<快適登攀可能季節>
5月~10月 高原川流域にアブはあんまりいない気がする。

<温泉>
割石温泉

<博物館など>
江馬氏館跡公園:江馬氏は室町時代~戦国時代に北飛騨地域を治めた豪族武将である。その時の武将が室町時代に命じて作庭させたのが会所庭園である。来客をもてなす為に作られた石庭は失礼ながら地方豪族が設計したとは思えない瀟洒さで都の風を感じる。作庭費用は鉱山で得た資金を投下したのであろうか。飛騨が天領となった元禄以降は田に埋められてしまったが、昭和に発掘され再現されている。すごくいい庭なのにお庭を眺めながらお弁当を食べられるというフレンドリーさよ。

高原郷土館:鉱山資料館、神岡城、旧松葉家と3つの博物施設が集まった公園。神岡城内では神岡の歴史を概観でき、鉱山資料館では昭和における採掘~精錬までの工程をビデオで学習できる。鉱山資料は少し情報が古いものの鉱業の現場を知ることができるので貴重。そして最も推したいのが松葉家。神岡に現存した合掌造りで農具、山仕事道具(刃物含む)養蚕具が3階建ての中に所狭しと並ぶ。背の高い人は上階で頭をぶつけないように注意。
なお、近現代の生活に関する書物は「奥飛騨山郷生活文化の記録」が面白く、土木開発については「土と木と水と人と : 建設概史」が概観にふさわしい。どちらも国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧可

2022年6月15日水曜日

高原川 蓼之俣谷

 





川は共同体で沢は個人。みたいなイメージがある。そんで、大きな支流が集落で、各沢の中でも同じような渓相と生き物が生息する流域は家族だ。一番大きな支流を本家として、あそこと似通った渓相だけどちょっと違うって時は親戚として4親等。といった沢の分類はどうだろうか。難易度にすると隠れてしまう個性が少しだけ表現できる気がするのだが。

高原川左岸鼠餅~赤桶の区間は見どころのある沢が多い。面白い遡行が味わえるのはある程度水量があって浸食された谷と予想されるものの、水量の乏しい谷も調査してみた。蓼之俣谷とはその名の通り、奥飛騨温泉郷蓼之俣谷集落で高原川と合流する沢だ。林道入り口の看板から地元では別名で呼ばれているようである(名称忘れた)。谷の平均傾斜は緩いが、比較的急な地形なので予期せぬ遡行内容かもと期待し入渓。出合いから土砂が多く谷は荒れた印象である。土砂ばかりかと思いきや、白水谷系の赤ナメ渓相を呈する区間と土砂区間が交互に現れるという興味深い渓相だ。沢上谷の灰色ナメではないのが面白い。概ね土砂っぽいのだがシダと苔の美しさに癒される。時々小滝を挟みながら1150m二俣まで行くと水量は急激に少なくなる。少しだけ左俣の様子を伺ってから退却した。系統としては赤谷家だけれども3親等外という印象だった。

大地の成り立ちを鑑みると沢における家族制度は強固だ。そこではぐれ者の単身者に出会えたら凄く嬉しくなりそう。では、単身者に出会える場所はどのような場所なのだろうか。火山の谷は難しそうだ。堆積岩メランジュの各層の厚みが異なっていて、規模大き目の褶曲作用が生じているところなんかどうだろう。自然の遊びは勝手に定義して勝手に楽しむのがいいね。

<アプローチ>
蓼之俣集落の奥にある私林道のゲート前に停めさせてもらう。最終堰堤の至近まで林道が伸びている。その上から入渓する。下降は柏当谷が無難順当。

<装備>
多分沢靴以外特に何も要らない。

<快適登攀可能季節>
5月~10月 高原川にはアブはあんまりいない気がする。

<温泉>
割石温泉

2017年9月7日木曜日

乗鞍岳 飛騨川 真谷











無雪期の乗鞍岳は過小評価されているのではないか。登山者からはスカイラインを利用して安易にピークを踏める点や五色が原の入場者制限など俗っぽさから敬遠されがちな気がする。しかし、乗鞍岳周辺の沢は静寂を保っておりナメに大滝にゴルジュにどれも素晴らしい景観を楽しませてくれる。堰堤や林道など人の手が入っている場所が多いが、そういう谷でも部分を切り取れば一級品の渓谷だったりする。下山が楽なので沢慣れしていない人には入山しやすい環境といえる。尾根では千町尾根が素晴らしい。高原のブナの森から湿原へ入り高山帯へとたおやかに山頂へ導いてくれるお気に入りの尾根である。登山者が少なく静かなのも魅力だ。花の時期にゆったりと歩いてみたい。

飛騨川の支流真谷は滝が連続して快適かつ楽しい谷だ。標高1700mから2700mへの遡行は高山帯の雰囲気も相まって独特の味わいがある。1900m付近から始まる連瀑帯は息つく間もない、というより深呼吸してゆったり味わいたい感じ。殆どの滝は直登か直ぐ脇を登る事が出来る。もちろん水量次第ではあるがどれも難しくは無いだろう。80mは有るだろう斜瀑は圧巻だ。流芯をシャワーで登ることも可能で爽快極まる区間だ。ぐいぐい標高をあげると沢はナメ状となり天国へ導いてくれるような風景になってくる。涸滝から岩場となりザレを少々歩けばあっけなく稜線に出る。そこから乗鞍岳主峰剣が峰までは一足飛びである。

<アプローチ>
アイミックス自然村南乗鞍オートキャンプ場から林道に入り、東谷出合いにゲートがあるので手前に車を止める。忠実に水線を詰めると藪漕ぎは全く無く稜線に飛び出す。折角なので剣が峰まで足を伸ばすと良い。地形図に記載されていない阿多野へ下山する道がある。道中には看板もあり、エアリアにも記載されている。ハイマツ帯で道が判然としない箇所があるが歩くのには支障は無い。下部の藪は刈払われていたが、時期と年によっては未整備の可能性もありそう。入渓点まで富山市内からおよそ3時間。

<装備>
沢慣れした人間であれば特に何も要らない。滝には節理が十分ある。確保する場合はカム、ピトン、ナッツどれも有効である。

<快適登攀可能季節>
7月~9月 南面とは言え、7月中旬までは有る程度の残雪がありそう。標高が高いので遅い時期は寒い。虫が少ないので真夏も遡行可能だと思う。

<博物館など>
光ミュージアム:崇教真光が運営する博物館。ピラミッド型の建築だけでも面白い。浮世絵から書まで展示する正統派で良いなぁ。っとおもったらいきなり現れる教祖の展示が見所。

飛騨高山美術館:アールヌーボー、アールデコのガラス工芸を展示。エミール・ガレ、ドーム兄弟の作品は沢ヤならばきっと気に入るはずだ。

千光寺:仏師界のニコラ・ジャジェールこと円空の作品を豊富に所有する寺。上から目線の悟り表情ではなく、微笑みかける一本彫の仏像に癒される。鬼気迫る両面宿儺も傑作。

世界の昆虫館:豊富な標本と、アート性を兼ね備えた昆虫館。展示内容が多彩で時間がどれだけ有っても足りない。リスとも触れ合える。秀逸なのは蝶で描かれた絵画。蝶が見たら地獄絵図だが。

2017年8月15日火曜日

高原川 煙滝谷









山歩き愛好者は沢登り愛好者の何倍いるのだろう。整備された登山道を利用し気軽に自然に親しめるのがハイキングの魅力だ。一方、「沢登り」というと確保技術やら装備やらが必要で敷居が高く感じてしまうかもしれない。それが原因で渓という環境に親しむ人が多くないのは寂しく思う。そもそも、谷は生活の場であった訳で最も身近な自然であったはず。そんなに身構えず、みな気軽に渓に足を運んでみれば良いのになぁと思うのである。

煙滝谷は遡行なんてイカツイ言葉は必要ない沢である。横に林道が走っているので、嫌になったらすぐに辞めればよい。そのような環境でありながら、ナメや滝と癒し系の渓谷美を見せてくれる。これは言うならば「沢登り」ではなく、「ウォーターハイキング」である。暑い夏、ハイキングの新ジャンルとしてこのような渓で遊ぶのも良いと思う。

<アプローチ>
葛山発電所から下佐谷林道へ入る。林道はそれほど荒れておらず、普通車でも走行可能。ゲート手前に駐車し入渓。適当に綺麗な景色を楽しんで下山すればよい。弓折谷との出合いから二つ目の橋までであれば特に危険なところは無い。下山は林道を使うと早い。

<装備>
沢靴以外特に何も要らない。

<快適登攀可能季節>
5月~10月 高原川にはアブはあんまりいない気がする。

<温泉>
割石温泉