2024年9月10日火曜日

太田切川 梯子ダル













 登山大系は空前絶後の名著であるが、何が面白いかというと愛に溢れた印象的なフレーズが随所に見られる点にある。その愛は偏愛そのものなのだが、ルートガイドというその特性を鑑みて自制抑制的に発露している点がくすぐられる。中央アルプスの概説においては「岩稜の北アルプス、森林の南アルプス、渓谷の中央アルプス」の文言が冴えわたる。そんな事言っている人にはついぞ出会ったことが無い。大体、北アルプスにも南アルプスにも名立たる渓谷があるではないか。中央アルプスにも森林だって岩稜もある。そう、ただ中央アルプスと沢が好きな人が書いているのである。他にもすべての渓谷を何かにつけて礼賛する雰囲気が漂っており、ポジティブなバイブスで登山者を好きな山へ誘う作戦が丸見えだ。

梯子ダルは伊那谷を代表するルートとして挙げられているので、富山からでも行く価値があるのだろうと察したわけである。ダルというのは信濃では滝を指す言葉のようで、黒部にも何々のタル沢といった地名がある。ちなみに谷は西日本、沢は東日本と使い分けられており、その境目が剣・黒部である点も忘れてはならない。梯子ダルというのは梯子のように滝が連なる意なのであろう。梯子ダルはいきなり見栄えのする大滝で出合っている。左から登れると美しいのだが、水圧に負けそうなので見た目の悪いボロ壁から取り付いた。ちょっと怖いけど困難は無い。それから2000mくらいまで滝に次ぐ滝で直登したり巻いたり、程よい難しさが続く。直登する滝は問題ないが、巻きはラインを誤ると少し面倒なことになるかも。2000mから先はガレとなったのち、ぼさっとしたカール状地形に消える。沢慣れしているパーティーならば早立ちすれば割と余裕で日帰りできるだろう。折角富山から遠出するのであれば檜尾岳まで登ってから太田切川へ下降して継続遡行、濁沢を下降して中御所谷方面へ継続などしたい。

伊那谷を代表するルートである梯子ダルは本当に素晴らしい沢であった。登山大系は他にも中央アルプス屈指、第一級、変化に富んだ、遡行者を失望させない等、誘い上手な書きっぷりなので中央アルプスへの意識は高まるばかりである。特に失望させないということはどういう事なのか(面白いならそう言えばいいのに)検証したいところだ。

<アプローチ>
空木岳登山口の駐車場(スキー場)に駐車する。そこから歩くかバスに乗って檜尾橋まで行き、取水堰堤への道を利用して入渓。幕営適地は中間部に相応の場所はある。滝場を抜けてからはガレとなるのでいいところは無い。梯子ダルだけを登るのであれば早朝発日帰りで登るのが良い。下山は登山道を降りるのが楽。筆者らは中御所谷へ継続したので登山道の2520mのコルから濁沢へと降りた。この下降は酷いガレだが難しくは無い。

<装備>
カム一式、足回りはラバーが有利。ピトンは使わなかった。クライミングシューズは要らない。

<快適登攀可能季節>
7月~10月。標高が高いので秋は寒さに注意。

0 件のコメント:

コメントを投稿