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2025年8月17日日曜日

虫川 釜田川











 糸魚川の良い所は小さな山でも沢や岩があり短時間で遊べることだ。小さい山は雨が降っている時や大雨の後、青海の岩場をセット、糸魚川ジオパーク観光等、アウトドアライフの充実には欠かせない。
 虫川の釜田川は沢登りにいいよね~。といって解り合えるホモサピエンスは現在80億人中自分1人、何なら人類が知性を有して以来1人かもしれないと思うと20万年の孤独に震える。そのようなことが無いよう解説しよう。釜田川とは西中集落で虫川と合流する小さな沢である。この一帯の山は黒部川電力の送電線や琴沢採石株式会社の鉱山道があり林道が発達している。地質は舞鶴帯に属する可能性が示唆される苦鉄質岩類と砂岩・泥岩の虫川層からなり、地質的な境界部には滝が現れることが多い。また、泥岩と砂岩は浸食されやすいようで水量が少なくてもゴルジュを形成することが有る。虫川は塩の道西回りルートになっていた。牛繋石や石組といった遺産から往時を偲ぶのも趣深い。
 さて、場も暖まってきた所で遡行の噺をば。導水管から入渓して20分くらい河原を歩くと15m滝が現れる。ここは気持ちよくシャワークライミングを楽しめる。普段は水量が少ないため増水時の方が面白いだろう。次の6m滝もスラブ状で支点が取りにくいのでピリリとする。次の15m滝は瀑布が宙を舞い脆い岩なので巻く。これで核心は終了。以後も小さなゴルジュや気持ちのいい川原が多い。谷が浸食されているので意外に薮っぽくないのがいい。ひどい藪漕ぎもなく驚くほど整備された送電線巡視路に飛び出す。森の樹木種が豊富が美しいので秋のハイキングに来たいくらい気持ちいい。

遡行時間は2時間~3時間程度で終わる。先述の通り遊び方の自由度が高いため万人にお勧めできる。沢屋かつクライマーの皆様は青海の岩場へい行く前のアップぜひどうぞ。青海は午前中の暑い時間は沢登りして、午後陰ってから勝負がお勧め。

<アプローチ>
西中集落から田んぼ沿いの林道を電気柵を外して導水管のあるところまで入り込める。408.5m三角点の稜線は送電線巡視路が素晴らしく整備されている。筆者らは南側の琴沢方面へ降りた。送電線の敷設具合から想像するに北側の釜田川方面へは続いていないと思う。琴沢から歩いて戻ることになる。琴沢の林道は採石場のど真ん中を走る私有地なので平日は歩かない方がいい。歩くのであれば、遡行は日曜日限定にするのが無難。

<装備>
下部ゴルジュの滝を直登するのならばカム一式、ピトン少々。

<温泉>
ひすいの湯が最寄りだが高級。帰りしなならば、朝日町の境鉱泉、たから温泉といったナトリウム泉の温泉がある。500円くらいで入浴可能。

<快適登攀可能季節>
5月~11月

<博物館>
フォッサマグナミュージアム:糸魚川ジオパークの拠点となる博物館。一度は必ず訪れたい。

翡翠園:散策可能な日本庭園。よく考えられていて、どこから見ても趣が有る。島根県足立美術館の作庭が有名な中根金作による庭園である。構成から考察するに、彼はあの巨大なヒスイ原石を嫌悪していたのではないかと邪推してしまう。

玉翠園:同じく中根金作による庭園。こちらは観覧庭園でガラス越しにしか眺めることは出来ない。柔らかな丘による高低が印象的。

2024年10月8日火曜日

関川 真川 鍋倉谷

 














 東西南北どこからでも登れる山は思わぬ気づきが得られることが多く面白い。北アルプスや白山は大概南北に山稜が単調に続くため継続は横断系になることが多い。翻って、海谷~妙高にかけての頸城山域は金山を中心として東西南北に稜を伸ばし、その周辺の地形は多様で登山対象となるキャラが大渋滞している。継続遡下降の醍醐味が味わえる山域だろう。
 笹ヶ峰は富山からは何となく行きづらところである。東西北のアクセスが良すぎるがゆえ、わざわざ上越まで行って回り込むことになる所に行くのは気合がいるのだ。裏金山谷といった西側から山越えして取り付きやすい場所ならともかく、下流側の鍋倉谷に取り付くにはこの壁を乗り越えねばならばない。壁は高いのだが、頸城成分の特盛全部載せである鍋倉谷は必ず訪れるべきと喧伝したい。

 秋を楽しむために頑張らないこととしてヒコサの滝は高巻いて入渓。この高巻きで食べごろのキノコをたんまり収穫できた時点で山行は成功である。ヒコサの滝上の第一ゴルジュは水量豊富で迫力があるがヘツリで快適に登ることができる。黒々とした泥岩主体の渓相は海川、能生川及び中谷川にもみられる頸城らしさだ。所々鉱泉が湧出しており、そこに生育する赤色バイオマットもまた頸城らしさである。
 少し川原歩きをするといきなり両岸が立ち始めて物凄いゴルジュになる。第一ゴルジュとは異なる角礫岩のゴルジュで禍々しい。泥岩から角礫岩となっていて、火砕流や火山灰の影響が感じられ始め嬉しい。屈曲滝の造形は奇妙奇天烈で技術的にも結構難しい。ここはカムが意外に有効である。次はチョックストンが詰まった2m滝で、ここはシャワーで突破か乾いたスラブを登る。シャワーの方が安全であったが、濡れるのを嫌いノープロでスラブクライミング。ここはクライミングシューズが有効だろう。ちなみに谷全体を通して川床は物凄くヌメるのでフェルトが歩きやすい。第二ゴルジュ後は渓相は特徴的な砂岩と泥岩の互層を示し大いに盛り上がる。この岩の中には海の潮流が時の積層として残っているのだ。能生川イカズ谷のフィリッシュと違い褶曲は顕著ではないので、禍々しさは削がれて純粋なエンタメ要素しかない。感動に打ち震えているといきなり火山岩溶岩性の渓相に切り替わり、門のような滝が立ちはだかる。その後も溶岩が浸食されたゴルジュが続く。誠におもてなし上手な谷である。猛烈な笹薮をかき分けて辿りつく天狗の庭は終局にふさわしい。紅葉は冴えないものの池塘を囲う霧と光が幽玄の美を醸していた。
 美しい森の中に拓かれた登山道を歩いていると、ふと違和感を覚えた。北西面の森と木々の種類は同じなのだが、樹高が高く風にそよぐ梢の音が遠い。吹き抜けのように開放感がある森は穏やかで優しく心地がいい。これだけ樹高が高いのは内陸であるがゆえ、北西の季節風の風下となるうえ、日本海低気圧の南風からも守られているためだろうか。だとすると富山での立山と黒部川の対比に似ている。キノコをさがしながらのんびり歩く登山道歩きは楽しいものだ。
 
 鍋倉谷をこの山域の手始めに訪れていたらこれほど心動かなかったかもしれない。山登りは本を読むことに似ている。山を駆け、当地の自然が織りなす物語が記される言語を習得することが肝要といえる。決して人間には描けない重厚で謎めいた物語は何度読んでも新たな発見がある。次のページを開くのが待ち遠しい。

<アプローチ>
笹ヶ峰からちょっとだけダート道を走り、杉ノ沢橋まで行き広場に駐車して入渓。ヒコサ滝を巻くのであれば遊歩道を使って藪に入り巻きに入れば落ち口に出られる。幕営箇所は1880mが最高。ここでのんびりするだけで楽しい。下山は色々取れる。最も安易なのは登山道を利用して笹ヶ峰ロッジへ下降する。そのほか、焼山の方に縦走して登山道下山やヌルイ沢を下降するなど色々と取れるだろう。

<装備>
カム少々、ピトン少々、足回りはフェルトでクライミングシューズを持参するのがバランスが良い。

<快適登攀可能季節>
9月~10月。残雪が多いので秋が良い。紅葉とキノコを求めて行くがいいさ。

<博物館など>
妙高高原メッセ:図書館に蟹江健一氏の寄贈図書があり、この資料だけであっという間に時間が過ぎる。頸城フリークならば一度は訪れたい。えっ、蟹江健一を知らない?!



2024年8月21日水曜日

大海川 大倉沢

 











 富山県民にとって頸城の山といえば海谷渓谷や早川流域、それに鉾ヶ岳山塊といった北側の山が身近な存在。小谷村の南側は少し回り込む経路となるため何となく遠く感じてしまう。況や東側の妙高となれば異国である。
 小谷村中谷川上流の渓谷は粒ぞろいでよろしい。浅海川のゴルジュ造形美、横沢のナメと大滝連続コンボ、どちらも素晴らしかった。では、中谷川の本流とも呼ぶべき大倉沢はどうだろうか。
 黒沢出合いまでは緩やかな川原を淡々と歩くだけである。そこからV字状渓谷となっていく。黒々としたボロイ岩は正に海谷上流と同じ。加えて水の濁り具合、ちょっぴり苦い味も同じ。住み慣れた地獄はほっとする。周囲の光景がイカツイいうえ屈曲点が多数ある。角を曲がる度にくるのか・・と身構えるが全然来ない。快適に小滝を登るうちにゴルジュ帯を終了していた。以後も淡々と進み、1930mの二俣を左に入ると急なルンゼ状となる。ここから高差50mくらいがこの谷の核心である。下部が容易なだけに油断せずに登りたい。最後は竹のようになった笹の密生を漕ぎ分けて登山道のある稜線にやっとこさ出る。
 頸城の沢の雰囲気は漂っているのだけれども遡行は比較的容易といえる。取り付きにくい印象のある山域の中で日帰りで丁度いい遡行距離で、金山に登ることもできる。at 頸城沢登り入門にいかがだろうか。

<アプローチ>
小谷温泉の雨飾山登山道入り口に駐車して任意の場所から入渓。下降は登山道を利用してもいいが、アップダウンが多い。茂倉峰からの右岸支流や黒沢を下降すると合理的である。筆者は黒沢を下降したが、最後に大滝がある以外割合下降し易かった。

<装備>
沢慣れしていれば懸垂用のロープのみでOK。フェルトの方がいい。

<快適登攀可能季節>
8月~10月。残雪が多い時期だと不安定な雪渓が残る。やはり秋がよいだろう。

<温泉>
小谷温泉:雨飾荘、山田屋温泉旅館など複数あるが日帰り温泉終了が早いので要注意

2024年6月16日日曜日

海谷山塊 早川谷根川

 









海谷山塊の地形は興味が尽きない。千丈ヶ岳の南西壁は大岩壁でその同じ岩質で不動川が台地をかち割って流れる。台地の平坦地は湿地で水芭蕉が群生している。さて、不動川の右岸台地の緩傾斜帯は千丈ヶ岳の地形とまた異なっている。これは調べていないけど活動した火山の性質が違うんじゃないかと想像している。トウスル沢を探索したさいには懸崖箇所はゴーロ滝の連続であり、その後は美しいナメと小滝が続きブナと笹が茂る台地へと水は消えた。トウスル沢よりも上部浸食が進んでいる谷根川はどうだろうか。

大滝下はトウスル沢と同じようなボルダーが続く。これは不動川下部とも同じだ。大滝周辺は岩壁に囲まれた威圧感の有る地形だ。高さはそれ程でもないが前衛滝を含めて端正な滝である。その上部もゴルジュ小滝が2つ続く。660mまで散発的に滝が現れるが登るのも巻くのも難儀は無い。ここからは癒しの渓相が続く。浸食は所々顕著だが地形図で表されているように感じない。か細い流れの中にイワナが命を繋いでおり励まされる。850m付近で40mくらいの岩壁が現れ水をぽたぽたと垂らしている。雰囲気は掴めたので遡行はここまでとした。岩壁の下で食べる早めのランチは美味しい。同ルート下降ならば早く終わるので午後から青海の岩場へ繰り出すのもいいだろう。

谷根川の最上部は浸食が進んでおり岩壁まで現れた。トウスル沢は雰囲気が異なっているのだ。これは水源となる箇所の標高の違いだけではない気がする。谷根川では純粋に溶岩火砕流ではなく堆積岩も混じっているように感じるのだがどうなのだろう。他の谷も登って知見を深めたらもう一度遡行して確かめたいものだ。

<アプローチ>
田んぼの横から地図に載っていない農業用用水路の取水口までは車が乗り入れられる。そこから大滝までは10分くらいで到着する。なお、谷根集落の棚田は特筆すべき美しさである。地滑り地形の平坦地に住まい、営んできた歴史を含めてグッとくる。大滝を巻くのはかなり手前からとなり大仕事である。右岸高く林道が付けられているが、この林道から大滝直ぐ上へと通じる支流があるのでこれを利用して下降すると大滝から上を容易に楽しめるはず。この林道は先の下降する沢くらいの箇所で廃道化しているので、上部から歩いて帰ることを見込まない方がいい。地形的に同ルート下降が安易である。

<装備>
懸垂用にロープ。

<温泉>
笹倉温泉龍雲荘:秘湯系高級温泉というイメージがある。入浴料はちょいと高いが話のタネに一度はどうぞ。

<快適登攀可能季節>
6月~11月

<博物館>
フォッサマグナミュージアム:ジオパークの町糸魚川の基幹博物館。何とか時間を捻出し必ず訪れたい

翡翠園:散策可能な日本庭園。よく考えられていて、どこから見ても趣が有る。島根県足立美術館の作庭が有名な中根金作による庭園である。構成から考察するに、彼はあの巨大なヒスイ原石を嫌悪していたのではないかと邪推してしまう。

玉翠園:同じく中根金作による庭園。こちらは観覧庭園でガラス越しにしか眺めることは出来ない。柔らかな丘による高低が印象的。

2023年10月9日月曜日

能生川 フヨ谷

 











人間一生のちっぽけなスケールで自然の変成を感じられるのが山登りを続けることの面白みでもある。能生川フヨ谷は謎多き谷であったが、大西良治氏の渓谷登攀に紹介されその全貌が衆目に晒されることとなった。筆者も十年以上前の秋に訪れたが、驚くほどの残雪に谷が覆われており遡行を諦めたものである。残雪が少ないシーズンにこれ善かれと思い再訪することとした。

西飛山ダムまでの道が随分と悪くなっており、この地域の特産ともいえる地滑りのパワーに感心する。令和5年度の糸魚川議会によってダムに通じる林道補修およびダム観測設備設置予算が充てられており、林道は工事中である。3度目の西飛山ダムは湛水はしていないが、きっと防災には大いに役立っている事であろう(常時湛水することは想定していないようだ)。

さて、残雪が無いフヨ谷を颯爽と進むが、土砂の多さが気にかかる。やがてフヨの大滝手前の前衛滝が現れる。それほど難しくなく支点も取れるので楽しい。フヨの大滝は均整の取れた二段構えの頸城屈指の美瀑だ。一段目の手前の岩尾根状からクライミングシューズを履いてクライムオン。傾斜が強く細かいフットホールドと土砂だらけの岩で緊張する。当然岩は脆い。ピトンワークに勤しみ何とかテラスへ到着して1ピッチ終了。更に薄かぶりの箇所を思い切って超えて灌木帯へ到着。そこから灌木を少し登りトラバースし、25mぴったりの懸垂で沢床へ戻る。懸垂しているときから気がついたが、沢の様子が明らかにおかしい。上部は土砂で谷が覆われており水が流れていない。歩みを進めると渓谷登攀の遡行図で20mの滝があるはずの箇所から見たことも無いくらいのスケールで土砂が堆積している。上部から大規模な山体崩壊が発生したことは間違いない。全てが土砂に覆われた不安定な斜面を延々登り稜線へと上がった。稜線に吹く風は冷たく雪化粧する火打山と焼山が印象的であった。対照的に未だ開くことのないリンドウを見て、人間の影響による自然の変成にも思いを馳せた。

糸魚川市議会の一般質問記録によると、2022年の7月~9月にかけて能生川の水が濁り続けていたとある。そういえばこの期間に筆者が能生川を通った時も濁っていたような気がする。この濁りの原因がフヨ谷上部の山体崩壊だとすれば合点がいく。これだけの土砂堆積現場を現地で眺められたのは僥倖であった。以後、行政による現地調査がされていないことを踏まえると、筆者らが世界初の現地観測者だったのだろう。20mクラスの大滝を複数埋め尽くす土砂崩れのエネルギーは凄まじいものであったはず。その一端を感じられるのが目下フヨ谷の魅力と言えよう。

<アプローチ>
シャルマン火打のスペースをお借りして駐車。西飛山ダムへ向かう林道を歩いていく。フヨ谷の中は崩壊した土砂が堆積しているので幕営には適さない。筆者らは稜線に出て、樹林帯の平坦地で幕営した。1864mピークまでは割合歩きやすい。1864mの北西面より丸倉谷を下降した。丸倉谷の下降は滝が連続して難しい。下降開始から大体4時間半くらいかかって本流に戻った。






丸倉谷は遡行価値の非常に高い沢と思うのでいずれ登ってみたいものだ。

<装備>
カム#0.3~1まで一式。ピトン10枚くらい。ピトンはナイフブレードを主として、ユニバーサルを少々。フヨの大滝用にクライミングシューズは必携

<快適登攀可能季節>
9月~10月。残雪があるとややこしい。

<温泉>
柵口温泉権現荘:露天風呂付きの風呂と入り口が別の内湯が二つある。600円也。なお、糸魚川市から指定管理者の募集を行っているが入札が無い状態が続いている。そのため市営運営による日帰り入浴のみだが、終了時刻が異様に早い時もあるので注意。

<博物館など>
フォッサマグナミュージアム:地学系の博物館で興味深い展示に見入ってしまう。ここでは石の鑑定も行っているので、山で見つけた気になる石を鑑定してもらおう!(一人10個までです)

翡翠園:散策可能な日本庭園。よく考えられていて、どこから見ても趣が有る。島根県足立美術館の作庭が有名な中根金作による庭園である。構成から考察するに、彼はあの巨大なヒスイ原石を嫌悪していたのではないかと邪推してしまう。

玉翠園:同じく中根金作による庭園。こちらは観覧庭園でガラス越しにしか眺めることは出来ない。柔らかな丘による高低が印象的。至近の谷村美術館も個性的なので訪れる価値あり。

糸魚川市民図書館:糸魚川市、能生町の郷土史は重厚な作りで読み応えが有る。青海町の郷土史は発刊は古いがシニカルな語り口が面白い。ジオパーク関連資料も豊富で嬉しい。なお、能生町、青海町にも分館があるのでそちらでも資料は閲覧可能である。