2025年7月15日火曜日

青屋川 九蔵本谷

 




















 山の水たまりには惹かれるというのが人情というもの。湖、池、湿原に池塘が秘めたる神秘は尽きることが無い。池塘と花のコンボが大好物なのでシーズンに一度は訪れたいものである。同じ考えの登山者は多いので容易に行ける7月の湿原は大混雑が予想されるうえ、ましてや沢登りを楽しんで到達できる場所は少ない。しかし、千町ヶ原は登山道整備の不確定さから穴場の湿原で、南や西からはそれなりの渓谷が稜線へと延びている。
 九蔵谷は沢歩きを基調としながら、時折小滝が出てくる感じの谷である。沢登りらしい楽しさは1200mの滝マークまでと考えて差し支えないだろう。沢登らしさはあくまで爽やかで、嫌な悪さは無い。快適に景観を楽しみながら登ることができる。1250mから上流は近年の集中豪雨の影響があるのか土砂や倒木が見受けられ魚影はやや薄い。程よく遊んでもらえる密度なのでのんびり釣りを楽しみながら上がるのがいい。淡々と標高を上げ、なだらかなゾーンに到達すると柔らかく流れる水に癒される。笹薮を漕ぎ進むと眼前にワタスゲの大群落が忽然と現れた。過去一番の密度でこれだけでも大感動なのであるが、折よくニッコウキスゲも咲いており、バイケイソウの花にはクジャクチョウも舞っている。恋の季節のカオジロトンボは湿原中散り散りに四つ羽で飛んでいる。新しい夏を迎える嬉しさと侘しさがない交ぜになったこの感じ。これがまた次の季節へと歩む力となる。やはり山はいい。
 下山は青屋道とした。上牧太郎之助が安置した石仏を眺め歴史に思いを馳せつつ長い下山を終える。今も見つかっていない石仏は引き続き捜索中とのことだ。一介の身勝手な登山者だがこの道を開いた行者と救われた民を思う人が続いてくれるよう道の存続を祈念したい。

 九蔵谷は遡行内容重視の沢屋には物足りないのだが、高山植物シーズンの逍遥渓としてはなかなか良い。沢登りらしいところは林道が並走しているので沢慣れしていない人も取りつきやすいのではないだろうか。

<アプローチ>
九蔵川の左岸に走る林道のゲートに駐車して入渓する。地形図の林道終点までならば大体どこでも泊まれる。それ以上登るのであればは1650m~1700mの区間、1750m右俣の少し上で探すことになる。最上流域の平坦地も良いのだが薪に乏しいかもしれない。下山は青屋道が
草刈りされていればこれを使うといい。されていないのであれば同ルートが最も無難。なお、千町尾根の登山道は地形図の位置から少し北側へとずれているため注意。

<装備>
沢慣れした人間であれば特に何も要らない。

<快適登攀可能季節>
7月~10月 高山植物を愛でるといい。

<博物館など>
千光寺:円空ゆかりのお寺で作品を豊富に所有する寺。定番の不動明王はもちろん、宇賀神や水神もいい。しかし、千光寺保有の円空仏といえば鬼気迫る傑作の両面宿儺であろう。円空仏のなかでは複雑で力強く彫られており印象深い。

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