2018年10月21日日曜日

医王山 浅野川 ワ谷










「獺の月になく音や崩れ簗」

数ある与謝蕪村の秋句の中で最愛の句である。南中高度が低くなり、日の陰りを感じるようになると過ぎ去った時が偲ばれるもの。況や暗く水が冷たい谷の中では一際である。そういった寂寥感と月を象徴とした再生への希望を写実的表現によって想起させる名句だ。何の根拠も無いがこの時の月は冴え冴えとした細い弧月のような気がしている。

秋も深まってくると沢登りは里山が良い。医王山は県西部でも親しみやすい里山である。
車で山頂近くまで乗り入れ可能な登山道が数多くあり、幅広い年齢が親しめるのが素晴らしい。沢登りを楽しめる谷も多く、初めての沢登りがこの山であったという方も多いはずだ。

ワ谷は奥医王山の南面を流れる沢である。入り口は採石場となっているので入山するときは迷惑が掛らない場所に駐車しておく。道の終点から入渓して直ぐにゴルジュ斜瀑である。岩に目をやると安山岩が取り込まれた角礫凝灰岩である。川原には県西部(庄川町)でよく見かける緑色凝灰岩も多い。この山は雰囲気からして、かつて海底火山だったのではないかと思う。遡行は多少脆いけれども楽しい小滝が散発的に現われる。時々ナメも出てきて良いアクセントとなる。やがて現われる10m程度の大滝は登れない事も無いが、この脆い岩質ではちょっと気が引ける。オージャラという面白い名前の平坦地より上流はミニチュア版ザクロ谷のような苔むした渓相となる。岩質はがらりと変わり硬い岩だ。流紋岩質の凝灰岩なのだろうか。オージャラの平坦地が溶岩台地とすると、この谷の岩は同時期の火山活動による岩盤のように思える。さきの海底火山疑惑地帯を含めて複数の火山が別時期に活動していたのかもしれない。水が乏しくなるとやがて右岸に登山道が現われる。栃尾集落から続く登山道だが、谷筋を通るうえ標高差も大きいので利用する登山者は少ないようだ。奥医王山は天気の良い日は賑わっていることだろう。訪れた日は小雨だったので登山者はおらず少し寂しい山頂であった。

下山した集落を流れる浅野川に簗は無い。かつてはマスやドジョウやゴリを捕集する罠があったことだろう。かわりに巨大な堰堤が激しく水を落とすだけである。もちろん、絶滅したニホンカワウソがここに生息するはずも無い。今はただ、月だけが江戸時代と同じに輝いている。先の句の残響を味わい、深い悦びを覚えながら車へと戻った。今宵は上弦の少しふっくらした月だ。やはり秋は里山がいいのである。

<アプローチ>
刀利ダム経由で採石場まで富山市内からおよそ1時間半。栃尾登山口へ降りてから車道を一時間ちょっと歩く事になる。車を二台手配すれば夕霧峠に下山すると早いだろう。

<装備>
ロープとスリング。

<快適登攀可能季節>
5月下旬~11月。勿論秋だけではなく早春の山菜取り楽しいと思う。

<温泉>
湯楽:温泉でありながら大衆浴場で入浴料は400円以下と格安。
銭がめ:入ったこと無いが、古民家風の温泉。きっとお風呂も雰囲気が良いのだろう。食事も可能のようだ。

<博物館など>
縄ヶ池:五月連休あたりに水芭蕉が満開になる。駐車場から砺波平野の散居村を一望できるのも魅力。5月ならば田植えの時期、水田の水面に反射する夕日を眺めたい。10月ならば実りの時期、赤く染まった揺れる稲穂を堪能したい。

福光美術館:福光は棟方志功が6年ほど疎開していた土地である。そのため作品が多くの作品が残されている。企画展も渋く見逃せない。別館の愛染苑も訪れたい場所である。厠にまで絵を描く棟方志功の自由な人柄が感じられる家だ。

南砺バットミュージアム:日本プロ野球の往年の名選手のバットが触れる。メジャーリーガーのバットもある。タイカッブとベーブルースが使用したバットを触って大興奮!

井波彫刻総合会館:井波彫刻は県外にそれほど認知されていないように思う。豪快かつ繊細な技術に感動する。瑞泉寺も是非訪れたい。

2018年10月16日火曜日

赤摩木古谷








秋は県西部、特に白山山系の山へ登りたくなる。豊かな植生を楽しみ、美しい紅葉を愛で、倒木をまさぐり恵みを頂く。水も空気も冷たいけれども、残雪は無くなりこの山域で最も沢登りが楽しい時期である。

赤摩木古谷は境川の最下流にある支流である。かつて桂の集落からタカンボウ山へ登る道が有り、赤摩木古谷は紅葉を楽しめる名所であったと何かの本で読んだ記憶がある。今は入渓点となる集落はダムに沈んでしまってしまい、取り付くには支流を下降することになる。遡行でポイントとなるのは二段滝の登攀だ。程よい緊張感が味わえるのでここは直登したいところである。意外なことに以降しっかりとした堰堤が3基現れる。かつて下流の桂集落を守るために造られたのであろう。散発的に現われる小滝で遊びながら赤摩木古山の肩まで藪漕ぎは無く登山道へ出ることが出来る。秋にもかかわらず稜線付近の木々と下草に新芽が多いのは動物が食べたためだろうか。山頂は天気の良い日には賑わっていて実にいい雰囲気であった。この谷は境川支流の中では易しいのでさほど気負わず取りついてもいいと思う。

赤や黄に飾る山を眺め、山での風景に浸っていると「みる」という事の面白さにうきうきしてくる。見る、観る、診る。youtube等動画が全盛の時代だが、山の中で作為と意志も無いただの存在と営みを主体的に解釈する時間と言うのも良いものだ。して、その視覚情報入力の起点たるや、レチナール分子のシスートランス異性化反応のみという生物の巧妙さにも改めて感動する。秋の山はちょっと時間に余裕を持って山を楽しむのが粋である。


<アプローチ>
ブナオ峠から登山道マークの付いている所まで林道を歩き、赤摩木古谷の支流の沢を目掛けて適当に降りる。この支流の上部沢筋は水が無い。上手くやり過ごせば懸垂無しで赤摩木古谷へ降りる事が可能だ。下山は登山道を利用すると早い。ブナオ峠まで富山市内からおよそ1時間半。

<装備>
沢慣れしたパーティーであれば多分何もいらない。二段滝の登攀に小さめのカムとピトンがあれば十分確保できる。

<快適登攀可能季節>
8月下旬~10月の紅葉の時期に行きたい。早い時期だと残雪が残っているとおもう。

<温泉>
くろば温泉:国道横にある温泉。立地が良くいつも混雑している。600円也
五箇山荘:国民宿舎のこちらは静かで綺麗な温泉。500円也。

<グルメ>
高千代という猟師の店が有る。熊、猪、鹿は当然。なんとハクビシンも味わえる。
春には山菜、秋にはきのこと折々の味を楽しめる。お勧め。

<博物館など>
世界遺産の五箇山集落に古民家があり歴史を学べる。平家の落ち武者によって拓村された。囚人を幽閉する場所でもあった。古い流刑小屋もあるので立ち寄ろう。江戸時代には、加賀藩の火薬庫で塩硝を製造していた。ブナオ峠から火薬を運搬していたのだろうか。そんな思いを馳せながら山を楽しもう。

2018年10月11日木曜日

片貝川 成谷







成谷はかつて、とやま山ガイド 10ジャンル100コース(佐伯郁夫, 佐伯邦夫 編 シー・エー・ピー出版,1996)という本に紹介されたことがあるため、県民には馴染みのある沢では無いだろうか。現在、この本は絶版となっており入手は困難だが、紹介されるルートは幅が広くて滋味にも富んでいる。県立図書館など県内多くの図書館で閲覧可能なので一読をお勧めする。

さて、遡行である。成谷の出合いは標高差にして約100m6~7基くらいの連続堰堤となっている。強烈な先制攻撃に、これのぼるんすか、まじですか。という気分になるかも知れない。そこは「何とか成る谷~きっと楽しく成る谷~♪」とか何とか唄っておけば概ねOKである。連続堰堤が終了すると巨岩と土砂が詰まった急な谷となる。渓相の見栄えはしないのだが、動きそのものは小滝を登っているような感覚だ。1050m付近にある10mくらいの小滝を処理すると地形と渓相はがらりと変わる。ここから日本庭園調と称される美しい流れとなる。これまでの脆い花崗岩から硬く安定した岩に変わり飛騨帯の良いところ(沢登り的に)が当たった事が推し量られる。喜々と遡行していると水は早々と伏流する。この伏流した場所でゆっくり休憩してみよう。水の流れが無い静寂の谷に座っているのも面白いものだ。藪漕ぎは僅かで登山道へは易々とあがる事ができる。沢慣れした人は午前中で終了するので、一寸した時間で楽しむことができるのがいい。余った時間で南又へ洞杉を見物しにいけばまた有意義な休日である。

<アプローチ>
成谷手前に広い駐車可能なスペースがあるのでそこに車を停める。水が涸れるのが早いので1300m地点から登山道へ上がると沢登りとしては要領が良い。勿論1600m三角点まで詰め上がり僧ヶ岳まで足を伸ばすのも風情がある登山となるだろう。

<装備>
登攀具はいらない。沢慣れしていない人がいる場合は念のためロープがいるかも。

<快適登攀可能季節>
7月~11月。南面なので残雪は比較的少ないと考えられる。水を浴びる場面も無いので遅くまで楽しめる。

<博物館など>
魚津水族館:歴史有る水族館で主に県内に生息する魚を展示。こじんまりとしているが魅力的な水族館。可愛いPOP解説も面白い。
魚津埋没林博物館:でっかい木が沈んでいるだけなのだが、なぜか趣がある。