2020年8月31日月曜日

青海川 アイサワ谷











青海川の中では金山谷は比較的多くの遡行者を迎えている。もう一つの魅力的な支流であるアイサワ谷は下降路の手間と長さがあるためか、遡行記録は多くないようだ。しかし、源流釣り師には古くから知られた場所のようで、山岳渓流北陸編(つり人社)には魅力的な渓谷として紹介されている。

遡行のポイントは一目瞭然で下部ゴルジュである。出合いからゴルジュ地形となるが、川原であったり、ゴーロであったりと進捗は意外に早い。ゴルジュは主に片麻岩(石灰質多め)で構成されているようで、金山谷の黒っぽい雰囲気とはちょっと違う印象だ。時折泳ぎを強いられる小滝が現れる。筆者らの遡行時は渇水状態であったが流れは早く感じた。ここは水量が多いと厳しいところだろう。快適なクライミングとハンマー投げによる綱引き泳ぎで突破した。一旦ゴルジュ地形が弱まるところには取水堰堤の建設が進められている。青海川はデンカによっていまだに開発が進められる河川だが、水枯れを起こす青海川本流をみると川が死んでいるようで悲しい。ちょっと遡行に水を差されるが気を取り直してゴルジュ後半へ向かおう。後半は直登が難しい滝も出てくるが巻きが可能な地形となるので楽である。ゴルジュを抜けると沢登りとしては終了で、あとは釣り師の世界となる。栂海山荘へ向かう支流の850mには美しいスラブ滝がかかるが、そこが魚止めとなっている。以降酷い藪漕ぎもなく比較的快適に登山道へ出ることができるだろう。

後半が緩やかで間延びした印象となるので突破遡行重視派には不満が残るかもしれない。こういうところは山全体を深く味わうのがいい。遡行だけではなく北又谷や西俣谷からの下降として使うのもいいかも。

<アプローチ>
車で橋立まで行きそこから林道を走りアイサワ谷出合い付近の工事現場に駐車した。近年デンカ株式会社によって新たな発電所が建設され、アイサワ谷ゴルジュ内に取水堰堤の建設も進められている。工事車両が多く通行しているが、基本的に大平峠から続く林道は公道なので利用に問題ないはずだ。下降は車を2台使用するとスムーズ。その場合坂田峠が最も楽に降りられる。車が一台の場合は金山谷を下降するか、坂田峠から金山谷右支流を下降するのがいいと思う。

<装備>
ゴルジュ用に適当にパッシブプロテクションあれば十分

<快適登攀可能季節>
7月~10月。オロロや蚊など害虫が多い。これにより7月も登れると思うが7月下旬~8月中旬は避けたほうが無難。

<温泉>
帰りしなならば、朝日町の境鉱泉、宝温泉、地中海などナトリウム泉の温泉がある。500円くらいで入浴可能

2020年8月24日月曜日

雄谷 水晶谷~シンノ又谷














白山は大きな山群でどこの沢を登っても違った味わいがあり楽しい。そこを敢えて大きな括りで捉えてどこの地域が面白いかと問われれば、三方岩岳以北の山と答える。ここは地形図で面白そうな場所はどこも外れが無い。尾添川上流の雄谷は中流域にゴルジュ帯を有しながら上部では千丈平と清水平という平原が展開する変わった地形をしている。東西どこも急峻な地形が多い地域なのに何故ここだけ?という疑問が生じたら行かねばなるまい。

ゴルジュ帯でいきなり面食らった。大長谷や利賀で見られる飛騨帯の結晶質石灰岩が大スケールでゴルジュを形成していたのだ。片麻岩の横縞模様に入り込む結晶質石灰岩の美しさはうっとりしてしまう。愛着のある見慣れた岩で大ゴルジュができていることの嬉しさも相まって最高である。これだけでも、富山県民は訪れる価値があると断言できる。いや、飛騨帯片麻岩では最大のゴルジュなはずだから、全国民が訪れる価値があると明言しよう(でも小声です)。ゴルジュ帯は難しさはそれほどではないものの、登ることが困難な滝が幾つかあり、これを巻くとなるとライン取りには注意がいる。黒滝までがこの沢の全体としてのポイントとなるだろう。

筆者らは水晶谷を登りシンノ又を下降した。水晶谷は水晶滝の上部に注意を要するほかは容易である。それでも、突然礫岩ボルダーが現れ始めて側壁も礫化したり、流紋岩質と思われる美しいスラブナメが現れたり変化に富んでいて面白い。意外だったのは伏流し始めるのが早いこと。これは急峻な地形から突然平へと変化することと地質的なイベントが発生していそうなのだが、それを推し量るだけの知識がないのが残念であった。少々の藪漕ぎでシンノ又へ入ったが、こちらの上部から1250mの30m大滝まではスラブの発達した実に美しい谷である。スラブ状が続いて下降には少し気を払ったが楽しめる程度である。大滝以降は水晶谷と似た谷となった。

一泊二日での周遊ではこの山域の魅力は掴み切れないように感じた。境川、瀬波川、直海谷川くらいを股にかけて山行を組めばかなり面白いかもしれない。どれも下部から面白いので横断や往復びんたスタイルがいいだろう。例えば雄谷水晶谷~フカバラ谷下降~大畠谷遡行~瀬波川右俣(チョーゲージ谷)下降~瀬波川マサギ谷~ヨキノエ谷下降なんかどうだろう。これは一週間あれば十分できるだろう。もう少し癒し要素を押し出すのならば犀川倉谷川や二又川と直海谷川を組み合わせればしっとり系となるはず。とまれ、この山域でまだまだ遊びまっせ。

<アプローチ>
雄谷の第二発電所へ向かう林道を利用して林道終点に駐車する。ただし、林道の路面はものすごく凸凹で車高のかなり高い四駆車でないと終点までは入れない。筆者らはかなり手前に停めて歩いた。林道終点からは取水堰堤発電所へ向かう登山道を利用させてもらう。取水堰堤発電所まではとても歩きやすい。取水堰堤発電所から遡行を開始となる。この取水堰堤より上流は右岸側へ管理道が黒滝上部まで続いている。黒滝上の沢横断点は壊れた橋脚が目印となるし、赤テープが振ってあるので分かり易い。下山時にはこの登山道を利用すると簡単に下山できる。ただし、日当たりのよい箇所は草が生い茂っているところがあり、やや分かり難い(十分わかるレベルであるが)。この道は登山者、釣り人、電力会社関係者などの一定の利用者がいるようである。電力会社によって管理されていると推測するが、大雨の後などで使える前提とした計画を組むのはちょっと怖い。

<装備>
岩のギアは殆ど出番がないが、念のためパッシブプロテクション適宜とピトンくらい。

<快適登攀可能季節>
8月~10月。オロロが酷い地域なので注意。

<温泉>
比咩の湯:道の駅瀬女の向かいに2018年新しくできていた温泉。入っていないけどとてもきれいで良さそう。500円らしい。

<博物館など>
ハニベ岩窟院:日本唯一の洞窟美術館。知る人ぞ知る日本最高クラスの珍スポット。おどろおどろしい鬼気迫る作品に圧倒される。男女で行くと水子供養かと聞かれるのでそのつもりで突入しよう。

石川県立ふれあい昆虫館:標本の数はまずまず。なにより生きた昆虫を間近に観察できる。蝶の放し飼いされた温室は凄い。皇太子ご夫妻もこの昆虫館を訪れている。雅子妃が温室に入った際、雅子妃の頭に蝶がとまったシーンは何度もテレビ放送された。


2020年8月18日火曜日

海川東俣右沢
















 異形の岩壁が織りなす地獄景観を提供する海谷渓谷。その奥の院と言えるのが海川本流上流域である。その中でも東俣右沢は海川で最も長くて最も遠い。そして、海谷山塊の特徴を十分に堪能しつつ、沢登りの「悪さ」を味わえる素晴らしい谷である。

 二俣までは川原歩きで全く問題ない。東俣に入ると側壁の土砂露出が顕著で心もとない気分になる。左沢手前から滝が現れ始める。ここから下部ゴルジュの岩はヌラヌラとした黒い砂岩や泥岩質でザ☆海谷といった趣きである。1250m付近の下部ゴルジュは大きな滝は無いものの地味に悪い突破や巻きが続くので注意を要する。地形図上の滝マークには40m+10mくらいの大滝がある。一直線ゴルジュからこの大滝までは崩壊が激しい地帯で地形の変動が大きい。登山大系に記載されている登り方ではなく、自身の眼で見てその時々に応じた合理的で美しいラインを見出すのが楽しい。

 この大滝を越えると岩質がエビクラと似通った硬い岩質となり、遡行内容が一変する。滝はガンガン登れる系になり、ナメも現れて突然のデレ演出に破顔せざるを得ない。この二面性が病みつきになる要因でもあるのだ。ただし、滝は小さくとも部分的に渋いシャワークライムとなるので油断は禁物である。詰めは平原へと続く牧歌的なフィナーレで嬉しい。とはいっても、このあとの長い下山が待っているのだが・・・

 登攀、巻き、雪渓処理と忙しく万人にお勧めできる沢とは言い難い。一泊二日では長い下山があるので、短い休暇ではもったいない気がする。妙高側、小谷村側の継続を絡めたプランをお勧めする。

<アプローチ>
山峡パークに駐車し登山道を利用し取水堰堤まで行く。詰めあがると富士見峠か裏金山に出るが、一泊二日の場合ここからの下山も核心。長駆縦走して山峡パークへ戻るか、海川西俣右沢を下降するのが合理的。車が二台あれば雨飾温泉へ一台デポすることでもう少し楽になる。幕営適地は最初のゴルジュを抜けた1250m付近と1700m以上にちらほらある。

<装備>
カム少々、ピトンをナイフブレードからロストアローを少々。足回りはフェルト推奨

<温泉>
糸魚川ひすい温泉:塩泉かつナトリウム泉という温まりながら美肌も謳える贅沢な泉質の日帰り温泉。ちょっと施設は古めだが22:00くらいまで営業しているので遅くなっても入浴可能。650円也

このほか帰りしなならば、朝日町の境鉱泉、たから温泉、地中海などナトリウム泉の温泉がある。500円くらいで入浴可能

<快適登攀可能季節>
8月~11月。例年の雪渓の具合を考慮すると9月以降がベスト。そうでなくとも虫が少なく快適な時期がよい。

<博物館>
糸魚川有るフォッサマグナミュージアムは素晴らしい。ここでは石の鑑定も行っているので、山で見つけた気になる石を鑑定してもらおう!(一人10個までです)

翡翠園:散策可能な日本庭園。よく考えられていて、どこから見ても趣が有る。島根県足立美術館の作庭が有名な中根金作による庭園である。構成から考察するに、彼はあの巨大なヒスイ原石を嫌悪していたのではないかと邪推してしまう。

玉翠園:同じく中根金作による庭園。こちらは観覧庭園でガラス越しにしか眺めることは出来ない。柔らかな丘による高低が印象的。

真川 裏金山谷













 登山大系において裏金山谷は当該山域で最も困難と記載されている。はい、きました。いつもの沢屋ホイホイ文言ですね。そうは言っても、笹ヶ峰上流の真川は富山からだと回り込む形となりちょっと遠い。火打山の湿原や鍋倉谷といった興味深い場所があるにも関わらず、縁遠い場所であった。しかし、よくよく考えてみると糸魚川側(海川側)と小谷村側は接しており、山越え入山すればそれほど遠くない事に気づく。そんじゃ、ってんで夏の継続遡行の形式で訪れる事にした。

出合いはすごく平凡でうっかりすると見逃がしそうである。遡行し始めてすぐ、滝マークがある地点からちょっと渋い小滝が続く。ここは海谷と似た黒ぬらぬら砂岩系である。一旦普通の川原歩きとなるが、東面で日当たりがよく開けているので大変気持ちが良い。20m滝は直登可能なようだが、雪渓が続いたため高巻かざるを得なかった。右岸から巻いたが草付きが悪く意外と渋い高巻きであった。以降、白滝を筆頭に美しい岩盤となりキラキラとした遡行が楽しめる。登山大系に記載のある10m滝は右岸から取り付いてしまうと、沢床へ戻るのが難しくなる。岩場も悪いうえ、上部草付きも嫌らしいのでお勧めできない。ゴルジュマークを抜けて以降、断続的に表れる雪渓のため沢床が味わえないのが残念であった。筆者らはズタズタの雪渓が続いた右俣へ入らず、中俣を登った。中俣は水が枯れて乾いており概ね快適であるが、土砂が堆積した枯滝がやや難しい。酷い藪漕ぎは無く金山山頂へ出ることができる。

明るく開けた沢に登りごたえのある滝とナメが現れる美渓である。この沢の本領は雪渓が無くなってからにあるのであろう。紅葉の時期にでもまた訪れてみたいものである。

<アプローチ>
糸魚川方面から継続で訪れたので、妙高側からのアプローチは不明。多分笹ヶ峰のキャンプ場に駐車して登山道を歩くのだと思う。詰めあがったのちは、富士見峠からの登山道か、地獄谷或いは金山谷を下降する。登山道下山ならば日帰りは十分可能。

<装備>
カム少々、ピトンをナイフブレードからロストアローを少々。足回りはフェルト推奨

<快適登攀可能季節>
8月~10月。頸城では最も遅くまで雪渓が残る山域であり、寒さの訪れも早い。よって旬の時期は短い。雪渓の処理を考えると9月以降が好適だと思う。

中谷川 横沢












 情報の少ない山には人も少ない。中谷川流域は登山大系でも紹介されていないため、マイナーな山域と言えるだろう。その中でも横沢は規模が小さいため、また一段と遡行者が少ないと思われる。ところがどっこい、ナメあり、大滝ありの秀渓なのである。
 地形図を一目してまず、1300付近と1650m付近がコンタ混雑地帯となっているのでポイントとなるのが分かるであろう。実際にここにはスラブ状大滝と大ハング異形滝がそびえておりハイライトである。この間の区間にはナメを基調とした落ち着いた渓相が続いて中だるみは無い。平流部分はナメ、標高を上げる箇所は大きめの滝と緩急がはっきりしている谷だ。最上部までこの構成は変わることが無いのが素晴らしい。滝は少し支点が取りづらそうなものが多いため注意が必要だろう。筆者らは残念ながら下降に横沢を用いたため、遡行の喜びは味わっていない。きっと忘れたころ、秋の紅葉の時期にでもまた遡行に訪れるだろう。

<アプローチ>
糸魚川方面から継続で訪れたので、小谷側からのアプローチは不明。多分小谷温泉のキャンプ場に駐車して登るのだと思う。日帰り遡行がいい。

<装備>
ピトン類とカム少々。ナメ滝か絶望的な大滝しかないのでギアの出番はないかもしれない。足回りはフェルト推奨

<快適登攀可能季節>
7月~11月。この近辺では比較的雪渓の残りにくい地形をしているので、初夏からいけるかも。