2022年3月14日月曜日

天狗尾根東壁 右上ルート

 






忘れられた岩壁という言葉はしばしば耳にする。そのような岩壁は大体1980年代後半~1990年前半に呼ばれるようになった雰囲気がある。このとき、忘れられた岩壁認定されなかった者たちは「覚えられなかった岩壁」に堕ちてしまい、その後一切顧慮されてこなかったと察する。

天狗尾根東壁は多くの登山者きっと一度は見たことがあるはずだが、登ったという話は聞かない。しかし、八方尾根や不帰沢から望む姿はさながらアンナプルナ南壁、堂々たる風格である。よく見ると八方尾根スキー場のトップページにも映っている。なのに誰も覚えてくれないのは何故だろう。

天狗尾根東壁を目の前にしたものの濃密なガスで壁全体は全く見えない。前日眺めた雰囲気と地図の標高差を合わせて考えると少なくとも標高差400mの岩壁であることは間違いない。目の前の岩場は不帰と似た花崗岩である。支点の取りづらいスラブとハングが組み合わさった構成であり、しかも春雪の支持力は全くなく不安定この上ない。おまけに雪までちらついてきた。もうちょっと登り易い岩場が出るまで天気が良くなるまで右上しよう、を続けるうちに気づけば登山大系の右上ルートを辿ることになった。不安定な雪壁とちょっとした岩場だけだったけど、雪がむちゃんこ悪く、それなりの緊張感があったので結構楽しめた。

天狗尾根東壁を壁ど真ん中、真っ向勝負で登るとなると間違いなく難しい。クライミングの難易度に加えて東南面という方角による壁のコンディションを掴む難しさ、高差と長さ。どれをとっても容易ではない。天狗さん、安心してくれ俺は覚えたぞ。忘れずに、きっとまた来るからね。

<アプローチ>
南股入を遡行する、或いは八方尾根から下降したのち不帰沢を登り返して奥天狗沢を詰めて岩壁に向かう。天狗尾根の頭付近から稜線を下降できる可能性もあるが、雪庇の状態に左右されるので賢明ではないと思う。また、不帰の稜線は風が良く抜けるので稜線上にベースを設けるのは難しいだろう。奥天狗沢入り口左岸には平坦地があるのでここをベースとするのが好適。ただし、融雪による落雪には注意。雪の量によっては奥天狗沢内にはシュルンドが多数現れる。急雪壁でシュルンドだらけのアプローチとなると下降は容易ではないので注意。

<装備>
カム一式、トライカム少々、ピトン各種。細いクラックが多いのでボールナッツが有効だと思う。

<快適登攀可能季節>
12月~3月。雪の状態と壁の状態のバランスを考慮すると2月中旬~2月下旬がベストシーズンなのだろうか。東南面にべっとりと付着した雪に支持力があるかと言えばそんなことない気がする。はっきりしない壁の形状から夜間登攀は難しく、2月に壁真っ向勝負するとビバークになるだろう。

<温泉>
みみずくの湯:日本有数の強アルカリ泉です。周辺の温泉は有名。入って損は無し。
倉下の湯:みみずくの湯を含む白馬八方温泉とは源泉が異なり、ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉。価格も同じ600円なので気分応じて入り分けられる。