池ノ谷右俣には岩場が多い。加えて登行距離は長くどこも剱岳の中でも指折りのスケールを誇る。岩が不安定なことは明白なので諸々がっちり固まった積雪期に登りたいのだが、富山県の条例で積雪期には池ノ谷に入れない。でも行きたい。しかし怖い。でも行きたい。春が来るたび、花占いの如く循環していたがその時が来た。
暖かい日が続いたので氷がすっからかんの池ノ谷。右俣のドーム稜はカラカラなので壁状ルンゼをノーロープで駆け上がり、北面に申し訳程度に残る氷雪を繋いで右俣奥壁に入る。雪壁と岩場が段々になっている構成であるが、岩場は要所にピリッとした箇所があり面白い。場所によって岩は予想通りの不安定さである。岩が不安定とは岩が脆いのと、脆い岩が堆積していて積み木状になっていることを意味する。このような岩場を登る時はワニワニパニック、ジェンガ、ツイスターが合わさったゲームをしていると思えば楽しめよう。そうはいっても命がけの三種混合ゲームは最小限にすべく岩が安定しているところを目視で定めながらライン取りをすることになる。加えて落石を避けるためのビレイポイント位置が肝要である。より硬い岩、長い登行距離、そして楽しめるクライミングを求めて右へトラバースしていく。成り行きで登ると鯱の如く天を摩す剣尾根ノ頭を目掛けて突することに。すると技術的にもなかなか面白いピッチが続き楽しめた。不安定な岩をある程度許容できるならば、右俣奥壁は既登ラインに拘泥せず自由に遊べる良き壁である。
壁状ルンゼをノーロープで登った高差150mくらい+合計9ピッチと申し分ない長さを楽しめる好ルートである。これが岩が安定するだけ氷雪の発達するタイミングであれば、さぞ楽しいことだろう。次は寒い春にもう一度遊びに行きたい。
<アプローチ>
12月~4月15日までは早月尾根から山頂経由か西仙人谷から稜線に上がり三ノ窓まで行く。復路も同じルートを辿る。アプローチは長時間行動になるので水分と栄養をしっかり定期的に摂取するのが大事である。栄養の軽量化は敗退する要因なので避けたい。4月15日以降であれば池ノ谷を詰めてもいい。ただし、白萩川の埋まり具合や池ノ谷ゴルジュの状況に依る。
<装備>
カム#3までをワンセット+中間サイズワンセット、トライカム少々。
<快適登攀可能季節>
年中登れるけれど、冬壁装備で11月~4月に登ると落石のリスクも少なく楽しい。
<温泉>
アルプスの湯、ゆのみこ温泉
<博物館など>
西田美術館:ロシアイコンや曼荼羅が展示されている。そして剱岳の資料が豊富。
大岩山:行基菩薩の石仏は大迫力。夏はそうめんが名物で多くの観光客が訪れる。
富山県薬用植物指導センター:5月中旬に芍薬の花が満開になるとても綺麗。五月の連休より少し後が見頃になる。芍薬は生薬として用いられるので栽培されている。有効成分はペオニフロリン。有名なのは甘草との組み合わせたもので芍薬甘草湯。グリチルレチン酸との組み合わせである。