2016年2月9日火曜日

戸隠山 西岳北西稜










業界用語で「美しいライン」という言葉がある。幾年か山登りを続けた者同士であれば、概ね共通認識が出来上がって通じ合うが、考えると意味不明な言葉である。いざ新入会員と山に行く段になり、「このライン惚れ惚れするくらい美しいだろ。」「良く分かりません。どこが美しいのでしょうか。」「すっきりして綺麗だから美しいんじゃねえか。」などという無根拠な同語反復をしていては、準備の段階で貴重な将来の相棒に猜疑の念、懐疑の心が湧いてしまい、初めての共同作業が覚束ない事は必定なのである。では未経験者や初心者にどのように説明すればよいのだろうか。私見ではあるが概ね以下のような条件が満たされていれば、業界人はかの言葉を用いるようだ。


1.登る行為が頂やその至近で終了する

2.山の隔絶性(環境要因を含む)および相対的な高度

3.極端に単純である、あるいは極端に複雑である

1は完結性の問題であり、未経験者でも比較的理解は得られやすい。文字のとめ、はね、はらいを重視するのと同じである。2は相対的な価値の問題で、独立性と換言すれば良いだろうか。誰しも孤高の存在に憧れるし、似通った物の価値は下がる。居並ぶ山々の中で最も高い山は見栄えするし、苛酷な環境での試練は人の心を動かす。3は尾根とルンゼで事情が変わるようだ。雪の尾根はキノコ雪やヒマラヤ襞を纏いギャップを備えた方が好まれる傾向にあり、ルンゼは一筋で真っ直ぐな方が好まれる傾向にある。例えるならばNeil PeartとAl Jacksonのドラムプレイは全く異なるがどちらも違った旨みがあるようなものか。

さて、前置きが長くなったが西岳北西稜である。この稜の地図を眺めてみよう。上記1.2.3の条件を十分満たしているように思える。戸隠山で最も高い西岳に唯一突上げる尾根で、取り付くには冬季無人地帯の裾花川を遡行しなければならない。そして上部は岩場マークといくつかの小ピークとギャップを備えている。それゆえ憧れ続けた尾根であった。登攀内容はというと、いわゆる今風の「美しい」登りではなく、さながら沢登りで万人受けはしないかもしれない。それでもこのラインの美しさは揺ぎ無いと思っている。里に下りれば木曽義仲伝説や紅葉伝説など鬼無里の歴史も思い出に彩りを添える。ただ、新人が登攀内容に呆れて、信頼を失墜しないよう、先述の美についての言及は「いずれ解るようになる。」がベストアンサーな気がする。

<アプローチ>
奥裾花ダムから林道を歩き尾根に取り付く。下山は基本P1尾根。積雪状態次第では適当なルンゼを下り上楠川を下降することも可能。白馬から国道406号線を行くと積雪状態次第では怖い。天候状況に応じて東側から入山することも検討するほうがよさそう。
富山から国道8号~国道406号経由で4時間30分くらい。

<装備>
部分的に岩登りっぽい所も有るが、基本オーソドックスな雪稜。念のためピトン少々。
草付きダブルアックスを多用する。

<快適登攀可能季節>
1月~2月。寒いとき。雪が多いとき。

<温泉>
鬼無里の湯:とんでもないところにあるが、綺麗で良いお風呂。値段も510円とリーズナブル。

<グルメ>
国道18号で行く場合、途中のニューミサという食堂で定食を注文するとご飯お代わり無料。
味も美味しい。

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