2025年8月19日火曜日

上路川 湯ノ谷









 上路集落は山姥伝説が有名で世阿弥の「山姥」の舞台になっている。この上路集落を流れる上路川での沢登りといえば榀谷が古くから親しまれているルートだ。上路川には他にも沢登り入門に好適な大滝谷が有るが、湯ノ谷を登ったという話は聞かない。榀谷よりも谷の傾斜と側壁の高さでは湯ノ谷の方が優位そうである。それより何より、湯ノ谷でエクロジャイトというプレート境界で形成される変成岩が産出している。友人の提案でこの岩が産出する岩を探すという目的で谷に入る。
 谷に入ると落ち着いた渓相でよい雰囲気を感じる。小滝というほどの滝は無いが沢歩きには丁度いい。もとより目的は岩探しなので川原の石を見たり、露頭の岩を観察しながらゆっくり進む。これが何とも気持ちがいい。易しい沢で遡行目的ではなくぶらぶらすると気づきが多い。エクロジャイトの難しい課題が設定できそうなボルダー、謎の坑道跡、坑道の中でやたら光る粉塵のようなコケのような物質。どれもさっさと歩いたら気づかないかもしれない。登山目的じゃない方がその土地の自然を存分に味わえるのがいい。同好の士が最近訪れたようで転石エクロジャイトを採取した跡があった。沢と岩を楽しむ人種の多様性が感じられ嬉しい。
 標高500mくらいから傾斜が強くなるが滝というよりも段差で登り易い。このあたりからエクロジャイトの転石が増え始める。青色に柘榴石の赤が映えてかわいらしい。湯ノ谷エクロジャイト柄のTシャツをフォッサマグナミュージアムで販売したら結構売れるのではないだろうか。不思議なのが、柘榴石のサイズが巨大にはならず大体同じ大きさで揃っている点である。圧力、温度、流動性、成分濃度などが要因となってサイズを決定していそうだがどうなのだろう。注意深くエクロジャイト濃度の高いルンゼを探しあて詰めあがる。草付き登りが案外悪いものの沢屋ならば問題ない。ルンゼを詰めて見つけた露頭は幸いにしてエクロジャイトであった。青海川の金山谷、アイサワ谷にも産出するというからこちらも再訪したいものだ。
 湯ノ谷は沢という場所を初めて知るには丁度いい沢歩きができるところといえる。春~初夏に山姥の洞に抜けて白鳥山に上がる登山をするのはどうだろうか。山菜を取りながらぶらぶらするのにはもってこいだろう。岩、昆虫、植物、菌類、蘚苔類、土壌微生物等々何か探しながらゆったりと過ごす週末にどうぞ。
 
<アプローチ>
坂田峠へ向かう道の途中、湯ノ谷出合付近にある路側に駐車する。同ルート下降も容易だし、榀谷を下降するのもよい。

<装備>
何もいらない。

<快適登攀可能季節>
6月~11月。

<温泉>
宝温泉、地中海、境鉱泉など越中宮崎周辺は塩泉が多い。

<博物館など>
護国寺:別名石楠花寺。とやま花名所に選ばれるだけある庭園。シャクナゲとツツジの時期が素晴らしい。謎の置物も気になる。

朝日町歴史公園:縄文時代の不動堂遺跡が再現されている他、江戸時代町屋であった旧川上家の家屋が当時の状態を保ったまま移設されている。ここでは朝日町名産のバタバタ茶を自分で点てて試飲できる。12月~3月は閉館するので注意。

朝日町立 ふるさと美術館:昨今の大正アートブームで再注目の竹下夢二の作品を所蔵している。江戸~大正期、朝日町の泊は宿場町で大いに栄えており、その盛り場に夢二が訪れていたようだ。妻たまきとの破局事件の舞台は宮崎海岸だ。この情事の続きは朝日町の図書館で。

百河豚美術館:野々村仁清の作品を数多く展示している。デフォルメされた鶏が描かれコップもあり、仁清のモダンな感性を感じる事ができる。他にも話題の伊藤若冲や、尾形光琳に酒井抱一といった琳派ビックネームの作品も展示。

下山芸術の森発電所美術館:きらりと光る興味深い展示をやっている。こちらも12月~3月の冬季は休館するので注意。

杉沢の沢杉:地口か回文のような名称だが素晴らしい場所。田園と防風林の中にポツリ広がる湿地杉林で、まるでもののけ姫の森のようである。近年、入善乙女キクザクラという桜の新種がここで発見されている。この原木は未だ杉沢の沢杉でしか発見されていない。北陸は菊咲きの桜の品種が多いらしい。

2025年8月17日日曜日

虫川 釜田川











 糸魚川の良い所は小さな山でも沢や岩があり短時間で遊べることだ。小さい山は雨が降っている時や大雨の後、青海の岩場をセット、糸魚川ジオパーク観光等、アウトドアライフの充実には欠かせない。
 虫川の釜田川は沢登りにいいよね~。といって解り合えるホモサピエンスは現在80億人中自分1人、何なら人類が知性を有して以来1人かもしれないと思うと20万年の孤独に震える。そのようなことが無いよう解説しよう。釜田川とは西中集落で虫川と合流する小さな沢である。この一帯の山は黒部川電力の送電線や琴沢採石株式会社の鉱山道があり林道が発達している。地質は舞鶴帯に属する可能性が示唆される苦鉄質岩類と砂岩・泥岩の虫川層からなり、地質的な境界部には滝が現れることが多い。また、泥岩と砂岩は浸食されやすいようで水量が少なくてもゴルジュを形成することが有る。虫川は塩の道西回りルートになっていた。牛繋石や石組といった遺産から往時を偲ぶのも趣深い。
 さて、場も暖まってきた所で遡行の噺をば。導水管から入渓して20分くらい河原を歩くと15m滝が現れる。ここは気持ちよくシャワークライミングを楽しめる。普段は水量が少ないため増水時の方が面白いだろう。次の6m滝もスラブ状で支点が取りにくいのでピリリとする。次の15m滝は瀑布が宙を舞い脆い岩なので巻く。これで核心は終了。以後も小さなゴルジュや気持ちのいい川原が多い。谷が浸食されているので意外に薮っぽくないのがいい。ひどい藪漕ぎもなく驚くほど整備された送電線巡視路に飛び出す。森の樹木種が豊富が美しいので秋のハイキングに来たいくらい気持ちいい。

遡行時間は2時間~3時間程度で終わる。先述の通り遊び方の自由度が高いため万人にお勧めできる。沢屋かつクライマーの皆様は青海の岩場へい行く前のアップぜひどうぞ。青海は午前中の暑い時間は沢登りして、午後陰ってから勝負がお勧め。

<アプローチ>
西中集落から田んぼ沿いの林道を電気柵を外して導水管のあるところまで入り込める。408.5m三角点の稜線は送電線巡視路が素晴らしく整備されている。筆者らは南側の琴沢方面へ降りた。送電線の敷設具合から想像するに北側の釜田川方面へは続いていないと思う。琴沢から歩いて戻ることになる。琴沢の林道は採石場のど真ん中を走る私有地なので平日は歩かない方がいい。歩くのであれば、遡行は日曜日限定にするのが無難。

<装備>
下部ゴルジュの滝を直登するのならばカム一式、ピトン少々。

<温泉>
ひすいの湯が最寄りだが高級。帰りしなならば、朝日町の境鉱泉、たから温泉といったナトリウム泉の温泉がある。500円くらいで入浴可能。

<快適登攀可能季節>
5月~11月

<博物館>
フォッサマグナミュージアム:糸魚川ジオパークの拠点となる博物館。一度は必ず訪れたい。

翡翠園:散策可能な日本庭園。よく考えられていて、どこから見ても趣が有る。島根県足立美術館の作庭が有名な中根金作による庭園である。構成から考察するに、彼はあの巨大なヒスイ原石を嫌悪していたのではないかと邪推してしまう。

玉翠園:同じく中根金作による庭園。こちらは観覧庭園でガラス越しにしか眺めることは出来ない。柔らかな丘による高低が印象的。

境川 100m左岸支流









 境川は富山に二つあるからややこしい。これから言及するのは越後・越中の境となる境川である。境川は北陸電力の発電所が3つあり、林道が長く敷設されているものの一般車両が入れるのは第一発電所のちょっと先までである。そんな事情から割合開発されており、本流の上流や各支流に堰堤がある。最もアプローチが容易なのが100m左岸支流である。
 出合いにかけられた橋から入渓すると地図に書いていない堰堤が結構出てくる。そして、林道と近い個所は本当に近くて巻いている途中に林道に上がってしまうくらい。岩は硬くて割合渓相はよく、谷が開けているのでさながら高山で沢登りをしているみたい。しかし倒木がめちゃんこ多くて残念である。倒木の量の割に土砂が多くないのはどういう訳だろうか。下部の岩は笹小俣谷と同じ青っぽい謎の岩で、上部で来馬層ライクの礫岩に変わった。いくつも支流が入り込んで複雑だが気ままに標高710mくらいまで進み、水が涸れて藪っぽくなったので同ルートを戻り、途中から採石場の林道を歩いて帰る。
 沢登りを目的に訪れる人はあまり楽しめないかもしれない。個人的には焼山東面の谷の浅さが気になっていたので沢の状態を確認でき満足。同じ谷の浅さでも黒菱山西面太美山層の流紋岩があるところは楽しいのにこちらはそうでもない。山の不思議さに感じ入る良き休日である。

<アプローチ>
採石場へ通じる道の手前に駐車する。遡行後に下降する適当な沢が少ない。笹小俣谷を下降するか同ルート下降が妥当だろう。

<装備>
カムやピトンは使わなくても登れる。

<快適登攀可能季節>
7月~10月。

<温泉>
宝温泉、地中海、境鉱泉など越中宮崎周辺は塩泉が多い。

<博物館など>
護国寺:別名石楠花寺。とやま花名所に選ばれるだけある庭園。シャクナゲとツツジの時期が素晴らしい。謎の置物も気になる。

朝日町歴史公園:縄文時代の不動堂遺跡が再現されている他、江戸時代町屋であった旧川上家の家屋が当時の状態を保ったまま移設されている。ここでは朝日町名産のバタバタ茶を自分で点てて試飲できる。12月~3月は閉館するので注意。

朝日町立 ふるさと美術館:昨今の大正アートブームで再注目の竹下夢二の作品を所蔵している。江戸~大正期、朝日町の泊は宿場町で大いに栄えており、その盛り場に夢二が訪れていたようだ。妻たまきとの破局事件の舞台は宮崎海岸だ。この情事の続きは朝日町の図書館で。

百河豚美術館:野々村仁清の作品を数多く展示している。デフォルメされた鶏が描かれコップもあり、仁清のモダンな感性を感じる事ができる。他にも話題の伊藤若冲や、尾形光琳に酒井抱一といった琳派ビックネームの作品も展示。

下山芸術の森発電所美術館:きらりと光る興味深い展示をやっている。こちらも12月~3月の冬季は休館するので注意。

杉沢の沢杉:地口か回文のような名称だが素晴らしい場所。田園と防風林の中にポツリ広がる湿地杉林で、まるでもののけ姫の森のようである。近年、入善乙女キクザクラという桜の新種がここで発見されている。この原木は未だ杉沢の沢杉でしか発見されていない。北陸は菊咲きの桜の品種が多いらしい。

2025年8月3日日曜日

青屋川 九蔵川小俣谷















 北陸の盛夏の沢は辛い。標高の低さからくる暑さに加えオロロの猛攻という耐え難きをを耐え、忍び難きを忍ぶ事になるので忍耐力を要するである。忍耐力もひと夏持つわけではないので、避暑というか避虫地で過ごすことが多くなる。アブの密度が薄い信濃大町以南の北アルプスということになる。

 九蔵川支流の小俣谷が好渓であるというのは聞いていたが、富山からの微妙な距離感と短さから機を逸していた。訪れてみればシャワークライミングですべての滝が快適に登れる噂通りの良渓であった。
 出合いから二段15mの滝となるが、弱点の右岸壁を快適に登れる。水量が少ないタイミングで寒さを気にしなければ水流も登れる。しばらくの河原歩きと堰堤越えをこなすと、岩盤が露出し始め俄かに谷の雰囲気が良くなってくる。ここから滝と河原が交互に現れる。滝のサイズが20mクラスが複数出てくることに驚く。ほとんどがロープ無し、または快適なクライミングで登ることができる。直登だけではなく巻きも含めたラインの自由度が高いため、易しくも難しくも登ることができる。水量に合わせた登りもできるだろう。林道終点手前くらいまでは白色の火山岩だが、上部は赤みを帯びた溶岩のような岩になり一層岩盤の露出した渓相となる。そのおかげで沢中は滝とナメが続き最後まで水が流れ快適である。笹の密度は濃いが藪漕ぎ時間そのものは凄く短いので気にならない。稜に出たら青屋道をすたこら降りて帰る。
 林道至近でムードがないかと思いきや、林道は視界に入らず快適な沢登りが楽しめる。クライミングはそんなに難しくは無いので支点構築しながら登れる練習沢としても活用できそうだ。日帰り沢登りとしてはかなり良質な部類なので富山や飛騨地方の方には推奨したい。

<アプローチ>
九蔵川の左岸に走る林道のゲートに駐車して入渓する。シンプルに出合から沢の登り始めて、尾根に出たら青屋道を利用して下山するのが合理的。青屋道が刈り払われていないのであれば、九蔵川側へ降りればよい。

<装備>
#1以下のカム、ピトン各種、ラバーソールでもいいかも。

<快適登攀可能季節>
7月~10月 

<博物館など>
千光寺:円空ゆかりのお寺で作品を豊富に所有する寺。定番の不動明王はもちろん、宇賀神や水神もいい。しかし、千光寺保有の円空仏といえば鬼気迫る傑作の両面宿儺であろう。円空仏のなかでは複雑で力強く彫られており印象深い。


2025年7月23日水曜日

乳川谷 ヨセ沢右俣

 












 乳川谷流域で最も快適で楽しい沢登りができるのはヨセ沢だと思う。ちょうどいい水量で水を浴びながら程よいクライミングを堪能できるのが良い。ヨセ沢は馬羅尾山へ抜ける左俣、清水岳へ抜ける右俣に分かれる。筆者はどちらも登ったが甲乙つけがたい面白さがある。
 ヨセ沢に入りいくつかの滝を登って快適に進み右俣へ入ると二条20mくらいの大滝が現れる。ここから地図通り連瀑帯となる。左は支流の沢なのだが、巻きのラインは左の滝から取りつき沢を横断する方が楽である。直登もできそうだが岩は脆そうでちょっとやりたくない。いくつか滝が現れるが、どれもそれほど悪さは無く楽しく登れる。ハンドジャムしてちょっとワイドっぽいクライミンもあり良きところ。筆者らは南沢を下降するため、1854mの本流には向かわずに1800mを右に入る。ここから傾斜が緩むまで再びシャワータイム。少し脆い個所も出てくるが基本的にプロテクションは良好で安全なのがいい。ひどい藪漕ぎはなく尾根に抜けられる。南沢の下降も結構渋くて時間がかかる。日の長い時期に早朝出発で南沢下降を日帰りでやればお腹いっぱい楽しめるだろう。

<アプローチ>
乳川谷の右岸側の林道に駐車する。左岸より右岸側の方が道が整備されており、地図の登山道マークは実は林道で車高が高ければ走れる。標高1060m付近の橋が崩落しているのでそこが広場となっており車で入れる最奥となる。下降した南沢支流は上部はガレで容易なものの、1678m手前くらいから滝が現れ始め巻き降りと懸垂を要するようになる。水量は豊富で迫力が出てくる。下部はゴルジュ帯となっており登るのもなかなか面白そう。






<装備>
カム一式、ピトン少々。ヨセ沢内はぬめるのでフェルトの方がいい。

<快適登攀可能季節>
6月下旬~10月。雪が少なく標高も低いのでシーズンは長い。ただし、乳川谷の水量は多めなので注意。

<温泉>
すずむし荘:単純弱放射能温泉(ラドン温泉)でさっぱりとしたお湯。内湯、露天ともに綺麗で快適である。