2016年10月8日土曜日

抜戸岳 秩父尾根












「鳥も通わぬ滝谷」の名言は近代登山の案内人として活躍したカリスマ猟師、上條嘉門次であり誰もが知っている言葉であるが、「東洋のパタゴニア上宝」と言ったのは一介の自然愛好家である筆者なので誰も知る由はない。日本にはフィッツロイ山群のように針状岩峰が乱立する山体はそれ程多くないと思う。だが上宝村は洞谷奥壁、秩父尾根、穴毛谷の各岩場、槍ヶ岳と鋭峰が立ち並んだ山が多く、日本きっての岩峰セレブリティ地域なのだ。

秩父尾根は大小併せて十三峰の岩峰であるが、顕著なコルを境に稜線側から順にⅠ峰、Ⅱ峰、Ⅲ峰と大別されている。縦走路からよく望め、その屹立する様は誠に勇ましいので登攀意欲を掻き立てられる。はずなのだが、登ったとか登りたいと言っている人には出会ったことは無い。先人の記録では1986年~1988年に飛騨山岳会の瀬木紀彦氏によって各岩峰を別個に登攀した記録がある。未だ成し遂げられていない岩峰の完全縦走と積雪期登攀の可能性を探るべく入山した。

秩父尾根の末端に当るⅢ峰の末端壁は風化が激しくボロボロなので北面側P1、P2コルへ通じるルンゼから取り付く。顕著なルンゼから右のクラックを登り、まだ岩の堅そうなP1へのリッジに移る。そこから傾斜が強い草付と脆い岩を登りⅢ峰頂上に到着する。懸垂下降でⅡ、Ⅲ峰コルに到着するが、稜線上(Ⅱ峰東壁)はプロテクションの取れそうに無いスラブと、無慈悲な大チムニーに阻まれ登る事が出来なかった。弱点をさがして北面側に回り込んでいると、殆どルンゼに下降する形となり、縦走してる感覚がなくなってしまった。北面下流側のチムニーが見えるガリーを登るが傾斜も強くクライミングは面白い。勿論岩は脆いので細心の注意が必要だ。Ⅱ峰は5つのピークから成るが、筆者らのラインは恐らく上から4つ目、P4、P3間のコルに出たようだ。非常に脆いフェースを恐々登りP3に到着するが、翌日の悪天予想のためここで時間切れ。P3からP2へは5mほど懸垂して脆いフェースを登りP1へ達するようだが中々悪そうだった。P3肩から北面側へ懸垂2回でルンゼに降りる事が出来た。

完全縦走はならず、Ⅲ峰とⅡ峰の概念は凡そ掴めたがⅠ峰の解明は成らなかった。だがⅡ峰から望むⅠ峰周辺は弱点がさらに少なく、無雪期においても主稜線の縦走にはボロイ岩の処理を含む相当な登攀力が必要だと感じた。オンサイトでのワンデイ縦走は難しいと思うので、どこかでビバークとなるだろう。さらに積雪期には東面のため厄介なキノコ雪が発達して縦走は困難を極めることが予想される。ただ、北面には急峻なルンゼが有るので魅力的なミックスルートと成る可能性はある。北面ルンゼからの主稜縦走が大きな課題だろう。

最後に筆者はパタゴニアには行ったことは無く、ALPINIST誌の見開きページでしたフィッツロイを眺めた事しかないので、行って見た所「全然違うじゃねかよ!、腐れ外道詐欺師のスカタン糞三下」といった御批判は受け付けておりませんし、その山行を起因とするパートナーとの別離には一切責任を負いかねます。ご了承下さい。

<アプローチ>
新穂高から左俣林道をへて秩父沢出合いまで。標高2220m付近で二俣となるがここを右の谷に入ると秩父尾根北面側のニードルルンゼに入る事が出来る。左に入れば昭和35年に小牧山岳会によって拓かれた秩父沢奥壁がある(下写真参照)。こちらも全く登られていないと考えられる。



無雪期にBC適地となる幕営場所はほぼ無い。強いてあげるならば2150m付近の岩の上が平ら
で2-3人用テントが辛うじて張れた。増水には全く耐えられない。積雪期であれば秩父尾根末端を整地して幕営できるかもしれない。

<装備>
カムを大きめ含め1.5セット。ピトン各種。岩が脆いので小さいパッシブプロテクションの使用頻度は
ほぼ無い。ニッチもサッチも行かなくなった場合に備えて撤退用ボルトが有っても良いかもしれない。無雪期のアプローチシューズはランニングシューズやラバーソールの沢靴が良い。基本フリーで登る事が出来る。縦走以外にもⅡ峰大チムニーや、Ⅱ峰P3にあるハングワイドクラックなど課題は豊富である。

<快適登攀可能季節>
3月~10月。まだ良く分からないけど。谷筋に雪が完全になくなると非常に歩きにくく危険なガレになる。下降も含めて登山の力量が求められる場所である。残雪がしっかり付いている5月下旬から6月ならば壁もドライで残雪を利用したスピーディーなアプローチができる可能性がある。積雪期は雪崩が凄いだろうから雪が落ち着き、北面の氷が発達する3月~4月が良いのではないか。

<温泉>
栃尾の荒神の湯は良い露天風呂。体を洗う場合は石鹸を持っていこう。寒くて洗えないかもしれないけど。帰りならば割石温泉まで行くのもいいだろう。

0 件のコメント:

コメントを投稿