2024年6月16日日曜日

海谷山塊 早川谷根川

 









海谷山塊の地形は興味が尽きない。千丈ヶ岳の南西壁は大岩壁でその同じ岩質で不動川が台地をかち割って流れる。台地の平坦地は湿地で水芭蕉が群生している。さて、不動川の右岸台地の緩傾斜帯は千丈ヶ岳の地形とまた異なっている。これは調べていないけど活動した火山の性質が違うんじゃないかと想像している。トウスル沢を探索したさいには懸崖箇所はゴーロ滝の連続であり、その後は美しいナメと小滝が続きブナと笹が茂る台地へと水は消えた。トウスル沢よりも上部浸食が進んでいる谷根川はどうだろうか。

大滝下はトウスル沢と同じようなボルダーが続く。これは不動川下部とも同じだ。大滝周辺は岩壁に囲まれた威圧感の有る地形だ。高さはそれ程でもないが前衛滝を含めて端正な滝である。その上部もゴルジュ小滝が2つ続く。660mまで散発的に滝が現れるが登るのも巻くのも難儀は無い。ここからは癒しの渓相が続く。浸食は所々顕著だが地形図で表されているように感じない。か細い流れの中にイワナが命を繋いでおり励まされる。850m付近で40mくらいの岩壁が現れ水をぽたぽたと垂らしている。雰囲気は掴めたので遡行はここまでとした。岩壁の下で食べる早めのランチは美味しい。同ルート下降ならば早く終わるので午後から青海の岩場へ繰り出すのもいいだろう。

谷根川の最上部は浸食が進んでおり岩壁まで現れた。トウスル沢は雰囲気が異なっているのだ。これは水源となる箇所の標高の違いだけではない気がする。谷根川では純粋に溶岩火砕流ではなく堆積岩も混じっているように感じるのだがどうなのだろう。他の谷も登って知見を深めたらもう一度遡行して確かめたいものだ。

<アプローチ>
田んぼの横から地図に載っていない農業用用水路の取水口までは車が乗り入れられる。そこから大滝までは10分くらいで到着する。なお、谷根集落の棚田は特筆すべき美しさである。地滑り地形の平坦地に住まい、営んできた歴史を含めてグッとくる。大滝を巻くのはかなり手前からとなり大仕事である。右岸高く林道が付けられているが、この林道から大滝直ぐ上へと通じる支流があるのでこれを利用して下降すると大滝から上を容易に楽しめるはず。この林道は先の下降する沢くらいの箇所で廃道化しているので、上部から歩いて帰ることを見込まない方がいい。地形的に同ルート下降が安易である。

<装備>
懸垂用にロープ。

<温泉>
笹倉温泉龍雲荘:秘湯系高級温泉というイメージがある。入浴料はちょいと高いが話のタネに一度はどうぞ。

<快適登攀可能季節>
6月~11月

<博物館>
フォッサマグナミュージアム:ジオパークの町糸魚川の基幹博物館。何とか時間を捻出し必ず訪れたい

翡翠園:散策可能な日本庭園。よく考えられていて、どこから見ても趣が有る。島根県足立美術館の作庭が有名な中根金作による庭園である。構成から考察するに、彼はあの巨大なヒスイ原石を嫌悪していたのではないかと邪推してしまう。

玉翠園:同じく中根金作による庭園。こちらは観覧庭園でガラス越しにしか眺めることは出来ない。柔らかな丘による高低が印象的。

2024年6月10日月曜日

双六川 葡萄大谷右俣

 





双六川といえば信じ難き透明度に映える花崗岩の白が素晴らしい大渓谷である。しかし左岸側の支流は溶岩流や凝灰岩も見受けられ渓相の多様性が興味深い。この代表的なのは笠ヶ岳の小倉谷や打込谷だろう。

葡萄大谷右俣は短い流域ではあるが複数の岩体を跨ぐ興味深い谷である。しかし、何がそそるかと言ったら、上部が滅多矢鱈に平坦になっている点である。ここは激しい藪なのか、それとも高原川らしい穏やかな癒しなのか。どっちにせよスマイリーそれが沢登り。

苔の発達とサワグルミの新緑が迎えてくれ、入渓して直ぐに満足感に浸れる。加えてご当地お馴染みのシダの繁茂に安らぐ。遡行距離が長くないのでゆったり遊びながら進むとよい。引水パイプやワイヤーの残骸が目につくのが寂しいが、往時の山と人の関りを残す歴史遺産と切り替えればこれも楽しめる。遡行そのものは容易ではあるが、地形図で見る以上に滝や小さな浸食があり渓相は変化に富む。最後まで双六川ならぬ高原川らしさを保ったまま三角点のある稜線へ到達。なお、平坦地ではやはり破顔し、その崩れる様は顔面土石流大崩壊といって差支えない様であったと思う。稜線は古い仕事道をが薄っすら残っていて割合歩きやすい。北側の無名沢へ入ると驚きの花崗岩帯でなかなか水が現れない。ご近所の谷ではあるが、内容は葡萄大谷右俣と全然違い見所は乏しく一気に下降した。

人の営みの残滓を見ると、地域の歴史に興味がわく。古くは神通川へ木材を流していたことから、林業は盛んであったことだろう。燃料の需要から炭焼き小屋跡も多い。加えて鉱山への発電に伴う開発もあった訳である。現代史と雖も山でどのような活動が行われていたか正確に記録されているとは思えない。謎は余白のまま想像の種としても良し、自ら調査活動を行うも良し。あなたはどっち派?

<アプローチ>
双六ダム手前に駐車して歩いて葡萄大谷出会いまで行く。双六ダムはR8年まで工事中のため工事実施日は上流に車を入れる事が出来ない。昔は金木戸川の上部まで林道が入れたものだが、今はゲートは解放されていないし、鍵は割合厳重。葡萄大谷右俣は穏やかで幕営場所に困ることは無い。薪が豊富な適当な箇所で泊まればいい。筆者らは1440m三角点を確認後、双六ダム上流に当たる北側支流を下降した。この北側支流は花崗岩質でガレが堆積しており、上流の伏流区間が長い。

<装備>
筆者らが登ったラインであれば登攀具は不要。

<快適登攀可能季節>
5月~10月 高原川流域にアブはあんまりいない気がする。

<温泉>
割石温泉

<博物館など>
江馬氏館跡公園:江馬氏は室町時代~戦国時代に北飛騨地域を治めた豪族武将である。その時の武将が室町時代に命じて作庭させたのが会所庭園である。来客をもてなす為に作られた石庭は失礼ながら地方豪族が設計したとは思えない瀟洒さで都の風を感じる。作庭費用は鉱山で得た資金を投下したのであろうか。飛騨が天領となった元禄以降は田に埋められてしまったが、昭和に発掘され再現されている。すごくいい庭なのにお庭を眺めながらお弁当を食べられるというフレンドリーさよ。

高原郷土館:鉱山資料館、神岡城、旧松葉家と3つの博物施設が集まった公園。神岡城内では神岡の歴史を概観でき、鉱山資料館では昭和における採掘~精錬までの工程をビデオで学習できる。鉱山資料は少し情報が古いものの鉱業の現場を知ることができるので貴重。そして最も推したいのが松葉家。神岡に現存した合掌造りで農具、山仕事道具(刃物含む)養蚕具が3階建ての中に所狭しと並ぶ。背の高い人は上階で頭をぶつけないように注意。
なお、近現代の生活に関する書物は「奥飛騨山郷生活文化の記録」が面白く、土木開発については「土と木と水と人と : 建設概史」が概観にふさわしい。どちらも国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧可