2022年9月19日月曜日

海川西俣左沢

 















 剥き出しっていうのは安心感がある。剥き出しの感情、というと幼稚であることを揶揄ような風だが、そういうのは寧ろ分かり易くていい奴なんじゃないかと思う。高笑いする悪と無表情の正義どちらが恐ろしいだろうか。自然というのは剥き出しそのものなので心よい。頸城山塊、特に海谷の渓谷の一見して邪悪な雰囲気は笑っちゃうくらい直接で可愛らしい。海川西俣左沢もツッパリ感はあるが愛嬌溢れるいい子であった。

 海川西俣左沢は謎多き谷である。地形図での書きっぷりがおぞましいこと、シネマスコープ滝という何を示しているのか良く解らない名称、海谷というブランド、幾つかの理由が重なって行く人が少ないのだろう。西俣右沢を分けてから土砂に荒れまくった川原が続く。1450m付近は右岸ルンゼからの雪崩によるスノーブリッジが現れる。地形図の滝マークがあるところがシネマスコープ滝である。シネマスコープとは幅広の画角の事を指すようで広角で3つの滝が広がる姿を現している。本流の滝左壁から直登をトライしたが、諦めて一番右の滝段々から上がり、本流へと戻る。直ぐに二俣となり、左俣へ入るが直ぐに水が涸れている。集水面積が微妙に少ないからかと思い、右俣へと入るがこちらも直ぐに涸れる。谷の中は土砂で覆われて秋の渇水では伏流してしまうのだろう。想像だにしない展開に嬉嬉。これでこそ来たかいがあったものだ。ちょっと寂しいが涸滝をぐいぐいとクライミングしていく。登山大系の遡行図を確認すると全然合致していない。泥岩質のつるつる滝を注意して登っていくと次第に容易な詰めとなる。笹薮の熱烈な歓待を咆哮で歓喜しつつ稜に上がり、反対側の登山道を見つければ一安心である。ほとんどが川原歩きで技術的な困難度は高くない。西俣左沢だけを目的とすると物語性がなく勿体ない。東側の真川、南側の中谷川といった渓谷を織り交ぜた継続遡行の一環として取り組むのが好適である。
 
 剥き出し推奨論者なのだが、山楽しいよ!最高だよね!と剝きだした結果、およそ9割は三歩下がっていく。西俣左沢を遡行してはっとした。海谷に遡行者が少ない理由・・・もしかして大方の人は剥き出し忌避論者だったのか。これは作用反作用の法則、それともエネルギー保存則?エントロピーは増大するし、ダークマターは星を創り、宇宙は膨張する。まだまだビッグバンインフレーションスパイラルの途中。当面利上げ局面ではないってことで。

<アプローチ>
山峡パークに駐車し登山道を利用し取水堰堤まで行く。詰めあがると金山に出るが、一泊二日の場合ここからの下山も核心。長駆縦走して山峡パークへ戻るか、海川西俣右沢を下降するのが合理的。車が二台あれば雨飾温泉へ一台デポすることでもう少し楽になる。水が得られて安全な幕営適地は少ない。沢が涸れている1900m付近で泊まったが雨には耐えられない。結果としてもう少し上で水が出てきてもう少し泊まり易い場所があった。

<装備>
登攀具は使用しなかったが、念のためパッシブプロテクション少々、ピトン少々。足回りはフェルト推奨。

<温泉>
糸魚川ひすい温泉:塩泉かつナトリウム泉という温まりながら美肌も謳える贅沢な泉質の日帰り温泉。ちょっと施設は古めだが22:00くらいまで営業しているので遅くなっても入浴可能。ただ、入浴料が時間によって変動するという前衛的なシステムで油断すると1000円となるので油断ならない。

このほか帰りしなならば、朝日町の境鉱泉、たから温泉、ナトリウム泉の温泉がある。500円くらいで入浴可能

<快適登攀可能季節>
8月~11月。例年の雪渓の具合を考慮すると9月以降がベスト。そうでなくとも虫が少なく快適な時期がよい。

<博物館>
糸魚川有るフォッサマグナミュージアムは素晴らしい。ここでは石の鑑定も行っているので、山で見つけた気になる石を鑑定してもらおう!(一人10個までです)

翡翠園:散策可能な日本庭園。よく考えられていて、どこから見ても趣が有る。島根県足立美術館の作庭が有名な中根金作による庭園である。構成から考察するに、彼はあの巨大なヒスイ原石を嫌悪していたのではないかと邪推してしまう。

玉翠園:同じく中根金作による庭園。こちらは観覧庭園でガラス越しにしか眺めることは出来ない。柔らかな丘による高低が印象的。

塩の道資料館:旧家に塩歩荷に用いられた資材や生活用具が展示されている。塩の道が2通りあり、春夏秋冬人が通っていたことに驚くばかり(牛さんの活躍も見逃せない)。本願寺に奉納する欅を搬出する巨大橇は圧巻。冬は休館するので無雪期限定。

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