2023年10月9日月曜日

能生川 フヨ谷

 











人間一生のちっぽけなスケールで自然の変成を感じられるのが山登りを続けることの面白みでもある。能生川フヨ谷は謎多き谷であったが、大西良治氏の渓谷登攀に紹介されその全貌が衆目に晒されることとなった。筆者も十年以上前の秋に訪れたが、驚くほどの残雪に谷が覆われており遡行を諦めたものである。残雪が少ないシーズンにこれ善かれと思い再訪することとした。

西飛山ダムまでの道が随分と悪くなっており、この地域の特産ともいえる地滑りのパワーに感心する。令和5年度の糸魚川議会によってダムに通じる林道補修およびダム観測設備設置予算が充てられており、林道は工事中である。3度目の西飛山ダムは湛水はしていないが、きっと防災には大いに役立っている事であろう(常時湛水することは想定していないようだ)。

さて、残雪が無いフヨ谷を颯爽と進むが、土砂の多さが気にかかる。やがてフヨの大滝手前の前衛滝が現れる。それほど難しくなく支点も取れるので楽しい。フヨの大滝は均整の取れた二段構えの頸城屈指の美瀑だ。一段目の手前の岩尾根状からクライミングシューズを履いてクライムオン。傾斜が強く細かいフットホールドと土砂だらけの岩で緊張する。当然岩は脆い。ピトンワークに勤しみ何とかテラスへ到着して1ピッチ終了。更に薄かぶりの箇所を思い切って超えて灌木帯へ到着。そこから灌木を少し登りトラバースし、25mぴったりの懸垂で沢床へ戻る。懸垂しているときから気がついたが、沢の様子が明らかにおかしい。上部は土砂で谷が覆われており水が流れていない。歩みを進めると渓谷登攀の遡行図で20mの滝があるはずの箇所から見たことも無いくらいのスケールで土砂が堆積している。上部から大規模な山体崩壊が発生したことは間違いない。全てが土砂に覆われた不安定な斜面を延々登り稜線へと上がった。稜線に吹く風は冷たく雪化粧する火打山と焼山が印象的であった。対照的に未だ開くことのないリンドウを見て、人間の影響による自然の変成にも思いを馳せた。

糸魚川市議会の一般質問記録によると、2022年の7月~9月にかけて能生川の水が濁り続けていたとある。そういえばこの期間に筆者が能生川を通った時も濁っていたような気がする。この濁りの原因がフヨ谷上部の山体崩壊だとすれば合点がいく。これだけの土砂堆積現場を現地で眺められたのは僥倖であった。以後、行政による現地調査がされていないことを踏まえると、筆者らが世界初の現地観測者だったのだろう。20mクラスの大滝を複数埋め尽くす土砂崩れのエネルギーは凄まじいものであったはず。その一端を感じられるのが目下フヨ谷の魅力と言えよう。

<アプローチ>
シャルマン火打のスペースをお借りして駐車。西飛山ダムへ向かう林道を歩いていく。フヨ谷の中は崩壊した土砂が堆積しているので幕営には適さない。筆者らは稜線に出て、樹林帯の平坦地で幕営した。1864mピークまでは割合歩きやすい。1864mの北西面より丸倉谷を下降した。丸倉谷の下降は滝が連続して難しい。下降開始から大体4時間半くらいかかって本流に戻った。






丸倉谷は遡行価値の非常に高い沢と思うのでいずれ登ってみたいものだ。

<装備>
カム#0.3~1まで一式。ピトン10枚くらい。ピトンはナイフブレードを主として、ユニバーサルを少々。フヨの大滝用にクライミングシューズは必携

<快適登攀可能季節>
9月~10月。残雪があるとややこしい。

<温泉>
柵口温泉権現荘:露天風呂付きの風呂と入り口が別の内湯が二つある。600円也。なお、糸魚川市から指定管理者の募集を行っているが入札が無い状態が続いている。そのため市営運営による日帰り入浴のみだが、終了時刻が異様に早い時もあるので注意。

<博物館など>
フォッサマグナミュージアム:地学系の博物館で興味深い展示に見入ってしまう。ここでは石の鑑定も行っているので、山で見つけた気になる石を鑑定してもらおう!(一人10個までです)

翡翠園:散策可能な日本庭園。よく考えられていて、どこから見ても趣が有る。島根県足立美術館の作庭が有名な中根金作による庭園である。構成から考察するに、彼はあの巨大なヒスイ原石を嫌悪していたのではないかと邪推してしまう。

玉翠園:同じく中根金作による庭園。こちらは観覧庭園でガラス越しにしか眺めることは出来ない。柔らかな丘による高低が印象的。至近の谷村美術館も個性的なので訪れる価値あり。

糸魚川市民図書館:糸魚川市、能生町の郷土史は重厚な作りで読み応えが有る。青海町の郷土史は発刊は古いがシニカルな語り口が面白い。ジオパーク関連資料も豊富で嬉しい。なお、能生町、青海町にも分館があるのでそちらでも資料は閲覧可能である。

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